026 ワーグナー 楽劇「ニーベルングの指環」 ※ 所有しているdiscを録音年順に記載します。




 ”Der Ring des Niebelungen” 
※ 新規入手discとコメントは随時追記します。



Rudolf Moralt, Wiener Symphoniker
Wien, 1949
Gebhardt JGCD0040-12(CD)


Wilhelm Furtwaengler, Orchestra e Coro del Teatro alla Scala
Milano, 1950
Columbia OB-7101~7116(LP), FONIT CETRA CFE101(LP), FONIT CETRA K00Y201/214(CD), Gebhardt JGCD0018-12(CD)


 Furtwaenglerの選択によるドイツ・オーストリア系歌手を率いての、スカラ座への引越公演。全3回の上演のうち、それぞれ1回めの上演の記録です。

 国内盤「Columbia OB-7101~7116」は1976年7月25日に発売されたものですね。高校生の時に数か月間昼食を抜いて(笑)ようやく購入した思い出深いレコードです。1983年に出た「FONIT CETRA CFE101」は、トリノ放送に残されていたtapeを使用したもので、当初srereo録音と言われており、結局mono録音だったのですが、かなり音質の良いセットです。

 Furtwaenglerには1953年のRAI盤もあり、オーケストラのアンサンブルはいずれもやや粗くほぼ同等、歌手は一長一短ながらRAI盤の方が比較的揃っている、ただしTeatro alla Scala盤ではブリュンヒルデがFlagstadが歌っているのが最大の魅力・・・というのが一般的な評価ですね。たしかにFlagstadもここでは1952年Furtwaenglerとのスタジオ録音による“Tristan”とは別人のような燃焼度です。それでも、戦前の絶頂期のlive録音が次々とdisc化されて入手できるいま、やはりこの時期でも衰えは認められるんですね。さらに、比較的良質なtapeが発見されて、初出時より良好な音質で聴くことができるようになっても、オーケストラの質も含めて、やはりこれがFurtwaenglerの最良の記録とは言い難いのも事実です。


Fritz Stiedry, Orchestra and Chorus of the Metropolitan Opera
New York, 1951
Gebhardt JGCD0038-11(CD)


Joseph Keilberth, Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
H.Hotter, A.Varnay, G.Treptow, J.Greindl, B.Aldenhoff, G.Neitlinger, W.Windgassen
Bayreuth, 12.8., 13.8., 14.8., 16.8. 1952
GM1.0066(CD)


Joseph Keilberth, Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
H.Hotter, M.Moedl, W.Windgassen, R.Vinay, J.Greindl, G.Neitlinger
Bayreuth, 25-27.29 July 1953
GM1.0014(CD), MEL536,537,538,539(LP),PAN PC10340(CD)


 1953年Keilberth指揮によるBayreuthの“Ring”は、1954年に米Allegroから「Fritz Schreiber指揮ドレスデン国立歌劇場」の演奏として発売されたことがあるので有名。もちろんFritz Schreiberなんて指揮者は実在しません。関係者のクレームを受けて姿を消しましたが、まあ珍品でしょうね。


Clemens Krauss, Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
Bayreuth, 1953
foyer FO006, FO009, FO010, FO011(LP), ARCHIPEL ARPCD0250-13(CD), ORFEO C 809 113 R (CD)


 戦後Bayreuthの屋台骨となったH.Knappertsbuschは、Wieland Wagnerのいわゆる抽象的な演出が気に入らず、この年Bayreuth出演を辞退、公式には「健康上の理由」とアナウンスされました。そこでWielandが招聘したのがC.Krauss。“Ring”はKeilberthと交代で振り分けて、“Parsifal”はKraussが振っています。音楽的にはC.Kraussの方がWielandの好みだったそうで、翌年もKraussを呼ぶつもりが、1954年5月16日にメキシコ・シティで客死してしまったため、再度Knappertsbuschに出演を要請、Knappertsbuschにしてみれば、Wielandの演出以上に「ならず者Wieland」が「根っからのナチであるC.Krauss」を招聘したのが癪にさわって交渉は難航、それでもWolfgang Wagnerらの説得でどうにか出演の承諾が得られたのでした。

 それはともかく、この演奏はすばらしいですね。速めのテンポながら重厚で、典雅といいたいほどに気品の感じられるオーケストラ。声楽面ではまさに戦後Bayreuthの黄金時代。数ある“Ring”のdiscのなかからどれかひとつだけ選べと言われたら・・・Knappertsbuschには怒られるかもしれませんが、これかもしれません。「foyer」盤LPは予備に2セット持っています。


Wilhelm Frutwaengler,Orchestra e Coro della RAI di Roma
Roma, 1953
ToshibaEMI AB-9601~18(LP), Gebhardt JGCD0060(CD)


