019 ドビュッシー 歌劇「ペレアスとメリザンド」 ※ 所有しているdiscを録音年順に記載します。




 おそらく、市販されたdiscはcompleteしているはず。

Louis Hasselmans, Chorus and Orchestra of the Metropolitan Opera
L.Bori, E.Johnson, E.Pinza, L.Rothier, I.Bourskaja, E.Dalossy, P.Ananian
New York, 1934
GAO ESJ-487~489(3LP)


 これぞ「ペレアスとメリザンド」世界初の全曲録音。GAOというレーベルは“The Golden Age of Opera”の頭文字で、“PRIVATE RECORD/NOT FOR SALE”と表記されています。つまりprivate盤。箱はただの真っ黒い箱。解説書はなく、指揮者と歌手名はレーベルに表記されているもの。Metropolitan Operaの名はどこにも記載されていませんが、これは手許の資料から分かっていたことなので上記のとおり表記しました。


Roger Desormiere, Choroeurs Yvonne Gouverne, Orchestre Symphonique
J.Jansen, I.Joachim, H.Etcheverry, G.Cernay, P.Cabanel, L.B.Sedira
Salle du Conservatoire,Paris, 24-26 mai,1941
Pathe Marconi 1125133(3LP), EMI 0946 3 45782 2 6(2CD)


 正規の全曲録音としてはこれが世界初。1941年パリ、すなわちナチス占領下での録音です。

 この指揮者はプーランクのバレエ音楽「牝鹿」やチャイコフスキーの「白鳥の湖」(抜粋)ではかなり辛口の演奏を聴かせてくれましたが、ここでは辛口と言うよりも気品ある演奏。ほとんどの指揮者がスポイルしてしまった要素を存分に活かしていて、古さを感じさせません。このデゾルミエール盤やアンゲルブレシュト盤(二種)を聴くと、フランス音楽のフランス人による演奏というものが、じっさいには、カラヤンのような演奏とは対極にあるものと思えます。具体的に言えば、デゾルミエールやアンゲルブレシュトの方がドラマティックに聴こえるんですね。


Emil Cooper, Chorus and Orchestra of the Metropolitan Opera
M.Singher, B.Sayao, A.Kipnis, L.Tibbett, M.Harshaw, L.Raymondi, L.Alvary
New York, 13th January, 1945
Walhall WHL27(2CD), NAXOS 8.110030-31(2CD)

 エミール・アリベルトヴィチ・クーパー Emil Albertovich Cooper はウクライナ生まれのイギリスの指揮者。


Bertil Wetzelsberger, Chor und Sinfonieorcheater des Suedfunk Stuttgart
W.Windgassen, L.Wissmann, A.Welitsch, W.Hagner
Stuttgart, 1948
Walhall WLCD0125(2CD)


 ドイツ語歌唱。ななななんと、ヴィントガッセンによるペレアスです。


Ernest Ansermet, L'Orchestre de la Suiise Romande
S.Danco, P.Mollet, H.Refuss, A.Vessieres, H.Bouvier, F.Wend, D.Olsen
Victoria Hall, Geneva, April 1952
Decca 425 965-2(2CD)


 スイス出身の指揮者エルネスト・アンセルメは、「ペレアスとメリザンド」全曲録音を生涯に2度行っています。これは1952年録音で1回目。歌手はシュザンヌ・ダンコ、ピエール・モレ、ハインツ・レーフスほか。

 アンセルメはもともと数学者で、そのためかひじょうに明晰な演奏を行い、20世紀音楽もさかんに取りあげていました。そのアンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団といえば、イギリスのレコード会社Deccaに多くの録音を行っており、かつては同社のドル箱的存在だったようです。もちろん日本でも高い人気を誇っていました。中学生のとき、両親や兄君がやはりクラシック好きのN井君は、その両親の薫陶故か、ラヴェル、ドビュッシーはじめ多くの楽曲のレコードについて、「アンセルメがいちばんいい」とよく言っていたものです。

 ところが、いま聴くとオーケストラの技術はかなりお寒いもの。ストラヴィンスキーなんてまるっきり奏けていない、「春の祭典」など、奏きやすように(フレージングを変えて)奏いているといった演奏で、まるで暗闇を手探りで進んでいるみたいです。それはストラヴィンスキーに限らず・・・と言いたいところなんですが、とくにドビュッシーとラヴェルの管弦楽曲に関しては、私もコドモのころそれぞれの作品に親しんだレコードでもあるためか、古拙と言いたい味わいがあると思っています。そのほかの作曲家では、個人的にはファリャのバレエ音楽「三角帽子」、やや異色ですがシベリウスの交響曲第2番のレコードが気に入っていて、ときどき聴いています。

 ちなみにアンセルメは1969年に亡くなって、その後スイス・ロマンド管弦楽団はパウル・クレツキ、ヴォルフガンク・サヴァリッシュ、ホルスト・シタイン、アルミン・ジョルダン・・・と、そうそうたる主席指揮者を迎えていましたが、どうもぱっとしませんね。サヴァリッシュ、シュタインが振ったレコードを聴いたことがありますが、やっぱり下手(笑)一説によると、本拠地であるジュネーヴのヴィクトリア・ホールがとても響きがいいので、ここで聴くとアラが目立たないんだとか(ホントか?)。

