#50 月の光、夜の風 ― あるいは狼男の憂鬱


吸血鬼、フランケンシュタイン(のモンスター)は既に登場。今回は狼男です。



ドラキュラには原作となる小説があって、フランケンシュタインももともとはメアリ・シェリーの小説ですよね。でも、狼男には原作というものがないのですね

人狼、狼男、あるいは狼憑きの話はネロの時代、ペトロニウスの「サチュリコン」のニケロスの話に出てくるのがもっとも古いかな。

ある兵士と連れだって歩いていたとき、月光の降り注ぐ墓地にさしかかると、その兵士は狼に変身し、うなり声をあげて走り去った、ところがその首に傷をつけると人間の姿に戻った・・・これはニケロスが本当にあったことだとして語っている話だ


吸血鬼に対するキリスト教会の態度については以前うかがいましたけれど、狼男に関してはどうなんでしょうか?

もちろん、キリスト教は神の力以外の作用によって人間が変身するという現象を認めていない。でも中世において狼男(狼憑き)の存在が信じられていたことは間違いない。聖トマス・アクィナスがこの現象について「幻覚」の産物として否定的な発言をしているところからみて、その13世紀には民間で狼男が信じられていたとみていいだろう

幻覚って、目撃者の幻覚ではなくて、狼男自身が幻覚を見ていたということですか?

うん。つまり、眠っている人間は無力であり、無力な人間が悪魔に身をゆだね、狼に変身した悪夢を見る、目覚めた人間は残虐な行為を自ら狼に変身して行ったもの錯覚する・・・と、これが聖職者による「幻覚論」解釈だ。じっさいに人間が狼に変身するという民間信仰とはまったく異なる立場だな





dialogue#28に続く