024 「ペティコート作戦」 ”Operation Petticoat” (1959年 米) ブレイク・エドワーズ




 本日取り上げます映画は戦争コメディ、「ペティコート作戦」 ”Operation Petticoat” (1959年 米)でございます。

 字幕の入ったBlu-ray discも出ていたようですが、私の手許には米ARTISANのDVDしかありません。これはRegions1、日本語字幕がないので、私の無責任訳になりますが、紹介したいと思います。ナーニ、無責任訳とは言っても、むかーし、レンタルVHS videoで字幕版を観た記憶があるので、大筋は把握しております。



 出演はケーリー・グラント、トニー・カーティスほか。

 物語は潜水艦Sea Tiger号が廃艦となる日、初代艦長であったマット・シャーマン(ケーリー・グラント)が艦を訪れての回想としてはじまります。

 1941年太平洋戦争初期、アメリカ海軍の潜水艦Sea Tiger号はフィリピンで日本軍の爆撃を受け、ろくに戦場にも出ないまま撃沈同然ズタズタボロボロの有様。シャーマン艦長はどうにかこうにか司令官の了解を取り付けて艦の修復にかかりますが、なにせ損傷著しく、また物資不足はいかんともしがたい・・・。

 

 そんな折りに配属されてきたのが新任の副官ホールデン大尉(トニー・カーティス)。まるで絵に描いたような海軍士官ぶりに、「艦長、見てください(笑)」「なんだ、ありゃあ?」と一同大笑い。



 訊いてみれば、これまで軍事パレードの企画や宣伝のための連絡担当だったとか。「連絡担当? どこと?」「ハリウッドです」 提督夫人とはダンスの選手権で2年連続優勝したという前歴の持ち主。「艦に乗った経験は?」「駆逐艦に・・・手違いだったようで一週間で呼び戻されました」「・・・提督夫人が選手権で困るからだな」 ちなみに向こうにいる現地人、大尉の荷物を持っていますが、スーツケースとゴルフバッグです。

 ところがこのホールデン大尉がすばらしいアイデアマン・・・というか、かっぱらいの名人で、刑務所が爆撃されてシャバに出て来た脱獄囚を相棒に、不足していた物資をあれよあれよという間に調達してきます。それも軍の倉庫荒らしにはじまって、軍用車のハンドルやら洗面所の排水パイプやら、 あげくの果ては司令官の部屋の・・・



「私の部屋の壁を返してくれ!」「まだありますかどうか・・・」「・・・せめて窓だけでも」 ちなみにこのホールデン大尉の扱いは典型的なトリックスターですね。

 ちなみに上の画像のシーンの後、敵機来襲に際して「かき入れ時だ!」とばかりに、この部屋からさらなるかっぱらいを・・・司令官曰く「我々はSea Tiger号出航の犠牲者なんだ」

 

 どうにかこうにか出航にまでこぎ着けて、ホールデン大尉が雇った祈祷師の舞に送られて・・・とたんにエンジンが煙を噴いて、祈祷師も「こりゃあダメだ」



 しかも立ち寄った孤島で撤退し損ねた5人の看護兵を拾い、やむを得ず同行させることになり・・・

 

 さっそく口説きにかかるトリックスター(笑) 一方、苦労性の艦長は、「シガレットを忘れて・・・」「これ?」「まあ、失礼!」「・・・たまにはタバコ味のコーヒーもいいさ」 おかげで艦内は大混乱、やれ「機関室まで来てください」、やれ「食堂に来てください」、「とにかく来てください」・・・おまけにそそっかしいクランドル中尉に振り回されて、艦長大忙し。なお、このクランドル中尉と狭い通路ですれ違うのはかなりのキケン(笑)を伴うんですね。上の画像ではわかりにくいので、本日の一番最後の画像でご確認ください。



 機関室に「ここならよく乾くから」と洗濯物を干すのは女性少佐。「乾いたら呼んでね♪」「おれは洗濯屋じゃねえぞ!」「床が油で汚れてるから落とさないでね」「ふんがー」



 女性ばかり追いかけていて一度は外出禁止とされたホールデン大尉ですが、物資の調達となれば「頼れるのはあの男しかいない」・・・しかしペンキは赤と白しか手に入らず、しかたがない、とりあえず混ぜて塗ってみよう・・・「ピンクだと! 海軍生活25年、ピンクの潜水艦たぁはじめてだぜ」



