105 「ボルサリーノ」 "Borsalino" (1970年 仏・伊) ジャック・ドレー




 原作はウジェーヌ・サッコマーノの犯罪小説"Bandits a Marseille"で、全体に明るい雰囲気フィルム・ノワールと言っていいでしょう。ジャン=ポール・ベルモンドとアラン・ドロンの共演作で、このふたりが1930年代のマルセイユの裏社会で大物に成り上がってゆく経過を描いたもの。




 もともとこの原作の映画化を思いついたのはアラン・ドロンで、ジャン=ポール・ベルモンドとの共演もアラン・ドロンが希望したものだそうです。原作の主役であるふたりの人物にはカルボネとスピリトというモデルがおり、マルセイユの関係者は、このカルボネとスピリトが暗躍した記憶を好ましく思っておらず、映画化に圧力をかけてきたため、製作側は脚本を多少変更したということです。映画の表題を有名な帽子ブランドの名をとって「ボルサリーノ」としたのはアラン・ドロンのアイデア。時代考証もしっかりしているようで、古い自動車を用意して、街路にまで手を加えており、なかなか愉しめる娯楽作品になっていると思います。ジャズ・ピアニストでクラシック奏者とのコラボも多いクロード・ボランの音楽もとてもいいですね。



 なんと言ってもベルモンド、ドロンという二大スターの共演が見どころでしょう。クールなドロン、陽性でのびのびとした無鉄砲のベルモンド。このコントラストがふたりの友情についても、いい雰囲気を醸し出しています。強いて言えば、ドロンはやや抑制気味でベルモンドに絵になるシーンを譲っているようでもあります。

 一介のチンピラがマルセイユを支配するまでにのしあがってゆく過程は、はじめのうちは単純な嫌がらせ程度であったものが、やがて命がけの抗争となって、相手も大物になってゆく。その成り上がりの過程で、シガレットはシガーに、衣装も高級になって洗練されていくのがたいへんユニークです。




 ひと頃、人間は見た目が7割とか9割とかいう本が出ていましたが、これは納得です。とくに、1970年頃であれば、少なくとも現代よりも、服装でその人の身分や職業が判別できた時代だったのではないでしょうか。そのこと自体の良し悪しではなく、衣装が身分をあらわすということは、現代でも満更まったく絶えてしまったとは言えません。privateならば自分が気に入った恰好をするのも自由ですが、見る人に与える印象を優先するべき時もあるはずです。たとえば、数年前のある謝罪会見で、明るい色のスーツにノーネクタイで登場した人を見たことがあります。また、桝添(当時)東京都知事も釈明会見でスポーティな印象のクレリックシャツを着ていました。いずれも、わざわざ印象を悪くしようとしているのかと疑ってしまう装いです。

 なお続編として1974年に公開された「ボルサリーノ2」"Borsalino and Co."があり、監督も同じジャック・ドレーなんですが、第一作のラストで死んでしまったジャン=ポール・ベルモンドは登場せず、ドロンを主役としたもの。第一作の軽妙感は望めず、その陰惨なstoryは、もはやまったく別な作品となっています。




 なお、ボルサリーノBorsalinoは、イタリアの帽子メーカー、ブランドですね。創業は1857年。中折れ帽(ソフト帽)やパナマ帽が有名です。2017年に破産手続きを行ったと報道されましたが、2016年以来ブランドの活動を管理してきたHaeres Equita社がボルサリーノ社を子会社化して、ブランドはこれまでどおりに継続されています。

 ボルサリーノが我が国で認知されたのは、やはりこの映画「ボルサリーノ」のおかげで、「ボルサリーノ」の名はソフト・ハットの代名詞のように使われています。「ルパン三世」に登場する次元大介が愛用している帽子もボルサリーノであると言われていますね。
ちなみにHoffmannさんもご愛用です(笑) 冬場だけだよ(笑)


女性が添え物の扱いなのは、フェミニズム系の人ならばどう思うか分かりませんが、時代からも、story上も、これは仕方がありませんよね(笑)


おわかりですか? 最初の画像をご覧ください、身長はおそらくドロンの方が高いんですよ。ところが、画面の中では常にベルモンドのアタマが上にあるのです。


(Kundry)



参考文献

 とくにありません。