119 「巨大カニ怪獣の襲撃」 "Attack of the Crab Monster" (1957年 米) ロジャー・コーマン




 「巨大カニ怪獣の襲撃」"Attack of the Crab Monster"(1957年 米)です。B級映画の帝王、ロジャー・コーマン監督作品。


Roger Corman

 ロジャー・コーマンRoger Cormanについて、この機会にすこしお話しておきましょう。

 コーマンは1926年デトロイト生まれ。第二次世界大戦では海軍に従軍、スタンフォード大学で経営学を学び、卒業後、20世紀フォックスに就職して下積み生活。やがて脚本を書きたくなって、その腕を磨くためにオックスフォード大学に留学。帰国後に書いた脚本により得たギャラに自己資金を足して映画2本を制作。

 1950年代初頭といえば、大手の映画会社による上映館チェーンの時代。未だ独立系の映画会社やプロデューサーなどいなかった頃に、自分の映画会社を興したわけです。だから制作するのは当然の如く、低予算のエクスプロイテーション映画ばかり。この頃制作していたのは西部劇にギャングもの。その後ドライブ・イン・シアターや大手チェーンに属さない小さな劇場を専門に制作していた独立系配給会社ARCと組みSFものを中心に制作・監督。同社は1955年にAIPに社名を変更。1960年代になってブームが去ると、カラー&シネマスコープ作品を手がけるようになりました。それがAIPのポオ・シリーズ、その第一作がヴィンセント・プライスを起用した「アッシャー家の惨劇」”House of Usher”(1960年 米)です。AIPは1970年代の後半には勢いを失って、1979年に買収されてしまいますが、コーマン自身は1970年頃にAIPとは袂を分かち、その後も若干のB級ホラー映画、SF映画などを手がけつつ、プロデュース業に軸足を置き、外国映画を買い付けて配給する事業も展開。コーマンは2024年5月9日、98歳で亡くなっています。

 その映画製作は低予算で早撮り。予定の日数を数日残して撮り終えてしまった場合、スタッフも俳優・女優も残り日数、使えるじゃないですか。そんなときにはその場でもう1本の企画を立案して、同じキャストでセットも使い回して、撮ってしまった、なんてこともありました。これはいい意味で、現場をよく知っていたということなんなんですよ。1926年生まれってことは、この「巨大カニ怪獣の襲撃」を撮ったときは31歳、「アッシャー家の惨劇」でも34歳。だから若くして、限られた予算で効率よく映画を完成させる術を身につけていたということです。大衆が求める映画を、与えられた条件で・・・ということは、安上がりで客を呼べる実入りのいい映画(笑)をよく分かっていたのです。この点では、ロジャー・コーマンこそプロ中のプロなんですよ。



 さて、storyは―水爆実験の調査団が、放射能の影響で巨大化したカニに襲われるというお話。このカニは、食べた人間の脳を自分の脳と一体化させて、生き残った団員たちになぜか鉄を介してテレパシー(?)を送って脅迫するという展開。ちょっとユニークですね。

 巨大ガニはもちろんハリボテ感丸出しなんですが、その造形は満更悪くない。いや、顔つきはどことなく人間的というか、スケベなオジサン顔なんですけどね。ちなみにこの巨大ガニの足は、出番のないキャストが裏で動かすのを手伝っていたんだとか。なんだか、それはそれで楽しそうですね。



 海に落ちた隊員を引き揚げると・・・(マネキンの)首がない!(笑)



 どどーん、と登場・・・って、巨大カニの目も甲羅に直接ついています。眼柄(がんぺい)、すなわち目の支柱はどこへいったno?



 調査隊のメンバーなんですが、一応原子物理学者、植物学者、地質学者、生物学者ということになってはいるものの、だれがなんなのか、覚える必要はまったくありません。そのなかに紅一点がいるのはお約束。水着姿でスクーバダイビングをするのもお約束、さらに言えばネグリジェ持参で就寝時に着ているのもお約束でしょう。

海兵隊員ふたりはコメディ担当。このあたりは基本を押さえているというか、ルーティンというか・・・。ちなみにこの海兵隊員、ダイナマイトをチップにポーカーをやるシーンがあるんですが、なんと葉巻を喫いながら!



 ツッコミどころは満載です。カニの眼柄がないことには目をつぶっても、またその変態っぽい(笑)目つきも許すとしても・・・首がチョン切られた隊員が落ちたのは、どう見ても足の立ちそうな浅瀬。カニが放射能で巨大化したとか、ライフルは弾丸がレントゲンのように(?)身体を突き抜けてしまうから効かないとか、食った人間の脳を一体化して情報を取り込むとか、テレパシーで語りかけてくるとか、そういった特殊能力は、はさみを調べただけで分かってしまうという都合のよさ。カニの巨大化の原因は電子が原子が・・・と言っていますが、わけが分かりません(笑)おまけに、カニは電気に弱いというので準備した放電機は、これは扇風機にしか見えません・・・というか、扇風機ですよね(笑)ああ、もう(笑)だらけだ。

 巨大カニとの闘いはただ右往左往するばかりで、ちょっとやってみては駄目だと諦めることの繰り返し。余計なアクションが多いので、さっぱり盛り上がりません。映画の尺を伸ばしているだけ? 最後は無線アンテナによじ登って、巨大カニの上に引き倒して退治するという力業でゴーインな大団円です。

 とはいえ、わりあい脚本は工夫を凝らしており、手堅くまとめているのもたしかでしょう。巨大カニの造形を楽しむことができれば、すくなくともゴミ映画ではありません。低予算ならなんでもいいということではないんですが、潤沢な予算で手際よく、鮮やかにまとめたメジャー作品よりも、こうした手造り感を残したB級作品にこそ、好感が持てるということは、たしかにありますね。とりわけ、姿の見えない巨大カニが立てるパキポキパキという音が、蟹料理を食べているときの音のように聞こえるところが、いいですね(笑)


(Hoffmann)



参考文献

 とくにありません。