 それでも盗んできた豚で新年のパーティ。楽しそうです。看護兵「ピンクってすてきね」「・・・よしてくれ、食欲がなくなる」  だれからともなく、「蛍の光」の合唱になって、なんとも切ない哀愁が漂います。



 機関士と女性少佐のやりとり―「そんなのじゃダメじゃないの」「てやんでぇべらぼうめ、オンナに機械が分かるか!」「私の父は技師だったのよ、そこ、スプリングがないと動かないわよ」「わかってらぁ、部品がないからありあわせなんでい!」



 ・・・で、この女性少佐が自前の材料で直しちゃいます。「快調でしょ」「なんてこった・・・こっ、こいつをすぐにはずせ!」「なによ、動いてるんだからいいじゃないの!」

 

「艦長、これを見てください!」(ガッコン、ガッコン)「う~ん、とりあえずこのガードルを見張ってろ」「ふんがー」(ガッコン、ガッコン)



 ところが時がたつにつれ・・・「この部品、交差してつないでみたらどう?」「ふん、ばかばかしい・・・ま、一応やってみるけどな」「高圧パイプがいるわね」「それならあっちにある」「私がとってくるワ♪」

 そうこうする間にも、ドサクサに乗り込んできた民間人一家の母親がお産をして、水兵たちはみんな父親気分に・・・

 

「艦長、おむつをつくったんです!」「・・・よかったな」 「つかまえた!」「なにを?」「あ、子供と鬼ごっこを・・・」「・・・続けろ」 じつに人間のできた艦長ですね(笑)



 東京ローズの放送を聞いているところ―「ピンクの潜水艦さん、なに考えてるの? 目立ってるわよ~それでは、音楽をどうぞ♪」「・・・まあ、目立つから味方もすぐ救援に来てくれるさ」 しかしこの放送を聴いた米海軍、「これは日本軍の罠だ」と判断して、ピンクの潜水艦を見つけたら即時攻撃せよとの命令が下り・・・

 

 味方の攻撃を受けて、「じーざすくらいすと! さなばびっち!」(ドカーン、ドカーン)「赤ん坊を泣かすなよ」 そのころ味方のソーラーには赤ん坊の泣き声が探知されて―「新型の兵器かもしれん、攻撃を続けろ」(ドカーン)



 一方機関室では(ドカーン、ドカーン)「おれぁ、女嫌いで通してきたが・・・あんたは別だよ」「ありがと」

 

 ここでアイデアマンが一計を案じます。「看護兵、全員下着を脱げ!」・・・で、これを魚雷代わりに発射ぁー! 海上では・・・「残骸が浮いてきましたよ」「残骸にしちゃヘンだ、拾ってみろ」



「このサイズは日本人じゃないぞ!」「攻撃やめーい!」 ちなみにここで手にしている下着にはクランドル中尉のネームが書いてあるんですよ(笑)



 歓呼と口笛に迎えられて入港・・・「夜まで待てばよかった・・・」と、回想はここまで―。



 いまではシャーマン初代艦長もホールデン現艦長も当時の看護兵を妻に、それぞれ二児の、四児のパパになっています。相変わらず煙を噴いているSea Tiger号を見送って・・・「不思議だ、一番エンジン、ついに直らず・・・か」


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 Sea Tigerについて

 シータイガーとは、養殖のブラックタイガーの天然種のこと。ブラックタイガーの親エビと言われることもありますね。別名「くまエビ」「からすエビ」。クルマエビ科の天然エビのなかでは最大級の大きさで、甘みがあって美味です。で、その色なんですけどね、養殖のブラックタイガーに比べて日焼けが少ないため、腹側を中心にキレイな赤色をしているんですよ。わかりましたか、キレイな赤、納得ですよね(笑)戦争コメディだからって、適当に名前をつけているわけではないってことです。


