052 ドビュッシー 交響詩「海」 その1 LP篇 ※ 所有しているdiscを録音年順に記載します。




 ”La Mer” ※ 新規入手discとコメントは随時追記します。



ロジェ・デゾルミエール指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
1950.
SUPRAPHON LPV210(LP)

 コンスタンティン・シルヴェストリ指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団によるラヴェルの「スペイン狂詩曲」とのカップリング。
 明晰系で、デゾルミエールらしいかなり辛口の演奏。マイクの距離感はちょっと近めで、同じくSUPRAPHONの1963年ジャン・フルネ盤と似ている。時期が時期なのでさほどのマルチマイク録音とは考えにくいが。



ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 フィルハーモニア管弦楽団
1953年7月20日~22日
英Columbia 33CX1099(LP)


 以前ここで取り上げたレコード。カップリングのラヴェル「スペイン狂詩曲」はオーケストラの上手さが際立っていてなかなかいいが、ドビュッシーはややフランス音楽であることを意識しすぎたものか、全体に抑制気味と聴こえる。


グイド・カンテルリ指揮 フィルハーモニア管弦楽団
1954.
英World Records(EMI)SH374(LP)


 あまり情緒的ではないが、線が太くて、意外と濃厚な表情を醸しているのが印象的。


デジレ=エミール・アンゲルブレシュト指揮 フランス国立管弦楽団(シャンゼリゼ劇場管弦楽団)
1954.(1955?)
東芝 EAC-60225-29(5LP)
Pathe marconi(EMI) 2C153-12137/8(2LP)
仏Ducretet-Thomson DUC20.003(LP)
仏Ducretet-Thomson 320C016(LP)
英LONDON(Ducretete-Thomson) DTL93017(LP)


 どれもDucretet-Thomson原盤のはず。ただし東芝盤には1955年録音との表記あり。おそらく同じ録音。シャンゼリゼ管弦楽団というのは契約上の名称で、実体はフランス国立管弦楽団。LP時代には再発を繰り返すうちに正式な名称に変わっている。別団体ではないので、購入の際は要注意。
 演奏はすばらしいもので、ほかの指揮者がこんな表情を付けたら恣意的に聴こえてしまいそうなところ、「心の欲する所に従えども 矩を踰えず」の境地か。


エドゥアルト・ヴァン・ベイヌム指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
1957.5.27-28.
蘭PHILIPS 835.001AY(LP)
仏PHILIPS 835.001AY(LP)


 すばらしい演奏。オーケストラの音色はやや渋めでコクがあって、それがとても魅力的。派手さはないものの、録音年代を考えればかなりモダンな感覚。いまでも充分通用する好演。
 なお、蘭プレス盤と仏プレス盤を持っていて、いずれも〈HI-FI STEREO〉盤なれど、かなり音が異なる。仏盤はEQカーヴはRIAAで問題なし。ところが、蘭プレスの方は高域が丸まっていて、AESでもいいのではないかというくらい。しかしAESだと低域側が薄くなるので、Turn OverはNABかRIAAで、Roll OffをRIAAの-16dBからAESの-12dBにして聴いた。


エルネスト・アンセルメ指揮 スイス・ロマンド管弦楽団
1957.
キング SL1201-4(4LP)


 アンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団によるドビュッシー管弦楽曲集の国内盤LPのセットから―。この「海」を聴くと、オーケストラの技術はあやしいものの、同じアンセルメによる「ペレアスとメリザンド」1964年盤がこの指揮者としては平凡な出来だったのだと思える。新古典主義的ロマンティスムとでも言うか・・・勝手にことばをつくっちゃいけませんな(笑)理知的でありながら熱演。感情移入を極力排しているようで、また温度感も低いものの、即物的にならないのは・・・オーケストラが弱いせい? 意外とダイナミックで激しい。


デジレ=エミール・アンゲルブレシュト指揮 フランス国立放送局管弦楽団
1958.3.20.live
仏Erato ERH160113(3LP)


 INA Archives。アンゲルブレシュト指揮で、“Orchestre National”とあるが、これはいわゆるORTF、フランス国立放送局管弦楽団のこと。Eratoから出たドビュッシー管弦楽作品集LP3枚組のセット。1958年3月20日のlive録音。最後に拍手も入っている。
 ドビュッシーの音楽が、フランスの音楽であるというイメージから、優雅で上品な、ただひたすらおしゃれな音楽だと思っているひとは市場にあふれている凡百のdiscを聴けばおおむね満足できるはず。ここで聴ける演奏は、張りつめた緊張感のなかで、シーン毎に揺れ動くテンポと、ときにまばゆいばかりの金管、ひなびた音色の木管楽器が多彩な色(カラー)を展開して、そこに微細なニュアンスがこめられている、というもの(なんだかよくわかりませんな)。
 かなりロマン的な演奏で、しかし主情的と言うには抵抗があるもの。ドビュッシーに認められた指揮者だから、というわけではないが、やはり作品に対する共感ではないか。これだけ表現意欲にあふれていながら上品というより高貴とさえ感じさせる指揮者は、アンゲルブレシュトをおいてほかにない。
 このErato盤LPは、録音が良好で、しかも演奏も―とくにオーケストラの響きが充実している。ソロが浮き上がらないで全体のハーモニーで聴かせる傾向も、これはこれでとても魅力的。アンゲルブレシュトの三種の録音は、それぞれに良さがあって、甲乙つけ難いところ。


