#44 “Smile!”




私は、笑顔という人間のもっとも美しい表情が、ひとの気持ちをも変えてしまう小説―ポール・ギャリコの「最高傑作」が大好きですね〜(^^*)

へえ、どんな話?(^^ )

ところはフランス、ロワール河畔の宿屋兼レストランです。ここの主人アルマン・ボンヴァル氏はたいそう腕のいいコックなのに、この年は気候に恵まれず宿屋は閑古鳥、ボンヴァル氏は破産寸前で、宿屋も人手に渡ろうという瀬戸際なんです。

そんなある日、ボンヴァル夫人が「これを見て」という男の写真入り手配書には・・・


謝礼五十万フラン!
この男性を見かけたことはありませんか?
もし、見かけたら、すぐ警察へ!

・・・五十万フランといえば、ちょうどこの夫婦が必要としている額なんですね。手配書の男の名前はアンリ・ブランシャール。おりしもパリでは恐ろしい殺人事件があって、なんでも犯人は愛人の咽頭を切り裂いて貯水池に捨てたとか・・・「この写真の男ならそれぐらいのことはやりかねないわね。そんな顔してるわ」とポンヴァル夫人・・・



と、そこにやってきた客が、年齢、背格好から軽い斜視といい、古い傷痕といい、まさに手配書のアンリ・ブランシャールそのひとだったんです。

これぞ神の恵み、五十万フランの謝礼が手に入るチャンスですね。ところがあいにく電話が通じなくて、車も故障しているんです。そこでボンヴァル氏は電話が通じるようになるまで、自慢の芸術的な料理で、この凶悪な殺人鬼を食堂に引き留めておこうと考えます。


「貧しい旅の者でね。贅沢はできないんだよ」という男に、ボンヴァル氏は、もう何日も客がさっぱりなので、腕を鈍らせないために特別料理を作りますが、お代はお支払いいただけるだけで結構と申し出ます。メニューは・・・

ディジョン風ロワール・サーモンのムースリーヌ
卵の赤ワインソースがけ
仔牛肉のエスカロップ金茶ソースがけ
ノルウェー風アイスクリーム・オムレツ

よくわからんが、美味そうだね〜(^o^*

(笑)私にもどんな料理か分かりませんけど・・・(^o^;
これから用意されるメニューを聞いたブランシャールが「まるで王侯貴族の食事だ!」と言えば、ボンヴァル氏は「死刑囚最後の晩餐だよ」と心の中で思います。「一口でも私の料理を食べたが最後、決して席を立つなんてできやしない」


はたしてそのとおりになるんだね(^^ )

疑うことを知らぬお尋ね者は、ウフ・ムーフレットがテーブルに置かれると、夢のようだと言わんばかりに額に手をあて、あっという間にたいらげてしまい、ムースリーヌを差し出されると涙を流して・・・

・・・おもむろに一口味わうと、にっこりとボンヴァル氏に微笑んでみせた。それで信じられないほど顔つきが変わった。・・・「おお、シェフ、我が友よ!」
 ボンヴァル氏が鳥肌立ったのは、微笑んだ瞬間、ブランシャールの顔からすべての邪悪さが消え去ってしまったからだった。

ボンヴァル氏は厨房に引き返し、微かな良心の呵責に苛まれながら、次の料理に取りかかり、やがてブランシャールの前に次の料理が運ばれます

 見て、嗅いで、食べた! ブランシャールは立ち上がると、ボンヴァル氏を抱き寄せ、太く力強い腕で抱きしめた。・・・「あなたは名人だ!」・・・「魔術師!」と叫んだ。
 ボンヴァル氏は、自分の眼が涙で潤み、自分からもブランシャールに抱擁を返していることに驚きながら言った。「友よ。偉大なる美食家! 食通! どうか召し上がってください。料理を存分にお愉しみください。すぐにノルウェー風オムレツをご用意します」

