#31 愉快なロンドン、楽しいロンドン ― あるいは写楽クンがいっぱい




ドイルの作品には少なからず瑕疵があって、たとえば泥の上に残った自転車の車輪の跡から進行方向を推理するとか、毒蛇を口笛で操る、なんてのは、これは事実上不可能だよね(^^;
それに、ドイル自身はホームズものの執筆が、もともとたいして気乗りしていなかったらしくて、途中からはすっかり意欲を失っている・・・


意外とホームズものの作品が少ないのもそのためなんですね

一方、世間でうければ模倣されるのは今も昔も同じこと。ここに幾多の類似作・模倣作が生まれることになる

パスティーシュやパロディですね(^^ )

まずはパスティーシュ、贋作だ。
いちばん正統派といえるのは、ジョン・ディクスン・カーと、コナン・ドイルの息子アドリアン・ドイルによる「シャーロック・ホームズの功績」だろう。これは原典のなかで、事件の名前のみ挙げられて作品のない、いわゆる「語られざる物語」を、ドイルの文体や作風にならって創作したものだ

原典の作者の息子によるお墨付きですね(^^ )

ホームズそのひとではなくて、ホームズに似た探偵が活躍する小説といえば、まず思い出すのはオーガスト・ダーレスだな。ダーレスはドイルに「もうシャーロック・ホームズを書かないんですか」と手紙を出して、「もう書かない」という返事が来たから、ソーラー・ポンズというシリーズものの探偵小説を書いたんだ。ワトソン役にパーカー博士、ホームズにおける兄マイクロフトと同じく、ポンズにもバンクロフトという兄がいる。ポンズの台詞なんか、いかにもホームズを彷彿とさせるもので、数ある模倣作のなかでも、直系純血種といった感じだね

ダーレスって、ラヴクラフトにも私淑して、いわゆる「クトゥルー神話」ものを書いていますよね。他人のアイデアを発展させるのが得意だったんでしょうか?(^^ )



ほかにも類似作品、類似探偵は多い。
創元推理文庫からは「事件簿」シリーズとして何人かの作家の短編集が出ている。ダーレスの「ソーラー・ポンズの事件簿」もこのシリーズに入っているし、ほかにはジャック・フットレルの「思考機械の事件簿」、バロネス・オルツィの「隅の老人の事件簿」などがある。なかでもちょっと毛色の変わった、ほとんど幻想文学と呼びたいM.P.シールの「プリンス・ザレスキーの事件簿」あたりはおすすめだよ。

M.P.シールの小説って、Hoffmannさんが原文で読もうとして・・・(笑)

・・・音をあげたんだな(^^;)ちょっと難しい・・・

あと、早川文庫からは「シャーロック・ホームズのライヴァルたち」と題されたアンソロジー3巻本が出ている。このあたりがホームズ人気に便乗して生み出された探偵小説の代表といっていいだろう

コナン・ドイル以降、ホームズをモデルにしてさまざまな探偵が生み出されたわけですね。当のホームズにしたってもともとポオの「モルグ街の殺人」に出てくるデュパンから構想されたと言われていますよね(^^ )

あと、ドイルによればドイル医学生時代のエディンバラ大学医学部のジョウゼフ・ベル教授に負うところが大きいということだ。このひとは、診察室に患者が入ってくると、まさに後のホームズのような観察眼で、患者の職業前歴から、何の治療で訪れたのかまで言い当てたんだそうだよ





カーとアドリアンの共作による「功績」以外の正調贋作といえば、比較的新しいところではジューン・トムスンという女流作家による短編集が「シャーロック・ホームズの秘密ファイル」をはじめ、何冊か創元推理文庫から出ている。これはじつにまっとうな贋作で、まともすぎてかえってつまらないのが欠点だな(^^;

複数の作家による作品集では、早川文庫から「シャーロック・ホームズの新冒険」という2巻本が出ている。これは1987年にホームズ生誕100年を記念して出版された書き下ろしアンソロジーだ。すべてが正調とはいいがたいものの、なかなかの力作揃いだよ。あと、河出文庫からは「ホームズ贋作展覧会」というアンソロジーが出ている


長編ではエラリー・クイーンの「恐怖の研究」など、いくつか翻訳されていますよね

ほかにいま手元にあるのは、M&M.ハードウィックの「シャーロック・ホームズ氏の優雅な生活」という中編、M&Mというのはマイケルとモリー、夫婦かな? マイケル単独名義による「新シャーロックホームズ魔犬の復讐」という長編も持っている・・・けど読んでない(^^;

変わったところでは、ホームズがドイルの創作したもうひとりのキャラクター、チャレンジャー教授と協力して火星人の襲来を迎え撃つという「シャーロック・ホームズの宇宙戦争」がある。火星人襲来というのは、H.G.ウェルズの「宇宙戦争」に材を採ったものだね。これはさすがに無邪気なSFという印象だ。パロディと呼ぶべきかもしれないけど、キャラクターの個性は原典そのままだな

Hoffmannさんがいちばんお好きなのはどの作品ですか?

