#33 エロティシズム各論 ― 番外篇 弾圧の時代




・・・で、現代の、すくなくとも民主主義を標榜する国家にあっては、反体制にしろ、猥褻にしろ、これが原因で極刑となることはない。なにしろ日本の出版物では、政治家と警察の悪口ならいくら書いても無問題というくらいだからね

少なくとも政治家、警察、自衛隊はタブーじゃありませんね。いえ、善し悪しは別にして、ですけど

ところがどうしたものか、平和な時代になると、どこからか「良識」の旗印を掲げてわらわらと湧いて出てくる害虫みたいなのがいるんだね。
現代のような猥褻文書出版に対する起訴は、これはかつてのキリスト教会よりも教会らしい、へんてこな連中が警察に訴え出ることによって行われる。
これこそ民主主義の悪しき弊害だね。日本でも1億総評論家なんて言われた時代があるけれど、まさに我こそは一家言ありと、どの分野でもヤカンみたいにクチバシを突っ込んでくるのがいるんだな。
これがまた、しゃしゃり出てきた当人は信仰告白的な正義感の持ち主だから始末に負えない。お堅い御仁だなんてからかっていられないような、迷惑千万な連中なんだよ(-"- )
プンスカ

Hoffmannさん、コーフンしてます?(/^_^)/マアマア

(笑)ついでに言うと、猥褻だ猥褻だと騒ぐやつほど想像力―というより、妄想力豊かななんだな





たとえば・・・(笑)

海外の「ファニー・ヒル」裁判や国内でも「チャタレー」裁判なんてぜんぜん興味がないけど・・・澁澤龍彦のサド裁判なんて、検察側の証人の発言はすごいよ。戦争中、銃後の人たちが戦争の悲惨さを知ることは「好ましくない」とか、「教育勅語」に示された教育観こそ「非常にいい教育観」とか、国家のために国歌を歌いながら死ぬということが「非常にきれいだと思います」とか・・・

(^^;)・・・いつの時代の裁判なんですか?

戦後も戦後、昭和36年の話だよ。
当の澁澤訳「悪徳の栄え」を出版した現代思潮社の石井恭二はずっと後になって、ある対談(インタビュー)で、聞き手が「一方の検察側の証人というのが、純潔同盟ですとか、本当にこんな人たちがいるんだというくらいおかしな人たちで。逆に言うと、検察側が用意した証人たちの言葉がここに残ったというのは、ある意味で非常にオモシロイ」と言うのに答えて・・・

おかしいんですよね。嫁さんと寝るときに羽織袴で寝るのかというような世界ですからね。お前ら細君を抱くときに猥褻だと思ってやってるかと聞けば、みんな困る人たちのはずですよ。普通の人たちですから。だけども、自分の人間性を縛ってしまうとああいう画一的な台詞になってくるんですね。良識というのがどれだけ滑稽かということです。そうした意味で素晴らしい証人たちでしたね。

・・・と発言している。
まあ、裁判の記録が2巻本にまとめられているから、興味があったら読んでみるといい。でも、読むとあまりにもばかばかしくて、腹が立つよ(笑)


そういえば、京都大学教授だった故・生田耕作が出版に関わった「バイロス画集」の起訴も、どこかの一般市民が当局に訴え出たのが始まりだったそうですね

うん、はた迷惑な正義漢面したやつが密告したんだね。バイロスなんて、すっかり世に認められた画家だよ、なにをいまさらって感じだな。さすがに検察も気が付いたのか、起訴は取り下げられた(起訴猶予)けど、警察は一般の書店に「こんな本を扱ったら、万引きの被害にあっても面倒見てやらないぞ」って、脅しをかけたというから・・・(-"- )

本当ですか?(・o・)

結局のところ、警察も悪い意味でのサラリーマンなんだよ。起訴して有罪になれば手柄になるだろう? だから、最近も捕まえた泥棒の虚偽の自白を鵜呑みにして、ある女性を窃盗幇助容疑で誤認逮捕した事件があったじゃないか。その女性は問題の時間、現場にいなかったことが明らかなのに、ろくすっぽ調べもせず、誤認とわかっても、すぐには釈放しなかった・・・