 放送用録音でひと晩に一幕ずつ演奏され、リハーサルと本番を適宜編集して完成されたものだそうです。ちなみに本番の際には、風邪を引いていないことを条件に招待された聴衆を前にして行われたとのこと。この録音の存在は早くから知られていたにもかかわらず、版権の関係等で、発売までに19年を要したものです。

 ※ ”Siegfried”のMELODIYA盤の項も参照して下さい。


 音質は1950年のTeatro alla Scala盤よりも良好。動的な1950年盤に対してこちらのRAI盤は静的とはよく言われるところですね。ひと晩に一幕一回録りとあって、後半で息切れする心配はないものの、やはり全曲通しのliveにくらべればノリが違うということでしょうが、Furtwaenglerの健康上の差もあると思われます。歌手に関しては一長一短ですが、Flagstadがさほど好きでもないHoffmannは、こちらのRAI盤に軍配が上がると感じます。


Joseph Keilberth, Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
Bayreuth, 1955
TESTAMENT SBT4 1390,1391,1392,1393(CD), TESTAMENT SBTLP3 1390,SBTLP5 1391,SBTLP5 1392,SBTLP6 1393(LP)


 良質なstereo録音。半世紀を経て2006年に至ってCD及びLPにて登場。やれやれ、長生きはするもんですなあ。

 DECCAスタッフによる録音で、基本的には本番とオーケストラ・リハーサル及びゲネラルプローベの時のtapeによって完成されているそうです。

Hans Knappertsbusch, Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
Bayreuth, 13.08(R), 14.08(W), 15.08(S), 17.08(G), 1956
SEVEN SEAS KICC2274~88(CD), GM1.001(CD), MUSIC & ARTS CD4009(CD), ORFEO C 660 513 Y(CD)


 MUSIC & ARTS盤には公演日の記載がありませんが、同じ録音でしょう。


Hans Knappertsbusch, Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
Bayreuth, 26.07(R), 27.07(W), 29.07(S), 31.07(G), 1957
Columbia OB-7117~32(LP), SEVEN SEAS KICC2128~42(CD),


 Knappertsbusch、Bayreuthの“Ring”といえば、最初にdisc(LP)が出たのはこの1957年盤でしたね。海賊盤もどきの物も含めて数種類出たものを比較すると、同じ7月公演の録音でも演奏時間が違ったりしていて、これは別の録音なのか、復刻の際に生じた相違なのか、分かりませんでした。まあ、あまり気にもしていなかったんですけどね(笑)


Hans Knappertsbusch, Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
Bayreuth, 14.08(R), 15.08(W), 16.08(S), 18.08(G), 1957
Cetra GT7030~2、GT7033~7、GT7038~42、GT7043~7(LP), GM1.0048(CD)


 上記と同じ1957年のBayreuth公演のlive録音ですが、こちらは8月の公演を収録したもの(とされています)。


Rudolf Kempe, Chorus and Orchestra of the Royal Opera House, Covent Garden
H.Hotter, O.Kraus, B.Nilsson, R.Vinay, W.Windgassen, H.Uhde
London, 25,27 September &1,4 October 1957
Teatament SBT13 1426(CD)

 当時大評判だったという、Covent Gardenでのチクルスのlive録音。


Hans Knappertsbusch, Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
Bayreuth, 27.07(R), 28.07(W), 30,07(S), 01.08(G), 1958
GM1.0052(CD)


Franz Konwitschny, The Royal Opera House, Covent Garden
H.Hotter, R.Vinay, A.Varnay, W.Windgassen, H.Uhde, G.Frick
London, 18/09/1959, 23/09/1959, 28/09/1959, 02/10/1959
MEMORIES MR2301/2313(CD), Walhall WLCD0334, WLCD0316, WLCD0370, WLCD0368(CD)


Georg Solti, Wiener Philmarmoniker
Wien, 1958~1965
DECCA SXL2101-3, SET312-6, SET242/6, SET292-7(LP), LONDON L00C-1150/68(LP)


 国内盤はライトモティーフ集LP3枚(L00-1007 9)付き。

 Soltiの“Ring”というよりも、録音プロデューサーJohn Culshawの“Ring”。この作品初のstereo録音であり、とくに最初に録音・発売された“Das Rheingold”の英DeccaプレスLP盤の音質の良さはオーディオ・マニアの間では有名。