 さて、「ペレアスとメリザンド」の演奏ですが、まずオーケストラについては1952年のmono録音の方がいいですね。音質はまったく問題なし、オーケストラが技術的に弱いのもさほど気になりません。ほかのいくつかの盤のように、いかにもフランス音楽でございますといった、作品の一面だけにとらわれた演奏ではなく、表情は多彩です。シュザンヌ・ダンコはややオーバーアクション気味ですが、歌そのものはたいへんすぐれたものです。モレも歌でかなり演技をしていて(表情豊か、ということとは別に)、これはこれで悪くありません。


D.E.Inghelbrecht. Orcheatre National et Choeurs de la RTF
C.Maurane, S.Danco, M.de Groote, C.Gayraud, A.Vessieres, M.Westbury, M.Vigneron
Theatre des Champs-Elysees, 29 Avril 1952
ina FRFO19/22(2CD)


 INA、すなわちフランス国立視聴覚研究所の音源を使用したカミーユ・モーラーヌ生誕100周年記念盤。アンゲルブレシュト指揮による1952年のシャンゼリゼ劇場における「ペレアスとメリザンド」のほか、ビゼーのオペレッタ「ミラクル博士」、2010年のモーラーヌ追悼ラジオ番組を収録。


Jean Fournet, Orchestre des Concert Lamoureux, Choerus Elisabeth Brasseur
X.Depraz, R.Gorr, C.Maurane, M.Roux, J.Micheau, A.Simon, M.Vigneron
Paris, 9/1953
Philips 434 783-2(2CD)

 当時発売されたレコードは1954年フランス・ディスク大賞を受賞しています。1958年の日本初演時にアンゲルブレシュトを招いたところ、健康状態を理由に固辞され、代役に指名されたのがフルネでした。


Herbert von Karajan, Orchestra di Roma della RAI
E.Haefliger, E,Schwarzkopf, M.Roux, M.Petri, C.Gayraud, G.Schiutti, F.Calabrese
Roma, 19.12.1954
HUNT 2CDKAR218(2CD)、FONIT CETRA ARK6(3LP)


 RAI(イタリア放送協会)ローマ放送交響楽団をカラヤンが振った1954年のlive録音。歌手は主役がエルンスト・ヘフリガーとエリザベート・シュワルツコップと、かなり異色。ヘフリガーはともかくとしても、シュヴァルツコップがメリザンドとしては異質です。第一幕の冒頭など、ミシェル・ルーのゴローがわりあい素直な歌い口なので、素朴なゴローが老練なメリザンドの手管に引っかかっているみたいです。もちろんシュヴァルツコップにとってもこの公演は例外で、その後メリザンド役は歌っていないのだろうと思いますが、この違和感は声の質の問題ではなく、役作りに起因するものだと思います。

 よく、このシュヴァルツコップとか男声のフィッシャー=ディースカウについて、「うますぎる」と批判的に言うひとがいますが、じつは「うまい」のではなくて、「つねに(歌唱上の)演技を忘れないけれど、時にあまりにも陳腐で類型的かつ紋切り型の役作りをしている」・・・ということなんじゃないかと思っています。ここでのメリザンドの役作りなんて、別なオペラ―たとえばR.シュトラウスのどれかの役でもそのまま通用しそうです。主役の二人以外は、あまり過剰な表情付けを避けた抑制気味の歌唱ですから、よけい目立っちゃうんですね。オーケストラは響きが微温的というか、どこか生ぬるい印象です。


Andre Cluytens, Chor und Sinfonieorchester des Bayerischen Rundfunks
P.Mollet, J.Micheau, H-B.Etcheverry, P.Froumenty, J.Roland, A.Dispey, M.Vigneron
Muenchen, 19.11.1955
ANDROMEDA ANDRD 9081(2CD)


 2007年、突如発売されたクリュイタンスのdisc、ミュンヘンにおける1955年のlive録音です。


Andre Cluytens, Orchestre National de la Radiodiffusion Francaise, Choeurs Raymond St,Paul
J.Jansen, V.de Los Angeles, G.Souzay, P.Froument, J.Collard, F.Ogeas, J.Vieuille
Palais de Chaillot, Paris, 4、6&15 June 1956
ALP15221524(3LP), Testament SBT3015(2CD)


 アンドレ・クリュイタンス指揮フランス国立放送局管弦楽団、歌手はジャック・ジャンセン、ヴィクトリア・デ・ロス・アンヘルス、ジェラール・スゼーほか、1956年の録音。左は英HMV(EMI)盤LP、右はTestament社から出た復刻CD。

 ジェラール・スゼー38歳のときの録音です。ジャック・ジャンセンはデゾルミエール盤やアンゲルブレシュト盤(1962年録音)でもペレアスを歌っていて、これは当たり役だったのでしょう。ロス・アンヘルスはスペイン出身ですが、ヴェルディ、プッチーニなどのイタリア・オペラから、バイロイトではエリザベートも歌った、たいへん幅広いレパートリーの持ち主でしたね。

 クリュイタンスは(ベルギー出身ですが)フランス系の指揮者としてははじめてバイロイトに招かれており、「タンホイザー」(1955、1965年)、「ローエングリン」(1958年)、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」(1956、1957、1958年)、「パルジファル」(1965年)を振っていましたね。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のはじめてのベートーヴェン交響曲全集のレコード録音は、カラヤンでもフルトヴェングラーでもなく、クリュイタンスの指揮によるものでした。

