016 ウィンナ・ワルツのレコードから 表題は上記のとおりとしましたが、もちろんワルツのみならず、ポルカやギャロップなども含めて、私の好きなレコードをいくつか取り上げます。 1 ヴィリー・ボスコフスキー指揮 ウィーン・ヨハン・シュトラウス管弦楽団 美しく青きドナウ ほか 1972~1973年頃? 独Electrola 1c063-02 218、219、388、408、450、451 (6LPバラ) ウィーン・ヨハン・シュトラウス管弦楽団 Wiener Johann Strauss Orchester は、ウィーンを拠点とした、シュトラウス・ファミリーの音楽を中心に演奏するオーケストラです。19世紀後半にヨハン・シュトラウスII世らが率いたシュトラウス管弦楽団を継承する団体であると自称。現在の形はオーストリア放送局(ORF)とヴァイオリニストのオスカー・ゴーガーの主導により、1966年に、ウィーン放送交響楽団を中心としたウィーンのオーケストラから選抜されたメンバーにより結成された団体で、常設ではなく、年15回程度のコンサートと録音、演奏旅行などの折りにメンバーが集まります。初代指揮者はエドゥアルト・シュトラウスI世の孫であるエドゥアルト・シュトラウスII世が招かれ、1969年にエドゥアルト・シュトラウスII世が早世した後はヴィリー・ボスコフスキーが後任となり、上記はその時期の録音です。 ボスコフスキーのウィンナ・ワルツといえば、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とのDECCA録音が有名ですが、私はこのウィーン・ヨハン・シュトラウス管弦楽団との録音の方が好きです。vol.1からvol.6までvolumeナンバー付きで出たのはおそらくドイツだけと思われます。私が持っている範囲で確認した限りでは、英EMIは函入り4LP、仏Pathe Marconiはスリップケース入り3LP、墺盤はClub-Sonderauflageでダブルジャケット2LP、東芝の国内盤もダブルジャケットの2LPでした。 なにしろ6LPですから、収録曲は多数故省略します。また、ボスコフスキーと同オーケストラは、これ以降にもシュトラウス・ファミリーやレハールなどの録音を行っており、私が入手しただけでも5、6枚のレコードがあります。そちらはvolumeナンバーなし。その多くはdigital録音とあって、時期的にボスコフスキーの衰えか、音楽の流れが硬直気味、演奏が上記6枚に及ばないのが残念です。 ドイツ・オリジナルのLPを6枚揃えるのはなかなかたいへんで、これはこれで貴重ですが、なにも全部聴かなくてもいいや、という人には英盤か仏盤をおすすめします。仏盤はわずかに華やかな響きでこれはこれで悪くないのですが、このスリップケース入りの組み物はケースの形状故か、ときどき盤の反りが見られるので、ご購入の際は要確認です。 Willi (Wilhelm) Boskovsky 2 ヨーゼフ・クリップス指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 J・シュトラウスII:美しく青きドナウ 同:加速度ワルツ 同:皇帝円舞曲 同:南国のバラ J・シュトラウスII&ヨーゼフ・シュトラウス:ピチカート・ポルカ 1956、1957年 stereo 2枚あります― 2-1 DECCA SXL2047 (1LP) 2-2 米LONDON OS6007 BBジャケット 英プレス (1LP) ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏でどれかといえば、やはりクレメンス・クラウスを選びたいところですが、ここはあえてクリップスを挙げておきたいと思います。リラックスして聴くことのできる愉悦感では随一。LONDONの英プレス盤には〈R〉刻印があり、そのBBジャケットにも〈RIAA〉の表示あり。DECCA盤もRIAAのようです。いずれもいい音です。 なお、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏では、クレメンス・クラウスとルドルフ・ケンぺのレコードが最上位クラスですが、いまさら私などが申すまでもなかろうと思われ、今回ここには取り上げません。 3 ブルーノ・ワルター指揮 コロムビア交響楽団 J・シュトラウスII:皇帝円舞曲 同:「こうもり」序曲 同:ウィーン気質 同:ウィーンの森の物語 同:「ジプシー男爵」序曲 同:美しく青きドナウ 1956年 mono 米Columbia ML5113 (1LP) 「3」以降はウィーン以外の演奏団体で。