マニュエル・ロザンタール指揮 パリ・オペラ座管弦楽団
1959.
仏VEGA C30A187(LP)
仏Ades COF-7097(3LP)
キング SL1228-9(2LP)

 VEGAはmono盤。Adesのセットはすべてstrereo表示。キングの国内盤もすべてstereo、ただし「牧神の午後への前奏曲」と「夜想曲」が疑似stereoであるとの表記あり。
 ということは、「海」はstereoということになるが、stereo盤のフワッとした格調高さも捨て難いものの、VEGA盤に聴くことのできるくっきり実在感が好き。ちょっとひなびた響きもいい。ただしロザンタールはどちらかというとラヴェルの方が向いているか。



サー・ジョン・バルビローリ指揮 ハレ管弦楽団
1959.9.4.
MODE MDINT9280(LP)
PRT Collector GSGC2011(LP)


 表情ひとつにもそれらしさを出そうとして、冒頭など妙にものものしく、リズムを刻んでいる各楽器の「合いの手」も少々無機的な方向へ傾く。良く言えば個性的だが、悪く言えばクセが強い。どことなく演歌調(?)で、最後はクライマックスの後にオチをつけるあたり、バルビローリらしい。


カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団
1962年4月11-26日
英Columbia SAX2463(LP)


 英Columbiaの、たぶんこれがオリジナル盤。私の好みは後のロサンゼルス盤よりもこちら。ここでは響きをふくらませすぎることなく、若くして貫禄、と聴こえる。


ジョージ・セル指揮 クリーヴランド管弦楽団
1963.
英Columbia SAX2532(LP)


 米Epic原盤。
 即物的というか、あまりにもストレートな表現で、意外なほどダイナミック。音色の変化にも乏しくて陰影に欠けるところがやや物足りないところなれど、この辛口の「海」もなかなかおもしろい。ジョージ・セルはたいてい陽性の音楽作りで、必ずしも好きな指揮者ではないものの、聴けば圧倒されてしまう。


ジャン・フルネ指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
1963.
SUPRAPHON 108157-1(LP)


 オーケストラは一流ではない。ソロのちょっとひなびた音色はおもしろいが、あまり上手くはない。弦楽器の響きに厚みがないために、全体に高域寄りのバランスで、どこか表面だけ整えたように聴こえてしまう。ただしSUPRAPHONのレコードはたいていこんなバランス・・・と、これは以前国内盤CDを聴いての感想。

 その後入手したSUPRAPHONのLPではかなり印象が異なる。ニュアンス不足と感じるのは、録音がややオンマイクに過ぎるためかも知れない。さらに若干高域上がりの気味はあるものの、SUPRAPHONのLPとしては比較的バランスはいい方。録音のせいもあるものか、この時代にして明晰系。オーケストラの実力はたしかに超一流とは言えないものの、(おそらく)指揮者の要請に応えての、入念かつ意外なほどの表情付け。


ピエール・ブーレーズ指揮 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
1966.
米CBS 32 11 0056(LP)
英CBS S77331(3LP)


 米CBS盤は北斎がジャケットを飾っているもの。英CBS盤はドビュッシーの管弦楽曲集のセット。
 明晰系の演奏。現代でも充分通用するモダンな感覚というか、この録音のレコードが発売された当時の評判がどうであったかは不明だが、いまやこうした曖昧さを排した演奏が主流になっている、その先駆けか。フランスのオーケストラを使わずに録音しているあたりがブーレーズらしいところ。「海」の演奏として決して場違いな印象もなく、交響詩「海」の、ひいてはドビュッシーの規範的な演奏と言ってもいいものではないか。ドビュッシーは調性をボカしてはいるものの、響きをボカしているわけではないのだから―。

 
葛飾北斎 「冨嶽三十六景」から「神奈川沖浪裏」


シャルル・ミュンシュ指揮 パリ管弦楽団
1967.11.14.
キング ALTLP-131/2(2LP)