 ロス・アンヘレスは伝え聞く暖かい人柄が先入観としてあるためでしょうか、やさしさあふれる声と聴こえますね。バイロイトにおける「タンホイザー」のエリザベートもそうでしたが、どことなく母性的で、そのあたりが好みを分けそうです。ゴローのスゼーは若々しくて、これで髪に白いものが混じっているのかと思います。かなり折り目正しい几帳面な歌いぶりですね。ジャンセンはスタイルの古さ故か、やや癖のある歌唱と聴こえ、もう少し声に若々しさがあってもいいと思います。なんとなく、このひとだけ口がマイクに近いような気がするんですが・・・。

 クリュイタンスはドビュッシーよりもどちらかというとラヴェルの方が得意だったと言われており、これは私もそうかなと思います。ラヴェルだと、その上品な演奏から諧謔味やグロテスクな側面も感じとれ、作品のあらゆる要素がうまく消化されていると思えるんですが、ドビュッシーだと、とくにそのグロテスクな味わいが失われてしまっているようです。もちろんすぐれた演奏には違いないんですが、とりわけドビュッシーではスポイルして欲しくない部分が聴こえてこないんですね。オーケストラにはまだフランスのローカルな音色が継承されている時期ですが、夢幻的な美しさだけで押し通してしまったかのようです・・・と、ここまで言っては言い過ぎ(笑)クリュイタンスは私の好きな指揮者で、なかなか優秀なオーケストラもいい響きを聴かせてくれているのは言うまでもありません・・・が、やっぱり惜しいですね。

 なお、LP盤で聴くと、歌手の表情がいっそう豊かになり、音質も、奥行き、響きの厚み、各楽器から歌手の表情の抑揚まで、あらゆる点でCDを上回っています。


Jean Morel, Chorus and Orchestra of the Metropolitan Opera
V.de los Angeles, T.Uppman, G.London, G.Tozzi, R.Resnik, M.Allen, C.Harvuot
New York, 16.1.1960
Walhall WLCD 0318(2CD)

 ジャン・ポール・モレル Jean Paul Morel はフランス出身で、1950年代後半にメトロポリタン歌劇場でフランスオペラを担当した指揮者。


D.E.Inghelbrecht. Orcheatre National, Chorale Lyrique de la R.T.F.
J.Jansen, M.Grancher, S.Michel, F.Ogeas, M.Roux, A.Vessieres, M.Vigneron
Theatre des Champs-Elysees, 13.03.1962 Festival Claud Debussy
Disques Montaigne TCE8710(2CD)


 こちらはDisques Montaigneから出ていたCDで、1962年のlive録音です。歌手は翌年のBarclay盤とは一部異なり、主役3人はグランシェルが共通で、あとはジャック・ジャンセンとミシェル・ルーです。

 演奏についてはBarclay盤の項でまとめて扱います。


Vittorio Gui, The Royal Philharmonic Orchestra, The Glyndebourne Chorus
M.Roux, D.Duval, A.Reynolds, G.Hoekman, H.Wilbrink, R.Bredy, J.Shirley-Quirk
Glyndebourne, Summer of 1963
mcps GFOCD 003-63(2CD)


 Glyndebourneにおける1963年のlive録音で、歌手はDenize DuvalとHans Wilbrinkのタイトルロール、Michel Roux、Anna Reynolds、Guus Hoekmann、Rosine Bredy、John Shirley-Quirkといった陣容、指揮は(なんと)Vittorio Gui。


D.E.Inghelbrecht. Orcheatre National et Choeurs de l'O.R.T.F.
C.Maurane, M.Grancher, J.Mars, F.Ogeas, A.Vessieres, M.L.Bellary, M.Vigneron
Theatre des Champs-Elysees, 12.03.1963
Barclay 995 014~016(3LP)


 同じものを2組持っています。デジレ・エミール・アンゲルブレシュト指揮フランス国立放送局管弦楽団による仏Barclay盤です。歌手はミシェリーヌ・グランシェル、カミーユ・モーラーヌ、ジャック・マーシュほか。1963年のlive録音。

 仏Barcley盤はその後一度も再発されておらず、CD化されたこともないようです。おそらく原tapeも失われてしまっているのでしょう・・・となると、今後CD化するとしたら、いわゆる「板おこし」(レコードからCD化)で行うほかないということになります。

 演奏は基本的に1962年と1963年は大きな差はありません。オーケストラが同じにもかかわらず、Disques Montaigne盤(以下DM盤)の方が木管のソロなどひなびた味わいがあると感じられ、1963年のBarclay盤の方が音色が洗練されていると聴こえるのは録音のせいでしょうか。どちらかというとDM盤の方がホールの残響も聴き取れて鮮明なんですが、Barclay盤はオーケストラ全体の響きのバランスがよく、ソロもはみ出さないといった印象です。このあたりは好みで、DM盤の方がステージ感があっていいというひとが多いかもしれません。その意味ではDM盤の方が表情の振幅が大きく聴こえます。

 私はソロが点描画のように浮き上がってくるDM盤がなかなかおもしろく、リズムは前進するための推進力ではなく、ときどきその場で立ち止まるかのよう・・・なのは作品がそうだからなんですが、高齢による衰えでないとも言い切れません。凝集力というものではありませんね。ここでのアンゲルブレシュトの音楽造りは・・・というよりドビュッシーの音楽自体が、「展開」して中心に向かっていくと言うよりも、「解体」してうつろいゆくものと聴こえます。ちょっと聴くとかなり主情的な演奏のようですが、おそらくアンゲルブレシュトは、当時としては客観的な音楽造りの指揮者だったんじゃないでしょうか。ロマン的な身振りも感じられますが、没入型ではなく節度を保ったもので、どことなく硬質な響きはクリュイタンスや後のマルティノンにも通じるものだと思います。どうも、とくにクリュイタンスやアンゲルブレシュトといった指揮者は、響きをあたかもオブジェのように(旋律から)自立させてしまうようなところがありますね。横に流れるよりも、響きの集積が音楽になっていると言ったらいいのかな。