厨房に戻ったボンヴァル氏は自分が殺人犯との抱擁にすっかり心を奪われていることに気づき、不意に確信を得るんです。「アンリ・ブランシャールは無実だ」と・・・

・・・(^o^;)ふは〜



ところが夫人がやってきて、電話が直ったので警察に通報したと告げるんです。

ボンヴァル氏は「なんてことをしてくれたんだ?」と叫び、すぐさま食堂に駆け込むと、ブランシャールに「逃げてください!」「もうすべてわかってるんです。もうすぐここに警察が来ます!」「このアルマン・ボンヴァルだけはあなたの無実を信じています。さあ、まだ時間があるうちに早く。この国を出てください」

そして金庫から最後の蓄えである8万フランを持ち出し、ブランシャールの手に握らせ、「さあ、これを持って行きなさい。私の差し上げられる全財産です。これで国境が越えられるでしょう」

しかし、ときすでに遅く、外にサイレンとブレーキの軋む音が聞こえ、警官が食堂に入ってきて・・・ボンヴァル氏はナイフとフォークをつかんでアンリ・ブランシャールをうしろにやり、雄々しく叫ぶんです


「この人を連行しちゃいけない。この人は無実なんだ。近寄るんじゃない。近寄ったらただじゃおかないぞ!」

このあとにオチがつくのですけれど、それはHoffmannさんがお読みになってください(^^ )

いいね〜すてきな話だね(^o^*

ボンヴァル氏は、食通であるひとが殺人など犯すはずがないと考えるわけですが、「角店」と同様に、笑顔というものがこんなに美しく描写されているからこそ、ボンヴァル氏の気持ちの変化に説得力があるんですね(^^ )





それでは、おもしろくもないのに笑顔をつくらなきゃならなくなった探偵の話をしようか(^^ )

はあ?(^^;)どなたの作品なんですか?

これはイギリスのユーモア作家P.G.ウッドハウスの小説で、“Mulliner Nights”という連作短編小説のなかの“The Smile That Wins”という物語だ。

エイドリアン・マリナーは探偵で、行方不明の犬を探す仕事が縁で、ブランボルトン伯五代目当主の愛嬢ミリセント嬢と知り合い、恋に落ちるんだ


探偵さんが・・・犬の捜索ですか?(^o^;

事件は単に公園をうろついていた犬を見つけて、首輪に表示されていた住所の家まで連れて行っただけなんだけどね(笑)で、ミリセント嬢もエイドリアンに一目惚れ、ここまではよかったんだけど、ミリセント嬢の父親がふたりの結婚に大反対、娘はジェスパー・エイドルトン卿なる実業家と結婚させると言い張るんだな。

ところで、このエイドリアン・マリナーは子供の頃から消化不良気味でたびたび胃痛の発作に悩まされていたんだ。ミリセント嬢と知り合ってからはしばらくおさまっていたんだけど、この失恋の痛手から、またもや激しい胃痛に苦しむことになる。

ともかくも医者に行くと、この医者が言うには・・・

「笑いなさい!」
「は?」エイドリアンは驚いた。
「笑うんですよ、マリナーさん」
「笑えって?」
「そう、笑いなさい」
「でもぼくは失恋したばかりなんです」エイドリアンは口ごもりながら言った。
「そりゃ結構」医者は独身だった。「さあ、笑ってごらんなさい」
・・・
「・・・消化不良を薬で直すなんていまどきやりません。・・・陽気でいるのがなによりなんです。それがだめでもせめて笑っていなさい。顔の筋肉をほころばしているだけでも、効きますよ。ひまさえあれば笑うようにしていなさい」

エイドリアンが「こうですか」と無理に笑顔を作ってみせると・・・

「嫌な笑顔ですなあ。モナリザのあやしげな微笑みたいですよ。皮肉で意地悪そうな感じですね。おれはなんでも分かってるんだぞとせせら笑っているみたいだ。・・・当分の間は他人に向かって笑顔を見せない方がいいでしょう、とくに気の弱いにひとには。ではマリナーさん、診察料5ギニーいただきます」

それだけの診察で・・・高いですね〜(^^;