M.J.トローというウェールズ出身の作家によるレストレイド警部シリーズがいいな。翻訳は知る限り3冊出ている。これがじつにおもしろかったので、翻訳されていない作品も何冊か原書で取り寄せてみたんだよ。どれもおもしろかった(^^ )

レストレイド警部って、原典ホームズ譚に登場するひとですよね(・_・)

うん。このシリーズは、ドイルの原典にも登場して、たびたびホームズに知恵を借りている、スコットランド・ヤードのレストレイド警部が主人公だ。ホームズによれば、ヤードの警察官のなかでは「まあ合格」だが、「想像力に欠け」「紋切り型の発想しかできない」と評されている。
作品中には詩人テニスンやオスカー・ワイルドなど実在の人物のほか、ホームズ、ワトソン、コナン・ドイルまでが登場する。ここではヤード側が原典でコケにされたうっぷんを晴らすのでもないだろうが、ホームズ、ワトソンがかなり戯画化して描かれていて、ホームズは大言壮語癖のある無能なコカイン中毒者、コナン・ドイルなんか妄想にとりつかれたしがない書き屋の扱いだ(^o^)

パロディ・・・というより、もうホームズ譚とは別な作品ではないのですか?

そうかもね(^^;)でも、やっぱりホームズものについて語るには無視できないんだな、これが。

第一作の「霧の殺人鬼」は、1891年、見るも凄惨な死体が発見されるところからはじまり、レストレイド警部の追跡捜査の甲斐もなく、殺人鬼は不気味な童謡にあわせて残忍な犯行を重ねてゆく。その背景には1888年の切り裂きジャック事件の影も見え隠れして・・・という物語だ。そのストーリー展開は飽きさせず、重厚に盛り上げて、結末の意外性も目を見張るものがある。これはすばらしい小説だよ(-_- )un

凄惨で残忍ですか・・・(・・;)

トローによるレストレイド警部シリーズの翻訳は、早川文庫から2冊、新潮文庫から1冊出ていたけど、もう品切れか絶版みたいだね。あまり売れなかったのかなあ・・・世紀末ロンドンの雰囲気もよく描かれているし、これはちょっと声を大にして称賛しておきたいね

それでは私も読んでみます(^^ )





ホームズの物語も、昔は舞台化されたりしたようですが、最近でもテレビドラマ化、映画化されることが多いようですね

テレビは最近でも放映されていたよね。
映画は古くはモノクロの時代からいくつか制作されている。古いものはその忠実度に差こそあれ、ドイルの原作をそのまま映画化しているけれど、どちらかというとまったく新しい脚本の方がおもしろいね


どんなものがありましたか?

ホームズとワトソンの少年時代を描いた映画があったよね。でも、あそこまでやるとホームズものとは言えないな。

それから19世紀末の切り裂きジャック事件を題材に、ホームズが解決に乗り出すという映画があった。世紀末、霧のロンドンという、いかにも映像映えのする舞台設定で、よくできた映画だったよ。

あと、依頼を受けた事件の捜査と平行して、コカイン中毒となったホームズがフロイトの治療を受ける、するとホームズには意外な幼児体験があって・・・という映画。テーマはいいんだけど、後半は冒険活劇ふうでいまひとつの印象だったな。原作はN・メイヤーの「シャーロック・ホームズ氏の素敵な冒険」だ。

・・・コカインといえば、ホームズが退屈を紛らわすためにときどき7%溶液を注射するシーンがあるよね

ワトソンはある時期から、ホームズのコカイン注射を「悪い習慣だ」と言っていますよね。それに、ホームズも失踪から戻ってきてからはコカインを注射していません(・_・)

優美、よく気がついたね( ^^)/(*^ ^*)
コカインの名を世に広めたのはじつはフロイトなんだ。フロイトは当初はコカインが中毒症状を起こすとは気がついていなかったんだね。それでモルヒネ中毒の友人にコカインを使って、本人としては画期的な治療を行ったつもりでいたんだよ。だからフロイトは友人知人から学界でもコカインの有効性を説いて回った。ところがこの友人が見事コカイン中毒になって、フロイトは医師生命の危機を迎えることになる・・・


すると、その経緯に従って、ドイルの作品のなかでのコカインの扱いが変化しているわけなのでしょうか?