とはいえ、このワルターの指揮にはウィーン風にリズムを刻もうという努力の跡が聴き取れます。これがアメリカのオーケストラだけに、そうした志向がわかりやすい結果となっているのですね。モノモノしくなるようなことはなく、繊細とは言いかねるものの、優美で風格漂う演奏は、これはこれで立派ですね。ちなみにオーケストラは、stereo録音でのコロムビア交響楽団とはおそらく異なる団体(メンバー)と思われます。mono後期の録音は大変上質。EQカーヴはColumbiaのようです。 4 アルミン・ジョルダン指揮 バーゼル交響楽団 レハール:金と銀 ヨーゼフ・シュトラウス:鍛冶屋 エドゥアルト・シュトラウス:テープは切られた J・シュトラウスII:クラップフェンの森で C・M・ツィーラー:ウィーンの市民 ※ Karl Michael Ziehrerとも。このレコードにはCarlと表記あり。 J・シュトラウス:皇帝円舞曲 ヨーゼフ・シュトラウス:小さい風車 J・シュトラウスII:美しく青きドナウ 1981年4月 Martis Kirche stereo 仏Erato STU71459 (1LP) ここからは、ことさらにウィーン風の演奏を意識していない好演を―作為を感じさせないながらも凡庸に堕すことのない、純情さの勝利と言いたいのがアルミン・ジョルダンです。私は近頃注目されている息子さんよりも、このお父さんの方が好きです。レハールも甘くなりすぎないし、intimateな雰囲気を保ちつつ、上質な音楽になっています。この人はなにを振ってもハズレがありませんね。 5 カール・フォン・ガラグリー指揮 ドレスデン国立歌劇場管弦楽団 ヨハン・シュトラウスII(Max Schoenherrマックス・シェーンヘル編):南国のばら 同:エジプト行進曲 同:トリッチ・トラッチ・ポルカ 同:朝の新聞 同:常動曲 同:「ウィーン気質」序曲 同:クラップフェンの森で 同:皇帝円舞曲 同:狩り 1971年12月 stereo 東独AMIGA 8 45 099 (1LP) 地味といえば地味なんですが、良い意味で職人芸です。オーケストラは渋めの響きで、存外ゴージャスな演奏を展開。リズムの刻みはたしかにドイツ風に几帳面なんですが、表情豊かで歌わせるところは思い切り雄弁に。溌剌としたポルカも印象的ながら、南国のばらと皇帝円舞曲のスケールの大きさが聴きどころです。 6 ヤーノシュ・フェレンチク指揮 ブダペスト・フィルハーモニー管弦楽団 J・シュトラウスII:「ジプシー男爵」序曲 同:ウィーン気質 同:皇帝円舞曲 同:「こうもり」序曲 同:トリッチ・トラッチ・ポルカ 同:ウィーンの森の物語 Richard Pollak (ツィター) J・シュトラウスII&ヨーゼフ・シュトラウス:ピチカート・ポルカ 1981年頃? stereo 洪HUNGAROTON SLPX 12353 (1LP) フェレンチクはハンガリー国外への客演が少なかったため、さほど知名度は高くありませんが、実力はショルティ以上ではないでしょうか。細部まで入念な設計が行き届いており、聴くたびに発見のある演奏です。リズムひとつとっても単純に刻んでいるだけではなく、優雅さのなかにユーモアが漂うのは見事というほかありません。 7 ジョージ・セル指揮 クリーヴランド管弦楽団 J・シュトラウスII:美しく青きドナウ J・シュトラウスII&ヨーゼフ・シュトラウス:ピチカート・ポルカ J・シュトラウスII:うわごと 同:春の声 同:オーストリアの村つばめ 同:常動曲 1962年1月5日 クリーヴランド mono 英Columbia 33SX1618 (1LP) もちろん原盤は米EPIC。アルバムの表題は”Magic Vienna”。米Columbia盤とCBS Sonyの国内盤も持っており、そちらはいずれもstereo盤なんですが、音質はこのmono盤の方がいいので、たいていこちらで聴いてしまいます。キリリと引き締まった響きながら、遊び心もあって、常動曲が2回演奏されているというユニークな録音。このオーケストラの響きは明るめで、楽曲によっては陽性すぎるのではないかと思うときもありますが、ここではむしろ作品にふさわしく思えます。美しく青きドナウも、細部をゆるがせにしない演奏によって、作品の格が上がったように聴こえますね。 8 フリッツ・ライナー指揮 シカゴ交響楽団 J・シュトラウス:朝の新聞 同:皇帝円舞曲 同:美しく青きドナウ ウェーバー:舞踏への勧誘 ヨーゼフ・シュトラウス:オーストリアの村つばめ R・シュトラウス:「薔薇の騎士」からワルツ 1957年 シカゴ、オーケストラ・ホール stereo 米RCA LSC-2112 (1LP) もうひとつ、ハンガリー出身の指揮者でアメリカのオーケストラによる演奏を。