呆れたものですね・・・

だからたとえなにがあっても、警察なんてあてにしないですめば、その方がいいんだよ






ここでひとりの、権力によって殺害され地上から姿を消した、ランボーにも比肩する偉大な反抗詩人の話をしておきたい。

17世紀のはじめに、クロード・ルプチという若い作家がいた。30歳を過ぎたばかりの若い弁護士で、詩人テオフィル・ド・ヴィオーの友人でもあった。ヴィオーはその反宗教主義によって警察に追われ、火刑を宣告されたが幸いにも逃げ延びて、多くの詩を書いて文学史に名を残した大詩人だ。クロード・ルプチはこの大詩人と腕を組んで歩く仲間だったんだよ。

このルプチの最初の本は「美神たちの淫売宿」という本でね、この原稿がルプチの手からパリの出版社に渡されて一週間経つか経たぬか、まさに印刷にかかったそのとき、警察が出版社に押し入り、刷り上がった校正刷りはその場で焼却され、原稿も押収されて同じ処分にあった。

クロード・ルプチは2、3日後に逮捕されて、裁判の判決は「クロード・ルプチ、死刑執行人によってその右手は切断され、生きたまま火にかけらるべし」―一週間たたずしてこの宣告は執行され、グレーヴ広場で群衆の見守るなか、ルプチは右手を切断されて生きたまま火にかけられたんだ。最後の瞬間に、死刑執行人が情けからか親切心からか、生きたまま火にかける前に首を絞めて楽にしてやったとも伝えられているが、それも確かなことではない・・・


・・・

ところが(- -;警察の無謀な処置にもかかわらず、クロード・ルプチの原稿の一部が今日まで伝えられているんだ。警察の手に奪われずにすんだ「美神たちの淫売宿」のコピーがただ一部あって、ルプチはこれを彼の友人に託し、その友人はコピーをオランダへ持ち運び、彼の地でこれを印刷させた。この版は今日完全に消失してしまっているが、ただ一部が19世紀後半まで国立図書館に保存されていた・・・

作品が残されていたのですね

ところが(- -;;この唯一の本も国立図書館から消え失せてしまったんだ。もちろん偶然ではない。何者かの作為と見ていいだろう・・・

・・・残念でしたね

ところが(^^;;;国立図書館から謎のように、しかも作為によって消滅した「美神たちの淫売宿」は、互いに相知ることのないふたりの男によって消滅前に筆写されていたんだよ。そのコピーをもとにして20世紀の初頭、ある愛書家によって100部ほどの小さな版が印刷された。もちろんたいへんな稀覯書で、いまでは入手は不可能に近いんだけどね

不思議な運命ですね(^^;)・・・それで、どんな内容の本なんですか?

「美神たちの淫売宿」はビュレスク(滑稽)風の5つの詩を含み、滑稽マドリッド、滑稽ローマ、滑稽パリなどとなっており、あとは数多くのソネットやシャンソンで構成されている・・・その多くは教会や権力や道徳に対して放たれた鋭い攻撃なんだそうだよ



真のエロティシズムの作家がこのような苛酷な境遇に置かれるようなことが今後またあるんだろうか・・・

そんな時代が来てはいけないと・・・

もちろんね・・・でも、サドの小説(を読むこと)がファッション化してしまって、その毒性を失ってしまっているとしたら、それも嘆かわしい風潮じゃなかな

・・・わかりました。つまり、ある意味、苛酷な境遇だからこそ、時代に反抗してこうした詩人たちが生まれたのだということですね

そういうことだ(笑)
だからといって、現代の「当局」は、これは無知無教養で、陰険かつ独善的な信念に取り憑かれたノイローゼ患者でしかないから問題外のそとだ。猥褻なんて、訴える側の妄想か、もしくはカルト宗教のように狂信的な主義主張でしかないよ