そうなんじゃないかな。今度、もっと詳しいシャーロッキアンにご意見をうかがってみようかな(^^ )





贋作・パスティーシュもいろいろありますけど、パロディもたくさんありますね

まあ、パスティーシュとパロディの境界って、曖昧だよね。笑いをとるものがパロディとも言い切れないし、いろいろ意見のあるところだろうけど、原典の文体や登場人物の性格などが模倣・踏襲されていればパスティーシュ、その枠を破ってしまえばパロディかな・・・

たしかに短編を集めた作品集なんて、1冊まるごとがどちら、とは言い切れませんよね

まあ、分類自体に意義があるとも思えないし、思いつくまま挙げてみると―
短編集ではエラリー・クイーン編纂による「シャーロック・ホームズの災難」の翻訳が早川文庫から2巻本で出ている。収録作家はモーリス・ルブラン、アントニイ・バークリー、ホームズ研究で有名なヴィンセント・スタリットと見事な顔ぶれだね。どちらかというと、パスティーシュというよりはパロディ中心の構成になっている印象だな

ヴィンセント・スタリットといえば、河出文庫から「シャーロック・ホームズの私生活」という本が出ていますね

スタリットはホームズ研究団体としては最も古い「ベイカー・ストリート・イレギュラーズ」の創立者のひとりだね。ちなみにこのひとの著書―ホームズ研究書ではないけれど―で、著者本人が友人に献辞を書き込んで贈った本を持っているよ。じつに読みやすい、きれいな字だ

これρ(^o^ )jiman


シリーズもののパロディといえば、ロバート・L・フィッシュの「シュロック・ホームズの冒険」「シュロック・ホームズの回想」という連作短編集がある

名前もパロディですね

ワトソン役は「ワトニイ博士」となっている。これは、事件を解決したつもりのホームズの推理が、じつはいつも見当違いだったことが読者にわかる結末なんだけど・・・つづけて読んでいると「またか」という感じで、あまりおもしろくない。じつは全部は読んでいないんだ(^^;

あと、名前がパロディになっているものではジョン・キーンというアメリカの作家の「ペット探偵シャーロック・ボーンズ」という本があるけど、これは探偵の名前がホームズに因んでいるというだけで、ストーリーはパロディでもなんでもない

名前だけなら手塚治虫の「三つ目がとおる」もそうですね(^^ )写楽クン(シャーロック)と和渡サン(ワトソン)・・・(^o^ )





日本の作家のパロディはいかがですか?

一発勝負みたいなパロディは底が浅くて、やっぱり記憶に残らないね。パロディとはいえ、限りなくパスティーシュであるようなものがいい。
そこでこれはという作品がある。島田荘司の「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」だ。これはじつによくできていて、パスティーシュといってもいいくらいだけど、やっぱりパロディなんだな(^^ )


漱石って、夏目漱石ですね?

うん。この小説は全13章を漱石とワトソンが交代で語るという構成だ。
物語は1900年にロンドンに留学した漱石が、幽霊らしきものに悩まされ、「ちょっと頭がおかしい」ホームズという男を紹介されて、ベイカー街に訪ねてくるところからはじまる。ホームズは例によってその観察から訪問者の過去の経歴を推理してみせるが、それが、パプア・ニューギニア出身で、黄疸にかかっていて、いまはゴムの木を栽培している男だ、というものだ。漱石はすっかり面食らって、ホームズを「精神錯乱者」だと思う・・・


まあ・・・(^o^)いきなりホームズの推理スタイルのパロディなんですね(笑)

ところが次の章でワトソンが語ると、正気のホームズに対して、東洋人「ナツミ」は「病的」だということになる(^^;

じっさいに、ロンドン留学中の漱石って、ホームシックで神経衰弱だったそうですね

最後は事件解決後、ロンドンの埠頭に、帰朝の漱石を見送りに来たホームズがヴァイオリンで送別の曲を演奏し、船上で漱石が「吾輩は猫である」とつぶやく・・・


なんだか、愉快な哀愁が漂うといった結末ですね(笑)





日本の作家によって書かれた短編では、河出文庫から「日本版ホームズ贋作展覧会」というアンソロジーが上下2巻本で出ていたな。収録作は、タイトルの「贋作」よりもパロディが多くて、玉石混淆、というより石が多い(^^;)
いいのは上巻に2篇、ひとつは山田風太郎の「黄色い下宿人」。これもホームズと夏目漱石が出会う話・・・そして、ケッ作と呼びたいのが清水義範の「シャーロック・ホームズの口寄せ」だ(^^ )


「口寄せ」って、あの、恐山のイタコが死者の霊を呼び出して自らに乗り移らせて・・・(・o・)

・・・そのイタコの口を借りて語らせるというものだね(笑)
話はまさにタイトルどおり、語り手の友人であるテレビ・ディレクターがシャーロック・ホームズの口寄せを企画するんだ。ホームズはもちろん架空の人物だけど、ホームズ研究家も呼んで、イタコのお婆さんにホームズの霊を呼び出してもらう・・・


はあ〜(^^;

・・・(^_^ )niyaniya

・・・(・_・;)

・・・プッ(^▽^笑)あはははは・・・・あとは自分で読んでごらん(^^ )kusukusu


ひとりで笑ってちゃずるいですよ〜私も読みますから見せてください( ^o^)σ)~0~)プニッ♪




参考写真(その2) ホームズ銅像


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