#43 78回転の快楽


この映画のなかでは立派な蓄音機が使われていますよね

「ツィゴイネルワイゼン」

あれは電蓄だね。終わり近くで大谷直子演じる中砂(なかさご)未亡人が、「調子が悪い」と言っている。で、途中から音が出はじめるんだよね。手巻きならこういうことはない。でも、当時電蓄を所有しているということは、そうとうな生活水準だったことになるね

いまでも使われ続けているものもあるのでしょうね

電蓄なら定期的にメンテナンスを受けないとだめだろうね。そこが電気式の機械の宿命だな。
手巻き蓄音機、すなわちゼンマイ式なら、とくにレストアしなくても、動いているものは結構あるはずだ。これより以前の蝋管も聴いたことがあるし、さらに遡ればオルゴールや手回しオルガンが起源だよね。どれもいまでも動いているものはたくさんあるだろう


単純であるが故のメリットですね

個人的には、電気を使うモーターよりも、ゼンマイ仕掛けでレコードを回しちゃうという単純なアイデアのほうが、よほど偉大な発明だと思うんだけどね



ゼンマイだと、経年変化もありますし、あまり精度はとれないのではありませんか?

一応微調整機能は付いているんだ。だからときどきストロボスコープで確認すればいい

あと、電気的な回路がないわけですから、ボリューム調整ができませんよね


音量は固定だけど、そんなに不自由を感じることはないよね。
それより、片面聴くたびにゼンマイを巻かなければならないのが面倒といえば面倒かな


針も片面ごとに交換するんですね

これ、材質はアルミかなあ・・・片面ですり減っちゃうんだ、安いからかまわずどんどん使っているけどね。鋼鉄針は盤を傷めるし、竹針は片面ごとに竹針カッターという器具で針先を削らなければならないんだけど、このカッターを持ってない。あと、昔はソーン針とかいって、植物の棘を使ったものもあったそうだ



その針を取り付けるところがサウンドボックスといって、ここで針の振動を拾う、その先はホーン型で音量をかせぐようになっている


ラッパが上方向に広がっているものがありますよね

うん。犬が覗き込んでいる商標で有名だね。ウチのはラッパが下に向いていて、キャビネットそのものがホーンになっているやつだ

蓄音機で再生するレコードは毎分78回転の、いわゆるSP盤ですね。SPって、なんの略なんですか?

SP盤、すなわち“Standard playing=標準演奏”だな。
SP盤は片面の演奏時間は30cm盤で4分半から5分程度、片面3分半の25cm盤もある。素材はカーボンなどにシェラック(貝殻虫が出す樹脂状の物質)を混ぜたもの、100%天然材料だね。ただし堅くて割れやすいので取り扱いに注意しなければならない。でも、まっぷたつに割れたなら接着剤でくっつければ、とりあえず聴けるようになる(笑)


はあ〜根性がありますね(笑)



Hoffmannさんのアナログプレーヤーには78回転のスイッチがありますよね。それなら、このプレーヤーでも再生できるのですね

いや、そんなに簡単じゃないんだ。まず、SP盤専用カートリッジ(針)が必要だし、SP盤に対応したフォノイコライザーがないと高音から低音までの周波数帯域が正しいバランスで再生できない

フォノイコライザーってなんのためにあるのですか?

レコードの溝っていうのは、高音も低音も同じバランスではないんだよ。高音は大きめに、低音は小さめに溝が刻まれているんだ

どうして同じバランスで溝を切らないのですか?

そうすると、低音の溝は針が追従できないほど大きくなってしまうし、高音の溝は極小になって、ノイズに埋もれちゃうんだよ。だから高音は大きめ、低音は小さめ・・・で、これを正しいバランスにするのがフォノイコライザーの役目だ。

つまりイコライザーが周波数特性を補正するカーブは、逆に低音を持ち上げて、高音を抑えるカーブになる。LPレコードの時代には、どのレコード会社でもRIAA特性というカーブで統一されていた・・・。

でもRIAAが採用された1950年代半ばより以前は、レコード会社各社で録音カーブが異なっていたんだ。例をあげるとオルソフォニックとかヴィヴァトーナルなんて周波数特性があったんだな。このため、古いレコードを正確に再生しようと思ったら、これらの多様な録音カーブに対応するフォノイコライザーが必要になる。

もちろん、SP盤にはSP盤特有の(さらに、各社まちまちの)多様なカーブがあるわけだね


SP盤をRIAA特性で再生したら、どんな音になるんですか?

モコモコと、こもった音になるね(^_^;)
それに、イコライザーのカーブだけの問題じゃない。蓄音機の針圧って、数百グラムだから、これで針音なんかかなり抑え込まれているんだよ。対して、現代のSP盤専用の針といえば、その針圧は5グラム前後、これでは高域をかなり下げないと単なるノイズ発生機になっちゃうよ。具体的に言うと、ターンオーバー周波数、ロールオフ周波数可変型のフォノイコライザーまたはアンプが欲しいところだね・・・


ターンオーバー周波数とロールオフ周波数ですね・・・φ(.. ) メモメモ

えっ、優美、わかるのか?(・o・)

ぜんぜんわかりませんφ(^_^*)