 歌手はどちらの録音も、いずれ劣らぬ優秀なものです。歌手のアンサンブルという点ではこの2種はほかの盤にくらべてもとくにすぐれたものです。DM盤のジャンセンも、クリュイタンス盤ではあまり良くは言いませんでしたが、こちらの方がいい出来です。クリュイタンス盤の方が1956年の録音なのに、この1963年の方が声が若く聴こえます。ただ、私はモーラーヌが好きですね。グランシェルはこれといって強烈なインパクトのある歌を聴かせるわけではないのですが、メリザンド役にはぴったりです。ほかの歌手ともども、アンゲルブレシュトのスタイルによく合っていて、アンサンブルからはみ出るひとがいないのは、このふたつの録音の大きな長所です。

 Barclay盤で残念なのは第3幕や第4幕の終結部、拍手をカットするためでしょう、最後の音が完全に消えないうちに(カッティングされている録音が)フッと切れてしまいます。第1幕と第2幕の後は続けて演奏されたためでしょうか、会場のざわめきが入っていて、第5幕の最後には拍手も入っています。なにも無理に拍手をカットしなくてもよかったと思うのですが・・・。まあ、このレコードに限ったことじゃないので仕方がありません(いや、いまどきならその部分だけゲネプロの録音でも使って編集しちゃうかな)。ただ、原tapeが残っていなかったとしたら、この部分はもう元には戻せないわけですね。


Ernest Ansermet, L'Orchestre de la Suiise Romande
E.Spoorenberg, C.Maurane, G.London, G.Hoekman, J.Veasey, R.Bredy, J.Shirley-Quirk, G.Kubrack
Geneva(?), 06.1964
Decca SET277~9(3LP), DECCA 473 351-2(2CD)


 エルネスト・アンセルメによる2回目、1964年のstereo録音で、歌手はエルナ・スポーレンベルク、カミーユ・モーラーヌ、ジョージ・ロンドンほか。オーケストラはいずれもアンセルメ自身が創設したスイス・ロマンド管弦楽団です。

 この1964年のstereo録音―こちらもメリザンドはすすり泣きとともに登場。さすがに1960年代も半ばのstereo録音とあって、音がいい分響きも美しく聴こえるんですが、細かい表情を付けた部分で技術が追いついていないところもよく分かってしまいます。どちらかというと1952年盤にくらべると、こちらは全体にやや弛緩気味。といっても、それはあくまで比較してのこと。極端に悪いというわけではなく、ただアンセルメにしては集中力に欠けるかなと思います。もったりした金管など、どことなく曲想に合っているような気もしますけどね(笑)

 歌手はゴローのジョージ・ロンドンが例によって癖のある歌で、ちょっとサディスティック? スポーレンベルクは硬質な声で、可憐なメリザンドを演じていますが、いま一歩純粋さとか無邪気さに通じるような表情が欲しいところ。あまりほめているのを聞いた(読んだ)こともなく、おそらく一般的な人気は得られていなのかもしれませんが、この声質はクリュイタンスの指揮で歌っていたら、結構いい組み合わせになったんじゃないでしょうか。ペレアスを歌うカミーユ・モーラーヌはすばらしいですね。速いパッセージでも均質を保つ美声はまったく見事なものです。1952年盤と1964年盤、全体としてはいずれの録音が上、というよりも一長一短です。


Lorin Maazel, Orchestra e coro della R.A.I. di Roma
H.Guy, J.Pilou, G.Bacquier, N.Zaccaria, A.Reynolds, A.Martino, T.Rovetta
Roma, 20-2-1969
G.O.P. G.O.P.711(2CD)


 RAIローマ交響楽団のlive、こちらはロリン・マゼールの指揮で1969年の録音。

 録音時期が異なるので同列に比較はできませんが、、カラヤンとくらべると表情の彫りが深いんですね。かなりていねいな表情付けを施していて、やや神経質なくらい―というのは、聴いていると「あ、テンポを揺らした」、「伸縮して・・・ふくらませる、と」・・・なんて具合に、やっていることがじつによく分かるんですね。もう少し自然な処理でもいいんじゃないかと思いますが、いかにもなフランス風に、単一色に塗られてその他の要素が払い落とされてしまった演奏よりは聴いていておもしろい。万人がフランス的と思うような演奏ではありませんが、ブーレーズとはまた違った明晰への意志が感じられます。ブーレーズだと「知的」という表現がふさわしいのですが、マゼールの場合はもっと感覚的です。それがややおおげさに感じられるのは、聴き手に対する(やや過剰な)サービスでしょうか。音楽がモノモノしくなる一歩手前です。徹底的にオーケストラをコントロールしようという意思が強く感じられるのですが、これは作品への共感とは別次元の話。

