149 「ウルトラセブン」 第8話「狙われた街」 (1967年 TVM) 実相寺昭雄 特撮映画の先達である、「ゴジラ」の監督本田猪四郎に言わせれば、怪獣とは「自然物」としてただそこに「在るもの」であって、それは被害を与えるといっても台風と同じく悪意あるものではなく、通り過ぎるのを待つしかなく、それをむやみに排撃するのは人間のエゴである、ということです。 「ウルトラマン」では、宇宙人による侵略ものを除けば、その原理原則が、あまり顧みられることなく、あえて問い直されることもなく、ほぼそのまま継承されています。それでも、「ウルトラマン」の中から拾ってみると、たとえば実相寺昭雄監督の次の三作などは、そうした人間のエゴを、あえて問い直した側の代表と言っていいでしょう。 第15話「恐怖の宇宙線」のガヴァドン 第34話「空の贈り物」のスカイドン 第35話「怪獣墓場」のシーボーズ 前回取り上げた第23話「故郷は地球」のジャミラなんかも、これに近いものがありますね。 ところが、「ウルトラセブン」になると、「ウルトラマン」とはずいぶん異なってきます。 まず、宇宙時代を意識して、登場するのは宇宙人が多い。SF的になっている。その宇宙人は怪獣と違って、明確な意思を持っています。故に、その価値観や思考は人間に似て、「わかりやすく」なっているのは、これは物語としては進化でもあると同時に、欠点ともなっています。具体的に言えば、怪獣や宇宙人は、はっきりと地球を侵略しにやって来る、だから怪獣や宇宙人を退治することに大義名分が与えられたわけです。怪獣や宇宙人を排除することが正当化された。なので、対するのは地球防衛軍、ウルトラ警備隊。「地球防衛軍」ですよ、人間は宇宙人や侵略者から地球を防衛するという、これまた立場が明確にされたんです。 ・・・と、同時に、人間の側(のエゴ)が無批判に善とされてそれでいいのかと問い直すドラマも展開されることになります。そうして作られたのは文明批判、戦争批判を込めたドラマ性を持つエピソードです。謂わば元型から物語のスタイルを確立したものと言っていいかもしれません。 結果的に、「ウルトラセブン」は円谷プロダクション制作の特撮ヒーローもののなかでも特異な位置を占めることとなり、そのstoryは単純な勧善懲悪チャンチャンにとどまらず、いわばドラマ性が重視された内容となりました。だからファンも多い。これは脚本の功績と言えばそのとおりなんですが、どちらかというとシナリオ・ライターの、個人的な社会性とそれに基づく問題意識が前面に押し出された結果とも思えます。その意味で、これを鬱陶しいと感じるひとがいるのも事実で、それも理解できるところ。 さて、今回取り上げるのは「ウルトラセブン」第8話「狙われた街」。 「地球を壊滅させるのに暴力を振るう必要はない。人間同士の信頼感を失くせればいい。人間たちは互いに敵視し。傷付け合い、やがて自滅していく。どうだ、いい考えだろう?」 ―これはメトロン星人の台詞。この第8話のstoryも、人類相互の信頼関係というものに対して懐疑的というか、皮相なとらえ方がされている点では特徴的です。 ただし、今回このエピソードを取り上げるのは、ひとえに実相寺明雄監督の画造りをご覧いただきたいから―。 「ウルトラセブン」でいまもってファンの語り草となっている実相寺昭雄作品は次の4話― 第8話「狙われた街」 第12話「遊星より愛をこめて」 第43話「第四惑星の悪夢」 第45話「円盤が来た」 第12話はいまではよく知られているように、数奇な成り行きで永久欠番となってしまった不幸な作品。桜井浩子の悲恋が悲しい余韻を残すことも特筆しておきたいエピソードです。第43話は反・特撮志向の意欲作(挑戦作と呼ぶべきか?)。第44話はルネ・クレールの「夜ごとの美女」にあやかって、「夜ごとの円盤」というタイトルになるはずだった作品。 第8話の「狙われた街」は、実相寺昭雄と金城哲夫の唯一のコンビ作です。 もうね、とにかく映像が独特の、いわゆる実相寺ワールドが全開。とてもじゃありませんが、子供番組とは思えないリアリズムと迫真性があります。 照明は暗め、陰影が強調されて手前に障害物を入れてボカし、覗き見感覚で見せるんですが、これが登場人物の心理描写に寄与しているところが秀逸、ただのカメラアングル上の遊びではないんですよ。そこに冬木透によるモーツアルト風の音楽が乗るところもすばらしい。とにかく「よく見えない」画面とすることで、観る側はどこか不安をかき立てられるような緊張感を強いられます。 喫茶店での張り込みのシーンでは、友里アンヌ隊員ことひし美ゆり子の頬のニキビがはっきりと映って、当人を当惑させたんだとか(笑)礼儀として、アンヌ隊員にピントを合わせた画像はupしないでおきます。 ダンとメトロン星人のちゃぶ台を挟んでの会話。これは当時プロデューサーから「この手のSF特撮番組では和室ではなく洋室にせよ」と要求されたのですが、実相寺監督がこのまま押し通したおかげで、強烈なインパクトによって歴史に残る名シーンとなったもの。 効果的な夕日。ウルトラホーク1号は夕日に向かって飛び立ち、 ウルトラセブンとメトロン星人が対峙しても、水面に映る姿ばかりでなかなか直接映さない。その戦いもシルエットとストップモーションづくしで描ききるという野心的な演出です。史上もっとも美しい対決シーンでは? ちなみにアンヌ隊員の髪型がショートヘアになったのはこれがはじめて、以後、このヘアスタイルがメインとなりました。いや、監督の意図か好みか、ときどきロングに戻るんですが、例えば最終回の風になびく髪はウィッグだということです。 第49話「史上最大の侵略(後編)」 (おまけ) 「ウルトラマン」で桜井浩子演じるフジ・アキコ隊員も、「ウルトラセブン」でひし美 ゆり子(当時は菱見百合子)演じる友里アンヌ隊員も、ヘルメットがとてもよく似合いますね。なんだか、ヘルメット・フェチになってしまいそう(笑) (Parsifal) 参考文献 「実相寺昭雄 才気の伽藍 鬼才映画監督の生涯と作品」 樋口尚文 アルファベータブックス 「ウルトラセブン研究読本」 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝) 洋泉社 Diskussion Kundry:みなさんのなかに、子供の頃でも、再放送の時でもかまいませんが、ひし美ゆり子のアンヌ隊員に胸ときめかせたりした方はいらっしゃいますか? (^^;(^o^;(^~^; Kundry:やっぱり、みなさん、そうなんですね(笑) |