#16 夢のなかの・・・




昭和33年に東京創元社が全12巻の「世界恐怖小説全集」というシリーズを出している。ところがまるで売れなかった、どころか、この出版社はつぶれちゃったんだ(その後再建された)。
新人物往来社もこの経緯を知っていただろうから、簡単には企画に乗らなかったんじゃないかな。はじめは全4巻だったんだよ

T 真紅の法悦
U 暗黒の祭祀
V 戦慄の創造
W 恐怖の探求

あんまり売れなかったけど、それでも7年ぐらいかかって在庫がはけたので、3巻追加して、装幀も改めて豪華な函入りにして出し直したのが昭和52年だな。
追加された3巻は・・・

X 怪物の時代
Y 啓示と奇蹟
Z 幻影の領域

内容はそれぞれの表題に合わせたものが収録されているのですね

うん。Tから順に、吸血鬼小説、黒魔術小説、ゴシック・ロマンスの古典から現代、恐怖小説、怪物の出てくる小説、奇蹟譚、狂気と幻視・異常心理など扱った小説・・・って、ほとんどそのまんまだな(笑まあ、V、W、Z巻は便宜上の分類って感じだね

結局7巻まで出して、評判はよかったのですか?

いや、これがまた全然売れなくて、今度は函から出してカバー付けて改装、それでも相当売れ残ったらしい(^^;)
この種の本の出版について調べると、売れない、儲からないっていう一色なんだね(^^;)

Hoffmannさんは最初の装幀のものは全4巻お持ちで、函入りがV、W巻以外、最後のカバー装幀でV、W、Z巻がありますね

学生の時分に古書店をまわって探していたんだけど、7巻揃っているのが見つからない。しょうがないから1冊見つけては買っていたんだよ。そうしたら、あるときこの三種類の装幀混在ながら7巻揃いで売っているのを見つけて買ったというわけだ

それでダブっている巻もあるのですね

かろうじてトリプルはない(笑)・・・べつに三種類の装幀で全部揃えようとか、そういうマニアではないんだよ(^^;)







私が読んだなかでは、T巻ではシェリダン・レ・ファニュの「吸血鬼カーミラ」、あとV巻のM.R.ジェイムズの正統派怪談「十三号室」が気に入りました

やっぱりそのあたりは定番だけのことはあるよね。翻訳もいいし・・・

あと、怪奇小説とは言えないと思いますけど、Y巻のチャールズ・ラムの「夢の子供」が短いながら幻想的で美しい話ですね

ああ、あれは涙なくしては読めないな・・・

チャールズ・ラムって、姉のメアリと共同で児童向けの「シェイクスピア物語」を著したひとですよね

うん。ところがこの姉は20歳の頃から精神に異常をきたしていて、普段は安定してたらしいんだけど、ときどき発作を起こす。するといつもチャールズは泣きながら姉を病院へ連れて行ったそうだ。
そしてあるとき、メアリが狂気の発作のさなか、なんと母親を殺してしまったんだ。弟のチャールズは姉の面倒を見るため、生涯生活を共にすることになったんだけど、そのためだけではなく、自分もいつか狂気にかられるのではないかと不安に怯え(事実、この不安を友人への手紙で告白している)、この自分の将来への不安もあって、結婚も、当然子供を持つこ
とも諦めたんだ・・・

・・・(-_- )

この「夢の子供」は、若かりし頃の恋人と結ばれた夢を見て、その幻のなかにはふたりの間に生まれた子供が現れる。ところが、この子供たちはほんとうは生まれなかった子供たちなのだね・・・

まじまじと見つめていると子供たちの姿が次第にぼやけ、次第に遠のいていった。そして、しまいにはずっと遠方にただ二つの物悲しげな顔だけが残った。その顔は口に出してこそいわないが、不思議にも次のように私に話しかけているようであった。「ぼくたちはアリスの子供でもあなたの子供でもないのです、第一、子供ではないのです。アリスの子供たちはバートラムさんをお父さんと呼んでいます。ぼくたちは無にひとしいものなのです、無以下のものなのです、夢なのです。ぼくたちはかつて夢想された願いにすぎません。ぼくたちが生命をえ、名前をうるまでには、永劫の年月をレーテ(黄泉の国にある「忘却」の川)の河畔で退屈をしのんで待たなければなりません」。―ここで私は急に眼が覚めたのだった。肘掛け椅子に静かに独身の身をなげかけ、いつのまにか眠りこけてしまっていたのに今さらのように気がついた。そばにはいつに変わらぬ姉ブリジェットがいた―

アリスというのは若き日の恋人、アン・シモンズで、姉ブリジェットというのが姉メアリのことだね

感傷に陥ることなく、淡々と自分の境遇を幻想のなかにに昇華させているのがかえって・・・切
ないですね

うん・・・でも、ささやかな奇蹟による一抹の幸福でもあるんじゃないかな

こんな夢なら覚めないで・・・



・・・ところで、Hoffmannさん、いまの引用、このY巻とは微妙に違いますけど

ああ、この「夢の子供」は「エリア随筆集」のなかの一篇でね、こっちの本から引用したんだ。あと、「エリア随筆集」はあそこの棚にも2冊ある。原書はそっちの棚だ

なんで同じものが何冊もあるんですか〜「そういうマニアじゃない」とか言って〜(-_-;)

これは翻訳(者)が違うんだってば、それぞれにいいんだぞ〜((( -_-)(((((・o・;);;;

(笑)もう・・・(^^ )





引用文はチャールズ・ラム「エリア随筆集」平井正穂訳八潮出版社から