#82 松田家の方へ


ただいま〜

おかえりなさい

それは・・・滝田ゆうの「泥鰌庵閑話(どじょうあんつれづればなし)」だね

滝田ゆうさんはHoffmannさんのお好きな漫画家ですよね



何気ない日常を描いて・・・というと、Hoffmannさんの場合褒めことばにはならないかもしれませんが、なんとも味わい深いエッセイふうの短篇漫画集ですね。ほかに、初期の作品の「寺島町奇譚」も読みましたけど、これもいいですね

「寺島町奇譚」には、戦時中の玉ノ井に暮らすキヨシ少年の目を通してみた下町が描かれているね。作者の自伝的な作品とみていいだろう

玉ノ井って、遊郭の街ですよね

うん。そのせいか、「寺島町奇譚」にはどこか永井荷風の小説にも似た雰囲気がある。一方の「泥鰌庵閑話」は現代の、作者自身の日常を描いたエッセイふうの漫画だね

このひと、お酒好きで、毎日飲んでばっかりいたみたいですね(^^*



ところで、このなかに、作者が古いお友だちを訪ねる話があるんですよ、松田さんという方なんですけど・・・ところがあいにくとお留守で、近くの居酒屋に腰を落ち着けていると、偶然その松田さんが現れるんです・・・

「ン?」
「あれれっ!」
「なんだお前・・・!」
「ランプじゃねえかよおい!」
わたしは思わず彼をかつてのあだ名で呼んでいた/わたしはこの偶然の出逢いで一気に酔いがまわって
「マツダランプ!」

・・・この、マツダランプって、なんですか?

ああ、戦前から電気製品を製造・販売していた会社―というよりそのブランド名だよ

ランプというのは電球のことなんですね

エジソンが実用性の高い白熱電球を発明したのが1879年・・・もっとも電球そのものを発明したのはエジソンではなくて、同じ1879年、イギリスのスワンというひとだな、このひとが炭素繊条を使った白熱電球を発明したと言われている・・・

エジソンさんじゃなかったんですか?

スワンの電球には寿命が短いという問題があったんだよ。そこでエジソンはこれを改良するべく、フィラメントの素材として色々なものを試して、竹が比較的長く使えることを発見したんだ

竹とは意外ですね

ちなみに、このときエジソンが使った竹は日本の京都産のものだったそうだ。

エジソンはこの新しい白熱電球を売り出すために会社を設立、これが現在の GE(General Electric)社のもとになっている。

そしてこのGE社ではその後もフィラメントの素材について研究を重ね、1910年頃GE研究所のクーリ ッジが引出加工したタングステンによる丈夫なフィラメントを開発した・・・これによって電球の寿命はさらに長くなり、実用的になったわけだ






・・・それで、マツダランプというのは?

・・・この頃日本ではカラクリ儀右衛門(田中久重)というひとが設立した会社―東京電気で白熱電球を独自に開発してたんだけど、GE社と提携して、両社の技術をもとに安定した電球を製造した・・・これに付けられた名前が「マツダランプ」なんだよ。

その後東京電気が芝浦製作所と合併して東芝になって、さらに戦後昭和40年代くらいまでは「マツダランプ」という商標が使われていたみたいだ・・・


え? ちょ、ちょっと待ってください。田中久重って・・・松田さんじゃないんですか?(・_・;

(笑)この「マツダ」は「松田さん」ではなくて、じつはゾロアスター教の主神「アフラ・マズダー」からとられたものなんだよ

ゾロアスター教って、拝火教ですよね・・・なるほど、だから電球のブランド名ですか?

そもそもゾロアスター教はアフラ・マズダーを主神とする事からマズダー教―母音を伸ばさずマズダ教と呼ばれることもあり、教義上火を重視する事から拝火教と呼ばれることもあるんだね。開祖は紀元前6世紀頃のペルシアの予言者ザラシュトラ(ゾロアスター)とされている・・・

ザラシュトラって・・・モーツァルトの歌劇「魔笛」に出てくるザラストロはここから名前を借りているのですね

ニーチェのツァラトゥストラもこのザラシュトラをドイツ語読みしたものだよ(^^ )





ゾロアスター教は、世界を善と悪の戦いとして説明する―初期の教義では、全知全能の神アフラ・マズダーに従うスプンタ・マンユら6人の善神アムシャ・スプンタが、この世の善なるものを創造し、アフラ・マズダーに背くアンラ・マンユら6人の悪神達が、この世の悪しきものを創造したという世界観を持つものだな。このアフラ・マズダーは、世界の法として善の正当性・勝利を保証する存在とされているんだ

古代の宗教で、信仰は現在には伝わっていないのですか?

ゾロアスター教はペルシャを中心に広まっていったんだけど、やがてイスラム教の台頭とともにすたれていった。その後一部がイスラム教への改宗を免れて亡命している・・・いまでもイランやインドにはゾロアスター教徒がいるそうだ。

イランのヤズド近郊にはゾロアスター教徒の村がいくつかあり、拝火寺院は信者以外にも開放され、1500年前から燃え続けているという「聖火」を見ることができる。

またイスラム教への改宗を逃れてインドに退避した教徒も少なくなかったようで、現在でも都市ムンバイ(旧称ボンベイ)にゾロアスター教の中心地がある、ここでも開祖のザラスシュトラが点火したと伝えられる炎が消えることなく燃え続けているんだよ・・・とはいっても、いまではガスかなにかで燃えているのかもしれないけど(^^;


たしか「一千一夜物語(アラビアン・ナイト)」のなかにも、拝火教は出てきましたよね。「アル・アスアドと拝火教徒バハラームとの話」でしたっけ・・・

優美、よくおぼえてるね( ^^)/(^^*)po

日本にもゾロアスター教は伝えられていて、新義真言宗にその作法が伝承されて現在に残っている・・・具体的にはお水取りのときに行われる達陀の行法が、拝火教の名残であるとされているんだよ。あと、護摩焚きなんかもそうかもしれないね

そういえば、以前、かがり火には災厄を祓う力があるという信仰のお話がありましたね(^^ )





引用文献
「泥鰌庵閑話」(下) 滝田ゆう ちくま文庫