148 「ウルトラマン」 第23話「故郷は地球」 (1966年 TVM) 実相寺昭雄 怪獣はなぜ殺されるのか。 「ウルトラマン」が放映されたのは、東京オリンピックも終わって。日本が高度成長の波に乗っている頃です。新幹線が走りはじめ、至るところで土木工事が行われ、星一徹などは昼も夜も工事現場でツルハシを振るっていた・・・これはもうちょっと前かな(笑) 地に宿る霊、樹木の霊が消えゆく運命にあり、東宝映画なら熊襲の故地、阿蘇山中からはラドンが現れ、蝦夷の故地、北上川上流からはバランが現れましたが、そのいずれもが国家、すなわち自衛隊の前に滅ぼされる運命にあり、かつてヤマト王権に敗れた古代の異族たちの末裔もまた、時代の波に抗うことができないのです。「ウルトラQ」もまたそうした流れの延長線上にあります。その第1話「ゴメスを倒せ!」は、東海弾丸道路という現代の道路建設現場に古代の怪獣が現れるという話で、古代と現代の交錯でしたよね。 さて、「ウルトラマン」といえば科学特捜隊。この科学特捜隊は、本部をパリに置く国際科学警察機構に属しているとされており、軍隊ではないものの、緊急時には助言が求められています(第2話)。どうも、モデルはインターポール国際刑事警察機構のようで、これは1923年に国際刑事警察委員会として発足したものの、第二次世界大戦で形骸化、戦後、1946年に再建されることとなり、インターポールとして生まれ変わったもの。インターポールも本部はパリに置かれているんですよ。なお念のために付け加えておくと、インターポールは国連とはまったく別組織であり、国連軍(多国籍軍)を編成するような軍事的連合ではありません。戦後日本としては、架空であれ、まさか軍隊を編成してしまうわけにもいきませんから、モデルとするのにインターポールはうってつけだったのでしょう。 第23話「故郷は地球」 ムラマツ隊長はじめとするメンバーについては省略して、黒部進演じるハヤタ隊員について―これがなんとも個性の稀薄な優等生なんですよ。いや、カレーを食べていたときにスプーンでウルトラマンに変身しようとした伝説的な回(第34話「空の贈り物」)もあるんですけどね(笑)この時代のヒーローに求められたものが、品行方正で明朗な完璧さであって、人間味ではなかったということなんですよ。悩めるヒーローは「ウルトラセブン」のモロボシ・ダンの登場を待たなければなりません。あと、フジ・アキコ隊員を演じる桜井浩子が「ウルトラQ」からのスピンオフ出演であることを付け加えておきます。この時代には新しい、「働く女性」の代表です。隊員みんなのためにコーヒーを入れたりもしますが、アラシ隊員が「そんな仕事は女子供にまかせておけばいいでしょう」と言うと、チャンスとばかりに出動してしまう積極性も持ち合わせており、こうしたところは「ウルトラセブン」のアンヌ隊員よりも先進的なimageがあります。 「ウルトラマン」の第1話「ウルトラ作戦第一号」は、ベムラーを追ってきたウルトラマンが、ハヤタ隊員が操縦する偵察中の小型ビートルに激突、償いとしてウルトラマンはハヤタと一心同体となるわけです。このとき、ベムラーは湖底に潜んでいて、ウルトラマンは水辺に現れる。これは我が国に古くからある、水神にまつわる「小さ子譚」をなぞっているんですよ。ウルトラマンは小さくないじゃないかって? いやいや、ハヤタがベーターカプセルでウルトラマンに変身するとき大きくなるじゃないですか。ここで、小さい体が大きくなるんですよ。 第1話「ウルトラ作戦第一号」 また、怪獣や宇宙人に造形に関しては、未だ試行錯誤・・・と思いきや、第2話「侵略者を撃て」における、バルタン星人のような絶妙と言いたいフォルムもあります。なんと、これが撮影1本目だったそうですから、監督からスタッフに至るまで、どれほどの熱意と努力で取り組んだものかと驚かされます。 第2話「侵略者を撃て」 「ウルトラマン」では、宇宙人の侵略テーマもあるものの、多くの怪獣が、たいした目的もなく出現して、ただ本能の赴くままといった体で暴れ回るんですよ。私はこういったタイプを「狂えるピエロ」と呼んでいるんですが、暴れて町を破壊するから退治しなければならない。相手は怪獣だから話し合いの余地もない。科学特捜隊やウルトラマンが戦う理由は単純です。 それでも、この戦いに意味はあるのか、怪獣が悪なのか、という問題提起をしている例もあります。それがファンのアンケートでしばしば一位に上がる人気作、第23話「故郷は地球」です。