 トリックスターについて

 トリックスター trickster というのは、神話や伝説のなかで、秩序を破ることで物語を展開する者のこと。一見すると悪人なんですが、憎めない存在で、いたずら好きで盗みを行うなど朝飯前、ところがそのおかげで結果的には事態の打開や解決に至るというキーパーソンですね。「ゲゲゲの鬼太郎」のねずみ男なんかがいい例です。民話や昔話でも、危機(王女の謎)に際しては、正統的な知(王子)は必ずしも有効ではなく、案外と無知な者、無邪気な者が謎の限界を踏破することができるのです。無知といっても無能ではなくて、ずるさや狡猾さを持ち合わせ、だまし討ちの手段に長けているのですね。こうした「元型」ともいうべき人物像を配すると、物語というのは奥行きも出てくるし、万人からの納得が得られるんですよ。ここではそのトリックスターに若くてハンサムな俳優を起用しているわけで、制作者もわかっているじゃあないですか。演じる俳優にとっても、なかなか「おいしい」役柄ですよね(笑)


 蛍の光について

 新年のパーティで「蛍の光」? と思われるかもしれませんが、我が国で「蛍の光」として知られるこの歌の原曲は”Auld Lang Syne(オールド・ラング・サイン)”、古くからスコットランドに伝わる民謡です。歌詞を現在伝わる形にしたのは、スコットランドの詩人のロバート・バーンズ Robert Burns です。バーンズによる歌詞は、旧友と再会し、思い出話をしつつ酒を酌み交わすといった内容。この映画で歌われているのもバーンズの歌詞です。あらためて読んでみると、いい歌ですね。

Should auld acquaintance be forgot,
and never brought to mind ?
Should auld acquaintance be forgot,
and days of auld lang syne ?

CHORUS:
For auld lang syne, my dear,
for auld lang syne,
we'll tak a cup o' kindness yet,
for auld lang syne.

旧友は忘れていくものなのだろうか、
古き昔も心から消え果てるものなのだろうか。

コーラス:
友よ、古き昔のために、
親愛のこの一杯を飲み干そうではないか。



 東京ローズについて

 東京ローズはみなさん、御存知ですよね。第二次大戦の戦局が重大化してきた1943年の暮れ頃から、太平洋戦域の全米軍に向けて、東京から「ゼロ・アワー」と称する女性アナウンサーによる宣伝放送が流されました。目的は米軍兵士に妻子や恋人たちのことを思い出させてホームシックに罹らせ、厭戦気分を煽りたてること。当時のことですから、もちろんラジオ放送です。女性アナウンサーは数人交替制だったらしいのですが、米軍兵士たちの間ではしだいに「東京ローズ」という愛称で呼ばれるようになりました。まだ見ぬ敵国の、いつかめぐり会える大和撫子、「声のピンナップガール」というわけです。軍の上層部にしてみれば苦々しいものでしたが、米軍兵士たちにとっては、彼女に会えるときが戦争の終わるときだという希望の星、東京ローズは毎晩その声を待ちわびる憧れのスターとなっていたのです。ま、いまでいえば人気女性アナの草分けですね。

 その番組の内容ときたら、洒落っ気たっぷりのおしゃべりで、日本の放送史上現代に至るまで、NHKが流した放送のなかで、もっとも気の効いた番組だったと言ってもいいでしょう(笑)

 さあ、ニューギニアのナイチンゲールさんたちや他の太平洋孤児合唱隊の皆さんたち、もっと声をそろえてやってみてちょうだい。危険な敵の宣伝ですよ。よく気をつけてね・・・(1944.5.12)

 もっとも、東京ローズの戦後は悲劇でした。占領下の東京で、たまたまそのひとりだったアメリカ生まれの二世である戸栗郁子、本名アイバ戸栗という女性が逮捕状もなく本国に連行されて、反逆罪の名の下に起訴されました。折からのマッカーシー旋風、つまり赤狩りの時代にあって、左翼知識人の反逆性を効果的に印象づけるために、見せしめとして利用されたのですね。特赦になるまで30年もかかっています。赤狩りを背景にした情報操作によって、東京の薔薇という偶像は虚像として、引きずりおろされてしまったのですね。このあたりのことは、ドウス昌代の「東京ローズ」(文春文庫)に詳しいので興味のある方はご一読を。


(Hoffmann)



参考文献

 とくにありません。