Der Ring des Niebelungen





Rudolf Moralt, Wiener Symphoniker
Wien, 1949
Gebhardt JGCD0040-12(CD)



Wilhelm Furtwaengler, Orchestra e Coro del Teatro alla Scala
Milano, 1950
Columbia (LP), FONIT CETRA K00Y201/214(CD), JGCD0018-12(CD)

Furtwaenglerの選択によるドイツ・オーストリア系歌手を率いての、スカラ座への引越公演。全3回の上演のうち、それぞれ1回めの上演の記録です。

Furtwaenglerには1953年のRAI盤もあり、オーケストラのアンサンブルはいずれもやや粗くほぼ同等、歌手は一長一短ながらRAI盤の方が比較的揃っている、ただしTeatro alla Scala盤ではブリュンヒルデがFlagstadが歌っているのが最大の魅力・・・というのが一般的な評価ですね。たしかにFlagstadもここでは1952年Furtwaenglerとのスタジオ録音による“Tristan”とは別人のように充実しています。それでも、戦前の絶頂期のlive録音が次々とdisc化されて入手できるいま、やはりこの時期でも衰えは認められるんですね。さらに、比較的良質なtapeが発見されて、初出時より良好な音質で聴くことができるようになっても、オーケストラの質も含めて、やはりこれがFurtwaenglerの最良の記録とは言い難いのも事実ですね。




Fritz Stiedry, Orchestra and Chorus of the Metropolitan Opera
New York, 1951
Gebhardt JGCD0038-11(CD)



Joseph Keilberth, Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
Bayreuth, 1952
Paragon PCD84015-84028(CD), GM1.0066(CD)



Joseph Keilberth, Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
Bayreuth, 1953
GM1.0014(CD), MEL536,537,538,539(LP)

1953年Keilberth指揮によるBayreuthの“Ring’は、1954年に米Allegroから「Fritz Schreiber指揮ドレスデン国立歌劇場」の演奏として発売されたことがあるので有名。もちろんFritz Schreiberなんて指揮者は実在しません。関係者のクレームを受けて姿を消しましたが、まあ珍品でしょうね。



Clemens Krauss, Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
Bayreuth, 1953
foyer FO006, FO009, FO010, FO011(LP), ARCHIPEL ARPCD0250-13(CD), ORFEO C 809 113 R (CD)

戦後Bayreuthの屋台骨となったH.Knappertsbuschは、Wieland Wagnerのいわゆる抽象的な演出が気に入らず、この年Bayreuth出演を辞退、公式には「健康上の理由」とアナウンスされました。そこでWielandが招聘したのがC.Krauss、“Ring”はKeilberthと交代で振り分けて、“Parsifal”はKraussが振っています。音楽的にはC.Kraussの方がWielandの好みだったそうで、翌年もKraussを呼ぶつもりが、1954年5月16日にメキシコ・シティで客死してしまったため、再度Knappertsbuschに出演を要請、Knappertsbuschにしてみれば、Wielandの演出以上に「ならず者Wieland」が「根っからのナチであるC.Krauss」を招聘したのが癪にさわって交渉は難航、それでもWolfgang Wagnerらの説得でどうにか出演の承諾が得られたのでした。

それはともかく、この演奏はすばらしいですね。速めのテンポながら重厚で、典雅といいたいほどに気品の感じられるオーケストラ。声楽面ではまさに戦後Bayreuthの黄金時代。数ある
“Ring”のdiscのなかからどれかひとつだけ選べと言われたら・・・(Knappertsbuschには怒られるかもしれませんが)これかもしれません。



Wilhelm Frutwaengler,Orchestra e Coro della RAI di Roma
Roma, 1953
EMI (LP), JGCD0060(CD)

放送用録音でひと晩に一幕ずつ演奏され、リハーサルと本番を適宜編集して完成されたものだそうです。ちなみに本番の際には、風邪を引いていないことを条件に招待された聴衆を前にして行われたとのこと。この録音の存在は早くから知られていたにもかかわらず、版権の関係等で、発売までに19年を要したものです。