 史上初めての“Ring”全曲録音とあって、「わかりやすさ」を目指したのでしょう。効果音を多用したCulshawを責めるのは酷だと思いますが、live録音によるdiscの豊富ないまとなっては、どうもウソくさいというか、いかにも作り物めいた印象です。録音はオーケストラも歌手の声も鮮明ですが、あくまでテクニックを駆使したオペラ録音であって、本質的な意味での劇場的な臨場感は皆無です。そのおかげか、どことなくSoltiの指揮までがアニメのように分かりやすい音楽造りを志向しているように感じられ、ほとんど聴かないdiscです。歌手の顔ぶれはたいへん豪華で、よくぞここまで揃えたものだと思いますが・・・。


Rudolf Kempe, Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
B.Nilsson, A.Varnay, J.Hines, B.Nilsson, H.Hopf, G.Frick, T.Stewart, G.Stolze, W.Windgassen
Bayreuth, 1960
GM1.0027(CD),PAN PC10418(CD)


 WolfgangWagner演出の初年度の録音。KempeのBayreuthデビューの年です。

 Bayreuthのオーケストラ・ピットの特殊な音響は、はじめてBayreuthを訪れた指揮者には馴染みにくく過酷だと言われますが、じっさいKempeもかなり苦労したようで、リハーサルの後、Wolfgangに「もう帰りたい」ともらしたとか。たしかに、随所で「迷い」の感じとれる演奏ですね。とくに“Das Rheingold”と“Die Walkuere”の冴えないこと・・・。


Rudolf Kempe, Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
B.Nilsson, A.Varnay, J.Hines, B.Nilsson, H.Hopf, G.Frick, T.Stewart, G.Stolze, F.Uhl
Bayreuth, 1961
ORFEO C 928 613 Y(CD)



Erich Leinsdorf, Orchestra of the Metropolitan Opera House
G.London, J.Vickers, O.Edelmann, B.Nilsson, H.Hopf, P.Kuen,
New york, 16.12.1961, 23.12.196113.1.1962, 27.1.1962
Walhall ALCD0360, 0365,0372, 0373(CD)



Rudolf Kempe, Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
O.Wiener, F.Uhl, G.Frick, A.Varnay, H.Hopf, B.Nilsson,
Bayreuth, 28.7.1962, 29.7.1962, 30.7.1962, 1.8.1962
MYTO 2CD00323, 3CD00324, 3CD00325, 4CD00326(CD)


Karl Boehm, Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
Baureuth, 1966,1967
PHILIPS 18PC-40~42, 18PC-43~46, 18PC-47~50, 18PC-51~55(LP), PHILIPS 6747 037(LP), PHILIPS 446 057-2(CD)


 PHILIPSによる正規録音です。

 K.Boehm最盛期の記録であると同時に、戦後Byreuthが1950年代を経て迎えた頂点のひとつでもあると思います。LP時代に国内盤が発売された際には、発売元によって、夜から朝までかけて四部作全曲を聴くレコードコンサートが行われたりなどしていましたね。


Herbert von Karajan, Berlin Philmarmonic Orchestra
Berlin, 1966~70
DG 139 226/42, 139 229/233, 139 234/238, 253 0001/006(LP)


 このころからのKarajanのやり方なんですが、ザルツブルク音楽祭で4年がかりで“Ring”を上演するにあたり、リハーサルを兼ねてスタジオ録音されたもの。最初の“Die Walkuere”が1966年8、9、12月録音で1967年にザルツブルク復活祭音楽祭で上演、次の“Das Rheingold”は1967年12月録音で1968年に上演、続いて“Siegfried”が1968年12月、1969年2月録音で1969年上演、最後に“Goetterdammerung”が1969年10、12月、1970年1月録音で1970年に上演されています。


Lorin Maazel, Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
Bayreuth, 1968
SHINCHOSHA SCD008-03~16(CD)

 CD shopではなく、書店で購入したもの。新潮社の「新潮オペラCDブック/特別版」、CD14枚組にライトモティーフ集CD枚+ブック付きで30,000円もしました。1968年としては残念、mono録音です。


Wolfgang Sawallisch, Orchestra di Roma della RAI
Roma, 1968
MYTO 054.316, 054.317, 055.318, 055.319(CD)


 SawallischのRAI客演時のlive録音。演奏会形式らしいですね。


Hans Swarowsky, Grosses Symphonieorchester
1968
WELTBILD CLASSICS 703769(CD)


 “Lohengrin”と同じ。オーケストラにも歌手にもこれといって特徴のない演奏です。オーケストラが弱く、ソロには表情らしい表情がない。全曲聴き通すのが苦痛。日本の岡村喬生が“Das Rheingold”のファーゾルトと“Siegfried”のファーフナーで出演しています。


Pierre Boulez, Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
Bayreuth, 1979~80
PHILIPS 6769 070, 6769 071, 6769 072, 6769 073(LP), PHILIPS 070 407-9(DVD), DG 073 6180(BD)