 マゼールの指揮を映像で見たひとなら分かると思いますが、ああいった明快な棒だと、オーケストラも実力以上に奏けちゃうんじゃないでしょうか。ここではRAIローマ交響楽団も、なかなかいい響きを聴かせてくれます。とくに低域の響きがかなり豊かで、あまり小細工しないで録音した放送用録音かもしれません。


Jean-Marie Auberson, Orchestre de la Suisse Romande
E.Tappy, G.Souzay, E.Spoorenberg
Grand Theatre de Geneve, 1969
Claves 50-2415/16(2CD)


 これはClavesから出た1969年ジュネーヴにおけるlive録音、演奏はジャン=マリ・オーベルソン指揮スイス・ロマンド管弦楽団。ペレアスはジョルダン盤でも歌っているエリク・タピー、メリザンドはエルナ・スポーレンベルク、ゴローがジェラール・スゼー。

 タピーはジョルダン盤よりずいぶん若くて・・・と言いたいところですが、若々しさはいずれの盤でもあまり変わらず。一方スゼーはクリュイタンス盤でも歌っていて、そちらは38歳のとき、この盤では50歳の円熟の歌唱です。オーケストラはなかなかの好演。


Pierre Boulez, The Orchestra of the Royal Opera House, Covent Garden
G.Shirley, E.Soederstroem, D.McIntyre, D.Ward
London, 1970
CBS Sony SOCZ452~454(3LP), CBS 77324(3LP)


 ブーレーズ、コヴェントガーデン王立歌劇場による1970年の録音です。これは私がこのオペラを聴いたはじめてのレコードです。

 曖昧さのない、分析的な音楽造りですね。オーケストラの精妙な響きがとても印象的です。ブーレーズならではと思のですが、その「曖昧さのない」ってところ、それがこの指揮者だけのものだというのなら、異論あり・・・です(笑)過去の演奏がそんなにふわふわぼけぼけの曖昧な演奏だったとは思えません。そもそもこんなに「ことば(フランス語・語り)」の重視された作品なのに・・・。たいがい、ドビュッシーといえば「印象派」っていう先入観があって、その「印象派」絵画あたりのイメージにとらわれすぎているんじゃないでしょうか。

 おそらくこのdiscで(ということはコヴェントガーデンにおける公演で)起用された歌手は、「あえて」選ばれたひとたちなのだと思いますが、ジョージ・シャーリーのペレアスは、黒人だからではなくて、声だけ聴いても、これはミスキャストじゃないでしょうか。一方のメリザンドは、この歌手の常で、どうもうまいんだかへたなんだかよくわかりません(笑)それでも、私はブーレーズならこの時代の方が好きで、ときどき取り出して聴いています。ブーレーズの指揮では、「ペレアスとメリザンド」以外なら交響組曲「春」が好きかな。


Rafael Kubelik, Chor und Symphonieorchester des bayerischen Rundfunkus
N.Gedda, D.Fischer-Dieskau, P.Meven, W.Gampert, R.Grumbach, H.Donath, M.Schiml, J.Weber
Herkulessaal der Muenchen Residenz, 16./17. November 1971
Orfeo C 367 942 I(2CD)


 ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送交響楽団による1971年11月のlive録音。歌手はゲッダ、ドナート、フィッシャー=ディースカウ。クーベリックというと、いかにも中庸を行く指揮者のようにイメージされていることがあるようなんですが、意外と濃厚な表情付けをする指揮者でもあり、作品によっては野性味さえ感じさせることがある指揮者ですね。

 liveといってもおそらく演奏会形式による録音だと思いますが、音だけ聴いていても舞台をイメージさせるのは、歌手の演技のせいばかりではないでしょう。テンポもリズムも揺れて、聴いていると結構忙しい(笑)それも、ややあざといかな、と感じさせるマゼールあたりとはまた違って聴こえるのは、なんとなくこちらの先入観もありそうですが、オーケストラの音色(必ずしも上手くはないが、やや渋)のためか? ドラマ性を志向しているようでありながら、あまり外面的にならないのもその辺の影響かもしれません。

 「ペレアスとメリザンド」の音楽を、緊張は常に抑制されていて、全曲にわたって鎮静剤みたいだと言った歌手がいましたが、個人的には、こんなに緊張感に満ちた音楽はめずらしいと思っています。この演奏でも、緊張感が途切れないのが見事です。歌手は1970年代の有名どころ(ゲッダは1960年代が最盛期か)。男声はあまり私の好みではありませんが、メリザンドのドナートはいいですね。ありがちなメリザンドを意識しすぎることのない、このひとなりのメリザンドになっているところ、好感が持てます。


Serge Baudo, Orchestre de Lyon, Ensemble vocal de Bourgogne
M.Command, C.Dormoy, G.Bacquier, J.Taillon, R.Soyer, M.P.Duteil, X.Tamalet
Auditorium Maurice Ravel de Lyon, 14-19 septembre 1978
Eurodisc 300 096-445(3LP), Victor VIC2223~5(3LP)


 セルジュ・ボド指揮、リヨン管弦楽団による演奏。1978年録音で、正規録音としては1970年のブーレーズ盤以来なんですが、この年にはカラヤン、ベルリン・フィルも録音しているんですね。当時日本で出た国内盤は限定発売で、その後再発売はされなかったようです。何組プレスしたのか知りませんが、探すとなかなか見つからないんですな、これが(笑)