音質は1950年のTeatro alla Scala盤よりも良好。動的な1950年盤に対してこちらのRAI盤は静的とはよく言われるところですね。ひと晩に一幕一回録りとあって、後半で息切れする心配はないものの、やはり全曲通しのliveにくらべればノリが違うということでしょうが、Furtwaenglerの健康上の差もあると思われます。歌手に関しては一長一短ですが、Flagstadがさほど好きでもないHoffmannは、こちらのRAI盤に軍配が上がると感じます。



Joseph Keilberth, Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
Bayreuth, 1955
TESTAMENT SBT4 1392,1391,1390,1393(CD), TESTAMENT SBTLP3 1390,SBTLP5 1391,SBTLP5 1392,SBTLP6 1393(LP)

半世紀を経て2006年に至ってCD及びLPにて登場。やれやれ、長生きはするもんですなあ(/^^)/バンザーイ


Hans Knappertsbusch, Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
Bayreuth, 13.08(R), 14.08(W), 15.08(S), 17.08(G), 1956
SEVEN SEAS KICC2274~88(CD), GM1.001(CD), MUSIC & ARTS CD4009(CD), ORFEO C 660 513 Y(CD)

MUSIC & ARTS盤には公演日の記載がありませんが、同じ録音でしょう。



Hans Knappertsbusch, Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
Bayreuth, 26.07(R), 27.07(W), 29.07(S), 31.07(G), 1957
SEVEN SEAS KICC2128~42(CD),

Knappertsbusch、Bayreuthの“Ring”といえば、最初にdisc(LP)が出たのはこの1957年盤でしたね。海賊盤もどきの物も含めて数種類出たものを比較すると、同じ7月公演の録音でも演奏時間が違ったりしていて、これは別の録音なのか、復刻の際に生じた相違なのか、分かりませんでした。まあ、あまり気にもしていなかったんですけどね(^o^A;



Hans Knappertsbusch, Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
Bayreuth, 14.08(R), 15.08(W), 16.08(S), 18.08(G), 1957
Cetra(LP), GM1.0048(CD)

上記と同じ1957年のBayreuth公演のlive録音ですが、こちらは8月の公演を収録したもの。



Hans Knappertsbusch, Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
Bayreuth, 27.07(R), 28.07(W), 30,07(S), 01.08(G), 1958
GM1.0052(CD)



Georg Solti, Wiener Philmarmoniker
Wien, 1958~1965
LONDON (LP)

Soltiの“Ring”というよりも、録音プロデューサーJohn Culshawの“Ring”。この作品初のstereo録音であり、とくに最初に録音・発売された“Das Rheingold”の英DeccaプレスLP盤の音質の良さはオーディオ・マニアの間では有名。

史上初めての“Ring”全曲録音とあって、「わかりやすさ」を目指したのでしょう。効果音を多用したCulshawを責めるのは酷だと思いますが、live録音によるdiscの豊富ないまとなっては、どうもウソくさいというか、いかにも作り物めいた印象ですね。録音はオーケストラも歌手の声も鮮明ですが、あくまでテクニックを駆使したオペラ録音であって、本質的な意味での劇場的な臨場感は皆無です。そのおかげか、どことなくSoltiの指揮までがアニメのように分かりやすい音楽造りを志向しているように感じられ、あまり聴かないdiscです。歌手の顔ぶれはたいへん豪華で、よくぞここまで揃えたものだと思いますが・・・。


Barenboimでさえ(笑)Wagner全曲録音のdiscは揃えられたのに、Soltiはほとんど無視のHoffmannさんですからね〜(^o^;


国内盤LPの四部作セットに付いてきたライトモチーフ集(LP3枚!)はとても重宝したけどね(笑)




Rudolf Kempe, Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
Bayreuth, 1960
GM1.0027(CD)