 INA Archives。
 パリ管弦楽団は、1967年に長い歴史を持つ名門、パリ音楽院管弦楽団を再編して結成されたオーケストラ。その目的は「諸外国に対し、パリおよびフランスの音楽的威信を輝かすこと」という意欲的なもので、首席指揮者に迎えられたのがシャルル・ミュンシュ。この「幻想交響曲」と「海」は、フランス政府が威信をかけたオーケストラの最初の演奏会、1967年11月14日にパリのシャンゼリゼ劇場でのlive録音。ちなみに「幻想交響曲」は公演の前月にEMIによりセッション・レコーディングされている。
 演奏はミュンシュらしい熱気に満ちたもの。ずいぶん表現意欲にあふれた演奏というか、テンポは伸縮自在といった印象で、勢い込んでみたり、潮が引いていったりと、ダイナミクスも含めて表情の変化著しい演奏。恣意的に過ぎるのではないかとも思うが、そこそこ様になっているあたり、巨匠時代の指揮者ならでは。またこの指揮者らしく、激しい箇所はあざやかに聴かせるものの、しんみりした箇所となると、ちょっと持て余し気味とも聴こえる。このような演奏にはちょっとついていけないひともいるかも。シャンゼリゼ劇場の音響はややデッドなようで、かえって細部までよく聴き取れる。それだけに古くさく感じてしまうということもあるが、総合的に音質も良好と言っていいもの。さすがINA Archives。


サー・ジョン・バルビローリ指揮 パリ管弦楽団
1968
英EMI ASD2442(LP)
仏Pathe marconi(EMI) 2C063-01853(LP)


  パリ管弦楽団は1967年にパリ音楽院管弦楽団を改組して発足。初代の音楽監督にミュンシュが就任して第1回目の記念すべきコンサートで「海」が演奏されたのが上記1967年11月14日。ところがミュンシュは1968年11月に急逝。この「海」の録音はバルビローリがミュンシュの代役に立ったものかも知れない。
 パリ管弦楽団はさすがにフランスのオーケストラで堂に入った演奏、未だローカルな味わいを残していた時期のパリ管弦楽団。逆に言えば現代風に洗練され(過ぎ)ていない響き。指揮者のコントロールは、やっぱりバルビローリらしい浪花節(笑)ながら、極端な不自然さはない。先に取り上げた1959年のハレ管弦楽団との録音の方がバルビローリの意図が徹底している模様。
 細部にこだわらずに処理したかと思うと、次には思い切りこだわって味付けしてみたりと、やや恣意的と感じられる。あと、微妙なニュアンスが不足気味とも思われる。


ジャン・マルティノン指揮 フランス国立放送局管弦楽団
1973
仏Pathe marconi(EMI) 2C165-12791/6(6LP)


 ジャン・マルティノン指揮フランス国立放送局管弦楽団による管弦楽曲全集のセットから―。ひじょうに明晰な演奏でありながら無機的にならない、知情意のバランスにすぐれた演奏。音色の多彩な変化も表現されており、それはうつろいゆく、というよりも、ときどき仕切直しをしているように聴こえるのがおもしろい(それだけ変化が感じられるということ)。自発性あふれるオーケストラはアンサンブルも高い水準にあり、まだどことなくフランス的な響きが残っているようで、ほのかにロマンが香る・・・あまりこんな曖昧かつ情緒的な言い方はしたくないのだが、楽器とか、奏法のせいか?


ベルナルド・ハイティンク指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
1976.12.
仏PHILIPS 9599 359(LP)


 取り立ててこれといった特徴はないものの、高度な次元で中庸を行く好演。


カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団
1979年11月
DG 2531 264(LP)


 ジュリーニはこのオーケストラの音楽監督時代に、たいへん素晴らしい録音をいくつも行っているが、ここでは晩年のジュリーニに特徴的な遅いテンポとゆったりふくらませた響きが特徴的で、このため細部がマスクされてしまっている。録音もフィルハーモニア管弦楽団との古い方が断然いい。余談ながら、DGの優秀録音というのはめったにない。
 なお、ジュリーニはこの後さらにもう一度ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団と録音している。


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 レコード(LP)を再生した装置について書いておきます。
 古いmono盤では、カートリッジをortofon CG 25 Dで、mono盤でも新しめのプレスはSHELTERのmonoカートリッジを使いました。stereo盤は、1970年頃を境に、それ以前はortofonのSPUのどれか、それ以降はMC20MkIIを使いました。スピーカーはmono録音はSiemensのCoaxial、いわゆる「鉄仮面」をチャンネルあたり2基の後面開放型Sachsen 202で、stereo録音はTANNOYのMonitor Gold10"入りCornettaで聴きました。
 また、EQカーヴはRIAAで疑問を感じたものは適宜ほかのカーヴを試し、結果はなるべく記載しておきました。



(Hoffmann)