 1976年、Bayreuth100年祭の年にP.Boulezと演出家Patrice Chereauのコンビで上演された“Ring”は、その後毎年演出に細かな修正が加えられ、結局このプロダクションは5年間継続上演されました。これは“Goetterdammerung”のみ1979年のアナログ録音で、ほかの三作は1980年のデジタル録音です。おそらく、1980年の“Goetterdammerung”はなにかよほどの問題があって、使えなかったのでしょう。

 一時代を画した上演(演出・演奏)の記録ですね。初演時にはChereauもBoulezも囂々たる非難を浴びて、ところがその後演出は手直しを加えられ、指揮も尻上がりに良くなって、最後の年には大成功へと導いた、この二人の功績は讃えられるべきでしょう。オーケストラのなかには、Boulezが指揮するならと2年めからBayreuthに来なくなった奏者も少なくなかったとか。そのひとり、あるBayreuth常連の日本人ヴァイオリニストがインタビューにこたえて「Wagnerをドイツ人の手に戻すべきだ」と言っていたのを思い出すにつけ、Chereau、Boulez、そしてこの二人を起用し(続け)たWolfgang Wagnerに対しては賛辞を贈りつつ、日本人としてこの独善的かつ偏狭な演奏家の発言を恥じますね。その演出は、いわゆる前衛的な演出の先駆けとも言うべきものですが、近頃の演出が袋小路に入り込んで行き詰まりを感じさせるのに対して、Chereauのそれは、いま観てもまったく古びていません。よく、雑誌などで「歴史的名演」などということばが(気軽に)使われていますが、あえて言えばFurtwaenglerやKnappertsbuschよりも、このChereau、Boulezによる画期的な上演こそ、「歴史的名演」の名にふさわしいのではないでしょうか。少なくとも私は、この上演とほぼ同時代に生きていたことが、自分の人生にとって、ひじょうに幸運だったと思っています。

 歌手については、H.Zednikのローゲ、ミーメ(“Siegfried”)がすばらしく、D.McIntyreのヴォータンも演出のコンセプトによく合っています。またG.Jonesのブリュンヒルデも、高声部がやや絶叫になるものの、ラストまで息切れしないスタミナは見事なもので、とくに“Goetterdammerung”では感動的な熱演です。以上3人はChereau演出の要と言っていいでしょう。そのほかフリッカのH.Schwarzがとくに印象的。M.Jungのジークフリートも、Windgassenあたりとくらべては気の毒ですが、この歌手の最良の記録ではないでしょうか。

 録音についてひと言。アナログLPで聴く限りでは、鮮やかで高分解能ではないものの、ほどよく溶け合った響きが自然で好ましいものです。音場感もまずまずで、“Das Rheingold”でのローゲのような舞台上での歌手の動きや、“Siegfried”の冒頭で物が落ちて転がる、その転がる様もよく分かりますね。

 
以後の上演記録で、これを超えるものには未だに出会えていません。


Marek Janowski, Staatskapelle Dresden
Dresden, 1980~83
Columbia OX-7238~40-ND, OX-7241~45-ND, OX-7246~50-ND, OX-7251~56-ND(LP), BMG 74321 45418~21 2(CD)


 1983年のWagner没後100年に合わせて企画・完成された、初のデジタル録音による“Ring”全曲録音。

 ただし録音の傾向は四作品で統一されていません。“Das Rheingold”はひたすら分解能を追及したかのようで、細部までの見通しが良く、しかし“Siegfried”あたりになると、全体の溶け合いを重視しました、といったゆったり型。この時代、まだまだデジタル録音に関しては、コンセプトが迷走気味だった? この点、指摘しているひとがいないのは不思議です。

 大抜擢のJanowskiは立派に大役を果たしたと言っていいでしょう。東独を中心に集められたベテラン・新進の歌手たちも健闘しています。ただし“Goetterdammerung”になると、あらゆる要素を消化しきれてはいないのかなとも思います。これは逆に作品の性格について考えさせられる問題でもありますね。

 ここで何人かの歌手に触れておくと―“Das Rheingold”でローゲ、 “Siegfried”でミーメを歌っているP.Schreier。私が目にしたいくつかの批評では大絶賛されていましたが、わざとらしい作り声で、その声も「汚い」の一語に尽きます。ここでの歌唱は、ことさらにオペラ的にと「熱演を・演じている」といった印象で、ローゲやミーメのキャラクターよりも役者Schreierの大見得ばかりが前面に押し出されており、「おれが、おれが」と出しゃばってすっかり浮いてしまうという、これは私ののもっとも嫌いなタイプ。ブリュンヒルデ役のJ.Altmeyerは弱く、“Die Walkuere”ではジークリンデ役のJ.Normanに圧倒されている始末(そのNormanも別に絶賛するほどの歌唱ではありません)。“Siegfried”、“Goetterdaemmerung”では雑な歌になっているのがおおいに興を削ぎますね。