WolfgangWagner演出の初年度の録音。KempeのBayreuthデビューの年です。

Bayreuthのオーケストラ・ピットの特殊な音響は、はじめてBayreuthを訪れた指揮者には馴染みにくく過酷だと言われますが、じっさいKempeもかなり苦労したようで、リハーサルの後、Wolfgangに「もう帰りたい」ともらしたとか。たしかに、随所で「迷い」の感じとれる演奏ですね。とくに“Das Rheingold”
と“Die Walkuere”の冴えないこと・・・。



Karl Boehm, Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
Baureuth, 1966,1967
PHILIPS (LP), PHILIPS 446 057-2(CD)

PHILIPSによる正規録音です。

K.Boehm最盛期の記録であると同時に、戦後Byreuthが1950年代を経て迎えた頂点のひとつでもあると思います。




Herbert von Karajan, Berlin Philmarmonic Orchestra
Berlin, 1966~70
DGG (LP)

このころからのKarajanのやり方なんですが、ザルツブルク音楽祭で4年がかりで“Ring”を上演するにあたり、リハーサルを兼ねてスタジオ録音されたもの。最初の“Die Walkuere”が1966年8,9,12月録音で1967年にザルツブルク復活祭音楽祭で上演、次の“Das Rheingold”は1967年12月録音で1968年に上演、続いて“Siegfried”が1968年12月,69年2月録音で1969年上演、最後に“Goetterdammerung”が1969年10,12月,1970年1月録音で1970年に上演されています。



Lorin Maazel, Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
Bayreuth, 1968
SHINCHOSHA SCD008-03~16(CD)



Wolfgang Sawallisch, Orchestra di Roma della RAI
Roma, 1968
MYTO 054.316, 054.317, 055.318, 055.319(CD)

SawallischのRAI客演時のlive録音。演奏会形式らしいですね。



Hans Swarowsky, Grosses Symphonieorchester
1968
WELTBILD CLASSICS 703769(CD)

“Lohengrin”と同じ。オーケストラにも歌手にもこれといって特徴のない演奏です。オーケストラが弱く、ソロには表情らしい表情がない。全曲聴き通すのが苦痛(-_-;

日本の岡村喬生さんがファーゾルト(“Das Rheingold”)とファーフナー(“Siegfried”)で出演していますね




Pierre Boulez, Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
Bayreuth, 1979~80
PHILIPS (LP), PHILIPS 070 901-1~912-1(LD), PHILIPS 070 401-9~404-9(DVD)

1976年、Bayreuth100年祭の年にP.Boulezと演出家Patrice Chereauのコンビで上演された“Ring”は、その後毎年演出に細かな修正が加えられ、結局このプロダクションは5年間継続上演されました。これは“Goetterdammerung”のみ1979年のアナログ録音で、ほかの三作は1980年のデジタル録音です。おそらく、1980年の“Goetterdammerung”はなにかよほどの問題があって、使えなかったのでしょう。

一時代を画した上演(演出・演奏)の記録ですね。初演時にはChereauもBoulezも囂々たる非難を浴びて、ところがその後演出は手直しを加えられ、指揮も尻上がりに良くなって、最後の年には大成功へと導いた、この二人の功績は讃えられるべきでしょう。オーケストラのなかには、Boulezが指揮するならと2年めからBayreuthに来なくなった奏者も少なくなかったとか。そのひとり、あるBayreuth常連の日本人ヴァイオリニストがインタビューにこたえて「Wagnerをドイツ人の手に戻すべきだ」と言っていたのを思い出すにつけ、Chereau、Boulez、そしてこの二人を起用し(続け)たWolfgang Wagnerに対しては最大級の賛辞を贈りつつ、日本人としてこの独善的かつ偏狭な演奏家の発言を恥じますね。その演出は、いわゆる前衛的な演出の先駆けとも言うべきものですが、近頃の演出が袋小路に入り込んで行き詰まりを感じさせるのに対して、Chereauのそれは、いま観てもまったく古びていません。よく、雑誌などで「歴史的名演」などということばが(気軽に)使われていますが、あえて言えばFurtwaenglerやKnappertsbuschよりも、このChereau、Boulezによる画期的な上演こそ、「歴史的名演」の名にふさわしいのではないでしょうか。少なくともHoffmannは、この上演とほぼ同時代に生きていたことが、自分の人生にとって、ひじょうに幸運だったと思っています。