この日の午後、エイドリアンには結婚披露宴の警備の仕事が入っていた。ところが「結婚」なんて聞いただけで己の身の不運を思い返すばかり、当然のごとく胃が痛んできて、ひとりの紳士が、披露宴のテーブルから銀の食器や宝石で装飾された食器やらを失敬してポケットにしまい込んでいるのも気が付かない始末(^^;

胃の痛みはいよいよひどくなって、ともかくも医者に言われたとおり無理矢理笑顔を作ってみたところ、件の紳士と目が合った・・・


「しまった!」その男は真っ青になってつぶやいた。

その男―サットン・ハートリー=ウェスピング卿は、この日の収穫をポケットから出して「なあに、罪のない冗談だとわかって笑ったんだろう?」と、にこやかに話しかけてきた・・・

懐柔にかかったわけですね(笑)

そしてその週末に、サセックスの別荘まで遊びに来るようにエイドリアンを誘ったんだ。彼はこの見知らぬ男が、なぜこんなに自分に対して親しげに声をかけてきたのか、さっぱり分からないんだけど、別荘には、ミリセントの父親と、彼女と婚約するはずのジェスパー・エイドルトン卿も来るという



そしてその週末、サセックスでエイドリアンはミリセントの父親であるブランボルトン卿とやり合ってしまい、その父親が令嬢と結婚させようと考えているジェスパー・エイドルトン卿を呼び出して、あんたは歳をとりすぎているし、おまけに太りすぎだし・・・と、猛烈な抗議をするんだ

「・・・それに、実業家の生活の危険を考慮するべきですな。かわいい妻が、突然電報を受けとって、夫はダートムアの監獄に禁固7年と決まったので、夕食は待たんでよろしい、なんて言われるところを想像してみたまえ!」

ジェスパー卿はここまで聞くと、なにか思い当たることでもあったものか、「それはどういう意味だね?」と聞くんだけど、エイドリアンは以上のことを腹立ち紛れに言ったわけで、ジェスパー卿の仕事のことなんか知らない・・・と、また胃の激痛が彼を襲った。ジェスパー卿が重ねて問いただそうとしたとき・・・

エイドリアンは身体を伸ばした。テラスを銀色に照らす月光で、彼の整った顔がはっきりと見えた。その顔に浮かぶ、皮肉でいかにも意地の悪そうな微笑に、ジェスパー卿はぞっとして震え上がった。

はあ〜(^_^;;

この実業家は屋敷内にとって返し、ブランボルトン卿からエイドリアンが探偵であること聞くと、ふたたびエイドリアンのいるテラスに戻ってきて、「よく考えてみたら、あなたの言うとおりです」と、自分は結婚を諦めて南米に行くことにする、ついては自分の計画と行き先については内密に願いたいと、愛想良く言うんだね。

エイドリアンがこれを請け合うと、この実業家は、結婚祝いを差し上げておきましょうと、エイドリアンの手に10万ポンドの小切手まで握らせて、姿を消してしまうんだ(^o^)

エイドリアンは去ってゆく実業家を見送りながら、なんだ、いいところのあるひとだったんだなあ、なんて思っている(笑)


あらあら・・・(^o^;

あと、彼の結婚を阻むのはミリセントの父親のみ、すなわちブランボルトン卿だ。エイドリアンが邸内に入ると、卿は書斎でカード・ゲームの真っ最中、しかも賭で大勝していた・・・(^^ )niyaniya

・・・(^^;)kusukusu



無理に作った笑顔から、幸運が舞い込むというわけですね〜(笑)

人間、笑顔でいるに越したことはないね( ^o^)(^o^ )♪



引用文献
「こわい話 気味の悪い話」第3巻 平井呈一編訳 牧神社 (「恐怖の愉しみ」下巻 創元推理文庫)
「ディナーで殺人を」上巻 ピーター・ヘイニング編 創元推理文庫
P.G.Wodehouse “Mulliner Nights” Penguin Books

※ ウッドハウスはかつて筑摩書房から翻訳が出ていたはずですが手元に見あたらないので、引用文はPenguin BooksからHoffmannの無責任訳(^^;なお、引用文中の「・・・」は中略です。