Takashi Asahina, New Japan Philmarmonic
Tokyo, 1984~87
Yamano YMCD5001/15(CD)


 朝比奈隆指揮による新日本フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会ライヴ録音。演奏会形式による公演で、4年間4回にわたり、1回に一作ずつ演奏されたものです。

 この4回の公演は、私も会場で聴いていました。かなり熱狂的なファンがいる指揮者ですが、私はほかの機会にも何度か聴いたことがあるものの、格別すぐれた指揮だと思ったことは一度もありません。例の「教祖様」によれば古き良きドイツ音楽の伝統を伝える巨匠だということらしいんですが、「伝統的なドイツ音楽(演奏)」って、アタックは全部「ウァン」と歯切れ悪く、こんなに鈍いものなんでしょうか。「ピアニシモを強調しすぎない」って、オーケストラが下手なので「強調できない」のでは? あまり過激なことは言いたくないんですが、耳が遠い老人って、全部がfかffの、こんなしゃべり方するんですよね。仮にそうしたものがドイツ音楽の伝統的な演奏だったとして、どうして現代日本のオーケストラがそれを猿真似しなければならないのでしょうか。

 それはともかく、Bayreuth録音をはじめとする世界一流の指揮者・歌手たちによる録音とともに並べると、やはり聴き劣りがするのは仕方がありません。と同時に、歌手のなかには、日本にもこれだけ個性的なキャラクターの歌手がいるんだなあと再認識させてくれる人もいます。まあ、日本人による初の“Ring”全曲録音である、という意味では価値がある・・・かもしれませんね。
 ※ 「009 日本人によるワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』」でも取り上げています。(こちら


Bernard Haitink, Chor und Symphonie-Orchester der Bayerischen Rundfunks
Muenchen, 1988, 1990, 1991
EMI CDS7 49853 2, CDS7 49534 2, CDS7 54290 2, CDS7 54485 2(CD)
EMI EX165 7 49853 1(”Das Rheingold”LP)EX165 7 49534 1(”Die Walkuere”LP)


 CDは4部作セットですが、LPは”Das Rheingold”と”Die Walkuere”のみ所有しています。

 Haitinkの指揮は重厚さや余計な肉付けも廃して、ひとつひとつのライトモティーフの劇的な意味を強調することよりも、それらを純器楽的に、シンフォニックな音響として処理したもの。管弦楽の合奏の精緻さ、響きの精妙さ、大音量になっても混濁することなく、金管楽器が強奏する箇所でもそれらが突出することなく、どのセクションもまろやかにブレンドされた響きを聴かせる点は特筆ものです。ただし、芝居ががったドラマ作りが見られない反面、オペラティックな表現力には乏しく、もう少しなんとならなかったのかなとも思いますね。また、”Goetterdaemerung”の第1幕第3場の雷鳴や幕切れの壮大な瓦解音は、Solti盤の時代ならともかく、いまどきこれはない、Haitinkの音楽作りとも相容れないものです。

 歌手はヴォータンのJ.Morrisが弱く、ブリュンヒルデのE.Martonは大時代的な咆哮で大いに興を削ぐもの。端役ですが、K.Te Kanawaの森の小鳥は歌い崩しすぎ、有名どころを呼んでくればいいというものではありません。いいのはZednikのローゲ、C.Studerのジークリンデ、それにS.Jerusalemのジークフリートがこの人としては上出来。あとはJ.Rappeのエルダ、T.Hampsonのグンターあたり。とくにこのふたり、表現力とはこうしたものだと思わせる歌唱です。


James Levine, Orchestra and Chorus of the Metropolitan Opera
New York, 1988~1991?
DGG 471 678-2(CD)


 舞台上での出来事を眼前に浮かばせるような、微妙なテンポの変動・伸縮など、上のHaitink盤とは好対照です。ところが、かえってその手慣れた処理からは、どうも私場合、いかにも「手際よくまとめた」といった印象しか得られないんですね。オーケストラの音色にあまり魅力がないことも一因かもしれません。


James Levine, Orchestra and Chorus of the Metropolitan Opera
Otto Schenk
New York, 1989~1990
DGG 073 043-9(DVD)


Daniel Barenboim, Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
Harry Kupfer
Bayreuth, 1991,1992
KULTUR BD4755(BD)


Wolfgang Sawalisch, Chor und Orchester der Bayerishcen Stattsoper
Muenchen, 1993
EMI CZS 7243 5 72731 2 1(CD), TOBW-93008~15(DVD)