歌手については、H.Zednikのローゲ、ミーメ(“Siegfried”)がすばらしく、D.McIntyreのヴォータンも演出のコンセプトによく合っています。またG.Jonesのブリュンヒルデも、高声部がやや絶叫になるものの、ラストまで息切れしないスタミナは見事なもので、とくに“Goetterdammerung”では感動的な熱演です。以上3人はChereau演出の要と言っていいでしょう。そのほかフリッカのH.Schwarz、ジークムントのP.Hofmannなどがとくに印象的。M.Jungのジークフリートも、Windgassenあたりとくらべては気の毒ですが、この歌手の最良の記録ではないでしょうか。


めずらしく留保のない、大絶賛ですね(^^*


そりゃあ、冷静に賛辞を綴るよりは、いつだって、できることなら感動したいと思っているんだよ(^^*

録音についてひと言。アナログLPで聴く限りでは、鮮やかで高分解能ではないものの、ほどよく溶け合った響きが自然で好ましいものです。音場感もまずまずで、“Das Rheingold”でのローゲのような舞台上での歌手の動きや、“Siegfried”の冒頭で物が落ちて転がる、その転がる様もよく分かりますね。




Marek Janowski, Staatskapelle Dresden
Dresden, 1980~83
Columbia (LP), BMG 74321 45418~21 2(CD)

1983年のWagner没後100年に合わせて企画・完成された、初のデジタル録音による“Ring”全曲録音。

ただし録音の傾向は4作品で統一されていません。“Das Rheingold”はひたすら分解能を追及したかのようで、細部までの見通しが良く、しかし“Siegfried”あたりになると、全体の溶け合いを重視しました、といったゆったり型。この時代、まだまだデジタル録音に関しては、コンセプトが迷走気味だった?(この点、指摘しているひとがいないのは不思議です)

大抜擢のJanowskiは立派に大役を果たしたと言っていいでしょう。東独を中心に集められたベテラン・新進の歌手たちも健闘していて、全曲にわたって統一感があります。ただし“Goetterdammerung”になると、あらゆる要素を消化しきれてはいないのかなとも思います。これは逆に作品の性格について考えさせられる問題でもありますね。
ここで何人かの歌手に触れておくと―
“Das Rheingold”でローゲ、 “Siegfried”でミーメを歌っているP.Schreier。Hoffmannが目にしたいくつかの批評では大絶賛されていましたが、わざとらしい作り声で、その声も「汚い」の一語に尽きます。ここでの歌唱は、ことさらにオペラ的にと「熱演を演じている」といった印象で、ローゲやミーメのキャラクターよりも役者Schreierの大見得ばかりが前面に押し出されており、「おれが、おれが」と出しゃばってすっかり浮いてしまうという、これはHoffmannのもっとも嫌いなタイプ。
ブリュンヒルデ役のJ.Altmeyerは弱く、“Die Walkuere”ではジークリンデ役のJ.Normanに圧倒されている始末、“Siegfried”、“Goetterdaemmerung”では流し気味の雑な歌になっているのがおおいに興を削ぎますね。




Takashi Asahina, New Japan Philmarmonic
Tokyo, 1984~87
Yamano YMCD5001/15(CD)

朝比奈隆指揮による新日本フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会ライヴ録音。演奏会形式による公演で、4年間4回にわたり、1回に一作ずつ演奏されたものです。

