#20 探偵は世につれ・・・






〈少年探偵〉シリーズは古くは光文社から出ていて、これはオリジナルの作品だったんだけど、一方、同じく〈少年探偵〉シリーズとされていたポプラ社から出ていたものは、乱歩の大人向け長編小説を少年向けに書き改めたものだった。
その後光文社版の〈少年探偵〉シリーズもポプラ社から出るようになって、このふたつがひとつのシリーズになってしまったことから混乱が生じてね・・・。

昭和47年に読売新聞で「探偵少年、乱歩見破る―全集に同じ描写、晩年の怪?」なんて、まるで乱歩が自分の作品から盗作したかのような記事が掲載されたことがある(^^;)
別々の作品に同じ描写のあることを発見した子供がさもお手柄のように写真入りで書きたてられていたんだよ

お話からすると、あたりまえですよね(^^;)元が同じなんですから

そういうこと。抗議したひともいたんだけど、とうとう訂正記事は出なかったらしい。大新聞社にあるまじき事実誤認、さらに言えば事実の確認を怠ったいいかげんな記事だね。
だから新聞なんてものは読む価値がないんだ( ̄- ̄)fufun

そうなるんですか?(^^;)





まあ、少年向けのリライトは乱歩自身がやっていたのかどうか・・・。
テキストにこだわると、全集は講談社(第一次、第二次)、桃源社、平凡社・・・といろいろ出ていたんだけど、戦後に出版されたものにはかなり削除があるそうだ。桃源社版なんて乱歩自身がカットしてしまったらしい箇所もある。晩年になってからの乱歩は、作品によっては若い頃の過激な描写を嫌っていたようで、「盲獣」なんて、「ひどい変態もので、できれば全集に入れたくなかった」なんて「あとがき」に書いているんだよ。
そんな描写を好むひとにしてみれば「それはないだろう」ってところだね(笑)

その後出版されたものもこの桃源社版を底本としているのですね

そのようだね。最近何社かで出している文庫本はどうなのか知らないけど・・・うちのはもっぱらちょっと前の角川文庫だね。これも底本は桃源社版じゃないかな。角川文庫は切り絵によるデザインのカバーが乱歩の世界にふさわしいだろう?





乱歩の小説のなかで、Hoffmannさんがお好きな作品はなんですか?

ええと・・・ひとつ選ぶとすれば「陰獣」かな

いわゆる猟奇的な作品ですね(・・;)

むしろ人間の異常心理を描いたものととらえるべきだと思うけどね。

探偵小説作家であるこの小説の語り手は、ふとしたことから実業家小山田六郎の妻静子と知り合い、彼女から、かつて18歳の頃交際した平田一郎なる男から脅迫されていると告白される。平田一郎とは「血みどろで、陰険で、邪悪で、一読肌に粟を生じるていの、不気味ないまわしい」小説で人気のある探偵小説作家、大江春泥の本名であることがわかるが、当の春泥は厭人癖がはなはだしく、一年ばかり前から所在不明となっている。やがて事件は起こった・・・隅田川から小山田六郎氏の腐乱死体が発見される・・・そして小山田静子の美しいうなじにきざまれたミミズ腫れはなにを意味するのか・・・(-_- )pepenpen

・・・(^^;)Hoffmannさんノリノリですね〜

この小説のユニークなところは、随所に乱歩の影が見えるところかな

語り手の作家にですか?

いや、語り手の作家よりも、大江春泥、平田一郎という名前と、大江春泥の作品としてあげられている小説の題名、つまり「屋根裏の遊戯」とか「B坂の殺人」「一枚の切手」など・・・そして小山田六郎の禿頭・・・

小説の題名は「屋根裏の散歩者」「D坂の殺人事件」、それと・・・

「一枚の切符」という短編小説がある。これをもじったものだね

江戸川乱歩も禿頭、その本名は平井太郎でしたね

うん。大江春泥、平田一郎、小山田六郎・・・この小説の主要な登場人物すべてに乱歩自身が投影されているかのように思えない?