 歌手はミシェル・コマン、クロード・ドルモア、ガブリエル・バキエ、ジョスリーヌ・タイヨン、ロジェ・ソワイエと、フランス人が並んで、変な言い方ですが、歌詞は発音が安定しています・・・というのは、8年前のブーレーズ盤や同年のカラヤン盤とくらべてのこと。ただ、個性は稀薄で今ひとつ魅力に乏しい・・・どことなく、万人受けしやすい、上品でやさしくおだやかなフランス音楽に予定調和してしまったようですね。「ペレアスとメリザンド」は、これで相当緊張感のある音楽だと思うんですが、どこまで聴いてもなかなかその緊張感に至らない。ボドって、ときどき火事場の馬鹿力(失礼)のような名演をものすることもあるんですが、ここではオーケストラが機能的に弱く、意あって力足りずの印象、ちょっとムードに流れてしまっているようですね。

 とはいうものの、私ははこのレコードが結構好きで、ときどき聴いています。ボドは某国営放送のオーケストラを振りに来日したこともあり、リヨン管弦楽団とも来日したことがあるはずなんですが、人気が出ないのは、やはり日本ではドイツ音楽偏重の傾向が強いからじゃないでしょうか。日本で人気のある二流、三流ドイツ人指揮者よりも余程実力のあるひとだと思うんですけどね。なお、国内盤の箱のデザインはクリムトで、独eurodisc盤はベックリンです。eurodisc盤で聴くとオーケストラも歌手の声も響きが深くなって、演奏もより魅力的に聴こえます。


Herbert von Karajan, Choeurs de l'Opera de Berlin, Orchestre Philharmonique de Berlin
F. von Stade, R.Stilwell, N.Denize, J.van Dam, R.Raimondi
Berlin, Decembre 1978
Pathe marconi 2C167-03650/2(3LP)


 ご存知カラヤン、ベルリン・フィルによる1978年の録音。おそらく多くのひとは、フランス音楽、それもドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」とくれば、とにかくしなやかで柔らかい響き、決して激することのないややフラットな抑揚の音楽をイメージするんじゃないでしょうか。カラヤンの音楽がまさにそれ。モーツァルトのオペラで女声の伴奏を振っているショルティみたい・・・と言ったら分かりますかね。とにかくふわふわというよりフニャフニャで、フンドシがゆるいというか、芯がないというか・・・思い切り陳腐な表情付けで厚化粧した演奏です。


Armin Jordan, Orchestre National del'Opera de Monte-Carlo
E.Tappy, R.Yakar, P.Huttenlocher, J.Taillon, C.Alliot-Lugaz, F.Loup, M.Brodard
Palais des Congres(nouvelle salle)Monte-Carlo, 07/1979
Erato 2292-45684-2(2CD)


 アルミン・ジョルダン指揮モンテ・カルロ国立歌劇場管弦楽団による演奏。ボド盤の翌年1979年の録音で、同傾向の演奏だったかな・・・と思ってひさしぶりに聴いてみたんですが、こちらの方がダイナミクスの幅があって動的な印象ですね。ややおおげさに言うと、なんとなく、一瞬セザール・フランクのオーケストラのように聴こえてしまうような響きです。これもドビュッシーの一面といっていいでしょう(そうか?)。オーケストラのアンサンブルもリヨン管弦楽団より上、音色も美しい。ただ、その抑揚が音楽のうねりには至らず、内面から練り上げたのではなく、外面から造り整えたように感じられます。作為的な小賢しさのない、言ってみれば純情な演奏ながら、そのためかちょっと素っ気ないんですね。

 歌手はゴローのフッテンロッハーが印象的で、主役のタピー、ヤカールも(好みは別にして)悪くない出来です。ジュヌヴィエーヴはボド盤と同じタイヨン。「ペレアスとメリザンド」のdiscを並べると、同じ歌手の名前が何度も出てくるんですね。フランスオペラとなると、やっぱり歌手の層が厚いとは言えないんでしょうか・・・。


Mark Elder, English National opera Chrus and Orchestra
Tomlinson, Walker, Dean, Howlett, Hannan, Brackenridge
london, 28 November 1981
CHANDOS CHAN 3177(2CD)

 英Chandosから出た、English National Operaによる英語歌唱版。まあ、「ペレアスとメリザンド」はコンプリートすることと決めているので入手しました。やはり英語訳詞は違和感があります。ヴェルディだってWagnerだって英語ではちょいと困るのは当然、いわんやドビュッシーにおいておや。オーケストラは明晰系で、曖昧さを排してやや太めの線で描いた印象、ニュアンスは豊か。指揮はマーク・エルダー。歌手の名前なんてろくすっぽ確かめもせず聴きはじめたんですが、ジュヌヴィエーヴの声に「おや」と思ったら、セイラ・ウォーカーでした。うまいなー。それにしてもずいぶん古い録音を発売したもので、1981年11月28日のlive収録。


Claudio Abbado, La Scala Orchestra & Chorus
F.von Stade, K.Ollman, N.Ghiaurov, J.Brocheler, P.Oace, G.Linos, A.Giacomotti, S.Sammaritano
Milan, May 28, 1986
OPERA D'ORO OPD-1195(2CD)

 アバドの指揮による、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の正規録音の5年前のスカラ座でのlive録音。


John Eliot Gardiner, Orchestra of the Opera National de Lyon, Chorus of the Opera National de Lyon
Stage Director Pierre Strosser
C.Alliot-Lugaz, F.Le Roux, J.van Dam, R.Soyer, J.Taillon, F.Golfoer, R.Schirrer
Lyon, 1987?
IMAGE ID9311RADVD(DVD)