脚本は佐々木守、監督は鬼才、実相寺昭雄。 第23話「故郷は地球」 東西冷戦下の宇宙開発競争の犠牲者であるジャミラは、台本では「それは人間に似て人間ではない。皮膚のすべては、顔から顔まで毛一本なく、まるでひびわれた如く無数のすじが血管のように入り乱れ・・・」と描写されています。シルエットは、生命維持装置を背負った宇宙飛行士を思わせるデザイン。 この宇宙飛行士ジャミラは怪物と化して故郷=地球に帰還するも抹殺されてしまうという悲劇の主人公です。科学特捜隊パリ本部から派遣されたアランは冷酷な死刑宣告人となり、イデ隊員は大国のエゴに怒りを隠せず、為政者を弾劾する台詞を吐く・・・しかし職務上、心ならずもジャミラと闘わなければならない科学特捜隊、その抹殺を代行しなければならないウルトラマン・・・。水のない星で生き抜いたため、暑さには強いが、人間の時には渇望した水がいまや弱点となっているジャミラの、悔しさとともにのたうち回るその叫び声・断末魔は、赤ん坊の泣き声を加工して作られたということです。 第23話「故郷は地球」 ジャミラという名前は、アルジェリア戦争時にフランス軍により残虐極まる非人道的な拷問を受けたアルジェリア民族解放戦線の連絡員ジャミラ・ブーパシャの裁判ルポから脚本の佐々木守が借用したもの。なお、ジャミラ・ブーパシャは当時20歳、拷問を受けて殺されたとしている情報があるが、これは誤りで、殺されてはいません。また、この事件とシモーヌ・ド・ボーヴォワール、フランソワーズ・サガンも加わった抗議運動や、国内のみならず国外からの強い批判が、アルジェリアの独立を肯定する世論形成に一役買うこととなりました。 第23話「故郷は地球」 フジ・アキコ隊員こと桜井浩子が台本を読んで涙したというこの物語、ジャミラがどこの国の宇宙飛行士であったのかは、story内では言及されていません。ジャミラが最後につかもうとした国旗はアメリカの国旗ですが、科学特捜隊パリ本部のアランは一目見てジャミラと分かり、ジャミラを弔う墓碑はフランス語になっています。ただし、ジャミラの祖国としてどこの国を想定しているのか、公式には明確にされていません。 第23話「故郷は地球」 さて、実相寺昭雄監督による「ウルトラマン」は次の6作があります― 第14話「真珠貝防衛指令」 第15話「恐怖の宇宙線」 第22話「地上破壊工作」 第23話「故郷は地球」 第34話「空の贈り物」 第35話「怪獣墓場」 さすが実相寺監督、映像も思い切った逆光や、大胆なナメの画が頻出して、科学特捜隊の隊員たちが顔の区別もつかないシルエットで語ったり、画面いっぱいに卓上のヘルメットをナメて、隙間に小さく顔をのぞかせるなどしていますね。こうした画面造りは後の「ウルトラセブン」第8話「狙われた街」で有名ですが、「ウルトラマン」のときからやっているんですよ。 第23話「故郷は地球」 桜井浩子によれば、実相寺監督は演技指導らしいことはほとんどせず、第14話「真珠貝防衛指令」、すなわちガマクジラの回では、「自分の給料より高い真珠をバクバク喰っちゃう女の敵だから、情念がメラメラする感じでやってくれ」などと言って、「何を言ってるんだろうこの監督は?」と思ったそうです。いや、それどころか、ガマクジラが真珠を食べるシーンの撮影では、ガマクジラに向かって(!)「あなたは女性が宝石を見る時の、あの貪欲な感じが全然表現できていない」と真顔で怒り、演じていたスーツアクターは途方に暮れていたんだとか(笑) (おまけ) いずれも第23話「故郷は地球」から―左はムラマツ隊長が指示を出す場面。右は徹夜で兵器を開発しているイデ隊員に、フジ・アキコ隊員がコーヒーを入れてきたところ。実相寺監督だとこういう画になります。 第34話「空の贈り物」から、有名なシーンです。カレーを食べていて、そのスプーンでウルトラマンに変身しようとするハヤタ隊員。 これも第34話「空の贈り物」から―。怪獣を追い払って、ビールで乾杯するなんていうシーンは、これ以外にはないのでは? そもそも勤務中じゃないの?(笑) 右はムラマツ隊長の台詞に注目。「尻の穴を狙って撃て!」ですからね。なんでも、撮影時には言われた方もびっくり、しかしムラマツ演じる小林昭二、「監督がそう言えって・・・」(笑) (Parsifal) 参考文献 「ウルトラマン幻想譜 【M78星雲の原点を探る】」 原田実 風塵社 「ウルトラマン研究読本」(洋泉社MOOK 別冊映画秘宝) 洋泉社 |