124 「プレスリーVSミイラ男」 "Bubba Ho-tep" (2002年 米) ドン・コスカレリ さて本日取りあげます映画は「プレスリーVSミイラ男」"Bubba Ho-tep"(2002年 米)でござい・・・って、おもいっきりおバカなタイトルだと思われるかもしれませんが、そのとおり(笑) 原作はジョー・R・ランズデールの小説「ババ・ホ・テップ」なんだそうですが、原作があることに驚きましたわい。映画も原題はそのまんま。つまり「おバカ」なのは邦題なんですが、これはむしろ邦題の方がいい。ロックン・ロール界のキングとミイラ界のキングが老人ホームで繰り広げる壮絶な死闘!(笑)これが存外おもしろかったんですよ。タイトルで敬遠していると損ですぞ。 プレスリーは生きていた! テキサス州の老人ホームで生活している、プレスリーの「そっくりさん」、セバスチャン・ハフ。当人によればじつは彼こそが本物のエルヴィスで、かつてプレスリーのそっくりさんと入れ替わっていたのだった―と。そして自分は「そっくりさん」として地方巡業でのんびり暮らしていたところ、入れ替わって「本物」を演じていたそっくりさんの方が死んじゃった、つまり世間で死んだと思っている、あれがセバスチャン・ハフなんであると・・・なんだかややこしい話ですが、わかりましたか? ・・・しかし、そっくりさんのショーの最中、ステージから転落して腰を痛めてしまったたために、いまは老人ホームで寝たきりに近い状態。そんなおじーちゃんの言うことなんか、誰も信用しません。同室の老人もついに息を引き取り、もはや死を待つのみかとショボクレていたところ、ホームの老人たちが次々と謎の怪死に見舞われる事件が・・・これがふとしたはずみで蘇ったミイラ男の仕業であると知った、この「自称」プレスリーは、同じホームの、これまた自分こそ暗殺を逃れたジョン・F・ケネディであると称する黒人の老人とともに立ちあがります・・・いや、立ち上がるだけでも歩行器につかまってやっとの有様なんですが(笑) 栄光に満ちた過去を振り返るばかりの日々。身よりもなく、ホームでの友もボケてしまったり、一足お先にオダブツしたりで、もはや人生を諦めていた老人が、ミイラ男との戦いに臨んで、忘れていた活力を取り戻すクダリはなかなかの感動モノ。ケネディ老人はスーツを着て車椅子に座り、プレスリーはもちろんステージ衣装に身を包み、歩行器を頼りにヨタヨタと戦いの場へ赴きます。 そしてラスト、満天の星空だけが彼らの孤独な戦いと勝利を祝福してくれます。ああ、ばかばかしい(ホメているんですよ・笑) ミイラ男の造形も安っぽく、巨大な虫(スカラベ)なんかオモチャにしか見えない、かなりの低予算ぶり。これがかえってこの物語をお伽噺風に見せています。 なので、一応「ホラー映画」として分類されているこの映画、まったくもって怖くありません。老人問題(?)をにじませた感動系の映画と呼ぶのもちょっと違うなあ・・・。どちらかといえばコメディ。ハフ(エルヴィス)のモノローグは(笑)下ネタ全開。しかしもはやその「下」は機能しない(笑)深ーい諦念の境地にある老人が乾いた口調で語るばかりですからね、ちっとも下ネタに聞こえない(なので、うっかりお子様と観ないようにご注意を)。おまけにケネディを自称する老人が真剣な面持ちで語る内容がまた突拍子もない。それを聞いているプレスリーの戸惑いと疑いと驚きと気遣いと信頼の入り交じったような、なんとも言えない表情がたまりません。エルヴィス・プレスリー、セバスチャン・ハフ役を演じているブルース・キャンベルの、このちょっとした表情の妙味がこの映画を支えていると言ってもいいでしょう。 これが我が国のコメディだと、「どうだ、面白いだろう、ほら笑えよ、笑え!」とばかりに助平根性丸出しですからね。シラケちゃう。ラストシーンだってそうですよ、これまたよくありますよね、「そうらいいだろ、感動するだろ、感動しろよっ」というクサイ映画。ところがここではコメディとしても、シリアスなドラマとしても、そういった押しつけがましいクドさがない。ドラマとしては、悪く言えば焦点を絞りきれていないんですが、しかし、これは良く言えばあざとい効果造りがないということでもあります。storyだって、要約すれば上記のとおり、じつに単純なものなんですよ。至って素朴かつ自然体のドラマ。ために、効果を狙わないことが、かえって効果的なんですよ。ばかげた哀愁が漂う結末には、我知らず、しみじみとした気分に浸されてしまいました。 プレスリーという、私なんぞでも知っている登場人物を配したことで、この登場人物(老人)の背景の、かなりの部分を映画内で描く(説明する)必要がないわけです。このことが強みになっているということはあるものの、やっぱり映画造りってのはセンスなんですよ。途方もない傑作とまでは言いませんが、怪作というよりも余程まとも、佳作以上のいい映画でした。こんな映画を造るなんざ、アメリカっちゅう国も、まんざら捨てたもんじゃありません(笑) この映画、なんでもアメリカでもいくつかの映画祭で上映されただけの限定公開であったにもかかわらず、我が国でDVDが発売されたのは奇跡的? プレスリーのファンも、この映画を観て怒り出したりはしないと思いますよ。 (Hoffmann) 参考文献 とくにありません。 |