#09 エロティシズム各論 ― サド侯爵篇


サドの性向を知るのにうってつけなのがジャンヌ・テスタルの事件だな。
ジャンヌ・テスタルという娼婦の供述書は20世紀も半ばを過ぎてから発見された、1763年の事件の際の記録でね、この供述書にはサドの名前は出てこないんだけど、日時と証言にあらわれている男の容貌から、この放蕩事件こそサドが23歳のときにヴァンセンヌの牢獄に15日間拘留された、その原因となった事件であろうといわれている

どんな事件なんですか?

この供述書によると、ジャンヌ・テスタルが出会った男は、イエス・キリストを信じるかという問いに対して信じるとこたえたジャンヌに、怖ろしい悪罵と冒涜的言辞で、神なんてものは存在しない、おれはある礼拝堂で聖盃に射精するまで手慰みしたことがある、イエス・キリストは薄馬鹿で聖母マリアは淫売だ、聖体パンを女の性器に押し込んで「もしおまえが神なら復讐してみろ」と言って交わったこともある、と言った。さらに象牙のキリスト像を踏みつけ、手慰みして射精し、ジャンヌにも「おかま野郎、突っ込むぞ」などと言いながら十字架を踏みつけるよう強要したうえ、ジャンヌに浣腸して十字架の上で排便させようとした・・・そのほかにも自分を鞭で打たせたり、鶏姦を要求したりと、いろいろあるんだけど、この事件こそサドの反社会的なエロティシズムをよくあらわしているといっていいだろう

これって当時としては火あぶりにされてもおかしくない罪状だ。身分的な利がなかったら、とても2週間ほどの拘留ではすまなかったはずだよ





はあ・・・(-_-)現代の日本人にはわかりにくいところですが、当時の反社会とは反信仰・反キリスト教と同義ですよね。なんだか、ニーチェの「ツァラトゥストラ」に出てくる重力とたたかう男を思い出しますよ。私にはむしろ、サドがキリスト教という伝統社会のなかにあって、いかにそこから抜け出そうとしているかという、苦心惨憺悪戦苦闘ぶりのあらわれと思えますね(・_・)

同感だね。そしてこれこそが西欧社会におけるエロティシズムというものなんじゃないかな。
そんな涜神的なエロティシズムを集大成したものといえば、サドの最後の作品である「ソドムの百二十日」だな

映画になっていませんでしたか?

かつてパゾリーニが映画化して(邦題「ソドムの市」)、日本でもLDが出ていたこともある。最近DVDで発売されたみたいだね

この小説はサドの最後の作品で、性的倒錯の百科全書のような小説だ。もっとも、物語の展開は序章と第一部だけで、第二部から第四部までは箇条書きの粗描だけなので、後に手を加えるつもりでいて、そのままになっていたものらしい

サドはこの小説をバスチーユの獄中で書いたんだけど、小さな紙片を貼り合わせてつくった十二メートルの長さに及ぶ巻紙に、虫眼鏡でなければ判読できない小さな字で(じっさい、虫眼鏡を用いて書いたらしい)、びっしりと書き込んだ。これは赤インクが使われていて、長い間サド自らの血で書かれたのではないかと言われていたものだ

この「ソドムの百二十日」には、およそ考えられる限りのありとあらゆる性的倒錯が登場する。同性愛や露出症、糞便愛好は言うに及ばず、放火や盗みと性的興奮の関連までが網羅されていて、ここにないものを探す方が難儀だな。「性の精神病理学」を著したクラフト・エビングも、精神分析のジクムント・フロイトも、恐れ多くて佐渡に足を向けては寝られない。なんたって草木もなびくんだぞ・・・( ̄- ̄)ohon

・・・サドでしょう?(^^;)
「ソドムの百二十日」は日本でも全訳が出ているのですね

あれは翻訳がちょっとね・・・
あと、注目すべき作品としてあげておきたいのは「閨房哲学」だ。
これは対話形式で書かれた小説で、マンディアルグがサドの作品のなかでもっとも愛好している、と言っていたな

若くて魅力的な主人公ウージェニーが、悪徳にして淫蕩な登場人物たちに、一日がかりで性教育を施される。その結果、あらゆる淫楽と残酷を知ったウージェニーがその母親に対して行う陵辱たるや・・・

・・・(・_・;)goku

・・・性器を糸と針で縫ってしまうというものだ(-_-;)
あと、この物語のなかには登場人物のひとりによって、政治的・革命的・哲学的な長広舌が挿入されている。「フランス人よ、共和主義者たらんと欲すれば今一歩だ」と題されたもので、海外ではこの部分だけ独立して出版されたりもしているようだね。この演説の部分だけドイツ語に翻訳された本を持っているよ



Hoffmannさんは、サドの作品のなかで、どれがいちばんお好きですか?

いちばん好きなのは「悪徳の栄え」かな。「美徳の不幸」という小説で、善良であるがゆえにあらゆる責め苦にさらされる主人公ジュスチーヌの姉、妹とは反対に悪徳に支配されたジュリエットがこの「悪徳の栄え」の主人公だ

これは私も読みました。いわゆるピカレスク・ロマン(悪漢小説)の一種かと思いましたけれど

ピカレスク・ロマンには違いないね(^^)
この小説の特徴は、サドが義妹(夫人の妹)を伴って、イタリア各地を経巡った長い旅の経験が活かされていて、随所にその木霊(エコー)が見てとれることなんだ

裸の女たちを椅子やテーブル代わりに大饗宴を催し、若く美しい娘たちを食卓に供するというアペニンの隠者・食人鬼のミンスキーにしても、モデルになった犯罪者が当時いたらしいし、ジュリエットが会見し、聖ピエトロ寺院で乱痴気騒ぎを繰り広げる法王ピオ六世も、後の研究によると、なるほどあまり見上げた人物ではなかったらしいことがわかっている。サドは当時の駐ローマ・フランス大使であるド・ベルニスの従兄弟だったから、法王と謁見した可能性は充分にありうることなんだ。
さらにボルゲエズ伯爵夫人にいたっては、ジュリエットとその仲間でさんざんもてあそんだ末、ヴェスヴィオス火山の火口に突き落としてしまう・・・

これはね、ゲーテの「イタリア紀行」と並ぶ、もうひとつの「イタリア紀行」だと思うんだよ(^^)



たしか、この小説ですよね(^^)

え?

Hoffmannさんが、20歳のころ、おつきあいしていた女の子にプレゼントした本って・・・だから私、読んだんですよ

(・・;)doki な、なぜそれを・・・

このまえ、酔っぱらっておっしゃっていたじゃないですか、結構好評だったんだぞ、って・・・(^^)

ahaha(^^;)ヾ(^^ )kusu