#32 サバトの夜 ― あるいは中世人の想像力




文学にあらわれた魔女といえば、古くはホーマー(ホメロス)の「オデュッセイア」で、部下たちを豚に変えてしまうキルケーがいる。ただ、これをもって魔女は恐ろしいものというイメージが定着したと考えるのは早計だよ。ひとを獣に変えるのは堕胎や去勢といった性的な表象であると同時に、豚はエジプトのトーテム信仰と無関係ではないことを念頭に置くべきだ

すると、現在のような魔女のイメージが定着したのはキリスト教以降ですか?

(笑)そうでもないんだな。ローマ時代には魔女と黒魔術とが結びつけられるようになっていたみたいだね。ホラーティウスには恋の成就のための魔術を施す魔女が登場するけれど、その描写は奇怪な老婆だ。ペトロニウスの「サチュリコン」では醜怪な老魔女が、鵞鳥の肝臓だのを使って祈祷の末、胡椒といらくさの実を油で練って皮製の陽根になすりつけ、主人公(男だよ)の肛門に挿入し、そのうえ・・・あまつさえ・・・あろうことか・・・(以下省略)

・・・(・・;)

2世紀になるとアプレイウスの「黄金の驢馬」がある。よく、文学作品において魔女の存在について言及されるようになったのは2世紀頃からって言われるけど、この著作を想定しているんだろうね

どんな魔女なんですか?

テッサリアの人妻である貴婦人が、夜になると月桂樹と茴香を水に混ぜたものを飲む、すると身体に羽が生えて梟に変身して飛翔するという話がある。これなんか、中世ヨーロッパに広く見られる魔女像の原型といっていいだろう。それに、彼女はひじょうに淫乱で、自分を拒む男を罰したというから、このあたりも後の時代の魔女のイメージに近いところがあるね

変身と夜の飛行ですねφ(.. ) メモメモ

ついでに言うと、夜の飛行というのは民間ではかなり信じられていたようだ。
キリスト教ではない、ディアナ信仰では、この月の女神が安らぎを得られない魂を引き連れて空中を騎行する習慣があるとされているし、フランスには女性の姿をした精霊たちが、「アボンドの奥方」の指揮のもと、森を駆け回ったり、家々に侵入したりするという迷信があった。家の者が食べ物と飲み物を用意しておくと、物質的な財産で恩返ししてくれるというので、夜になると戸棚を開けてから眠る人々もいたというし、これを利用して、女装した盗賊が家に侵入して、踊りながら財産を奪っていくなんてこともあったそうだよ(笑)


当時の、とりわけ農村部などの民衆は、迷信深かったのでしょうね

この場合、言うまでもなくディアナや「夜の奥方たち」という存在は魔女ではない。

13世紀頃までは教会もこうした民間信仰をきびしく禁じたりはしなかったし、聖職者たちも、人間が眠りについているときに、悪魔が罪を犯すようにそそのかすことはあっても、その夢を現実のものとして飛行などできると考えるのは神の教えに反している、とは言っているものの、これを断罪するようなことはなかった。こうしたお伽噺を信じるのは愚かで無知な人々だけだという立場をとるにとどまっていた・・・



魔女概念の転換期は14世紀だな。

カルロ・ギンズブルクによれば、14世紀半ばにヨーロッパをペストが襲ったとき、各地で疫病の原因をユダヤ人に帰する風潮が見られ、暴動が起こり、多くの罪もないユダヤ人が虐殺されたそうだ。
それまでも西欧には、ことあるごとに災厄の原因としてユダヤ人やハンセン病の患者などが告発されてきた歴史があるんだけど、このときはユダヤ人と一部のキリスト教徒が毒薬を散布しているとして非難されたという。この人身御供が、やがて魔女へと対象を広げていったんだな

なぜそうなったんでしょう?

