#51 HAIKU ― あるいはタイ発、東京経由のファンタジー




骸骨の上を装て花見かな

いいですね、いかにもHoffmannさん好みの俳句ですね。誰の作ですか?

鬼貫だよ。英文にすると

Look! Skeltons,
in their best holiday clothes,
viewing flowers.

―となる。これを日本語訳すれば「見よ! 骸骨どもだ 祝日の晴着を着て 花を眺めているぞ」

ちゃんと17音節ですね(^^ )でも、なんで英語にするんですか?(笑)

この俳句の引用からはじまる小説があるんだよ。その名も「宇宙船と俳句」だ



「宇宙船と俳句」ですか・・・(・o・)?

うん。Somtow Scharitkulというタイ出身の作家によるSF小説だ。ずっと以前に、ペーパーバックで“Starship & Haiku”という小説があると聞いて、探していたんだけど見つからなくてね・・・ところがなんとこれ、翻訳されていたんだよ(^^;)早川文庫から「スターシップと俳句」という題名で出版されていたんだ

Starship・・・すなわち宇宙船ですね、たしかに(^^;

Somtow Scharitkulという名前もなんて発音するのかわからなかったんだけど、この翻訳書では「ソムトウ・スチャリトクル」と表記されている。この文庫本の解説者が作家に会ってインタビューしているから、この発音で正しいんだろうね。

このひとはタイ出身だけど、世界じゅうで学位を得ようとしていた父について生後6ヶ月でイギリスに渡り、アメリカ、フランス、オランダと居を移し、7歳でバンコクに戻ったときはタイ語をひとことも話せなかったそうだ。その後東京にも2年間住んでいて、「マルゼン」で入手した雑誌をきっかけに自作のSF小説を売り込みはじめた。じっさいに発表されるようになったのはアメリカに渡ってかららしいけど、日本での生活がこの小説の執筆に活かされているのはたしかだね





外国人が書いた日本を舞台にした小説って、よくへんな日本人名が出てくるじゃない。以前読んだ小説には「サツガイ」なんて名前の忍者が出てきたし、「日本の家は壁も扉も紙でできているからカミソリ一枚あればしのび込むのは簡単だ」みたいなことを言う探偵もいたし・・・この小説にはそんな妙ちきりんなところはない・・・と言いたいところなんだけど(^^ )kusukusu


ひとりで笑ってないでおしえてくださいよ〜(^^ )いったい、どんな小説なんですか? やっぱり俳句がテーマなんですか?

うん、重要なテーマにもなっているし、各章のはじめには一茶や蕪村の俳句が引用されているんだ。たとえば蕪村の・・・


ナツグサヤ
ツワモノドモガ
ユメノアト

ただ夏の草ばかり
強い戦士たちのあとには
かれらの栄光の夢のあとには

・・・原書はローマ字表記に英訳が添えられているんだろうね

いちど、英語にしてから翻訳すると、なんだかわかりやすいですね(笑)



小説の舞台は核戦争終結後、西暦2020年の日本だ。ハワイでは放射能の影響で内蔵が逆さまにつながっている赤ん坊が生まれたりして、これが貴重な動物性蛋白源とされているような世界だけど、幸い日本は核攻撃にさらされなかったのでまだ自然が残っている。

政府は人類の生存のために生存省を設けてイシダ首相が大臣を兼務している。ところが終末省のタカハシ大臣は日本人に固有の死の美学を唱え、最後の一行で生命を圧縮する俳句の精神こそが死を渇望する日本人の美学であるとして、大衆を死に導き、ついにはイシダ首相を自殺に追い込んでしまう。

イシダ首相の娘、鯨とテレパシーで会話をすることのできるリョーコは亡父の計画、北海道からロケットを打ち上げ、宇宙ステーションで人類の生存をかけようという計画に参画する。
その計画を妨害しようとするタカハシを、ディディという少年がテレパシーで幻想の世界に追いやり、そこでタカハシは秋の野にたたずむ老人、バショーと出会う・・・


松尾芭蕉ですね

その老人に命じられてタカハシがつくった俳句は―

赤トンボ 羽をとったら! ・・・トウガラシ

・・・はあ?(・o・?

これをバショー老人は「ハイクという思想そのものを否定している」として、次のように直す

トウガラシ 羽根をつけたら! 赤トンボ

つまり、俳句の思想は死の美学などではなく、生を謳歌するものだと教えるんだな

・・・あの、そういう問題以前に・・・(・・;

まあ、ここんとこだけは大目に見てあげようじゃないか(笑)

(^^;はあ〜

ともあれ、この芭蕉の教えにより、タカハシは回心して、リョーコは人類の未来を担って宇宙へととびたってゆく・・・。
そして小説の最後は芭蕉の句で締めくくられるんだ


タビニヤミテ
ユメハカレノヲ
カケメグル

病いの旅の途上―
枯れはてた野原の向こうへ―
夢はなおも走っていく!

・・・いいですね。あらためて聞くといい俳句ですね

・・・そうだろう。問題は「赤トンボ」だけど、まあご愛敬ってことで



でも、若いひとのなかには「赤トンボ」の出所を知らないひともいるかもしれませんよ

そういえば、優美はよく知ってたね(・_・ )

(^^;)えっ・・・(笑)えーっと・・・赤トンボって・・・dragonflyですね(^^;;;

うん? ああ、そうだね。さすが!





(おまけ)

手もとにもう一冊あったソムトウ氏による小説本。



引用文献
ソムトウ・スチャリトクル「スターシップと俳句」冬川亘訳 早川文庫