 Nikolaus Lehnhoff演出によるプロダクションで、当時かなり話題になったものです。初日は”Goetterdaemmerung”の第二幕でナチスに擬した軍人が登場して大騒ぎになり、その後演出を修正して、DVDに収録されているのはその修正後の公演です。いずれにせよ、全編の幕切れなどは、度しがたいほど陳腐な舞台となっています。おまけに、突然フェードアウト、フェードインする箇所があり、これはLD発売時の面が変わる箇所がそのまま収録されているのでしょう。DVDとしても出来損ないと言わざるを得ません。歌手とオーケストラはなかなかいいので、CDで音だけ聴いていた方が愉しめます。

 なお、DVDセットには「リングへの招待」という特典盤が付いており、Lehnhoff、Sawallisch、Kollo、Behrensのinterviewが収録されています。

 
”Goetterdaemmerung”から―。


Guenter Neuhold, Badische Staatskapelle
1993~95
BRILLIANT CLASSICS 99625(CD)


Gustav Kuhn, Orchestra del Teatro di San Carlo
1998~2001?
ARTE NOVA 74321 87075 2(CD)


Hartmut Haenchen, Residentie Orchestra, Netherlands Philmarmonic Orchestra, Rotterdam Philmarmonic Orchestra
Stage director Pierre Audi
Nederlandse Opera, 1999
OPUS ARTE OA0946D, OA0947D, OA0948D, OA0949D(DVD)

 舞台の内側にオーケストラ・ピットが配されているのがユニークです。視覚的にはかなり愉しめますね。いま観れば、演出もそんなに変なことはしていません。Haenchenの指揮とオーケストラも手堅い以上の出来栄えではないでしょうか。

 
左は”Das Rheingold”第三場から、右は”Die Walkuere”第三幕から。


Roberto Paternostro, Orchester Staatstheater Kassel
M.Volz, B.Brinkmann, S.Owen, C.Franz, J.Casselman, M.Jung,
Kassel, 1999, 1998
ARS 38 051, ARS 38 052, FCD 368 377-80, FCD368 381-84(CD)


Lothar Zagrosek, Staatsorchester Stuttgart
Schloemer, Nel, Wieler, Morabito, Konwitschny
Stuttgart, 2002
TDK TOBA0054,0055,0056,0057(DVD)


 四部作をそれぞれ別の演出家の手に委ねた上演の記録です。

 とにかく演出が気に入りません。どうこがどう悪いなどと言い出したらきりがない。四人の演出家を起用したのもアイデア倒れ。”Goetterdammerung”に至って「やれやれやっと終わった・・・」(笑)、ひと言「退屈だった」とだけ言っておきます。映像(メディア)に記録して残しておく価値があるのか、疑問です。反面、これを観ていると、MuenchenのNikolaus Lehnhoff演出が早くも陳腐化して古臭く感じられることに気が付き、にもかかわらず、Lehnhoff演出の嫌いな私でさえ、Lehnhoffのほうがまだしも・・・と思えるのがおもしろいというか、皮肉というか・・・。

 
左は”Die Walkuere”第三幕、右は”Siegfried”第二幕から。


Bertrand de Billy, Symphony Orchestra of the Gran Teatre del Liceu
Stage Director Harry Kupfer
Barcelona, 2003, 2004
OPUS ARTE OA0910D, OA0911D, OA0912D, OA0913D(DVD)

 Kupferも”Ring”に関してはあまり目覚ましい成果を上げることできなかったなというのが正直な感想です。歌手も総じて主役級が弱いですね。

 
”Goetterdaemmerung”第三幕から。四部作を通じて舞台が暗いためか、画質があまり良くないのが残念です。


Asher Fisch, Adelaide Symphony Orchestra, The State Opera Australia
J.Broecheler, S.Skelton, L.Gasteen, G.Rideout, T.Mussard
Adelaides, 2004, 11&12/2004. 11-12/2004, 11-12/2004
Melba MR301089, MR301091, MR301095, MR301099(SACD)


Hartmut Haenchen, Nederlands PhilharmonischOrest
A.Dohmen, G.Clark, J.Keyes, L.Watson, S.Andersen, R.Bork, K.Rydl, D.Soffel
De Nederlandse Opera, September 2005, August/September 2004, February 2005
,ETCETERA KTC5500, KTC5501, KTC5502, KTC5503(SACD)