この4回の公演は、Hoffmannも会場で聴いていました。かなり熱狂的なファンがいる指揮者ですが、Hoffmannはほかの機会にも何度か聴いたことがあるものの、格別すぐれた指揮だと思ったことは一度もありません。例の「教祖様」によれば古き良きドイツ音楽の伝統を伝える巨匠だということらしいんですが、「伝統的なドイツ音楽(演奏)」って、アタックは全部「ウァン」と歯切れ悪く、こんなに鈍いものなんでしょうか。「ピアニシモを強調しすぎない」って、オーケストラが下手なので「強調できない」のでは? あまり過激なことは言いたくないんですが、耳が遠い老人って、全部がfかffの、こんなしゃべり方するんですよね。
仮にそうしたものがドイツ音楽の伝統的な演奏だったとして、どうして現代日本のオーケストラがそれを猿真似しなければならないのでしょうか。

それはともかく、Bayreuth録音をはじめとする世界一流の指揮者・歌手たちによる録音とともに並べると、やはり聴き劣りがするのは仕方がありません。と同時に、歌手のなかには、日本にもこれだけ個性的なキャラクターの歌手がいるんだなあと再認識させてくれる人もいて・・・(笑)しかしまあ、日本人による初の“Ring”全曲録音である、という意味では価値がある・・・かもしれませんね。




Bernard Haitink, Chor und Symphonie-Orchester der Bayerischen Rundfunks
Muenchen, 1988, 1990, 1991
EMI CDS7 49853 2, CDS7 49534 2, CDS7 54290 2, CDS7 54485 2(CD)

Die Toteninselさんからすばらしい「寸感」をいただきました。ありがとうございます!

 ハイティンクの演奏は、ヴァーグナーのスコアから長年の澱や手垢を払拭し、先入観なしに本来の純音楽的な姿を浮かび上がらせることに専念しているようです。重厚さや余計な肉付けは極力廃されており、ひとつひとつのライトモティーフの劇的な意味を強調することよりも、それらを純器楽的に、シンフォニックな音響として処理し、ヴァーグナーの楽劇を、一種のオーケストラ・オペラとして再現しています――さらに極言するなら、「ニーベルンクの指輪」四部作を、巨大な4つの楽章からなる、声楽付きの交響曲と見做している観すらあります。このように芝居ががったドラマ作りが見られない反面、その当然の帰結としてオペラティックな表現力には乏しく、音によって視覚的なイメージを喚起する力に欠ける傾向があります。さらに、全体に小ぢんまりと纏まった、閉塞的・密室的な印象を与え、ただただ精緻で美しい箱庭を連想させるとも言えます。また、テンポは概ねゆっくりしているにもにも拘らず、どこかせっつくような焦燥感があり、音を作りすぎてリズムが不自然になる箇所も散見されます。

 管弦楽の合奏の精緻さ、響きの精妙さは驚異的と言うほかありません。サウンドに余分な色付けは一切無く、大音量になっても混濁することなくすべてが綺麗に揃い、しかも金管楽器が強奏する箇所でもそれらが突出することなく、どのセクションもまろやかにブレンドされた響きを聴かせています。オーケストラの合奏の完璧さという点では、過去のいかなる「リング」をも凌駕しているのではないでしょうか。

 「ラインの黄金」でまず驚かされるのは、テオ・アダム(アルベリヒ)の凄まじい衰えぶりです。第1場の前半にはまだしも歌を聞かせていたが、徐々に力が尽き、第3・4場ではがらがら声を振り絞って音程を保つのがやっとという有様になります。ジェイムズ・モリスのヴォータンは良く響く声で、押し出しは立派ですが、その割には厚みと奥行きが感じられず、俗っぽい表現に終始しています。リポフシェクのフリッカは役作りがやや中途半端、アンドレアス・シュミットのドンナーは迫力に欠け、リドルのファーフナーは声の威力はあるが一本調子に過ぎ、ミーメ役のハーゲは語り口は巧妙だが既に盛りを過ぎて声量が不足します。チャンマーのファーゾルト、ザイフェルトのフロー、ラッペのエルダは好演していますが、中でも見事な出来栄えを見せているのがハインツ・ツェドニックのローゲで、役作り、表現力、発声の正確さ、引き締まった声の張り等々で他を圧しています。