この頃、異端審問官の報告をもとに作成されたと思われる教皇の大勅書に、ある地域で何人かのキリスト教徒が不実なユダヤ人とともに、キリスト教に反する禁じられた宗派や儀礼を密かに設立し広めている、という内容がある・・・

時代が人身御供としての魔女を求めていた・・・と

そしてやはり同じ時期に、ドミニコ会士ヨハン・ニーダーの「フォルミカリウス」という有名な本が書かれていて、これには、ベルン地方に人間より狼に似た男女の妖術師がいて子供をむさぼり食っているとか、ローザンヌでこれらの妖術師たちが悪魔を呼び出し、その門弟になるためにキリスト教信仰を放棄し、十字架を踏みつけ、洗礼を受けていない子供を殺して鍋で煮込み、その脂で魔術や変身用の軟膏をつくった・・・といった報告が記されている

すると、まさにそのあたりから、巷間伝えられるサバトのイメージが確立されていったのですね

迫害の対象は比較的限られた社会グループ(ハンセン病患者)から、人種的宗教的に限定されながらもより広汎なグループ(ユダヤ人)に移行し、ついには潜在的には限界のない宗派(魔女や妖術師)に到達したわけだ。
しかもこの第3のグループは、かつて第1、第2のグループに陰謀をそそのかした犯人だというもっともらしい前科まで付いている。

異端審問官が、魔女の身体に悪魔との契約の印(たとえばほくろやあざがそれであるとされた)を見つけようとするよね。これって、ハンセン病患者やユダヤ人における、服に縫いつけられた烙印と同じものを求めていたわけだよ


新たなスケープ・ゴートに仕立てられてしまったんですね



もともと「聖書」には魔女を忌諱する箇所はない。異端審問の場で教会側が根拠としたのは「新約」「ヨハネ伝」の「人これを集め火に投げ入れて焚くべし」の一行だけなんだ。つまり、「これ」とは魔女のことだという、牽強付会もはなはだしい理屈によるんだな。でもいま言ったように、それだけで魔女裁判が始まったわけではないんだよ。

いずれにせよ、 ここにおいてWitchが「悪魔に使われるもの」と解釈されるようになり、これはさらに、16世紀フランスのジャン・ボダンによる「魔女とは悪魔と結託することで、己の目的を遂げようとする者」であるという定義に連なってゆく・・・

思いきり狭義の解釈としたわけですね

だから、こうした一面から見れば、悪魔も魔女もキリスト教側がつくりだしたといっていい。
黒ミサにしろ、サバトにしろ、その詳細・精緻を極める描写なんか、魔女たちの自白・陳述という体裁でキリスト教会側から公表されたものなんだからね




で、いよいよ魔女狩り時代の到来ですね・・・

さっきも言ったように、魔女崇拝はもともと原始宗教の祭儀の変形・退化であり、古代においてさかんだった豊穣信仰の名残と見ていい。サバトの起源もここにあるという説は、いまではかなり一般化している。
また、ミシュレによれば中世のサバトは封建領主に反抗する農奴たちの秘密の集会ではないかということになる


なるほどですね〜(・_・)

それがこの時代に至って、サバトは悪魔をたたえ、悪魔と性的な関係を結ぶ、現実に行われているものとなったんだ



では、そのサバトとは、いったいどんなものだったのですか?

SabbathとはSe'battre(狂躁)から発したことばだな。夜間に集う邪悪な饗宴を指している。

サバトは主として水曜日と金曜日の晩に催されることになっていて、出発前には衣服を脱ぎ全裸となって、身体の各所に香油を塗り込む。その香油の原料は、朝鮮朝顔、いぬほおずき、ベラドンナ、とりかぶと、大麻のエキスなどといいった、いずれも麻酔剤・刺激剤として知られるものだ。
ものの本によると、子供を煮詰めて採った脂肪に各種の植物や蝙蝠の血などを練り混ぜてつくるともされている。
じつはこうした香油には、効果はまったく認められないそうだが、行為そのものによってある種の自己催眠のような効果はあったんじゃないかな


自己催眠によるトランス状態のようなものですね

そういうこと。箒にまたがって空中を飛翔してくるというのはキリスト教会側の想像であり、また、トランス状態に陥った妖術師たちの幻覚でもあったんだろうね。ドアや窓ではなく、煙突から出かけるという陳述もある。