 DVDで発売された1999年の上演とは歌手に変更があり、オーケストラが四作で統一されています。


Michael Schoenwandt, Royal Danish Opera
Kasper Bech Holten, Andersen, Byriel, Jonhnson, Klaveness, Morgny, Reuter, Sjoeberg, Stene, Theorin
Copenhagen, may 2006
DECCA 074 3265, 074 3266, 074 3269, 074 3272(DVD)

 feminism系の演出ですね。”Die Walkuere”で例を挙げると、ノートゥンクを抜くのもジークムントではなくジークリンデで、第二幕の死の告知の場面でも、ジークリンデは目覚めています。そうした演出が”Goetterdaemmerung”で収斂してゆくのは筋が通っています。カメラはやや低い位置からあおって撮るシーンが多め。歌手では、はじめて観た時ブリュンヒルデのIrene Theorinに注目しましたが、やはりその後国際的に活躍されているようです。

 
いずれも”Die Walkuere”、左は第一幕、右は第二幕から。


Zubin Mehta, Orquesta de la Comunitat Valenciana
Stage Director Carlus Padrissa
J.Uushitalo, P.Seiffert, J.Wilson,L.Ryan, M.Salminen
Valencia, 2007-2009
C major 700604, 700804, 701004, 701204(BD)


Simone Young, Philharmoniker Hamburg
F.Struckmenn, W.Koch, P.Galliard,D.Polaski, C.Franz,
Hamburg, 03/2008, 12-19.03/2008, 18-22.10/2010, 12,14,17,21.10/2010
OEHMS OC925, OC926, OC927, OC928(CD)


Christian Thielemann, Bayreuth festival Oechestra and Chorus
L.Watson, S.Gould, A.Dohmen, H-P.Koenig, A.Shore, E-M.Westbroek, E.Wottrich
Bayreuth, 2008
OPUS ARTE OACD9000BDL


Carl St.Clair, Staatskapelle Weimar
Stage Director Michael Schulz
M.Hoff, E.Caves, R.Meszar, H.Tsumaya, C.Foster, J.van Hal, T.Moewes, N.Schmittberg
Weimar, 2008
ARTHAUS 101 374(BD), ARTHAUS 109319(DVD)


Sir Mark Elder, The Halle
I.Paterson, S.Andersen, Y.Howward, E.Silis, S.Bullock, S.O'Neill, R.Nocholls, K.Dalayman, L.Cleveman
Bridgewater Hall, Manchester, 27.11.2016, 15. and 16. 7.2011, 2. and 3.6.2018, 5.2009
CD HLD 7549, CD HLD 7531, CD HLD 7551, CD HLD 7525(CD-R)


Pavel Baleff, Orchestra of the Sofia Opera and Ballet
Director Plamen Kartaloff
M.Petrov, M.Iliev, M.Tzetkova, M.Tsonev, B.Dashnyam, K.Andreev, Y.Derilova
Sofia Opera and Ballet, 25. May 2010, 14. April 2011, 30.May 2012, 29. June 2013
DYNAMIC 57897, 57898, 57899, 57900(BD)


Daniel Barenboim, Orchestra and Chorus of the Teatro alla Scala
Stage Director Guy Cassiers
R.pape, S.O'Neill, J.Tomlinson, V.Kowaljow, N.Stemme, L.Ryan, I.Theorin
Milan, 20 May 2010, 7 December 2010, October 2012, June 2013
ARTHAUS 108 090, 108 091, 108 092, 108 093(BD)


Sebastian Weigle, Frankfurter Opern- und Museumsorchester
T.Stensvord, F.van Aken, E-M.Westbroek, S.Bullock, L.Ryan
Frankfurt, 5-6/2010, 11/2010, 10-11/2011, 12/2012
OEHMS OC935, OC936, OC937, OC938(CD)


James Levine, Fabio Luisi, The Metropolitan Opera Orchestra and Chorus
Production by Robert Lepage
S.Blythe, J.Kaufmann, H-P.Koenig, J.H.Morris, E.Owens, G.Siegel, B.Terfel, D.Voigt, E-M.Westbroek
New York, 9.10.2010, 14.5.2011, 5.11.2011, 11.2.2012
DG 00440 073 4771(BD)

 Das Rheingold、Die WalkuereがLevine、Siegfried,GoetterdaemmerungがLuisiの指揮。ドキュメンタリー映像”Wagner's Dream”のdisc付き。


Sebastian Weigle, Frankfurter Opern- und Museumsorchester
T.Stensvord, F.van Aken, E-M.Westbroek, S.Bullock, L.Ryan
Frankfurt, June/July 2012,
OEHMS OC999(DVD)

 CDとは別収録の模様。歌手は全体に軽量級。Weigleの指揮が目覚ましく良くなるのはもう少し後のこと。

 
いずれも”Siegfried”から、左は第二幕、ジームフリートがファーフナーを倒したところ、右は第三幕、ヴォータンとエルダ。


Christian Thielemann, Orchester der Wiener Staatsoper
A/Dohmen, T.Koniezny, C.Ventris, W.Meier, K.Dalayman, S.Gould, L.Watson,
Wien, 11/2011
DG 499 1560(CD)