(/_ _)/ドテ



それじゃ、ちょっと聴いてみようか((( ^^)/◎ヽ(^^ )/ワーイ♪

〜♪

なんというか、ダイレクトに音が出てくる印象ですね。もってまわったようなところがない・・・

電気的な回路を通さないからだろう。ずっと以前、ウチに配達に来たオーディオショップの店長もそんなこと言ってたね。音にスピード感があるって感心していたよ

CDしか知らないひとは、LPレコードってノイズだらけのひどい音だと思いこんでいることがありますよね。これ、SP盤についても同じことが言えますよね。きっと、雑音のなかからかすかに音楽が聴こえてくるものだと思っているひとは多いんじゃないですか

本当はこんなにエネルギー感のある音なんだよね(^^ )

演奏が生き生きとしているように感じられるんですが・・・

それは録音するときの、緊張感のためかもしれないね。技術者と演奏者のうちの誰かひとりでも失敗したらもう一度やり直しだよね。テープ録音になってからはまだしも、ワックス盤に直接溝を刻みながら録音していた時代なら、ワックス盤1枚無駄になっちゃう。なんでも日本の歌謡曲の場合、1回の録音にワックス盤3枚という割り当てがされていて、3回失敗したらその日はおしまい・・・

真剣勝負なんですね〜(・_・;

新人の歌手なんか、3回失敗したらもう来なくていいなんて言われたそうだ(^o^;キビシイ〜

歌謡曲の場合、いまなら伴奏と歌が別々のテイクですから、何度でもやり直しができますね(^^ )

〜♪



この「ツィゴイネルワイゼン」は誰の演奏ですか?

ミッシャ・エルマンだね。その音色があまりに美しくて「エルマン・トーン」なんて呼ばれたヴァイオリニストだよ

〜♪


これは、ストラヴィンスキーですね

「兵士の物語」だ。LPレコードなら1枚に収まるけれど、SP盤だと5枚10面のセットになる(笑)この若いころのバーンスタインの演奏はLPもCDに復刻されたものも持っているけれど、じつはこのSP盤がいちばん好きなんだ(^o^)



〜♪〜♪〜♪

1枚の収録時間が短いので、どんどん聴けますね。Hoffmannさんはゼンマイを巻くのにお忙しくて・・・ありがとうございます(^-^*

かまわないさ(笑)むしろ、ハンドルをキリキリ回していると、さあこれから聴くぞって、気合いが入るよ(^^ )・・・まだまだあるぞ、コルトーのドビュッシー「子供の領分」、マイラ・ヘスのバッハ、ブルーノ・ワルターとベルリン・フィルの「南国のばら」・・・ハミルトン・ハーティのフンパーディンクにクーセヴィツキーによるサティ、ドビュッシー編曲「グノシェンヌ」なんて、まずCDでは聴けないだろう(タブン;;)

こちらには・・・アントン・カラスのツィター演奏、ヴァイオリニストでは巖本真理や諏訪根自子もありますね。おふたりとも「天才少女」と呼ばれた時代の録音でしょうね



さて、ここらでちょっと変わったものを聴いてみようか((( ・_・)/◎

〜♪

これは・・・聴き覚えのあるメロディですね

ホルスト・ヴェッセル作詞・作曲のナチス党歌だ。ここでは吹奏楽団によって行進曲調に演奏されている

たしか、ヴィスコンティの映画「地獄に堕ちた勇者ども」のなかで歌われていましたね。
♪でぃふぁーねほーほ でぃらいえんでぃひとげしゅろーせん・・・(^o^)ノ♪



「地獄に堕ちた勇者ども」

優美、よくおぼえてるね(笑)ヴィースゼーでの突撃隊の乱痴気騒ぎの最中に歌われていたね。
この盤には解説書が添付されていて、ホルスト・ヴェッセルについてこんなふうに書いてある・・・

ナチス建国初期の熱血児で、若くして共産党の凶刃に、劇的な最期を遂げたという壮烈な愛国者です。この歌は一言一句、詞曲ともに憂国の至情に燃えたもので現在ではこの人を記念する為にこの歌をホルスト・ヴェッセル・リードと呼び、国家と同様にナチスの精神を代表するものとなって居ります。

時代を感じさせますね〜



ちなみにこの盤の裏面はイタリアのファシスト党歌「ジョヴィネッツァ」だ。これも吹奏楽演奏だけど、歌手によって歌われている盤も持ってるよ。歌詞はダヌンツィオの作なんだよね。
♪じょう゛ぃねっつぁ じょう゛ぃねっつぁ ぷりまう゛ぇーらでぃべーれーつぁ・・・(^o^)ノ♪


すごい歌詞ですね! 「青春、青春、我が世の春よ」って・・・(^o^;

まあ、近所のひとにあやしまれるといけないから、歌うのはこれくらいにしておこう(^_^;;でも、本来備わっていたはずのイデオロギー抜きに考えれば、これはこれでおもしろい音楽だよね

軍艦マーチだって、いまでも聴けば結構威勢のいい気分になりますからね(^^ )

・・・さあ次はなにを聴こうか、優美、どれにする?

それを・・・あ、こちらのも♪( ^^)/◎ヾ(^^ )♪





引用文献
内田百閨uサラサーテの盤」六興出版

※ 内田百闍yびナチス党歌の解説書からの引用は、旧漢字・旧仮名遣いを新漢字・新仮名遣いにあらためています。