 「ヴァルキューレ」は、表現の明晰さ精緻さだけでなく、4部作の中では最もオペラ的な表現力に富んだ演奏。特に第1幕の清新な叙情美には魅了されずにはいられません。チェリル・スチューダーのジークリンデは、輝かしく透明感のある歌声、安定した歌唱力で圧倒的な存在感を示しています。ゴールドベルクのジークムントは、出来不出来の差の激しい彼としてはきわめて上出来の部類ですし、サルミネンの俗っぽい歌唱もフンディングという役柄ではあまり違和感はありません。第2幕・第3幕ではモリスが威厳のあるヴォータンを演じていて、「ラインの黄金」よりは好感が持てます。幕切れの「魔の炎の音楽」では、ハイティンクの雄渾壮大な表現と相俟って、4部作中で最高の劇的昂揚に達します。問題はマルトンのブリュンヒルデで、その力ずくで荒っぽい歌唱は、他の歌手たちとは明らかに異質で、一歩昔に逆戻りしたような錯覚を与えます。ミスキャストと言えるでしょう。

 「ジークフリート」は、4部作中シンフォニックな表現の傾向が最も顕著な演奏。音の響きの美しさと表現の精緻さを志向するハイティンクの指揮ぶりは相変わらずですが、ドラマの喚起力や劇場的な拡がりが欠如しているために、全体にややちんまりとした印象を与え、表面的な彫琢にのみ終始する傾向が見られます。8人の歌手たちの中では、イェルザレムのジークフリートが特筆に価します。鼻に掛かった暗めの声は相変わらずですが、ドラマティックで力感のある表現と、言葉の明瞭さは、高く評価できます。モリスのさすらい人は、かつてのジョージ・ロンドンを思わせる粘っこい声が好みを分けるところ。ペーター・ハーゲ(ミーメ)はスタミナが続かず、後半は声の疲れを補うためか力が入りすぎ、歌のフォームを崩しがちになる傾向があります。テオ・アダム(アルベリヒ)は、喉の状態がかなり恢復し、老獪で憎々しい語り口で存在感を示しています。第2幕第3場のアルベリヒとミーメの醜い口論は、2人の役者としての力量を余すところなく示すもの。テ・カナワの森の小鳥は美しいが、歌い崩しが気になります。ラッペのエルダは、ヤノフスキ盤のヴェンケルに肉薄する見事な出来栄え。マルトンのブリュンヒルデは「目覚めの場」の第一声から大味な荒っぽい歌唱で、大いに幻滅させられます。この人は声を張り上げる際に音程が少しふらつくので、まるで酔っぱらいのように聞こえてしまいます。本来なら、第3幕第3場で感動的に盛り上がる筈なのですが。

 「神々の黄昏」に至って、合奏の完璧さと音響の美は絶頂に達した観があります。そして最初に述べたハイティンクの演奏の特性(あるいは問題点)のすべてがこの曲にも当てはまります。マルトンのブリュンヒルデは相変わらずで、「ブリュンヒルデの自己犠牲」の荒っぽい絶叫など、何とかならないかと思う。そのほかの歌手たちは概ね好演していて、ブントシューのグートルーネとリポフシェクのヴァルトラウテはさすがに芝居上手で好感が持てますし、ハンプソンはグンターの気弱な性格を見事に表現し、トムリンソンのハーゲンは強烈な個性には欠けるものの安定した出来栄え、イェルザレムのジークフリートも前作に引き続き好調です。テオ・アダムのアルベリヒは、それまでの作品に較べ歌の難易度があまり高くないお蔭もあってか、声に余裕があり、彼のヴァーグナー録音の掉尾を飾るに相応しい絶妙の歌唱を聴かせてくれます。また合唱の素晴らしさも特筆しておくべきでしょう。
 なお、第1幕第3場の雷鳴や幕切れの壮大な瓦解音はショルティ盤の影響によるのでしょうが、ハイテインクの表現とは全く相容れない、無用の夾雑物と言わざるを得ません。




