072 サー・ハミルトン・ハーティの作品とdisc





Sir Herbert Hamilton Harty

 サー・ハミルトン・ハーティSir Hamilton Hartyは北アイルランドの寒村に生まれました。父は教会のオルガニストで、貧しいながらも音楽に関して教えられることはすべて教えたそうです。12歳で教会オルガニストの職に就き、ダブリンでピアノ伴奏者として知られるようになり、やがてロンドンへ。ピアノ伴奏者としての名声はいよいよ高まり、クライスラー、シゲティらの伴奏も務めました。作曲では1904年のアイリッシュ・シンフォニー、1908年にはシゲティに献呈されたヴァイオリン協奏曲などの力作を生み、1904年の結婚後は指揮活動に専念するようになります。1920年からの13年間はハレ管弦楽団の首席指揮者を務めています。晩年は指揮活動を続けながら再び作曲のペンを取ろうとしているうちに体調を崩し、1941年に61歳で亡くなりました。

 ハーティというと、ヘンデルの「水上の音楽」のオーケストラのための編曲で有名ですが、その作品もなかなか魅力的です。ハーティの作品がまとまったレコードは、英Chandosから4枚組で出ていました。録音、演奏ともにたいへん良質なセットです。

"Sir Herbert Hamilton Harty 1879 - 1941"

Record 1

An Irish Symphony (1904)
1 On the Shores of Lough Neagh
2 The Fair Day
3 In the Antrim Hills
4 The Twelfth of July
A Comedy Overture (1906)
October 1980

Record 2

Violin Concerto in D minor (1908)
Ralph Holmes, violin
Variation on a Dublin Air - for Violin and Orchestra (1912)
Ralph Holmes, violin
June 1979

Record 3

The Children of Lir - Poem for Orchestra(1938)
Heather Harper, soprano
Ode to a Nightingale - for soprano and orchestra(1907)
Heather Harper, soprano
October 1981

Record 4

Piano Concerto in B minor (1922)
Malcom Binns, piano
In Ireland - Fantasy for flute,harp and orchestra (1935)
Colin Fleming, Solo flute, Denise Kelly, Solo harp
With the Wild Geese (1910)
April & may 1983

Ulster Orchestra
Bryden Thomson, conductor

CHANDOS DBRD4002 (4LP)


 CDでも出ていてこちらは3枚組―

DISC 1

Violin Concerto (1909)
Piano Concerto (1922)

DISC 2

The Children of Lir - Poem for Orchestra(1938)
Variation on a Dublin Air - for Violin and Orchestra (1912)
The Londonderry Air (1924)
Ode to a Nightingale - for soprano and orchestra(1907)

DISC 3

A Comedy Overture (1906, revised 1908)
An Irish Symphony (1904, revised 1915 and 1924)
In Ireland - Fantasy for flute, harp and orchestra (1935)
With the Wild Geese (1910)

CHANDOS CHAN10194(3)X (3CD)


 お気づきですかな? CDセットにはLPセットに入っていない"The Londonderry Air (1924)"が収録されているんですよ。5:27の小品、正確には編曲なんですけどね。これのsolo violinはPan Hon Lee、シンガポール出身の、録音当時のリーダー(コンサートマスター)。録音は"June 1979"とあります。


Sir Herbert Hamilton Harty

 アイリッシュ・シンフォニーはダブリン音楽祭が「伝統的なアイルランド民謡に基づく組曲あるいは交響曲」を対象とするコンクールを公募した際に、第1位に入賞した作品です。ハーティ24歳の時の若書きですね。第1楽章は「ネー湖畔にて」、第2楽章は「市の日」、第3楽章は「アントリムの丘で」、第4楽章は「7月の12日」と題されています。「7月の12日」というのは、1690年に起こった「ボイン河畔の戦い」を祝うプロテスタントの祝祭日のこと。全楽章でアイルランド民謡やイングランド民謡が用いられている、親しみやすい音楽です。

 特筆しておきたいのはヴァイオリン協奏曲で、シゲティのために書かれたのですが、1907年にロンドンでデビューしたとき、シゲティはまだ15歳。作品が書かれた1908年には、シゲティ16歳、ハーティ29歳でした。この作品はことさらにアイルランドの民謡を思わせるような音楽ではなく、いかにもロマン主義の協奏曲といった印象です。第1楽章の第2主題の美しさはディーリアスが絶賛したことでも有名。叙情的な緩徐楽章、活気を持って疾走する終楽章とも、たいへん魅力的な音楽になっています。

 「ロンドンデリーの歌」"Londonderry Air"について書いておくと、これはアイルランド民謡、その編曲です。さまざまな歌詞で歌われていますが、とくに人口に膾炙しているのが「ダニー・ボーイ」"Danny Boy"ですね。その歌詞はイングランドの弁護士、フレデリック・E・ウェザリーの作。もともとは別の曲のために1910年に作られた詞だったのですが、1913年に「ロンドンデリーの歌」の旋律に合うように修正したところ、広く知られるようになりました。女性の立場で男性に別れを告げているように解釈できる歌なんですが、両親や祖父母が戦地に赴く息子や孫を送り出すという設定で歌われることもあるようです。


(Hoffmann)