#10 良妻の罪


お迎え前から着てほしいと思っていたツインニットです。





〜♪

これはなんという曲ですか?

「ヴァルス・ロマンティク」、ロマンティックなワルツという曲だよ、シベリウスの作品だ

フィンランドの作曲家ですね・・・ああ、たしかにワルツですね、気がつきませんでした。ワルツといってもウィーン風ではなくて、どことなく寂しい雰囲気ですね、やさしくて、はかないような・・・Hoffmannさんはこの曲、よく聴いていますよね。シベリウスはお好きなんですか?

うん、シベリウスというと交響曲やヴァイオリン協奏曲が有名で、もちろんそれも好きなんだけどね、管弦楽の小品にもすてきな作品があるんだよ。ほかにも「美しい組曲」とか「ロマンス」とか、派手さはないけれど、なんとも味わい深い名品がある。この曲は「死(クオレマ)」という劇に付けた劇音楽に含まれるものなんだ。有名な「悲しきワルツ」もこの劇音楽のなかの一曲だったな

「死」ですか? どんな劇なんでしょうか?

シベリウスの夫人、アイノのお兄さんが書いた戯曲なんだ、死の床にある母親と息子の夢物語でね・・・重い病にかかって死にかけている母親が息子に舞踏会に行った夢を見たと語る、そのうちにうたた寝してしまった息子の夢のなかに母親が現れ、母親は息子を死んだ夫と取り違えて彼とワルツを踊る。息子が夢から目覚めたとき、母親はすでに息を引きとっていた、という話だそうだ

・・・それでわかりました、やさしげで、それでいて憂愁を秘めたワルツですね



そういえばシベリウスの夫人、アイノはとてもいい奥さんだったので有名なんだよ。
作曲家の悪妻といえばハイドン、モーツァルト、リヒャルト・シュトラウスあたりが代表格としてよく挙げられるけれど・・・シュトラウスの妻パウリーネなんか、亭主の作品を人前で公然と非難して、マーラーの妻アルマはその手記で、歌劇場で同席していかにも閉口した様子をつたえている。もっともパウリーネの場合は亭主がなまけもので、叱咤激励しなくては仕事をしないので、そのあたり計算したうえで悪妻ぶりを演技していたという説もあるけれど・・・

(笑)Hoffmannさんはなまけものなんかじゃないですよね?

え?

あっ、いえ、なんでもないです(*^_^*)・・・それで、シベリウスの奥さんは良妻だったのですね?

良妻の代表だよ。いや、良妻でありすぎた。夫の遺言により、死後残された草稿をすべて破棄してしまったんだからね

それは・・・後の時代の、研究家だけでなく、こうしてシベリウスの音楽を聴いている私たちにとっても残念なことですね

作家のカフカは未完の草稿を親友マックス・ブロートに託し、自分が死んだときは原稿のすべてを焼却処分してほしいと言い残した。ところがブロートは友人の遺志を無視、残された原稿を編集したうえですべて発表してしまった。ブロートによる未完の原稿の編纂には批判もあるけれど、とりあえず貴重な草稿が残されて、公の眼にふれることになったのはブロートの功績と言っていいよね

つまり、裏切り者の友人のおかげ、というわけですね

そういうことになる(笑)ブロートは親友の信頼を裏切った。だからといって、ブロートを友情に背いた男として非難できるだろうか? 今日のような状況が、カフカが望んでいたことではなかったとしても・・・





いい奥さん、というのも難しいものですね・・・