 室内劇。光の使い方がなかなか美しい舞台です。ガーディナーの指揮はやや蒸留水的で、旨味もうひとつといった印象ですが、歌手は総じて優秀。Region1、NTSC盤。




John Carewe, Orchestre Philharmonique de Nice, Choreurs de L'Opera de Nice
M.Walker, E.Manchet, C.Yahr, V.le Texier, P.Meven, P.le Hemonet
Nice, Juin 1988
Pierre Verany PV.788093/94(2CD)


 このdiscはめずらしいかもしれません。いつ購入したのかもおぼえていないんですが、その後shopで見たことがないんですね。John Carewe指揮ニース・フィルハーモニー管弦楽団(ニース歌劇場)による1988年6月の録音。CDケースにはニース歌劇場との共同製作とあります。指揮者も歌手もあまり馴染みのない名前が並んでいますが、じつはこれが結構のお気に入り。

 アンサンブルは超一流とはいきませんが、オーケストラは表情豊かで深い内容を感じさせ、響きもなかなか美しい。歌手はメリザンド役のEliane Manchet、おそらく聴くひとによって好みの分かれるところだと思いますが、影が薄くて儚いばかりのメリザンドではなく、無邪気な子供のようでいて、気品さえ漂わせる透明な声がいいですね。


Charles Dutoit, Orchestre symphonique de Montreal, Choeurs de l'OSM
C.Alliot-Lugaz, D.Henry, G.Cachemaille, P.Thau, C.Carlson, F.Golfier, P.Ens
St Eustache, Montreal, May 1990
Decca 430 502-2(2CD)


 シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団による1990年の録音。ジョルダン盤でイニョルドを歌っていたアリオ=リュガスが、ガーディナー盤に続いてメリザンドを歌っています。

 ジョルダン盤で「内面から練り上げたのではなく、外面から造り整えたよう」と言いましたが、この表現はデュトア盤にとっておくべきでした。オーケストラを鳴らすのは得意な指揮者で、これは録音のせいもあるかと思いますが、とにかく混濁感の皆無な透明度の高いオーケストラはなかなか美しい。ところがその音色は魅力に乏しく、奏いているというよりまさに鳴っているといった印象で、内容を感じさせない表面的な響きと聴こえます。演奏のコンセプトもこれまでにとりあげたdiscにあったような、聴き手の期待どおりのフランス音楽演奏に予定調和していますね(だからこそ表面的という印象を持つとも言えるでしょう)。そのあおりを受けてか、歌手も総じてあっさりと歌っている印象です。ボド盤も似た印象ながら、デュトワよりはあざとい感じがなくて、ドビュッシーの音楽を信じているような純情さが許せる印象です。

 上記はずっと以前に聴いたときのメモから。別にセクハラ問題でデュトワに偏見を抱いているわけではありません、念のため。


Claudio Abbado, Wiener Philharmoniker, Konzertvereinigung Wiener Staatsoperchor
M.Ewing, F.Le Roux, J.van Dam, J-P.Courtis, C.Ludwig, P.Pace, R.Mazzola
Wien, 1 1991
DGG 435 344-2(2CD)


 アバドはあくまでオペラティックに、内的な緊張感よりも、外向的かつ鮮やかな色彩感をもってドラマを展開しています。雄弁といえば雄弁なんですが、これが「ペレアスとメリザンド」にふさわしいものと言えるのか・・・。オーケストラの響きは、ウィーン・フィルが演奏するとこうなりますよ、といった印象で、音色そのものには違和感がなく、これはこれで美しいのですが。

 歌手はゴローのダムペレアスのル・ルーをはじめ、クルティスのアルケル、ルートヴィヒのジュヌヴィエーヴ等の脇役も好演しているのですが、ユーイングのメリザンドが濃厚で官能的で肉太な声。到底メリザンドの声とは思えません。本人としてはずいぶんアクセントを抑えるなどして「それらしく」歌い演じているつもりらしいんですが、あまりにも俗っぽい。ここまでメリザンド役に似合わない歌手のレコーディングもめずらしいですね。


Pierre Boulez, Orchstra and Chorus of Welsh National Opera
Stage and Directed by Petere Stein
A.Hagley, N.Archer, D.Maxwell, K.Cox, P.Walker, S.Burkey, P.Massocchi
Cardiff, 3.1992
DGG 440 073 030-9(DVD)

 ドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」でははじめて映像化されたものです。最初に出たのはLDでしたっけね。ウェールズ・ナショナル・オペラは引っ越し公演も前提としていたらしく、舞台装置などは簡素なものですが、simpleであるが故にかえって飽きがこなくていいですね。歌手のフランス語発音はちょっと変かもしれませんが、演技は申し分ありません。Region 0、NTSC盤。

 


Jean-Claude Casadesus, Orchestre National de Lille-Region Nord/Pas-de-Calais, Choeur Regional Nord/Pas-de-Calais
M.Delunsch, G.Theruel, A.Arapiab, G.Bacquier, H.Jossoud, F.Golfier,J-J.Doumene
Lille, 15th to 23rd March,1996
NAXOS 8.660047-9(2CD)


