060 「ケン・ラッセルのサロメ」 ”Salome's Last Dance” (1987年 米) ケン・ラッセル Whenever people agree with me, I always feel I must be Wrong. “Lady Windermere's Fan” ケン・ラッセルKen Russellは私の好きな映画監督でしてね、その作品はすべて取り上げたいくらいなんですが、今回は「ケン・ラッセルのサロメ」”Salome's Last Dance”(1987年 米)を―。出演はニコラス・グレイ、ダグラス・ホッジ、イモジェン・ミライス・スコット、グレンダ・ジャクソンほか。ケン・ラッセル自身もカメラマンとしてご出演。 storyは、1892年11月5日、オスカー・ワイルドが男娼館で上演禁止となった自作の戯曲「サロメ」の上演を観るという設定。言わば劇中劇の構成となっています。 耽美的にしてキッチュ感満載、グロテスクなユーモアに人間の真実の像を浮かび上がらせて、悪趣味すれすれのところを責めてくるのはケン・ラッセルの真骨頂―というか、通常運転です(笑) ヨハネ(ヨカナーン)を演じるのはオスカーの同性愛の相手であるアルフレッド・ダグラス卿(愛称ボウジー)。写真に見ることのできるふたりに、なかなか似ていますね。 ヘロデ役は右にいる娼館の主人テイラー。オスカーに葉巻を持って来たメイドが・・・。 舞台装置・美術はチープというか、キッチュというか・・・このあたりがケン・ラッセルらしいところ。音楽はドビュッシーからR=コルサコフ、グリークと、場面の切り替わりに伴ってクラシックの(通俗)名曲が次から次へと移り変わっていくのもまた、陳腐すれすれの巧みな効果。 カメラマンの役で監督自身もご出演。もともと俳優さんでもありましたからね。自作でもときどき登場しています。 サロメ役を演じているのは先に主人から怒鳴りつけられていたメイド。ヘロデには主人テイラーが扮し、ヘロディアスには女優レディ・アリスが出演しています。これを演じているのがグレンダ・ジャクソン。さすがの存在感。 これが先ほどのメイドの娘なのかと・・・ずいぶん印象が変わりますね。小柄で胸も平坦なロリータ風なのは、むしろサロメ役にはふさわしくもあります。 サロメの踊りは左のアップ映像などを除くと、男性のダンサーが(代わりに)踊っているな・・・と思っていたら、終わり近くでふたりに分裂して見えたり、最後に全裸になると、局部にモザイクがかかっていたりします。これ、当初は代役のダンサー(男性)であることを誤魔化すためにモザイクをかけているのかと思ったんですが、よく考えてみれば、アチラの国ではモザイクなんかないのかも・・・つまり、踊り自体は代役のプロに踊らせているわけですが、サロメ役のメイドはじつは男性だということだったのか・・・じっさい、ここは男娼館ですからね、そうであってもおかしくない。さらに一歩踏み込んで両性具有と見ることもできるのかも知れません。 オスカーはこの踊りをまるで観ておらず、ボウジーの稚児である少年と部屋の隅で・・・。 ヨハネの首を所望して、その首に口づけするサロメ。台本どおり、劇はサロメの死で幕―。 そこに警察がやってきて、オスカーとテイラーを逮捕します。 最後まで傲岸不遜な態度揺るがぬオスカー。 ユーモアをにじませて、世紀末ロンドンの霧のなかに去ってゆく馬車でエンド・・・。 ・・・と思いきや、手前の柵(?)を映し出すscreen。いや、別にただこれが映し出されているだけなんですけどね。だからそれがどうしたんだ、と思われるかもしれませんが、形から見て、なにをあらわしているのかは一目瞭然ですよね。これ、じつはビアズレーの絵の枠の柄によく使われている絵面なんですよ。こんど画集でもご覧になるときは、注意して探してみて下さい。それにしても、ケン・ラッセルも律儀というか、最後まで手を抜かないというか・・・(笑) (Hoffmann) 参考文献 とくにありません。 (参考) 本を読む 091 「サロメ」 オスカー・ワイルド 福田恆存訳 (こちら) (参考) 音楽を聴く 061 R・シュトラウス 歌劇「サロメ」 (こちら) |