「陰獣」といえば・・・ρ(・・ )σgosogoso・・・この本を思い出す。「乱歩と東京」という本だ。
著者の松田巌というひとは建築家でね、建築家としての観点から、乱歩の小説を論じると同時に、乱歩を素材にして、東京という都市の変遷をも論じている。

乱歩の作品って、多彩だけど、悪く言えば統一性がないと思わない?

(・_・)?

明智小五郎の印象ひとつとっても、初期のある作品では登場するなり「ばかやろう」の連発だし、そうかと思うと後の作品ではいやに西洋風のジェントルマンになっていたりする。これはむかしから不思議に思っていたんだけど、この本を読んで謎が解けたんだ。

この本の著者は、まず「D坂の殺人事件」を題材に、地方から移入してきた故郷喪失者にとっては、東京が幼馴染みといえどなんのドラマも生じない、人間関係の希薄な都市であることを指摘する。
この作品に登場する明智小五郎は貧乏書生然としていたのに、その後「吸血鬼」で「開化アパート」に引っ越した明智は「愛嬌のある混血児のような顔」で登場しているんだね。

また、昭和3年に発表された「陰獣」では舞台が浅草を中心として池袋、牛込喜久井町、根岸など、事件現場も浅草から徒歩10分の円で構成されているのに対して、昭和5年から6年にかけて発表された「吸血鬼」では、犯人と探偵の行動範囲が拡大して、事件現場はヒロインの住む麹町を中心として、上野、代々木、両国、品川、桐ヶ谷、目黒と、半径5キロから7キロメートルほどの円上に構成されている。

どういうことですか?

このことは大正7年に中央線(東京―中野間)が開通したこと、大正14年に山手線(東京―上野間)が環状線となることで、東京の中心が国鉄駅を持たない浅草から西へ移動したこととパラレルである、というのが著者の指摘だ。

当時震災後の帝都復興のため組織された同潤会がさかんにRC造のアパートを建設していたんだけど、この建設されたアパートの分布図を見ても、その中心が西へ移動していることは明らかなんだね

すると、明智小五郎の変貌の背景には・・・?

同潤会によるアパート建設はスラム解消・スラム住民の善導という意味もあった。浅草から東京の重心を移すことは社会秩序を守る側の意図するところであり、重心を浅草から西へ移動させれば、山手線の環の中央はお茶の水あたりになる。「吸血鬼」でお茶の水アパートに暮らすようになった明智小五郎は良俗人となった、というわけだ

はあ・・・たしかに説得力のある見事な分析ですね。アパート建設の記録まで調べてあるなんてすごいです(・o・)

それだけじゃない。著者は総理府や国勢調査といった資料から当時の東京都の人口の推移、出生地域別の人口、職業別電話名簿から当時東京都にコーヒーを飲ませる店が何軒あったか、といったことまで調べている。そうして論じたうえでの、あざやかな分析だよ。探偵小説も顔負けだ(笑)





明智小五郎が良俗人となったので(笑)ついでに言うと、少年探偵団の小林団長が、上野公園に巣喰う浮浪児を集めて「チンピラ別働隊」を編成しているのが戦後第一作の「青銅の魔人」だ。ところが戦後の混乱期を脱却して、時代が落ち着けば浮浪児の出番はなくなる。

変装の名人の二十面相だって、運転手やご隠居、文学博士、コック、職人などに化けるけど、これも職業や身分が姿かたちと一致した時代ならでは可能だったのであって、戦後の、9割の家庭が中流意識を持つ中和化された社会ではこうはいかなくなる。
戦後の乱歩の少年ものの題名をあげると、「透明人間」「宇宙怪人」「夜光人間」「電人M」「妖星人R」「超人ニコラ」・・・と、人間に変装するより宇宙人や超人に化けるようになることがわか

戦後、中流意識が明確な姿をとり、職人や商人ですらネクタイ姿を良しとし、各々がもっていた顔を失い、誰もが同じ一つの顔となった時、二十面相も本来の姿を見失っていくのである



いまや外観においてそのひとの身分をあらわすのは・・・制服くらいのものでしょうか

あれ・・・(笑)gallery#31dialogue#17の話に戻りそうだね( ^^)(^^ )desune




引用文は松田巌「乱歩と東京」PARCO出版から


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