シュトラウス作品はA面の3曲のみ。骨格がっちり、だが四角四面にならないところがさすがライナーです。シカゴ交響楽団は後の時代よりも、この頃の方が音色がいいんですね、どことなくヨーロピアン・トーンと感じられます。昔は、アメリカのオーケストラといえば機能一点張り、といったimageが一般的でしたが、すくなくともライナー、シカゴ交響楽団には当てはまりません。これもセル盤同様、作品の格が一段上がったように聴こえます。 9 ヨーゼフ・カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 J・シュトラウスII:美しく青きドナウ 同:芸術家の生活 同:皇帝円舞曲 同:酒、女、歌 1957年 mono 米Telefunken TC8018 (1LP) 再びドイツへ。演奏はカイルベルトのバンベルク交響楽団との録音のなかでは上位に位置するもの。堂々としていて、存外洒落っ気もあります。強いて言うなら洗練の度合いがほどほどなんですが、作為的に磨き上げたような媚びがないので、むしろ好印象。米プレスのTelefunken盤であるのが残念ですが、そんなに音質は悪くありません。EQカーヴはRIAAで問題ないと感じるのは、米プレス盤で若干高域が強調気味だからかも。CDではstereoで出ていますが、LPでstereo盤が出ていたのかどうかは未確認。 10 ヘルマン・アーベントロート指揮 ライプツィヒフィルハーモニー管弦楽団 J・シュトラウスII:「こうもり」序曲 同:春の声 同:「くるまば草」序曲 同:「ジプシー男爵」序曲 同;美しく青きドナウ 同:芸術家の生活 1950年頃? mono 仏Club Mondoal du Disque CM315 (1LP) 米URANIA録音の仏プレス盤。東独ETERNAからは出ていないはず。オーケストラの響きは意外と端正なんですが、それはアーベントロートにしては、の話。作品の側から見ればテンポの変化は大胆で、速くなるところの推進力と畳みかける勢いはまことに個性的です。monoながら録音は大変良質なもので、ホールの残響は豊かに、距離感も良く、奥行きも感じられます。聴いていておもしろいことにかけてはトップクラスでしょう。 11 サー・ジョン・バルビローリ指揮 ハレ管弦楽団 J・シュトラウスII:「ジプシー男爵」序曲 同:ラデツキー行進曲 同:ウィーンの森の物語 同「こうもり」序曲 J・シュトラウスII&ヨーゼフ・シュトラウス:ピチカート・ポルカ J・シュトラウスII:アンネン・ポルカ 同:常動曲 同:美しく青きドナウ 1956年 stereo PRT GSGC2008 (1LP) あたたかい、手作り感のある演奏です。バルビローリという指揮者は、なにを振っても血の通った演奏になりますね。ここではスコアに手を入れており、若干ワルノリ気味、陳腐になる一歩手前。濃厚な表情付けで、ウィンナ・ワルツだからウィーン風に、などという考えはさらさらありませんね。それは「4」からここまでのレコードに、概ね言えることです。ウィンナ・ワルツだからウィーンの演奏団体がいちばんいい、とか、ほかの国のオーケストラではダメだというのは、単にそう言っている人のコンプレックスが露呈しているに過ぎないのです。 12 ジャック・ロススタイン指揮 ヨハン・シュトラウス管弦楽団 J・シュトラウスII:ハンガリー万歳! 同:南国のバラ ヨーゼフ・シュトラウス:とんぼ 同:愛の真珠 J・シュトラウスII:山賊ギャロップ 同:狂乱のポルカ 同:千夜一夜物語 同:エジプト行進曲 同:雷鳴と電光 同:ウィーン気質 1982年7月15-16日 St.Barnabas Church,Finchley,London 英CHANDOS ABRD 1068 (1LP) 「11」で「ワルノリ」「陳腐になる一歩手前」なんて言ったので、思い出したのがこのレコード。アルバム名は”The Magic of Vienna & Strauss”。ウィーン・ヨハン・シュトラウス管弦楽団とは別団体、1987 年にアンドレ・リュー Andre Rieu によってオランダで設立されたポップス・オーケストラです。コンサートでは冗談を言ったりして、聴衆を笑わせてくれるそうなんですが、録音ではそのあたりはわかりません・・・が、演奏は芸術的というよりは芸能といったimageですね。単純ながら都会的な洗練された演奏は、決して下手なわけではないので、これはこれで愉しめます。芸術というより芸能、というと、ロベルト・シュトルツの独eurodisc盤を思い出しますが、シュトルツ盤にはどことなく田舎風のひなびた味わいがあって、比較してみるとおもしろいかもしれません。 