サバトは人里離れたドルイド教の祭壇など、古代の宗教の遺跡で行われることが多い。
徒歩で、あるいは山羊や馬の背に乗って集まってきた男女たちの中心には、半ば山羊の姿をした悪魔が玉座についている。その姿は角を生やし、驢馬の耳と山羊の蹄、巨大な男根を持つ怪物で、その息は硫黄のような悪臭だったという・・・


・・・(・・;)

プログラムはおおむね次のとおりだ・・・

1 口頭によるキリスト教信仰の否認
2 悪魔の名による洗礼
3 悪魔のお祓いによる聖油の除去、十字架を踏みつけるなどの象徴的な行為
4 名付け親を排除して新たな保護者(悪魔)を選ぶ
5 服従の証に悪魔に衣服を捧げる
6 魔法の円の中心に立ち、悪魔への忠誠を誓う
7 「死の本」による命名
8 子供を犠牲にして悪魔の尻に接吻する
9 悪魔への1年ごとの貢ぎ物を誓う
10 新信者は身体のどこかに悪魔の刻印を印す
11 悪魔への特別奉仕の誓い

・・・もちろん、サバトの秘密を漏らさぬ誓いもある。

そして饗宴と輪踊りと乱交へと続くわけだな

はあ〜(・・;;

まあ、以上は裁判における自白を元に構成したものだから、必ずしもこのとおりではないんだけど、具体的に描写すると―

ある者は悪魔に、身体のどこかに洗礼を無効にする印をつけてもらい、ある者は己の涜聖行為(さまざまな悪事、呪いの儀式や獣姦など)を報告し、最後に一同は悪魔の尻と性器に接吻する。
悪魔は不潔なことばや涜神のことばを吐き、赤蕪や盗んできた聖体パンなどを使った黒ミサに至る。
これは、聖職者の身でありながら、密かにサバトに参加する悪徳司祭などもいたらしいんだな。なかには仮面で顔を隠した貴族や貴婦人も参加していたと言われている。そしてこの聖体パンは好んで精液で汚したそうだ・・・


・・・(・・;)例のジャンヌ・テスタル事件におけるサドも、こうしたサバトにおける涜聖行為を真似たわけですね

やがて、場合によっては人肉嗜食の饗宴に至ることもあり、宴もたけなわとなると、悪魔はひとりの娘を引っ捕らえ、彼女と交わり、そこここで手近な男女を相手にした乱交がはじまる・・・

魔女裁判における、悪魔と交わった女たちの告白によれば、悪魔の精液は氷のように冷たく、またその性器には鱗があり、相手となった娘は、挿入するときはまだしも、抜き取るときには猛烈な激痛に苦しんだということだ。
また、その長さは1メートルもあるとか、半分は鉄で、半分は肉でできているとか、先端がふたつに分岐していて、膣と肛門の両方を同時に楽しむことができるようになっている、というものもあったな・・・


・・・(・・;)dokidoki



このように伝えられている、淫猥にして凄惨なサバトのイメージは、尋問する異端審問官の想像力による虚構の物語だとするひとがいる

私もそう思いますけど・・・

ドランクルなんて司法官は、女妖術師から好色淫靡な告白を引き出す手腕にかけてはもっとも長じたひとだったそうで・・・言い換えれば、サディスティックにして好色な嗜好を満足させるためのテクニックに秀でていたということになるな(^0^)こいつ、いま生きていたらきっとナンパの達人だぞ(笑)


では、ほとんどキリスト教会側、裁判官側の捏造とみていいのですね?

いや、ことはそれほど単純ではないんだよ。むしろ、尋問者、被尋問者(魔女、妖術師)の深層心理が共同で描き出したものというべきなんじゃなかな。
ミシュレは、女妖術師たちが裁判官の寛大な処置を期待して、彼らの恐怖と卑猥な事柄を好む情熱に訴えようとした、ここに尋問者と告白者の無意識の共犯関係が生じていた、と指摘している。
そもそも、女妖術師を裸にして、悪魔がサバトの席上で付けた印をさがすなんて、これがサディスティックな嗜好のあらわれでなくてなんだろう


潜在的な共犯関係というのは卓見だと思いますけれど、深層心理が共同で描きだした、とはどういうことでしょうか?

