079 架空対談 明智小五郎(天知茂)とシェーロック・ホームズ(ジェレミー・ブレット)




 本日はお二人の名探偵、明智小五郎(天知茂)先生とシャーロック・ホームズ(ジェレミー・ブレット)先生をお招きして、お話を伺おうと思います。司会は私、Kundryが務めさせていただきます。


 

A(明智):よろしくお願いします。

H(ホームズ):こちらこそ、よろしく。

お二方とも、ご遠慮なくお煙草をどうぞ。明智さんはシガレットでよろしいですか? ホームズさんにはパイプ煙草を用意しておきました。ペルシャ製のスリッパではありませんが・・・(笑)

A:これはどうも(笑)エジプト煙草ですか。

H:遠慮なくやらせていただきますよ・・・おや、これはアーケディア・ミクスチュアですね。なかなかお目が高い。

それでははじめましょう。おふたりは今日が初対面ですか?

A:ええ。はじめまして。ホームズさんのドラマは原作に忠実でとてもいいですね。

H:こちらこそはじめまして。いや、後半になるとかなり脚色されているんですよ。

A:それだって、原作の雰囲気を重視してのことでしょう。その意味ではたいへん成功していると思うし、大道具・小道具の時代考証も手間がかかっていて見事なものですよ。それに、なんといってもホームズさんの確固たるキャラクター造型が際立っていて、ひじょうに魅力的です。私は原作だと性格設定が執筆時期によってかなり違っているんですね。

H:たしか、そのあたりの事情を解き明かした研究者がいるそうですね。

Hoffmannさんが以前その本を取りあげていました。

A:そうなんですよ。「D坂の殺人事件」の頃には貧乏書生然としていたのに、その後の「吸血鬼」で「開化アパート」に引っ越して、「愛嬌のある混血児のような顔」で登場しているんです。つまり社会の模範たる良俗人となっている(笑)とくに執筆時期の古いものでは、登場するなり「馬鹿野郎」の連発なんですよ(苦笑)

H:そして「いま」のあなたがいる・・・と(笑)その意味ではあなたが明智さんという魅力的なキャラクターを造ったんですよ。明智小五郎と言えば天知茂、というくらいにね。私の原作だって、作者があまり気乗りしないで書いているようなものが結構あるんですよ。シャーロック・ホームズの人格は熱狂的な読者たちによってつくられたと言ってもいいくらいなんです。

それにイラストの影響も大きいのではありませんか? たとえば「ストランド・マガジン」のシドニー・パジェット Sydney Paget によるものとか。

H:そのとおり。私のドラマのはじめの頃には、明らかに往年のイラストを意識した構図が見て取れることにお気付きでしたか?

 

H:パジェット以外だと、ときどき、キャラバッシュ・パイプを使っているイラストもありますが、これはおそらく舞台で長い間ホームズを演じたアメリカの俳優、ウィリアム・ジレットの影響ではないでしょうか。

キャラバッシュ・パイプというのはヒョウタンと海泡石でできた大ぶりのパイプですね。Hoffmannさんによると、あれは作者のコナン・ドイルが愛用していたらしいということです。

A:ジェレミー・ブレットさんはとりわけシルク・ハットがお似合いですね。往年のベイジル・ラズボーンさんにしても、ピーター・カッシングさんにしても、じつに精悍で知的なimageは共通するものですが、折々の時代の好みも反映されているのでしょう。痩身なのはうらやましい限りです(笑)



H:天知さん演じる明智探偵のスーツ姿も見事なものですよ。生地が英国製ではなくイタリア製のようであるのは、私としては少々残念ですが(笑)

そのあたりはやはり時代を反映しているのでしょう。共演された五十嵐めぐみさんの証言によると、スーツはすべて自前のオーダーものだったそうです。

H:やはり、天知さんの作り出したimageはかなりの影響力を持っていたのですよ。その証拠に、天知さん以後、(失礼ながら)これといった明智探偵が生まれていないように思えます。


A:ブレットさんは原作のホームズさんのimageをそのままに演じ、またそれ以上に魅力的なものとしましたね。原作は原作で、多くのファンによって今日に至るまでパスティーシュやパロディが書き継がれて、ホームズさん大忙しだ(笑)私の原作は、むしろ猟奇趣味で読まれていたようなところがあるから・・・もっとも日本の当時の探偵小説は概ね怪奇味の強いものだったんですが。

H:いや、そのなかで古びることのないのが明智さんの原作者なんですよ。なんというか、fetishな道具立てとそのオブジェ感覚やimageが支配的な心理小説なんだな。つまり、異常心理が探偵小説の結末たるべき合理主義を超越してしまっている。私の時代に、ウィーンにフロイトという医者がいて、無意識に関する新奇な学説を発表したのですが、どことなく明智さんの登場する原作小説に通じるものを感じますよ。

