099 フルトヴェングラーのレコード その2 続・思い出篇




 フルトヴェングラーのレコードを聴くようになったのは中学生の時です。最初は「運命」「未完成」。東芝の疑似stereo盤でした。でもね、これ、雑誌記事とか評論家の書いたものなんか読んだことがなくて、近所のレコード店に行ったらたまたまあったもの。これを選んだ理由は、ほかの「運命」「未完成」が2,200円とか2,400円、2,500円だったのに、2,000円と安かったから(笑)

 その後学校(がっこ)の音楽の先生(センセ)から、ベートーヴェンの第九ならフルトヴェングラーがいいよ、と言われた。このときはもう第九は小澤征爾指揮ニュー・フィルハーモニア管弦楽団のレコードを持っていたんですが、これまたたまたまそのタイミングでフルトヴェングラー、バイロイトの第九が2,000円で再発売されたので、これを買った。同じ曲で2枚目を買ったのはこれがはじめてだったんじゃなかったかな。安いってのはいいことだ(笑)コドモのことですからね。

 高校生にもなると知恵がついてきてというか、俗世間の垢にまみれつつある頃でというか、欲望の対象も少しばかりスケールが拡大して、前回も述べたとおり、ミラノ・スカラ座liveのワーグナーの「ニーベルングの指環」を苦労して(腹をすかせて・笑)入手。その次が「トリスタンとイゾルデ」。これが当時東芝から出ていた「フルトヴェングラーの芸術」というシリーズの内の1巻で、この「トリスタンとイゾルデ」がきっかけとなって、続いてこのシリーズを1巻ずつ手に入れては聴いたわけです。少し前の中学生の時分には、大部なセットものなんて葬送・・・じゃなくてそうそう買えやしないと思っていたから、もうバラ1枚もので入手していた盤も何枚かはあるなあ・・・と確かめてみたら、オーケストラや録音年が違う。このあたりで、同じ指揮者・演奏家でも、別演奏・別録音っちゅうもんがあることを知ったわけです。ああ、無知にして純情だったあの頃・・・(笑)ま、いまでもどれが何年とか、そんなに頓着しないんだが。


Wilhelm Furtwaengler

 そうして浅学非才の埴猪口なりに、コツコツと入手した東芝のシリーズを、ここに記載しておきます―

フルトヴェングラーの芸術(東芝)

第1巻 ベートーヴェン/交響曲・序曲集

 交響曲第1番
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1952.11.24,27.
 交響曲第3番“英雄”
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1952.11.26,27.
 交響曲第4番
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1952.12.1,2.
 交響曲第5番“運命”
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1954.2.28.,3.1.
 交響曲第5番“運命”
  ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1937.
 交響曲第6番“田園”
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1952.11.24,25.
 交響曲第7番
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1950.1.18,19.
 交響曲第8番
  ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団
 交響曲第9番“合唱”
  バイロイト祝祭管弦楽団 同合唱団
  エリザベート・シュワルツコップ(ソプラノ)
  エリザベート・ヘンゲン(アルト)
  ハンス・ホップ(テノール)
  オットー・エーデルマン(バス) 1951.7.29.
 ロマンス第1番
 ロマンス第2番
  ユーディ・メニューイン(ヴァイオリン)フィルハーモニア管弦楽団 1953.4.9.
 “レオノーレ”序曲第2番
  ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1954.4.4,5.
 “レオノーレ”序曲第3番
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1953.10.13-17.
 “レオノーレ”序曲第3番
  ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団 1948.11.12,13.
 “レオノーレ”序曲第3番 練習風景
  ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団 1948.11.12,13.
 “コリオラン”序曲
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1947.11.
 歌劇“フィデリオ”序曲
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1953.10.13-17.

WF-1~9 (9LP)


第2巻 ブラームス/交響曲全集

 交響曲第1番
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1947.11.17-20.
 交響曲第2番
  ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1952.5.7.
 交響曲第3番
  ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1949.12.18.
 交響曲第4番
  ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1948.10.24.
 ハイドンの主題による変奏曲
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1949.3.30
 ハンガリア舞曲第1番 1949.3.29-30.
 ハンガリア舞曲第2番 1949.4.1,4.
 ハンガリア舞曲第3番 1949.4.1,4.
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

WF-10~13 (4LP)


