#38 黄金虫いろいろ


今回レタッチはリサイズのみ。ストロボ光量おとして使用☆pika



「黄金虫」といえば・・・

やっぱりエドガー・アラン・ポオを思い出しますね。暗号解読の小説でしたね

前にも話に出たマリー・ボナパルトの研究書を読むと、この「黄金虫」では、キャプテン・キッドのKiddをKid、すなわちchildと読み替えてみたり、木の枝にある髑髏の片目から黄金虫を下に垂らすことと、「黒猫」の片目が潰されていることとの関連を指摘したりと・・・なんというか、ものすごい(^^;)

フロイト流精神分析の解釈による本でしたね(^^ )

さらには幼年期のanal-erotic phaseにまで話が及ぶと、さすがに「またか」と思うけど、面白いといえば滅法面白い。翻訳のないのがまったく残念だ





ところで、ポオの「黄金虫」は原題が“The Gold-Bug”だよね

はい。小説のなかではscarabと呼ばれていましたけれど。“The Gold-Bug”とは、掘り出した財宝にかけているのでしょうね

澁澤龍彦の「虫のいろいろ」というエッセイによると、一般に用いられているスカラベという呼称はギリシア語のスカラボスに由来しているということだ

正式には、黄金虫の種類は非常に多く、およそ一万七千種と言われているくらいで、そのなかにはハナムグリ、カナブン、クワガタムシ、クソムシなども含まれる・・・黄金虫というのは、あくまで総称なのだ。そのなかで、古代エジプト人が神聖視したスカラベは、地中海沿岸地方一帯に分布したタマオシコガネ、すなわち博物学者リンネがスカラベウス・サケル(神聖黄金虫)と命名した種類である。

こいつは動物や人間の糞を大きな球に丸め、後ろ足で後ずさりしながら押しころがし、地中に掘った穴に落として卵を産みつける。幼虫はこの糞を餌にして育ち、やがて成虫となって地中から現れるんだ

いわゆる「フンころがし」ですね(^_^;)

古代エジプト人はこの球をころがすスカラベを、地球を回転させるオシリス神になぞらえた。太陽の象徴と見なされていたこともあるらしい。
地中から成虫が現れる現象は、球のなかから何度でも再生するものと考えられ、魂の再生の象徴とされたということだ。

こうして神聖視されたスカラベの図像は、護符として製作され、指環にデザインされたり、ミイラの心臓のうえに置かれたりしたという・・・





澁澤のエッセイはさらにクワガタムシ、毒蜘蛛タランチュラ、さらにテントウムシやダニへと話が広がる。澁澤龍彦には別にずばり「黄金虫」というエッセイもあるんだけど(「思考の紋章学」)、さしあたりこれはおいといて、なんでこんな話を長々としたかというと、本棚の整理をしていたら、こんな本が出てきたんだよ・・・

・・・「黄金虫」ですか? 著者はポオではなくて、リチャード・マーシュ・・・って、はじめて聞く名前ですけど(・_・ )

19世紀末にイギリスで出版されたリチャード・マーシュという作家の小説、その翻訳だ。原題は“The Beetle”

翻訳は「黄金虫」という題に訳されているのですね。beetleというと、ふつうはカブトムシと思いますけれど、辞書を引くと「甲虫」とありますから、コガネムシなども含むのですね

そういうこと(^^)すなわちスカラベの一種だね





リチャード・マーシュの「黄金虫」は、コナン・ドイルやウィルキー・コリンズの系列に連なるエンタテインメント小説のひとつだ。当時はかなり読まれたものらしい。三人の登場人物の視点で、それぞれの一人称で語られるゆく手法はウィルキー・コリンズにも見られるように、そのころの流行だったらしいね

たしか、ジョン・ディクスン・カーのミステリにもありましたね

「アラビアン・ナイト殺人事件」だね(^^)こうした叙述形式は読者の裏をかくのにもってこいだ。だから推理小説まであとわずかの距離にある小説と言っていいね。

ちょっと古くさい印象は否定できないし、決して高度な文学的価値のある作品とは思わないけれど、なかなかに読者を楽しませる、よくできたいわゆるスリラー小説だよ。

内容については・・・さっきちょっと喋っちゃったなあ(^^;)これから読むひとのためにこれは伏せておこう。もっとも現在の創元推理文庫の目録にはないみたいだ。品切中か、絶版だな

ペーパーバックなどでは手に入りませんか?

ないと思う。すっかり忘れられた作家みたいだね。思えばウィルキー・コリンズだって「月長石」と「白衣の女」以外はほとんど読まれていないのが現実だ。この時代のイギリスはディケンズばかりが作家じゃないんだけどね。
以前、原書が欲しくなって買おうと思ったんだ。でも、こういう洋書って初版本でないと探しにくいんだよね。で、初版本の市場価調べたら、とんでもなく高くて、とても発注できなかった(^^;)
ちなみに現代イギリスの怪奇小説作家ロバート・エイクマンはこのリチャード・マーシュの孫にあたる。エイクマンの小説もおすすめだよ


このへん・・・(*^o^)♭ (^-^*)♪





甲虫といえば、思い出しましたけど・・・

なに?

肢が退化して自由に移動することができない、そのかわりに自分の排泄物を餌にしてぐるぐると小さな円を描いて生きている甲虫の話がありましたよね。一日に一周するので「時計虫」とも呼ばれているという・・・

ああ、「ユープケッチャ」だね、安部公房の小説だよ。この甲虫については「方舟さくら丸」でも語られている。もちろん空想上の昆虫だけど、さすが安部公房というか、奇妙にリアリティがあるよね

文学のなかで扱われるscarabもさまざまですね(^^)





引用文献・参考文献
Marie Bonaparte;The Life & Works of Edgar Allan Poe、1949 ImagoPublishing Co.Ltd.
澁澤龍彦「幻想博物誌」河出文庫
リチャード・マーシュ「黄金虫」榊優子訳、創元推理文庫