#66 万事控えめ




アメリカ人の東洋文学者ドナルド・キーンの音楽エッセイを読んでいたんですけど・・・

ああ、あのひとは若いころからオペラに親しんできたひとだから、とても興味深い話が読めるよね

・・・1952年にロンドンのコヴェント・ガーデン歌劇場でマリア・カラス主演のベルリーニのオペラ「ノルマ」を観たときの話があったんですよ

1952年といえば、マリア・カラス(注;ひばりじゃないよ)の最盛期だね

ええ、それはことのほかすばらしい上演で、幕が下りた後興奮して拍手喝采していて、ふと臨席の男性を見ると、「右手で左の上膊を軽くたたく程度で満足している」のに気が付いたんだそうです・・・

そのあからさまな感激の欠如にカッとなったわたしが、「これほどの舞台でも不満なのですか」とつめ寄ると、件の紳士は「いぜんのんびりと腕をたたきながら答えたものである。「これまで聴いたことのないほどの、まったく最高の公演でしたな」と。そのとき、世にいう、“イギリス人の慎み”がいかなるものか、ようやく分かったような気がした

(笑)

ここで言われている“イギリス人の慎み”って、どういうことですか?

ああ、一般に、英国人は万事において控えめな表現をすると言われているね

そうなんですか?(・_・)

以前、あるドイツの指揮者とオーケストラがロンドンで公演したとき、たしかマーラーの交響曲を演奏したんだけど、終演後、熱狂的な拍手喝采がわきおこって、ロンドンの聴衆にしては「品位の限界を超えていた」なんて報道されたことがあったね。熱狂的な反応、なんていうのは報道ネタになるくらい、英国的ではないんだよ(^^ )

はあ・・・



たしかクロード・ミケシュというハンガリー出身で後に英国に帰化したジャーナリストが、おもしろいエッセイを書いているよ。ええと・・・これだ

「没落のすすめ」・・・副題が「『英国病』賛歌」ですか(^^;

じつに愉快な本なんだけど、いまは品切れか絶版になっているようだね。
表紙にも「いつも天気を心配し、忍耐強く行列をつづけ、控え目な表現と動物を好み、ガイジンを軽蔑し、なによりもマナーを大事にする英国人・・・」なんて書いてある。


著者の皮肉なんでしょうか?(^^;

辛口の文明批評・・・とは言い過ぎかな、まあユーモアのある風刺だね。クロード・ミケシュのエッセイは風刺といってもどこか愛のある印象で、好感が持てるものだよ。
このなかに、ちゃんと英国人の控えめな表現という点についてもページが割かれている。
たとえば、英国人なら、強風が根ごと大木を倒し家の屋根を吹っ飛ばしたときも、「ちょっとすずしいですな」と言い、森で道に迷って7日目、救援隊の姿も見えず、自分を狙っている狼が6匹に増えたときも、英国人は「ちょっと心配になった」と言う程度である・・・


(笑)

ヨーロッパ人が素晴らしい景色を見て、千万無量の内容を伝えようと、言葉を費やしているとき―

「この景色を見てまず思い出すのは、ユトレヒトで、ユトレヒトといえば、イスパニア継承戦争の和平条約が一七一三年の四月一一日に調印されたところ。もっとも、あの川などはむしろ、ガダルキビール川に似てないこともない。シェラ・デ・カソーラに源を発し南西に流れ、やがて大西洋に注ぐガダルキビール川、全長六五〇キロメートル。ああ、大河よ・・・・・・たしかパスカルはこう言ったっけ? ・・・・・・『大河は進みゆく道にして・・・・・・』」

このようなもったいぶった言い方を、英国人は決してしない

控えめなんですね(^^ )

同じこの川を見て、英国人ならこう言う―

「きれいね」

いいですね〜英国人が好きになってきちゃいました(^^ )





あと、英国式求愛法というのがおもしろいよ。ヨーロッパの若者が女に恋を打ち明けるときには・・・

・・・まずひざまずいて、あなたはこの世でもっともやさしく、もっともチャーミングで、ボクはもう気が狂いそう、あなたには何かがある、何か他の女性にはないものがある、ああ、もうあなたなしでは一分間も生きてはいけない、などと言うものだ。しばしばこの告白をいっそう迫力あるものにするため、彼はその場でピストル往生して見せたりもする。

ところが英国では・・・

若者は女の背をポンとたたいて、やさしく言う―「あんたでも悪くはないな」。よほどのぼせあがっていても、―「君って、ちょっとイカスじゃない?」ぐらいである。

氷山みたいな告白なんですね〜(笑)



そういえば、無人島にとびきりの美女とともに流れついた男性に関する小話がありましたね(^^ )

へえ、どんなの?(^^ )

その男性がイタリア人ならすぐに求婚して、イギリス人なら紹介されるまでは知らんぷりしてるそうです

なるほどね〜(^o^ )

ちなみに日本人(のビジネスマン)なら、どうしたらいいのか、本社に問い合わせるというオチですね(^o^ )

な、情けなぁ〜(^_^;

男性がふたりの場合もあるんですよ。イタリア人なら美女をめぐって決闘になり、フランス人ならひとりが夫に、もうひとりが愛人になる。そして・・・(^^ )kusukusu

日本人なら・・・ふたりとも本社に問い合わせるんだね(^_^;;





参考文献・引用文献
ドナルド・キーン「音楽の出会いとよろこび」中矢一義訳 中公文庫
クロード・ミケシュ「没落のすすめ」倉谷直臣訳編 講談社現代新書