James Levine, Orchestra and Chorus of the Metropolitan Opera
New York, 1988~1991?
DGG 471 678-2(CD)

舞台上での出来事を眼前に浮かばせるような、微妙なテンポの変動・伸縮など、上のHaitink盤とは好対照です。ところが、かえってその手慣れた処理からは、どうもHoffmannの場合、いかにも「手際よくまとめた」といった印象しか得られないんですね。



James Levine, Orchestra and Chorus of the Metropolitan Opera
Otto Schenk
New York, 1989~1990
DGG 073 043-9(DVD)



Daniel Barenboim, Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
Harry Kupfer
Bayreuth, 1991,1992
WPLS4045~55(LD), Warner Classics 2564 62318-2,2564 62319-2, 2564 62320-2,2564 62321-2(DVD)


Wolfgang Sawalisch, Chor und Orchester der Bayerishcen Stattsoper
Muenchen, 1993
EMI CZS 7243 5 72731 2 1(CD), TOBW-93008~15(DVD)

Nikolaus Lehnhoff演出によるプロダクションで、映像もLD、DVDで出ており、HoffmannもLDを持っていたんですが、売り飛ばしちゃいました(^^;

(追記)
・・・とか言いながら、DVDのセットが値下げになったので買っちゃいましたよ(^o^A;;




Guenter Neuhold, Badische Staatskapelle
1993~95
BRILLIANT CLASSICS 99625(CD)



Gustav Kuhn, Orchestra del Teatro di San Carlo
1998~2001?
ARTE NOVA 74321 87075 2(CD)



Hartmut Haenchen, Residentie Orchestra, Netherlands Philmarmonic Orchestra, Rotterdam Philmarmonic Orchestra
Pierre Audi
Nederlandse Opera, 1999
OPUS ARTE OA0946D, OA0947D, OA0948D, OA0949D(DVD)



Lothar Zagrosek, Staatsorchester Stuttgart
Schloemer, Nel, Wieler, Morabito, Konwitschny
Stuttgart, 2002
TDK TOBA0054,0055,0056,0057(DVD)

四部作をそれぞれ別の演出家の手に委ねた上演の記録です。

とにかく演出が気に入りません。どうこがどう悪いなどと言い出したらきりがない。四人の演出家を起用したのもアイデア倒れ。“Das Rheingold”で「う〜ん・・・(^^;」、“Die Walkuere”で「おいおい・・・(・・;;」、“Siegfried”で「・・・(-_-;;;」、“Goetterdammerung”に至って「やれやれやっと終わった・・・(-。-;;;;」てなもんで、ひと言「退屈だった」とだけ言っておきます。歌手については・・・もうどうでもいいです(苦笑)

映像(メディア)に記録して残しておく価値があるとも思えないよ、こんなの・・・


指揮とオーケストラは悪くありませんから、CDで音だけお聴きになってみてはいかがでしょうか?(^^;


(追記)
このDVDを観ると、
MuenchenのNikolaus Lehnhoff演出が早くも陳腐化して古臭く感じられることに気が付きます。にもかかわらず、Lehnhoff演出の嫌いなHoffmannでさえ、Lehnhoffのほうがまだしも・・・と思えるのがおもしろいですね。



Bertrand de Billy, Symphony Orchestra of the Gran Teatre del Liceu
Harry Kupfer
Barcelona, 2003, 2004
OPUS ARTE OA0910D, OA0911D, OA0912D, OA0913D(DVD)



Michael Schoenwandt, Royal Danish Opera
Kasper Bech Holten, Andersen, Byriel, Jonhnson, Klaveness, Morgny, Reuter, Sjoeberg, Stene, Theorin
Copenhagen, may 2006
DECCA 074 3265, 074 3266, 074 3269, 074 3272(DVD)