070 「淫虐地獄」 ”La plus longue nuit du diable” (1971年 白・伊) ジャン・ブリスミー




 「淫虐地獄」"La plus longue nuit du diable"(1971年 白・伊)はオカルト要素を取り入れたホラー映画です。ユニークなのは、イタリアとベルギーの合作であるという点。もちろん、映画の制作国というのはスポンサー=資本を意味しているわけで、じっさいは監督以下スタッフの大半はベルギー人。撮影場所もベルギーです。ベルギー産のホラー映画というのはめずらしいですよね。監督のジャン・ブリスミーはもっぱら短篇映画専門だったようで、長篇はこれ一作のみ。

 storyは単純なものです。

 ローネンバーグ男爵家は祖先が悪魔に魂を売ったために、生まれた娘はサキュバスとして悪魔に仕えるという家系。第二次大戦中、男爵は生まれた我が子を殺害しますが、じつは戦死した弟がメイドに娘を産ませていたことを知らなかった・・・。


見るからに怪しげな僧侶ですね(笑)

 それから30年後、観光バスが田舎道を走っていると道が通れなくなっており、通りすがりの僧侶に教えられて近くのローネンバーグ男爵の屋敷へ。男爵には歓待されますが、ここにメイドの娘であるルイーズがやって来る。観光客の内、神学生だけが彼女を怪しむのですが、やはてサキュバスの正体をあらわし、旅行者たちは次々と殺されていく・・・。

 
歓待される一行。そこにルイーズがやって来ます。

 殺され方というのが、「七つの大罪」をなぞっているのがユニーク。大食漢は食べ物を喉に詰まらせ、強欲な人妻は黄金の砂にのみ込まれ、後はギロチン、拷問具「鉄の処女」、毒蛇に串刺しです。残酷描写はかなり抑えめで、性描写にしても、当時としてはレズビアンが多少過激に受け取られたかも知れませんが、映像的にはさほどのものではありません(これより以前の時代で、より露骨なものがあります)。どちらかというと古い屋敷の雰囲気と相俟って、ゴシック風ムードを重視したようですね。

  

 じつは昼間の怪しげな僧侶がルイーズを操る悪魔なんですが、これが一目見たときから怪しさ満点なのはいいとして、サキュバスであるルイーズの露出度の高い衣装ときたら微笑ましいほど(笑)

 
この衣装、なんというか、1960~70年代あたりの場末感が横溢していますね(笑)

 しかし、この映画の見どころは、ルーズを演じるエリカ・ブランがサキュバスの本性をあらわしたときの表情の変化でしょう。これだけでも、この映画を観る価値があろうかと思われます。

 
「お嬢さん、顔色が悪いですよ」(笑) モノクロ時代だと、赤と緑で別々のメイクをして、照明の色を変えることで変化させるテクニックを使ったんですが、この時代ならメイクを変えて編集したのでしょう。

 
逆に考えると、この女性をメイク次第で左上の顔に変えることもできるということですね。そうした事実の方が、男性にとってはよほど恐ろしいことかも知れません(笑)

 これで演技が決して大げさではなく、むしろ抑制気味と見えるのが、さすがです。

  

 グラスにワインを注いだら周囲の情景が映るなど、カメラが芸の細かいところを見せます。

  

 神学生と老学者が、これはチェスを指しているのでしょう。なかなか凝ったコマのようですね。個人的に興味があるので、トリミングして拡大してみたところ、動物や鳥のようにも見えますが、よく分かりません。サイズも大きいので、ボードは一枚板ではなくテーブル一体型のようです。ちなみに老学者のパイプは、ベントのカーヴ、銀巻きのアーミーマウント仕様から、アイルランドのピーターソンPetersonのように見えますね。もっともイタリアのサヴィネリSavinelliあたりでも似たようなのを作っていたかもしれません。

 制作陣では音楽担当のアレッサンドロ・アレサンドローニAlessandro Alessandroniについてひと言述べておきたいところ。この人は作曲家としても名が通っていますが、マカロニ・ウェスタン(本当はスパゲティ・ウェスタンと言うのが正しい)の口笛吹きとしても有名な人ですね。ギター、マンドリン、マンドリンチェロ、シタール、アコーディオン、ピアノなどさまざまな楽器を演奏して、映画音楽だけでも40作以上手がけた才人です。

 
Alessandro Alessandroni


 Redemptionについて

 これはわりあい知られざる映画かなーと思っていたんですが、いま調べたらかつて国内盤DVDも出ていたようですね。私が観たのはRedemption盤DVD。RedemptionはSalvation Filmの一レーベル。VHS tape時代から結構長く続いていますね。設立は1993年。ホラー映画が日陰者だった時代から、それなりに評価されるようになっても、正道を行くユーロホラーではなく、ほとんどの批評家から無視され酷評されるような作品、すなわちもっぱらカルト的なホラーを扱い続けてきて、それもerotic路線の作品が中心・・・と言ったらまだしも聞こえはいいんですが、悪くいえばエログロ路線。それでいて存外、芸術風味の香り高い作品が少なくない。アラン・ロブ=グリエの作品なども扱っています。古くは、ダリオ・アルジェントをイギリスに紹介したのもこのメーカーだったはず。いまもって際物扱いされがちなフランスのジャン・ロランJean Rollin監督作品などはこのメーカーが頼りで、私もほとんどRedemptionのDVDで観ました。


Salvation Film/Redemptionのロゴ


(Hoffmann)



引用文献・参考文献

 とくにありません。




※ Blu-ray、DVDの国内盤は出ていないようです。なお、この映画はポルノではありませんが、邦題で検索すると、ちょっと「アレ」なものがヒットしてしまうので、ご注意願います。