Cosi fan tutte






リッカルド・ムーティ指揮ウィーン・フィルの1982年ザルツブルク音楽祭live録音です。Hoffmannの持っているのは仏Pathe盤LP。

ムーティはHoffmannの好きな指揮者であり、またたいへん評判のいいdiscなんですが、残念ながら手放しで賞賛というわけにはいきません。ムーティの指揮は歯切れがいいというよりちょっと鋭すぎて、これが交響曲ならかまわないんですが、もう少し角を丸めてくれた方がHoffmannの好みです。歌手はマーシャルあたりはいいものの、全体にそれぞれてんでバラバラ、あさっての方を向いて歌っているようです。とくにアグネス・バルツァというひとは、自分が目立つことしか考えていないし、デスピーナのキャスリン・バトルに至っては下手なくせに出しゃばり。もっともこのdiscの悪口を言うひとはあまりいないようなので、以上、うっかり読んじゃった(笑)ひとも、Hoffmannのコメントなど参考にせず、自分で聴いてみてくださいよ(笑)





アラン・ロンバール指揮ストラスブール・フィルハーモニー管弦楽団による1977年の録音。仏Erato盤LP。

当時売り出し中だったテ・カナワ、フォン・シュターデを姉妹役に、フッテンロッハー、レンドール、ストラータス、バスタンと並べた、ちょっとMozart録音としてはめずらしいキャストです。Hoffmannはテ・カナワの声は好きではありませんが、これも個性と思えば全体に歌は水準以上の全曲盤です。

問題は指揮者で、どうもオーケストラと歌がかみあわない。ロンバールに関しては、まあ、このひとのdiscがほめられているのを聞いた記憶も読んだ記憶もありませんが、Hoffmannは結構レコードを持っていまして、グノーの「ファウスト」なんか好きなんですよ。でも、その「ファウスト」でも、この「コシ・ファン・トゥッテ」でも同様なのが、この、歌とオーケストラの表情のアンバランス。なんでかなーと考えてみたんですが、このひとは勢いのある指揮をするわりに、ドラマの表出に無関心なようですね。だから歌手に寄り添うようなそぶりを見せないという演奏になって、チグハグな印象を残すのかもしれません。





ベームの指揮による三種類の録音、左からウィーン・フィルとの1955年DECCA録音。中央が1962年フィルハーモニア管弦楽団との独Electrola録音、右が1974年ザルツブルク音楽祭のlive録音、ベーム80歳記念の公演でしたっけね。オーケストラはもちろんウィーン・フィル。

Hoffmannが物心ついたころには、中央のフィルハーモニア盤が「歴史的名盤」と呼ばれていましたね。ベームも気力充分で、シュワルツコップとルートヴィヒによる姉妹がすばらしいというのがその理由とされていました。それでもHoffmannはシュワルツコップがあまり好きでないのと、やはりlive録音には独特の雰囲気があることから、1974年盤が好きでしたね。オーケストラは勝手に奏いているみたいだし、リズムも重いけど。プライとかシュライアーなんて、やっぱり自分と同時代のひとという親しみも感じられましてね。ついでに言っておくと、Hoffmannがはじめてオペラの公演をナマで体験したとき、その耳に入ってきた第一声はシュライアーの歌だったんですよ。

今回あらためて聴いてみて、歌手はそれぞれに一長一短と感じました。1974年盤ではヤノヴィッツ、グリスト、プライ、シュライアー、パネライなど、それぞれにいい(あれ、あとひとりだけですね、そのひとりが好きじゃないんです)。ただし重唱となると、どこかチグハグ。1962年盤はシュワルツコップはルートヴィヒと歌っているときはいいのに、男声が加わるとちょっと浮いちゃってると思うんですよ。男声がダメなわけではないんですが、割食っちゃてるのかなあ。デスピーナ(これも重要な役です)のシュテフェクはほかにだれかいなかったんでしょうか。1955年盤はクンツ、シェフラーがいいですね。





1954年8月2日ザルツブルク音楽祭live録音。ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、歌手はゼーフリート、ヘルマン、クンツ、デルモータ、オットー、シェフラー。