その背景には、かつて紀元2世紀頃、キリスト教徒が動物崇拝、食人、近親相姦といった罪で告発されていたという歴史がある。いまでは信じられないと思うけど、当時の噂では、入信者はまず子供の喉を切り裂いて、その肉を喰い、血をすすることを強いられる、とされていたんだよ。
これ、当時書かれた「弁明書」によれば、新しい宗派に対するユダヤ人の敵意の産物だということなんだけど、じつは同様の中傷がかつて(紀元前2世紀頃)ユダヤ人に対して行われていたんだな。

つまりね、人肉嗜食や近親相姦といったものは、人間にとって、古くからの敵対イメージの典型だったんだよ。

そうでしたか・・・(・o・)

ひとつには、原始においてはじっさいにそうしたことが、ほかならぬ自分たちの先祖によって行われていたであろうというコンプレックスも、人々の深層で働いているんじゃないかな



あと、サバトに関する構成要素ひとつひとつについて、自説も含めて解説を加えてみると―

悪魔と交わっても快感がなく、苦痛を感じるとか、その性器(精液)が氷のように冷たいというのは、現代でもヒステリー患者の症例にみられるものだな。
さらに、おおむね魔女は淫乱で、近親相姦のみならず獣姦、死体や悪魔とも交わるとされているけど、死体や悪魔はともかく、こうした見境のない行為は、じつは冷感症の患者に多く見られる例だ

はあ〜

悪魔の巨大な男根は、モンタギュー・サマーズなどに言わせると、模造男根ではないかということになり、この説はかなり支持者が多い。
実用を度外視すれば、日本にも巨大なご神体があるし、そんなに驚くことではないだろう(笑)
その悪魔の姿にしても、サチュロスと旧石器時代の神を合体させ、ゴシック風に具象化したものだと断じる学者もいる

はああ〜

サバトに向かうにあたって、山羊や馬の背に乗って行くというのは、もちろん悪魔の姿が山羊と人間のあいのことして描かれていることとも関係あるだろうけど、山羊も馬も家畜ながら農場よりも荒野を連想させるものであること、山羊は険しい岩山に生息し、好色の汚名を着せられた、まさにscapegoat、社会のはみ出し者の代名詞であること、さらに馬は欲望・本能の象徴であることと無関係ではないだろう。
たとえば、nightmare(悪夢)はnight(夜)のmare(雌馬)の合成語だよね

なるほど〜

動物への変身や夜の飛行は、さっき話に出たディアナ信仰のような、民衆文化に根ざしたシャーマニズムを起源とする信仰から発生したイメージだろう。
それに空中飛行の夢が性的な象徴とされているのはよく知られていることだよね


・・・あ、あざやかですね〜(・o・)

はからずも、人間の想像力の正体が知れるというものだね(^^ )





参考文献
グリヨ・ド・ジヴリ「妖術師・秘術師・錬金術師の博物館」林瑞枝訳 法政大学出版局
イーフー・トゥアン「恐怖の博物誌」金利光訳 工作舎
ジャン・ヴェルドン「夜の中世史」池上俊一訳 原書房
カルロ・ギンズブルク「闇の歴史」竹山博英訳 せりか書房
ジュール・ミシュレ「魔女」上・下 篠田浩一郎訳 現代思潮社
澁澤龍彦「エロス的人間」中公文庫
ほか






・・・で、今日は優美がこの家に来て一周年の記念日だね(^^ )

( ^^)Hoffmannさんはこの一年間、いかがでしたか?

もちろん、楽しかったよ。ありがとう、これからもよろしくね( ^^)(^^ )優美は、楽しかった?

もちろんですよ〜(笑)これからもよろしくお願いしますねっ(((((*^o^)σ)~0~)/プニッ♪