071 「恐るべき訪問者」 ”Vernom” (1981年 英) ピアース・ハガード




 本日取り上げるのは「恐るべき訪問者」"Vernom"(1981年 英)です。



 舞台はロンドンの高級住宅街。大富豪の10歳になる息子フィリップは探検家だった祖父ハワードの影響で大の動物好き。この日もペットショップに届いたアフリカ蛇を受け取りに―。ところが運転手デイヴとメイドのルイーズはフィリップの誘拐をもくろんでいた。指示を出しているのは国際テロリスト、ジャック・ミュラー。



 一方、毒物学研究所のマリオン・ストウ博士は、取り寄せたはずのブラック・マンバがアフリカ蛇と入れ替わっていることに気付いて、ただちに警察へ通報。



 フィリップが帰宅後木箱を開けると無害なはずのアフリカ蛇ではなく、毒蛇ブラック・マンバが鎌首をもたげ、ルイーズに噛みついた。そこにブラック・マンバの行方を追跡してきた警察官がやって来て、あわてたデイヴはライフルで射殺。ルイーズは悶絶死して、ジャック・ミュラーとデイヴはフィリップとハワードを人質に、ブラック・マンバが徘徊する屋敷に立てこもることとなる・・・。

 

 映画としてはB級サスペンスといったところでしょうか。ところが、これがなんとも驚きのキャスト。ある意味、オールスター・キャストといってもいいくらい、主要な登場人物によくぞこれだけ個性派の役者を揃えたものだと感心してしまいます。国際テロリストのジャック・ミュラーに怪優クラウス・キンスキー、運転手デイヴにオリヴァー・リード、メイドのルイーズにスーザン・ジョージ。撮影現場では扱いにくいので有名な人たちです。ストウ博士にサラ・マイルズ、これまた気難しくて知られている人。警察側の指揮官にはイギリスの名優ニコル・ウィリアムソン、祖父ヘンリーに往年のタフガイ俳優、スターリング・ヘンドン。おまけに警察に協力する学者役にマイケル・ガフ!

 悪く言えば、アクの強い一筋縄ではいかないクセの強い面々。よく言えば、アクの強い一筋縄ではいかないクセの強い面々です(笑)この連中に襲いかかろうっていうんですから、ブラック・マンバもいい度胸してますな。

 

 いやあ、クラウス・キンスキー、オリヴァー・リード、スーザン・ジョージ、サラ・マイルズという時点で、監督さんはタイヘンでしたでしょうなあ・・・と思ったら、案の定、もともとトビー・フーパー監督で撮影をスタートしたところ、10日でフーパーが「ノイローゼ状態で」降りてしまったんだそうです。どうやらクラウス・キンスキーとの意見の衝突があった模様ですね。そこで呼ばれたピアース・ハガード、どうにか手堅くまとめ上げたのは、TVディレクターとして鍛えた底力でしょうか。

 

 総じて言えるのは、これだけ個性派が揃っていながら、突出した印象を残す人がいないこと。サラ・マイルズなんてむしろ抑えめの演技で、かえって存在感を際立たせています。クラウス・キンスキーはいつもどおり。この人はあまり仕事を選ばないようなところがありますが、このB級風味のサスペンスでもいいかげんな演技はしておらず、手抜きがありません。ちなみに現場ではキンスキーとオリヴァー・リードがすっかり意気投合して、撮影は和気藹々と進行したそうです。スーザン・ジョージはセックス・シンボルで名を馳せたのは少し前の時期の話、当時人気は下降気味で、さらにちょっと太り気味? 個人的にはそれでもオトナの女性の魅力は十分だと思うんですが、出番も少なくあっさり死んでしまうのは残念です。ただ、ブラック・マンバの毒に苦しむ、凄まじい形相は渾身の演技。上の、ブラックマンバ視点の映像では気の毒なので、いいお写真もupしておきましょう。


Susan George

 クラウス・キンスキー、オリヴァー・リードという凶悪な面貌に立ち向かえるだけの風格を持つスターリング・ヘイドンも存在感という点では誰にも引けをとりません。このひととサラ・マイルズが並んでいるシーンなど、そこだけ空気が違っているかのようです。警察側のニコル・ウィリアムソンも手堅い以上の演技を見せます。重厚な役柄も、派手なヒーローも、ちょっとおどけたコメディも、なんでもこなせるこの名優に警察の指揮官を演じさせたのは大正解でしょう。緊張感の持続という点で、演出にわずかな難があるかと感じるところ、このひとのおかげでラストまで弛緩させずに保てたのではないか思えます。

 

 ところで、上の画像を見て、ブラックマンバってちっとも黒くないJAN、と思っておられるかも知れませんが、このコブラ科マンバ属に分類される毒蛇の体表は、たいがいは灰色や褐色です。黒いのは口の中。アフリカ大陸のサバンナに生息しており、成長すると全長は2~3mにもなり、毒は即効性で致死率は高く、すぐに治療しなければほぼ確実に死に至ります。なかなかヘビーな奴ですね。あ、いまのはダジャレですよ(笑)

 気性は荒いと言われていますが、人間を積極的に襲うことはありません。攻撃してくるのは危険を感じたとき。世界で最も危険な毒蛇の一種とされていますが、生息密度の高い地域は比較的人間の活動範囲と重ならないため、アフリカでも被害は少ない方だと言われています。



 映画の中で、クラウス・キンスキーをここまで脅かしたのものが、ほかにいたでしょうか?(笑)


(Hoffmann)



参考文献

 とくにありません。