091 「妖怪巨大女」 "Attack of the 50 Foot Woman" (1958年 米)




 「妖怪巨大女」"Attack of the 50 Foot Woman"(1958年 米)です。これまたZ級のトンデモ映画。前年の公開で身体のサイズが変化する人間を描いた「戦慄!プルトニウム人間」"The Amazing Colossal Man"(1957年 米)や「縮みゆく人間」"The Incredible Shrinking Man"(1957年 米)を模した映画です。主人公を女性にしたところがミソかな。



 あらすじは―

 テレビではアナウンサーが世界中で謎の飛行物体が目撃されている事を伝えていた。その軌道を計算すると次の出現場所はカリフォルニアだという。

 ある夜、裕福ではあるが浮気三昧の夫に悩む女性ナンシー・アーチャーが人気のないハイウェイを車で疾走していると、目の前に輝く白い球体が着陸。道から逸れてこれを避けた彼女が球体を調べるために車外に出ると、中から巨大なエイリアンが現れて彼女の方に手を伸ばした。彼女は怯えて逃走。町に戻ったが、ナンシーの過度の飲酒癖と最近のサナトリウム入所を知っている人は誰も彼女の話を信じようとしない。浮気性の夫ハリーは妻よりも愛人ハニー・パーカーに熱を上げており、彼はナンシーが精神科病院に収容されることを期待して、やさしい夫のふりをしながら彼女の資産5,000万ドルを管理していた。



 ナンシーは球体を探しすために夫を連れて砂漠を走り回り、諦めかけた時に遂に発見。エイリアンが現れるとハリーはナンシーを置いて逃げ出してしまう。

 後にナンシーは自宅のプールハウスの屋根で発見された。しかし彼女は錯乱状態であり、主治医のクッシング博士が鎮静剤を打たなければならなかった。愛人にけしかけられたハリーはナンシーに致死量の薬を注射をしようとしたが、こっそり部屋に近づいたハリーの目に飛び込んできたのは巨人化したナンシーだった。クッシング博士と彼が呼び寄せた専門家のフォン・ローブ博士は、ナンシーをモルヒネで昏睡状態にしてチェーンで拘束した。保安官とナンシーの忠実な執事ジェスは、敷地からエイリアンの球体まで続く巨大な足跡を追った。ふたりは球体内部で世界で最も大きいと言われるナンシーのダイヤモンドやその他の透明な宝玉類を発見し、宝石が球体の燃料として使われていると推測する。そこにエイリアンが現れて、ふたりを攻撃して追い出し、飛び去る前に彼らのパトカーを破壊した。

 一方ナンシーは目を覚まし、拘束を引き千切り、不貞の夫に対する復讐を決意して町へ。酒場でハニーといちゃついているハリーを発見すると、屋根を引き剥がし、ハニーは崩れ落ちた瓦礫のの下敷きとなって絶命。さらにナンシーはハリーを右手に掴んで連れ去る。保安官が暴動鎮圧用の散弾銃を彼女に向けて発砲すると、近くの送電線変圧器が爆発し、ナンシーは感電して倒れ、息絶えた。医師はハリーが彼女の手の中で死んでいるのを発見して、「やっと夫を独占できたか」と、気の利いた台詞を吐いてチョン。



 いやはや、だいたいそんなに巨大なダイヤモンドを日常的に首に掛けていて、いままで強盗に襲われなかったのが不思議です(笑)球体、すなわち宇宙船も宇宙船です。ダイヤが燃料だなんて、いくらなんでも燃費がかかりすぎですがな(笑)

 巨大化したナンシーが起き上がって家をブッ壊して立ち上がるシーン。画面を見ていてもなにがなんだかわからないんですけどね。ここで看護婦が大活躍。「ナンシーが鎖を引きちぎったわ」「ナンシーが立ち上がったわ」「ナンシーが屋根を突き破ったわ」・・・といった調子で、ちゃーんと解説してくれるのはなかなか親切な仕様ですね(笑)



 球体から出てくる巨人もいいですよ。なにせ素肌にレザーベストみたいなパンクな奴。ちなみに背中に変な柄もあります。おまけにスキンヘッド。宇宙人がスキンヘッドでも、普通なら驚くことはないんですが、出で立ちがパンクですからね、妙に似合うんですよ。