第3巻 グルックよりスメタナまで/交響曲・管弦楽曲集

 ハイドン:交響曲第94番“驚愕” 1951.1.11,12,17.
 モーツアルト:セレナーデ第13番“アイネ・クライネ・ナハトムジーク”1949.4.1.
 モーツアルト:セレナーデ第10番“13管楽器” 1947.11.10.,12.3.
 モーツアルト:交響曲第40番 1948.12.7-8.
 シューベルト:交響曲第8番“未完成” 1950.1.19-21.
 シューベルト:舞踏組曲“ロザムンデ”
         序曲 1951.1.3,17.
         間奏曲第3番 1950.2.2.
         バレエ音楽第2番 1950.2.2.
 ヨハン・シュトラウス2世:皇帝円舞曲 1950.1.24.
 ヨハン及びヨーゼフ・シュトラウス:ピチカート・ポルカ 1050.2.2.
 グルック:歌劇“アウリスのイフォゲニア”序曲 1954.3.8.
 グルック:歌劇“アルチェステ”序曲 1954.3.8.
 ケルビーニ:アナクレオン序曲 1951.1.11.
 ウェーバー:歌劇“魔弾の射手”序曲 1954.3.5,6.
 ウェーバー:歌劇“オベロン”序曲 1950.2.1,2.
 ウェーバー:歌劇“オイリアンテ”序曲 1954.3.6.
 メンデルスゾーン:“フィンガルの洞窟”序曲 1949.2.15.
 シューマン:マンフレッド序曲 1951.1.25.
 ニコライ:歌劇“ウィンザーの陽気な女房たち”序曲 1951.1.18.
 リスト:交響詩“前奏曲” 1954.3.4.
 スメタナ:交響詩“モルダウ” 1951.1.24,25.
  以上 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

WF-14~18 (5LP)


第4巻 チャイコフスキー・ブルックナー/交響曲集

 チャイコフスキー:交響曲第4番
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1951.11.4-8.
 チャイコフスキー:交響曲第6番
  ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1938.10.,11.
 チャイコフスキー:“弦楽セレナーデ”よりワルツと終曲
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 ワルツ1950.2.1. 終曲1950.2.2.
 ブルックナー:交響曲第7番
  ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1949.10.18.
 ブルックナー:交響曲第8番
  ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1949.3.14.

WF-19~23 (5LP)


第5巻 ワーグナー・R.シュトラウス/管弦楽曲集

 ワーグナー:楽劇“ニュルンベルクのマイスタージンガー”より
       第1幕への前奏曲、第3幕への前奏曲、徒弟たちの踊り
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1幕1949.4.1,4. 3幕1950.4.4. 徒弟1949.4.4.
 ワーグナー:歌劇“ローエングリン”第1幕への前奏曲
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1954.3.5.
 ワーグナー:楽劇“トリスタンとイゾルデ”より
       第3幕への前奏曲
  フィルハーモニア管弦楽団 1952.6.
       前奏曲とイゾルデ愛の死
  ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1938.2.
 ワーグナー:歌劇“さまよえるオランダ人”序曲
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1949.3.29,30.
 ワーグナー:歌劇“タンホイザー”序曲
   ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1952.12.2,3.
 ワーグナー:楽劇“ワルキューレ”よりワルキューレの騎行
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1949.3.31.
 ワーグナー:楽劇“神々の黄昏”より
       ジークフリートの葬送行進曲、ジークフリートのラインの旅
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 葬送1954.3.2. ライン1954.3.6.
 ワーグナー:楽劇“パルジファル”より第1幕への前奏曲、聖金曜日の不思議
  ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1938.3.
 ワーグナー:ジークフリート牧歌
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1949.2.16,17.
 R.シュトラウス:交響詩“ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら”
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1954.3.3.
 R.シュトラウス:交響詩“ドン・ファン”
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1954.3.2,3.
 R.シュトラウス:交響詩“死と変容”
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1950.1.21,23,24.

WF-24~27 (4LP)


第6巻 協奏曲集

 ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番“皇帝”
  エドウィン・フィッシャー(ピアノ)
  フィルハーモニア管弦楽団 1951.2.19,20.
 ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲
  ユーディ・メニューイン(ヴァイオリン)
  フィルハーモニア管弦楽団 1953.4.8.
 ブラームス:ヴァイオリン協奏曲
  ユーディ・メニューイン(ヴァイオリン)
  ルツェルン音楽祭管弦楽団 1949.10.7.
 メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲
  ユーディ・メニューイン(ヴァイオリン)
  ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1952.5.26.
 バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第2番
  ユーディ・メニューイン(ヴァイオリン)
  フィルハーモニア管弦楽団 1953.9.13.
 モーツアルト:ピアノ協奏曲第20番
  イヴォンヌ・ルフェビュール(ピアノ)
  ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1954.5.15.
 フルトヴェングラー:交響的協奏曲より第2楽章
  エドウィン・フィッシャー(ピアノ)
  ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1939.1.19.

