#76 “Smile!”




シンシア・アスキスの「角店」はHoffmannさんのお好きなゴースト・ストーリーですね

うん。シンシア・アスキスは由緒ある伯爵家の令嬢として生まれ、長い間劇作家ジェイムズ・バリーの秘書を務めたひとだ。その彼女の趣味が怪奇小説でね、10冊に及ぶ怪奇小説のアンソロジーを編んだほか、自分でも実作を試みた、これはそのなかのひとつなんだよ



物語は故人となったピーター・ウッドという弁護士の机から出てきた草稿の内容という体裁だ

一般人の遺稿というのは、怪奇小説によくある枠組みですね

語り手である「私」が若い頃、ある霧の濃い晩に、とある店に「骨董」の文字の看板を認めて中に入ってみる。寄せ集めのがらくたが所狭く並べてあるわりには明るい雰囲気で、ひと目で姉妹と分かるふたりの若い娘が店番をしていた。「私」は手頃な値段のシェフィールドの皿を買う。小切手を書こうとすると、姉の方が「『角の骨董店』と書いていただきましょうか・・・」

そしておよそ一週間後にまたこの店を訪れると、あいにく「本日閉店」の文字。ところが扉の把手は回って、なかには「うす暗い灯影にぼんやりと照らされた、だいぶ高齢らしい、弱々しい様子をした老人」がいた。

「私」はこの疲れ果てたような妙な老人にすすめられて、小さな蛙の置物を半クラウンで買う。
ところが、これがたいへんな値打ちもので、なんと二千ポンドで売れてしまうんだね

いわゆる、「掘り出し物」だったんですね

「私」は、これではまるであの気の毒な老人の無知を利用したようなものだ、あの姉妹に少なくとも半金は返さなければならないと考え、件の骨董店に向かうと、またも「閉店」の文字、ところが先の老人が出てきて「旦那、店はやっておりますから、どうぞ」


「いや、ありがとう。でも今夜はね、先だってあんたがわたしに売ってくれた品のことでうかがったんだ。あれね、たいへん高価な品だということがわかったんでね。明日あらためてちゃんとした値段を払いに来るからと、あんたからご主人にそう伝えておいてください」
 話しているうちに、老人の顔にふしぎな微笑がひろがった。それよりましなことばがないので「微笑」ということばを使ったけれども、あの老い窶れた面貌を一変させた、なんもいいようのない表情の美しさは、どうやってこの意(こころ)を伝えたらいいのだろう? 心やさしい勝利の喜び―おだやかなうれしさ―狂おしいほどの敬仰。わたしはいったい、なんの秘密を目撃したのか? まるでそれは、朝日に融ける霜のようであった。厚く凍っていた痛恨の種が、思いもかけない、曙の光のなかに融けてゆく―そんな感じであった。「至福」ということばの意味をおぼろげながらもとらえたのは、わたしは生まれてこれがはじめてであった。



美しい描写ですね〜(^^*

そうだろう(^-^*)ゴースト・ストーリーとしての出来もいいけれど、それ以前に小説としてよくできている、心温まる物語だよ



dialogue#44に続く