074 「バスカヴィル家の犬」 "The Hound of the Baskervilles" (1959年 英・米) テレンス・フィッシャー




 この「バスカヴィル家の犬」"The Hound of the Baskervilles"は 1959年、イギリス・アメリカ合作で、製作はハマー・フィルム・プロダクションによるものです。監督はハマー映画では「吸血鬼ドラキュラ」や「フランケンシュタインの復讐」などでもお馴染みのテレンス・フィッシャー。


ワトソン役はアンドレ・モレル。

 原作は表題どおりですから、storyの説明は不要ですよね。一応簡単にふれておくと―

 私立探偵シャーロック・ホームズとジョン・ワトソン医師は、ダートムーアの名門バスカヴィル家の主治医であるモーティマー医師から、先代当主の変死に伴い新たに当主となるヘンリー・バスカヴィル卿の警護を依頼される。ホームズはロンドンのホテルでヘンリー卿と面会、そのさなかにも毒グモが卿を襲った。卿が何者かに狙われている事は明らかになったが、ホームズは他の仕事がありロンドンを離れられず、代わってワトソン医師がダートムーアに同行することとなるが・・・。

 
ご覧のとおり、屋外ロケは最小限で、ほとんどがスタジオ内のセットでの撮影です。

 1959年といえば、ハマーは「フランケンシュタインの逆襲」(1957年)と「吸血鬼ドラキュラ」(1958年)と連続ヒットさせた直後。ここで米国のユナイテッド・アーティスツと共同で映画化した作品がこの「バスカヴィル家の犬」で、記念すべきホームズ映画初のカラー作品となりました。

 
独特の色彩。これぞ、ハマー・カラー!

 主要スタッフ・キャストは上記2作同様の顔触れ。監督はもちろんのこと、フランケンシュタイン男爵役とヴァン・ヘルシング役で主演してきた名優ピーター・カッシングに、フランケンシュタインのモンスター、ドラキュラ伯爵と怪物役を演じてきたクリストファー・リィのコンビです。あ、考えてみればクリストファー・リィは、ハマー作品ではここではじめて普通の人間の役を演じたんですね(笑)


ヘンリー・バスカヴィル卿のクリストファー・リィ。

 興行成績は「吸血鬼ドラキュラ」「フランケンシュタインの復讐」ほどには振るわなかったのですが、もともとカッシングはホームズファンで、しかも真面目で研究熱心な人ですから、ここで演じたホームズは「最高のホームズ」と賞賛されています。そしてこの後1968年にBBCのテレビシリーズで、1984年には単発のテレビ映画でホームズを演じています。

 そのうちBBC版はBBC DVDの3disc setを入手して観ました。

DISC 1
"A Study in Scarlet"
"The Boscombe Valley Mystery"

DISC 2
"The Hound of the Baskervilles"

DISC 3
"The Sign of Four"
"The Blue Carbuncle"


 一方、ここでヘンリー・バスカヴィル卿を演じたクリストファー・リィはこの後、ドイツ映画やイギリスのテレビドラマでホームズを演じており、またビリー・ワイルダー監督の「シャーロック・ホームズの冒険」(1970年)ではシャーロックの兄マイクロフト・ホームズを演じて、映画でホームズ兄弟両方を演じた唯一の俳優とされています。さらにその後、リィは1991年と1992年にイギリスのテレビドラマでもシャーロック・ホームズを演じています。

 私が観たのはビリー・ワイルダーの映画とイギリスのTVドラマ版の2作―

「シャーロック・ホームズの冒険」"The Private life of Sherlock Holmes"(1970年 米)ビリー・ワイルダー

「新シャーロック・ホームズ ホームズとプリマドンナ」"Sherlock Holmes : The Leading Lady"(1990年 英)ピーター・サスディ

「新シャーロック・ホームズ ヴィクトリア瀑布の冒険」"Sherlock Holmes The Golden Years : Incident at Victoria Falls"(1991年 英)ビル・コーラン


 TVMの「新シャーロック・ホームズ」シリーズでは、ワトソンをパトリック・マクニーが演じています。

 コナン・ドイルの原作についてもひと言述べておくと、この、現代ではシャーロック・ホームズものの中で名作と言われている「バスカヴィル家の犬」は、1893年に「最後の事件」で一度ホームズが葬られてから、8年ぶり、1901年に発表された新作でした。ホームズが帰ってきたものと期待して読んだ当時の読者は、事件の年代が「最後の事件」よりも以前の1889年に設定されている(この年代設定には若干の矛盾があります)ことにがっかりしたのでした。正式にシャーロック・ホームズの帰還が描かれるのは1903年発表の「空き家の事件」です。


(おまけ)

  

 ピーター・カッシングのもうひとつのホームズ、1968年のBBCテレビシリーズ"The Hound of the Baskervilles"から。いかにも当時のTV制作で、アップ映像が多くてキャプチャしてもあまり見栄えがしません(笑)

 

 こちらは1970年、ビリー・ワイルダーの「シャーロック・ホームズの冒険」での、クリストファー・リィ演じるマイクロフト・ホームズです。

  

 こちらは1990年のTVシリーズ、「新シャーロック・ホームズ ホームズとプリマドンナ」におけるクリストファー・リィ演じるシャーロック・ホームズ。中央は、ジークムント・フロイト博士です。なお、フロイト博士は次回up予定のホームズ映画にも登場して、重要な役柄を演じることになります。


(Hoffmann)



参考文献

 とくにありません。