1960年7月27日ザルツブルク音楽祭live録音。ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、歌手はシュワルツコップ、ルートヴィヒ、プライ、クメント、シュッティ、デンヒ。「コシ・ファン・トゥッテ」の歌手はこの6人だけなのに、なぜか伊Melodram盤LPの函の表面ではデンヒの名前だけ表記されておりませんな。













クレンペラー盤、仏Pathe盤LP、仏Patheのプレス。すばらしい音質です。

演奏はこの作品としては異色ですね。はじめて聴いたときは、まるで悲劇だなあとびっくりしたんですが、最近ますますこの演奏こそ作品の本質をついているんじゃないかと思えてきたところです。歌手は男声のほうが目立ちますが、ポップのデスピーナ、イヴォンヌ・ミントンのドラベルラあたりがHoffmannの好み。ドラベルラ役って得な役ですよね・・・どの録音でもいい歌手はそれぞれに評価される。ところがフィオルディリージ役ときたら、一部の大歌手のおかげで、ほかの多くの歌手はそれなりに好演していてもなかなか評価されない・・・。

一部の大歌手って、シュワルツコップのことですね。Hoffmannさんはあまりお好みではないようですが・・・たしかに、この録音でもマーガレット・プライスのフィオルディリージはちょっと弱いと聴こえますね




いずれもハンス・ロスバウト指揮パリ音楽院管弦楽団、エクサン・プロヴァンス音楽祭live録音。左は1957年の収録で、歌手はシュティヒ=ランダル、ベルガンサ、アダーニ、アルヴァ、パネライ、コルティス。右は1955年の収録でシュティヒ=ランダル、メリマン、シュトライヒ、ゲッダ、パネライ、コルティス。どちらもセッコはピアノ。INAのdisc。

ロスバウトの指揮はやっぱりドライな印象ですが、これは録音(ホール)のせいもあるのかも。それでも冷たく無味乾燥というわけではなくて、音楽は明快、小歌劇場の上演に接しているようなintimateな雰囲気があります。個人的にはロスバウトには「ドン・ジョヴァンニ」よりも、この「コシ・ファン・トゥッテ」の方が適しているように思います。歌手は1957年盤と1955年盤と、それぞれに魅力的。「ドン・ジョヴァンニ」で文句を付けた歌手も、ここでとびきりの名唱を聴かせてくれるというほどでもなく、しかしこの作品では問題なし(笑)これはあくまで個人的な(ややおおげさに言えば)「コシ・ファン・トゥッテ」観みたいなもんですけどね、このオペラは、重唱のアンサンブルができていれば、むしろ飛び抜けた大歌手なんかいないほうがうまくいく、そんな作品じゃないでしょうか。

そんなわけで、ロスバウトのモーツァルトを聴きたくなったらこの2組のdisc、そのどちらを取り出してもいいなと思っているんですけどね、じつは1955年盤の方、これはエクサン・プロヴァンス音楽祭live録音集と呼ぶべき5枚組でして、上記「コシ・ファン・トゥッテ」のほかに、クリュイタンスによるグノーの歌劇「ミレイユ」(1954年)、ロスバウトのピアノ伴奏によるボリス・クリストフのリサイタル(1955年)、プーランクのピアノ協奏曲を作曲者のピアノとミュンシュ指揮で(1950年)、デゾルミエール指揮のメシアン「トゥーランガリーラ交響曲」(1950年)と、なんとも貴重な録音が収録されたセットなんですよ。




グスタフ・クーン指揮マルキジャーナ・フィルハーモニー管弦楽団による、1990年マチェラータ音楽祭live録音。歌手はアントナッチ、バチェルリ、デッカー、ドーメン、チェリチ、ブルスカンティーニ。

じつはHoffmannが「コシ・ファン・トゥッテ」を聴こうというときに、もっとも取り出す機会の多いdiscがこれ。おそらく歌手の選定には指揮者クーンの意志が働いているものと思われます。大スター不在はスタンドプレーの排除、アンサンブル充実の実現をめざしているからじゃないでしょうか。作品に対する誠実な姿勢がうかがわれ、音楽も愉悦感に不足はなく、さりげなく高度な完成度を誇る公演となっていると思います。これでいいんですよ♪