Johann Strauss IIとJohannes Brahms (参考) ニコラウス・アーノンクール指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 J・シュトラウスII:「ジプシー男爵」序曲 同:陽気に 同:浮気心 同;ウィーンの森の物語 同:エジプト行進曲 同:ウィーンのボンボン J・シュトラウスII&ヨーゼフ・シュトラウス:ピチカート・ポルカ J・シュトラウスII:雷鳴と電光 同:美しく青きドナウ 1986年 stereo 独TELDEC 6.43337 AZ (1LP) これは番外。有名なレコードです。アーノンクールはJ・シュトラウスをブラームスと同時代の同等の作曲家としてとらえ、スコアの忠実な再現を試みた、ということになっています。オーケストラにオランダのコンセルトヘボウ管弦楽団を使ったのも、あえてウィーン風の慣行的な崩しを回避したのであろうと・・・いや、能書きはどうでもいいんです。でもね、ウィンナ・ワルツを演奏していたのはウィーンのオーケストラだけではありません。真面目に、大きく構えて、なんならシンフォニックに、ウィーンの伝統とは無縁のところで、美しく青きドナウを演奏した指揮者やオーケストラはこれまでにも少なからずいたわけで、上にいくつも挙げてあります。問題はアーノンクールの演奏がそうした先達に及ぶものかどうかということです。 どうも、アーノンクールのレコード、CDというのは、一度は聴いてみたくなって手に取るんですが、そのdiscを手許に置いておいて二度目に聴きたくなることがなかなかないんですね。 (参考 その2) レナード・バーンスタイン指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック J・シュトラウス:美しく青きドナウ 同:皇帝円舞曲 同:ウィーン気質 同:芸術家の生活 同:春の声 1969年2月6日(美、皇)、1967年10月24日(ウ)、1965年10月12日(芸)、1968年10月24日(春) 芸術家の生活のみマンハッタン・センター、その他はフィルハーモニック・ホール stereo 独CBS 61135 (1LP) 番外をもうひとつ。バーンスタインが、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団との関係が緊密になりつつあった頃に録音したものです。バーンスタインとしては、ウィーンの音楽もできるんだという、世界に向けて、またウィーン・フィルハーモニー管弦楽団に対してのアピールであったのかもしれません。 というのも、「3」のワルター指揮、コロムビア交響楽団と同様に、ウィーン風のリズムを再現しようという志向が聴き取れるんですよ。ここまでに聴いた数々のレコードが、ことさらにウィーンの訛りを意識していないのに、アメリカではワルター、バーンスタインがウィーン風に演奏しようとしているのは興味深いところです。このレコードの国内盤が新譜で出たときには、「銅像がワルツを踊っているよう」なんて言っている評論家もいましたが、そんなにおかしな演奏ではありません。たしかに皇帝円舞曲の冒頭のリズムの刻みのような箇所がモノモノしくなっていて、つい笑ってしまいそうになりますが、旋律を高らかに歌わせるところなどは意外とまともです。ただし、録音のせいもあるのか、いかにもアメリカ的なオーケストラの響きはいかんともしがたいところですね。 レコード(LP)を再生した装置について書いておきます。 stereo盤は1970年以前のプレスはカートリッジortofon SPU GEで、1970年以降のプレスはortofon MC20で、スピーカーはTANNOYのMonitor Gold10"入りCornettaで聴きました。 mono盤再生時のカートリッジは、古いmono盤にはortofon CG 25 Dを使い、stereo時代の再発mono盤にはMC Cadenza MonoまたはSHELTERのmonoカートリッジを使いました。プレス時期が微妙な場合等、レコードによっては溝を目視で確認して判断して、よく分からない場合にortofon SPU Mono G MkIIを使ったものもあります。スピーカーはSiemensのCoaxial、いわゆる「鉄仮面」をチャンネルあたり2基の後面開放型Sachsen 202で聴いています。なお、私はmono盤でもスピーカーは2本で聴きます。 また、EQカーヴはRIAAで疑問を感じたものは適宜ほかのカーヴを試し、結果はなるべく記載しておきました。 (Hoffmann) |