Asher Fisch, Seattle Symphonyu Orchestra and Seattle Opera Chorus
A.Mellor, S.Vinke, G.Grimsley, S.Blythe S.Skelton, M.J.Wray
Seattle, 08/2013
AVIE AV2313


Jaap van Zweden, Hong kong Philharmonic Orchestra
M.Goerne, S.Skelton,H.Melton, F.Strukmann, P.LangS>O'Neill, D.Brenna
Hong Kong Cultural Centre Concert Hall, 22,24.01.2015, 21,23.1.2016, 19,22.1.2017, 18,21.1.2018
NAXOS 8501403(CD)


Michael Schoenwandt, Royal Danish Opera
Production by Kasper Bech Holten
S.Anderson, S.Byriel, J.Johnson, P.Klaveness, B-O.Morgny, J.Reuter, G-M.Sjoeberg, R.Stene, I.Theorin
Copenhagen, May 2016
DECCA 074 3264(DVD)



Axel Kober, Duisburger Philharmoniker
Duisburg, 5. & 11.
Avi 8553504, 8553543, 8553544, 85553545(CD)

 ”Siegfried”の発売が延期になってかれこれ2年待たされ、2023年12月にようやく届きました。


Sir Donald Runnicles, Orchestra and Chorus of the Deutosche Oper Berlin
Stage Director Stefan Herheim
D.Welton, B.Jovanovich, I.Paterson, N.Stemme, C.Hilley, A.Pesendorfer
Berlin, 9,16., 10,17., 12,19., 14,21. 11.2021
NAXOS NBD0156VX(BD)





(短縮版)

Robert Paternostoro, Teatro Colon Orchestra and Chorus
Stage Director Valentina Carrasco
11/2012
C major 713104(BD)

 「短縮版」とは知らずに購入して仰天した。shopの商品ページを見たら「それまで不可能と思われていた『指環』の短縮に成功した」とあるが、成功してないでショ。しかし驚いたのはむしろ悪趣味という以上に無意味な演出。いい、悪い、ではなくて質が低すぎて無意味。まあ、近頃はBayreuthも大概ですからナ。





(全曲録音進行中?)


”Das Rheingold”
Valery Gergiev, Mariinsky Orchestra
St.Petersburg, June 2010, Feburary,April & June 2012
MAR0526(SACD)

”Die Walkuere”
Valery Gergiev, Mariinsky Orchestra
St.Petersburg,
June 2011, Feburary & April 2012
MAR0527(SACD)

 ロシアのウクライナ侵攻にして立場を表明しないGergievが干されている情勢から見て、完結しないかもしれない。正直、完結が待ち遠しいような演奏でもない。


”Das Rheingold”
Sir Simon Rattle, Symphonieorchester des Bayerischen Rundfunk
Muenchen, 24.-25.4. 2015
BR Klassik 900133(CD)

”Die Walkuere”
Sir Simon Rattle, Symphonieorchester des Bayerischen Rundfunk
Muenchen, 29.1.-10.2. 2019
BR Klassik 900177(CD)

”Siegfried”
Sir Simon Rattle, Symphonieorchester des Bayerischen Rundfunk
Muenchen, 3-5.2.2023
BR Klassik900211(CD)

 Rattleらしいマイペースぶりながら、いずれ完結するものと思われる。ちゃんと”Das Rheingold”から順番に取り組んでいるところもRattleらしい。





(抜粋盤など)


”Der Ring des Niebelungen”
Franz von Hoeslin, Walter Straram Orchestra
W.Kirchhoff, L.Weber, L.Hofmann, H.Gottlieb,M.Klose
Paris, 1930
Gebhardt JGCD0016-3(CD)

 CD3枚組の抜粋盤。Pathe Records Nos.7196-7215。断片的なものは取り上げないつもりでしたが、これは貴重な録音なので。



(番外篇)

”The Golden Ring”
The legendary 1965 BBC film on Sir georg Solti's recording of Wagner's Der Ring des Nibelungen
First transmitted 16May 1965
DECCA 074 3196(DVD)

 SoltiとWiener Philhrmonikerによる”Goetterdaemmerung”レコーディングのドキュメンタリー。

 
左はGottlob Frick、右はBirgit Nilsson。


”Der Ring des Nibelungen The Making of”
Patrice Chereau, Pierre Boulez
Bayreuth, 14-21April 1982
DG 00440 073 4068(DVD)

 ChereauとBoulezによるBayreuth公演映像収録のドキュメンタリー。

 
こんな映像も収録されています。左はリハーサルを見守るWinifred Wagner、おそらく1930年代でしょう。右は、ある人物がBayreuthを訪れた際のもの。



(Hoffmann)