153 「幽霊屋敷の蛇淫」 "Danza Macabra" (1964年 伊・仏) アントニオ・マルゲリーティ




 「幽霊屋敷の蛇淫」、原題は“Danza Macabra”すなわち「死の舞踏」、1964年、伊・仏合作映画です。監督アンソニー・ドーソンとされていますが、これはアントニオ・マルゲリーティの、インターナショナル市場に向けた変名。主演は往年のホラー・クイーン、バーバラ・スティール

 前年の「顔のない殺人鬼」"La Vergine di Norimberga"(1963年 伊)がカラーだったのに、1年後のこちらがモノクロであったのは、あえてカラーにしなかったということなのかと思っていたんですが、どうもこちらの方が撮影順としては先だったらしい。なお、私が観た国内DVDはフランス語版で、台詞はすべて俳優とは別人で吹替えられています。


たしかに、いい雰囲気です。

 あらすじは―

 ロンドンにアラン・フォスターというジャーナリストがやって来て、エドガー・アラン・ポオに取材を申し込む。ポオは自分の怪奇小説はすべて事実に基づいている、とこたえるが、フォスターはこれに懐疑的。彼は同席していたブラックウッド卿から、11月1日に自分の所有する城で一夜を明かすことができたら100ポンド払うという賭を提案される。フォスターは100ポンドでは負けたとき自分には支払えないと、金額を10ポンドにして賭は成立。


ポオとブラックウッド卿。後ろでパイプを燻らせているのは、マルゲリーティ監督。

 誰もいないはずの城ではチェンバロの音楽が聞こえ、ドアの向こうでは何組かの男女が踊っている。ふと、肩をたたかれて振り返るとそこにはイタリアのホラー・クイーンと呼ばれたバーバラ・スティールが・・・じゃなくて(笑)ブラックウッド卿の妹エリザベスが立っており、彼女は自分の死後、兄は毎年こうした賭をしているのだ、と言う・・・つまりエリザベスは亡霊。

 さらに医師カルムスが現れ、フォスターの眼前ではこの城で過去に起きた殺人事件が再現される。もちろんそのカルムス医師もじつは亡霊。唐突に姿を消して、フォスター君はつげ義春の「ねじ式」よろしく「イシャはどこだ?」と逆方向に進行する機関車に乗って金太郎飴売りのおばあさんに・・・失敬、嘘々(笑)

 亡霊たちはフォスターに「次はお前の番だ」と、案外と月並みな文句を吐いて(笑)ただひとり、エリザベスのみが追われるフォスターを救おうとするが・・・。


バーバラ・スティールはやっぱり強烈な個性。

 いや、上記のように、冗談交じりで茶化したくなってしまうようなstoryなんですよ。再現される過去の殺人事件なんてどうということもない、痴情による殺人で三面記事風。ただ、それでも映像が格調を保っているから、いい雰囲気を醸し出してくるんです。これならバーバラ・スティールを起用した甲斐もあるというもの。

 マルゲリーティのインタビューによれば、かなりの自信作であった模様です。もともとは原案・脚本のセルジオ・コルブッチが監督する予定であったところ、スケジュールの都合でマルゲリーティに回ってきた企画、撮影期間はわずか2週間。ここでマルゲリーティは5台のカメラを一度に回して、編集段階で使用するカットを決めるという手法で乗り切った。これはジャンルを選ばず、タイトなスケジュールと低予算でも商業映画としての水準に仕上げる職人監督ならではの技。


賭に勝って財布から10ポンド抜くブラックウッド卿。ブラックウッドという名前はイギリスの作家アルジャーノン・ブラックウッドからとったものと思われますが、ポオもブラックウッドも、どことなく似ていないでもない。

 その実力を証明するエピソードが、アンディ・ウォーホル監修、ポール・モリセイ監督の「悪魔のはらわた」"Flesh for Frankenstein"(1973年 伊・仏)、「処女の生血」"Blood for Dracula"(1974年 米)のエピソード。もともとアンディ・ウォーホルのネームバリューに頼った映画製作だったわけですが、ウォーホルもモリセイもアングラ作品しか経験がなく、台本もないままに即興で撮影、これでは商業映画としての最低限の体裁も整わないと、プロデューサーのカルロ・ポンティが助けを求めたのがマルゲリーティ。マルゲリーティは若干の追加撮影と特殊効果、それに3D効果を担当して、いまに観ることができるカタチに仕上げたというわけ。つまり、それだけの実力派であることは、誰もが認める存在だったんですよ。

 モノクロながら陰影の深さから醸し出されるatmosohereがすばらしく、これはモノクロでかえって成功した例でしょう。じつは後にマルゲリーティ自身がセルフリメイクしているんですが、カラー撮影では思うようなムードが出せなかったそうです。


(おまけ)


左:「悪魔のはらわた」"Flesh for Frankenstein"(1973年 伊・仏)、右:「処女の生血」"Blood for Dracula"(1974年 米)

 ただいまお話しに出てまいりました「悪魔のはらわた」(左)と「処女の生血」(右)。「悪魔のはらわた」はフランケンシュタインもの。女性も作って交配させようとしたものの、男の首の元の持ち主が同性愛者だったために、ちっとも反応しないというシーン。一方の「処女の生血」は吸血鬼ものなんですが、処女の生血しか受け付けないというグルメならぬ、史上最弱の吸血鬼。血を吸ったら相手が非処女だったのでゲーゲー吐いているという情けないシーンです。マルゲリーティの職人芸を疑うわけではありませんが、残念ながらほとんど見るべきものはありません。強いて言えばウド・キアが出演していることがマニアには嬉しいかも(笑)


(Hoffmann)



参考文献

 とくにありません。