WF-28~32 (5LP)


第7巻 ドイツ・レクイエム(声楽曲集)
 ブラームス;ドイツ・レクイエム
  ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団 同合唱団
  K.リンドバーク=トールリンク(ソプラノ)
  B.ゼンナーシュテット(バリトン) 1948.11.19.
 ワーグナー:楽劇“神々の黄昏”よりブリュンヒルデの自己犠牲
  キルステン・フラグスタート(ソプラノ)
  フィルハーモニア管弦楽団 1952.6.23.
※ 解説書には1948.8.とあるが間違い
 マーラー:さすらう若人の歌
  D.フィッシャー=ディースカウ(バリトン)
  フィルハーモニア管弦楽団 1952.6.
 ヴォルフ:リート・リサイタル
  エリザベート・シュワルツコップ(ソプラノ)
  ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(ピアノ) 1953.8.12.

WF-33~36 (4LP)


第8巻 歌劇“フィデリオ”全曲
 ベートーヴェン:歌劇“フィデリオ”全曲
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
  ウィーン国立歌劇場合唱団
  アルフレート・ペル、オットー・エーデルマン、
  ヴォルグガンク・ヴィントガッセン、マルタ・メードル、
  ゴットローブ・フリック、セーナ・ユリナッチ、ルドルフ・ショック、
  アルヴィン・ヘンドリクス,フランツ・ビアバッハ
  1953.10.13-17.

WF-37~39 (3LP)


第9巻 楽劇“ワルキューレ”全曲
 ワーグナー:楽劇“ワルキューレ”全曲
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
  ルートヴィヒ・ズートハウス、ゴットローブ・フリック、
  フェルディナント・フランツ、レオニー・リザネク、マルタ・メードル、
  マルガレーテ・クローゼ、ゲルダ・シュライヤー、ユディット・ヘルヴィヒ、
  ダグマール・シュメーデス、エリカ・ケート、ルート・ジーウェルト、
  ヘルタ・テッパー、ヨハンナ・ブラッター、ダグマール・ヘルマン
  1954.9.28.-10.6.

WF-40~44 (5LP)


第10巻 楽劇“トリスタンとイゾルデ”全曲
 ワーグナー:楽劇“トリスタンとイゾルデ"全曲
  フィルハーモニア管弦楽団
  コヴェント・ガーデン王立歌劇場合唱団
  ルートヴィヒ・ズートハウス、キルステン・フラグスタート、
  ブランシュ・シーボム、ヨーゼフ・グラインドル、
  D.フィッシャー=ディースカウ、ルドルフ・ショック、
  エドガー・エヴァンス、ロデリック・デイヴィス
  1952.6.

WF-45~49 (5LP)



 この、最後の「トリスタンとイゾルデ」が最初に入手したひと組。いま見ても、箱がいちばん汚れている。解説書・対訳もバタバタのふにゃふにゃ(笑)これを見ながら熱心に聴いたもんなあ。

 当時はまだCDなんて影も形もないレコード時代。フルトヴェングラーの未発表live録音が発掘されては各社から続々と発売され、なかには総統・・・じゃなくて相当怪しげな海賊盤めいたものもありましたね。そんなものには目もくれなかった・・・わけでもないんですが、学生の身分ですから資金的にも余裕はないし、あまり胡散臭いものに手を出すような冒険はできません。わりあい早い段階で、この東芝のセットを購入したのは悪くない選択だったと、いまでも思っています。セッション録音が中心で、音質的には整ったものが多い。

 いまではほかの盤、たとえば古い英プレス盤や仏プレス盤もいくつか持っていて、たとえば「トリスタンとイゾルデ」を聴くならLA VOIX DE SON MAITRE FALP 221a226、EMI 2c153-00899/903、Electrola 1C147-00899/903、MELODIYA D 0022869-78といろいろ持っているし、細かいことをいえばブルックナーの交響曲第7番は1枚2面収録で詰め込み、おまけに第2楽章の途中で面が変わりますから、これは2枚組3面収録のLA VOIX DE SON MAITRE FALP 852a853で聴きたい。


Wilhelm Furtwaengler

 でもね、これも長年の思い出が染みついちゃっているんですよ、とりわけ揃いものともなると、愛着も一入。ほかに音質面で有利な盤があっても、あえてこのセットで聴きたくなるときもあるんです(笑)


(Hoffmann)