080 ベルリオーズ 劇的物語「ファウストの劫罰」




 手持ちのdiscです。録音年順ではありません。


小澤征爾指揮 ボストン交響楽団 タングルウッド音楽祭合唱団 ボストン少年合唱団
ステュアート・バロウズ(テノール:ファウスト)
ドナルド・マッキンタイア(バス:メフィストフェレス)
エディト・マティス(ソプラノ:マルグリート)
トマス・ポール(バス:ブランデル)
ジュディス・ディキスン(ソプラノ:天上の声)
ボストン、1973.10.
DG 2709048 (3LP)


 高校生の時に、同曲をはじめて聴いたレコード。いやあ、ゲーテの「ファウスト」をこんな音楽劇にしてしまうなんて、ベルリオーズは天才だなと思ったことをよく覚えています(笑)

 清澄でオーケストラのテクスチュアの見通しがよく、時に熱いという、ほとんど理想的な演奏だと思って、長らく愛聴していたもの。いま聴いてもその印象は変わらず。このレコードはとりわけ清潔感が印象的。だからといって別にほかの演奏が不潔なわけではない(笑)「清潔感」とはその反面、脱脂されて淡白、アクも抜けているが旨味も薄れてしまったかな、ということ。それでも聴いていてキモチがいい。主要な歌手3人もいい歌を聴かせてくれる。惜しいのは合唱団が一流レベルではないこと。やや表情が単調(というか、単色)であること。


イゴール・マルケヴィチ指揮 ラムルー管弦楽団 エリザベート・プラッスール合唱団 フランス国立放送児童合唱団
リシャール・ヴェロー(テノール)
コンスエロ・ルビオ(ソプラノ)
ミシェル・ルー(バリトン)
ピエール・モレ(バス)
パリ、1959.
DG 138 099/100SLPM (2LP)


 これはたいへんすばらしい演奏ですね。小澤征爾は直情的な勢いですっきり聴かせてくれたが、マルケヴィチは響きが痩身ながら、すっきり加減が異なって、ダシ汁が濃い。シリアスな面と諧謔味と、あらゆる要素が消化されており、あたかもヤヌスの相貌。アーメンフーガなどの磊落な合唱団がユニーク。オーケストラは機能的にはいま一歩なれど、聴けば聴くほど細部に込み入った味わいがある。マルケヴィチ47歳の時の録音だが、「老練」と言いたくなる。


ジョン・エリオット・ガーディナー指揮 リヨン歌劇場管弦楽団
エディンバラ祝祭合唱団
マイケル・マイヤーズ(テノール)
ジャン=フィリップ・ラフォン(バス)
アンネ・ゾフィー・フォン・オッター(アルト)
ルネ・シラー(バス)
フィオラ・ライト(メッゾ・ソプラノ)
リヨン、モーリス・ラヴェル・オーディトリアム、1987.9. live
PHILIPS 426199-2(2CD)


 はじめて聴いたときは、いかにも現代的な低カロリー演奏という以上の印象はなかったが、今回改めて聴いてみたところ、入念な表情付けとその効果は見事なもの。場面ごとに仕切り直しをする感じ。それでも意外なほどの熱気はliveならではか。しかし、同じリヨン歌劇場で7年後に・・・。


ケント・ナガノ指揮 リヨン歌劇場管弦楽団 同合唱団
トーマス・モーザー(テノール)
スーザン・グラハム(ソプラノ)
ジョゼ・ファン・ダム(バリトン)
フォレデリック・カートン(バス)
リヨン、1994.10.
ERATO 0630-10692-2 (2CD)


 上記ガーディナーの7年後、同じリヨン歌劇場での録音。響きが決して飽和しない、現代的低カロリーの演奏ながら、美しいだけでなく、かなり劇的。これもまた見事。もちろん指揮者の力量もさることながら、多分に歌手がその劇性を生み、支えているようにも思える。


ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮 ルツェルン祝祭管弦楽団 同合唱団
エリーザベト・シュヴァルツコップ(マルガレーテ)
フランス・フローレンス(ファウスト)
ハンス・ホッター(メフィストフェレス)
アロイス・ペルネルシュトルファー(ブランデル)
Lucerna, 26.8.1950
FINIT CETRA FE21 (3LP)


 ドイツ語歌唱。音質は一般に言われるほど悪くはないと思うが演奏はよくない。ドイツ語歌唱であることに目をつぶっても、オーケストラはモノモノしく、この作品の演奏としては「そうじゃないだろう」という違和感が大きい。知らずに聴いたら1951年以降のフルトヴェングラーの(病気による)衰えが目立つ時期の演奏かと思ってしまう。歌手もハンス・ホッターが不調か、冴えない。


シルヴァン・カンブルラン指揮 ベルリン国立歌劇場管弦楽団
オルフェオン・ドノスティアラ(合唱団) テルツ少年合唱団
アレックス・オーレ、カルロス・パドリッサ演出
ヴェッセリーナ・カサロヴァ(マルグリート)
ポール・グローヴズ(ファウスト)
ウィラード・ホワイト(メフィストフェレス)
アンドレアス・マッコ(ブランデル)
ザルツブルク音楽祭、1999.8.25.
ARTHAUS 100 018 (DVD)


 舞台上演の記録。格別すぐれた演出とも思わないが、音楽を邪魔しない程度には「まとも」で、観ていておもしろい。歌手たちの動作・所作に一切の無駄がないことにも驚き。カンブルランの指揮は洗練されていてスタイリッシュ。メフィストフェレスのウィラード・ホワイトが抜群の存在感。いつまで観ていても飽きない。

 


 以下は抜粋盤―

アンドレ・クリュイタンス指揮 フランス国立歌劇場管弦楽団、同合唱団
リタ・ゴール(メゾ・ゾプラノ)
ニコライ・ゲッダ(テノール)
ジェラース・スゼー(バリトン)
仏Pathe Marcini 2C061-11684 (LP)


 録音年はわからないが、良質なstereo録音。
 全曲録音でないのが残念な好演。とくにスゼーのメフィストフェレスがすばらしい。


Piero Coppola, Pasdeloup Orch., Chorus
Mireille Berthon (Marguerite)
Jose de Trevi (Faust)
Charles Panzera (Mefistopheles)
Louis Morturier (Brander)
1930.
Pearl GEMM CD9080 (CD)


 Total playing timeは79'54"。
 往年の名指揮者ピエロ・コッポラがコンセール・パドルーを指揮して行った録音。パンゼラのメフィストフェレスが聴ける。


 かなり好きな作品で、生(ナマ)でも複数回聴いているものの、どうもホールで聴いているとやたら大きな音ばかりの場面が多くて、疲れてしまうため、もうナマでは聴きたくありません。個人的には、この作品はレコードで聴いている方がいいですね。また上記以外にも、かつてミュンシュ、モントゥー、ハイティンク、ジャン=クロード・カザドシュ、ガリー・ベルティーニの指揮するdiscを所有していましたが、これらは不要と判断して処分してしまいました。じつは、いま手持ちの上記のレコードの中にも、「持っていなくてもいいなあ」という、放出候補があります。読めば分かっちゃいますよね(笑)


(Hoffmann)