 町に巨大女が現れればそりゃあ大騒ぎになりますが、場面によって大きさが変わるところはご愛敬。これはムカシのストップモーション・アニメの怪獣ものと同じです。ついでに、ナンシーが巨大化したときに、なぜか下着まで巨大化した件については考えないであげてください。きっとフリーサイズだったんでしょう。こうしたことは、まれに「よくあること」なんですよ(笑)



 この映画のキーワードは「半透明」と「ハリボテ」です。

 巨人が半透明で透けているのは合成映像のためで、宇宙人が半透明という設定じゃありません(笑)いや、シャドウマスクを使えばいい話なんですが、たぶん予算がなかったのでしょう。もしかしたら、単に面倒くさかっただけかもしれません。だから巨大化したナンシーが透けているのも同じ理由で、合成映像のためです。いま思いついたんですが、どうせ身体が透けて幽霊みたいに見えるんだったら、いっそ巨大化したナンシーを幽体離脱なんて設定にしちゃえばよかったんじゃないスかね。



 お次は「ハリボテ」。ナンシーが巨大な球体と遭遇したときに迫ってきたのはハリボテの手でしたね。しかも妙に毛深い(笑)後半、巨大化したナンシーの手もハリボテです。多分同じもの。愛人と酒を飲んでいたハリーを発見した巨大ナンシーはその手で・・・もとい、ハリボテの手でハリーを掴むというシーン・・・でも、ハリボテが人間を掴めるわけがありません。従って、ハリー自らハリボテの手に飛び込んでいった・・・とするのが正しい解説(笑)いや、相手はハリボテですから。



 このページの一番上のポスターをご覧下さい。このアートワークは「看板に偽りあり」で、このポスターに描かれているようなシーンはありません。またこの絵からimageするような大暴れ&破壊行為といった場面も、ほとんどありません。内容はあくまでパンクなスタイルの巨人型宇宙人が登場するとか、夫と愛人が裏で共謀し遺産を狙い主人公を殺そうとしているとかいったオハナシ。宇宙人もいい加減「場当たり」です。パトカーを破壊した後はまったく登場しなくなって、お役御免ですからね。

 ところがなぜかこの映画、8万9千ドルという低予算ながらそれなりの興行成績を上げたためでしょうか、あるいはあまりの出来の悪さに、少なからぬ映画人に「おれならもっといいものがつくれるぞ」と思わせたのでしょうか、いくつかのリメイク版制作が計画され、じっさいにつくられているんですね。

 そもそもがより高い予算をかけ、続篇をカラーで制作しようとする動きもあったとか。この計画は頓挫しているんですが、脚本も書かれていたそうです。

 リメイクでいちばん有名なのが1995年の、フレッド・オーレン・レイによる「アタック・オブ・ザ・ジャイアントウーマン」"Attack of the 60 Foot Centerford"というパロディ映画。原題を見比べて下さい、10フィートサイズアップしています(笑)ちなみに"centerford"というのは、雑誌中央折り込みページのこと。大きなヌード写真なんかが印刷されているところです。

 主演はJ・J・ノースとタミー・パークス。パロディといっても、女性が巨大化するという設定以外に「妖怪巨大女」との共通点はありません。そのstoryは、バストサイズに悩むグラビアモデルが、豊胸効果があるという薬を服用したところ効果覿面。そこで1日1本の処方であるところ数本飲んだら、副作用で巨大化してしまう。しかし、そのために注目を集めるようになった彼女を面白く思わないライバルのモデルが同様に巨大化して、巨大女vs巨大女のバトルが始まる・・・というもの。これはコメディタッチで、フォトモンタージュを使用したオリジナルと異なり、強化遠近法により巨大娘の視覚化を実現しているものです。ポリシーがあってそうしたのか、技術も予算も足りなかったためそうなったのかはわかりません(笑)ちなみに私、かつて面白半分で海外サイトにこの映画のDVDを発注しようとしたことがありますが、そのときは廃盤になっていて、それでもあまり残念とは思いませんでしたね。いまはどう思っているかって? 廃盤になっていたおかげで買わずにすんで、ヨカッタと思っていますよ(笑)


(Hoffmann)



参考文献

 とくにありません。