A:ところがTVドラマでは「○○の美女」という表題が付いて、ゲストの女優さんが登場する。入浴シーンは欠かせない、おまけにたいてい裸で殺される被害者がいて・・・(苦笑)



H:ははは・・・そういえば、いつも奥さんに「先生って、ほんと、美人に弱いんだから」と言われていますね。

A:いや、あの文代君は原作では「魔術師」に登場して、その後私と結婚するんですが、TVドラマでははじめから登場して、あくまで明智探偵事務所の助手なんですよ。



でも、明智先生にほのかな思いを抱いているという設定ですよね(笑)

A:エヘンエヘン・・・五十嵐めぐみさんが演じていたときはね。でも途中で高見知佳さんに交代すると親娘のようなノリになるんですよ。その後は藤吉久美子さん。

五十嵐めぐみさんは天知茂さんが社長を務めていらしたプロダクション、アマチプロゼの所属でしたね。なにしろ天知茂さんは大スターなので、たいへん緊張されたそうです。

A:ところでホームズさんは女性には関心が薄いようで・・・第一作に登場するあの女性は例外ですが。

唯一、ホームズさんが「あの女性(ひと)」と呼んだアイリーン・アドラーですね。ところが、Hoffmannさんによると、TVドラマではすっかり扱いが違うけれど、原作では下宿のハドスンさんだって結構あやしい(笑)ということなんですよ。ホームズさん、いかがですか?

H:オホン・・・話を戻しましょう。明智さんのドラマは過去の悲劇的な事件の復讐、というパターンが多いんですよね。


A:どうもそのあたりが日本的なんですね。ほとんどが因縁話で、しかもキッチュ感満載なんですよ。もっともそんなところがまた人気の理由でもあるんですが。ホームズさんの、いい意味での知的なパズルとはかなり違います。

H:「キッチュ感」とおっしゃったけれど、変装を解く場面! 変装は私もよくやりますが、明智さんがクライマックスで素顔に戻るシーンが私は大好きでしてね(笑)はじめのうちは顔に糊が残っていることもありましたが、次第に改善されていますね。それに、一発でサッと脱げる衣装もTVならではでしょう。



A:ありがとうございます(笑)あのシーンは撮影でももっとも時間がかかるんですよ。どうも、2時間ドラマというのはケレン味で保たせるようなところがありますから。その点、ホームズさんのドラマはやはり正道で、知的に傾きますよね。もちろん、ホームズさんやドクター・ワトソン、レストレイド警部といった人間味あふれる登場人物も魅力的ですが、とりわけ知的パズルといえば、盟友ドクター・ワトソンの存在もそういったストーリーの組み立てに寄与していますね。

よく、名探偵の相棒は読者よりも一歩退いたところにいる、なんて言われますよね。

H:ワトソン君が頭脳的に読者よりも劣っているとは言えないと思います。そのように見えるとしたら、読者はほとんどの場合再読ですから、既に結末を知っているので、そのように感じるのでしょう。むしろ、ときどき立ち止まって、読者をリードする役割ですね。彼がいなかったら私ひとりではドラマになりません(笑)




A:探偵小説は数多あり、その助手や相棒、語り手となる人物も少なくありませんが、ワトソン氏ほど魅力的な人物もそうはいないと思いますよ。とくに、ライヘンバッハでのワトソン氏の一挙一動はたいへん感動的でした。

H:明智さんにもすばらしく魅力的な盟友(名優?)波越警部さんがいらっしゃるじゃありませんか(笑)

A:彼はどちらかというと愛すべき狂言廻しですね(笑)荒井注さんは撮影中、「明智君」という台詞をときどき「天知君」って、間違うんですよ。そのたびにNGで(笑)privateでも場を和ませてくれましたね。



H:明智さんは犯罪者や被害者と積極的に関わっていって、そこからドラマが広がっていくから、犯罪者の異常心理とか性癖というものが重要な要素になって、先ほどおっしゃったようなstoryに展開していくのかもしれませんね。いずれにしろ、TVドラマの方もいろいろ制約があるなかで、明智さんの原作小説の雰囲気をうまく醸し出していると思いますよ。

A:20世紀も大戦後になると、日本では「社会派」と呼ばれるミステリが主流になったわけですが、我々の原作はそういったリアリズムを重視したものではありませんからね。

だからこそ、これからもお二方は時代を超えて愛好されるヒーローであり続けるんですよ。本日は、どうもありがとうございました。


※ 画像は以下からのものです。

「江戸川乱歩 『吸血鬼』より 氷柱の美女」 (1977年 TVM)
「江戸川乱歩 『魔術師』より 浴室の美女」 (1978年 TVM)
「シャーロック・ホームズの冒険 『まだらの紐』」 (1984年 TVM)



(Kundry)



参考文献

 とくにありません。