 ジャン=クロード・カサドシュ指揮リール国立管弦楽団による録音。収録は1996年3月、評判になった上演の記録とのこと。

 この指揮者のdiscはいくつか聴いたことがあって、どれも悠揚迫らぬテンポで、激することなくオーケストラをゆったり鳴らしたものでした。このdiscでも同じ調子かなと思ったら、その後の変化か、あるいはやはりオペラとなると違ったものか、そんなに淡々とした演奏ではなく、テンポの伸縮もあって、ていねいに表情を付けています。とはいえ、全体としてはおっとり。キャストが全員フランス人ということもあって、歌詞の発音などは安心して聴いていられます。これ見よがしにひとの目(耳)を惹きつけるような特徴には乏しいかもしれませんが、なかなか魅力的な演奏です。

 このdiscを聴くと、なんだかんだ言っても、ハイティンク盤やクーベリック盤あたりはメジャーな指揮者の演奏だったんだなあ・・・と思います。失礼な言い方かもしれませんが、これはいい意味でのマイナー・・・というより、ローカルな演奏です。


Andrew Davis, London Philharmonic Orchestra,The Glyndebourne Chorus
Director Graham Vick
C.Oelze, R.Croft, J.Tomlinson, G.Howell, J.Rigby, J.Arditti, D.Gwynne, M.Beesley
Glyndebourne, 1999
KULTUR D3117(DVD)


 これまた室内劇で美しい舞台です。Region 1、NTSC盤。




Bernard Haitink, Choeur de Radio France, Orchestre national de France
A.S.von Otter, W.Holzmair, L.Naouri, H.Schaer, A.Vernhes. F.Couderc, J.Varnier
Theatre des Champs Elysees,Paris, March 14th &16th,2000(2001?)
NAIVE V4923(2CD)

 ベルナルド・ハイティンク指揮フランス国立放送管弦楽団による演奏。録音は、外箱には2000年とあり、解説書には2001年とあります。いずれが正しきや不明。live録音。同じ組み合わせの演奏による録音は、NAIVEからはやはりラジオ・フランスの録音になるマーラーの交響曲第6番、第5番が出ていて、とくに6番がたいへんみごとな演奏だったので期待して聴いたんですが・・・。

 録音はまずまず、主役のふたり―フォン・オッターとホルツマイアーをはじめとして歌手も好演なんですが、どうもオーケストラが物足りないんですね。どこが悪いと積極的に指摘しづらいんですが、とにかく柔らくしなやかな響き。ハイティンクというひとは過剰な自己主張をすることなく、自然体でいい音楽をつくるひとですね。ところが、オペラになるとそうした姿勢がドラマティックな演出をあえて避けているようで、ドラマに出しゃばらないと言えば言えるし、でも言い換えればあくまでシンフォニックな音楽造りに徹底していて、そのあたりが物足りない。表情の微妙なうつろいを、こちらから身を乗り出して聴きにいっても、どうも凝集力というか、緊張感に至らないのが残念です。


Franz Welser-Moest, Orchester der Opera Zuerich, Zuzatzchor Opernhaus Zuerich
Stage Director Sven-Eric Bechtolf
R.Gilfry, I.Rey, M.Volle, L.Poigar, C.Kallisch, E.Liebau, G.Goetzen
Opernhaus Zuerich, 18,20 11.2004
ART HAUS 108050(BD)


 この指揮者は苦手です。とにかくクールで冷静と言えば聞こえはいいかもしれませんが、あまりにも情感不足。スコアを音にするのはすべてテクニック、感情というものがまったく介在していないかのようで、私にはつまらないとしか言いようがありません。Region 0。


Bertrand de Billy, ORF Radio-Symphonieorchester Wien, Arnold Schoenberg Chor
Stage Director Laurent Pelly
N.Dessay, S.Degout, L.Naouri, P.Ens, M-N.Lemieux, T.Mirfin, B.Ritter
Wien, January 2009
Virgin Classics 50999 6961379 1(DVD)

 歌手がどことなく高カロリーで、歌手がドビュッシーのスタイルとは違った立ち位置にいるように思えます。指揮者も手堅いという以上の成果を感じさせません。Region-FreeのNTSC盤。


Philip Jordan, Orchestre & Choeur de l'Opera National de Paris
Robert Frigeni
S.Degout, E.Tsallagova, V.la Texier, A-S.von Otter, F.J.Selig, J.Mathevet, J.Varnier
March 2012 at the Opera National de Paris
naive EDV1057(DVD)


 歪みっぽいノイズの乗った音がするのは私の所有しているdisc固有の問題でしょうか? それを割り引いても、演奏も映像も特段の魅力は感じられません。Region 0、NTSC盤。


Stefan Soltesz, Essener Philharmoniker
Stage director Nikolaus Lehnhoff
J.Imbrailo, M.Selinger, V.le Texier, D.Soffel, W.Schoene
live recording from the Aalto-Musiktheater Essen, 2012
ART HAUS 108086(BD)


 レンホフの演出は、例によって意味深そうに見えて、たいした内容のない、陳腐なもの(笑)まあ、あまり歌手の邪魔をしていないだけまだしも。歌手と指揮者はなかなか健闘しています。Region All。


Maxime Pascal, Malmoe Opera Orchestra and Chorus
Stage Direction Benjamin Lazar
M.Maullon, J.Daviet, L.Alvaro, S.Bronk, E.Lyren, J.Mathevet, S.Olcese
Malmoe 05/2016
BelAir BAC544(BD)


 指揮者のマキシム・パスカルは1985年生まれなのでこの上演の時未だ31歳ですね。マルメ歌劇場はスウェーデンの歌劇場。オーケストラは超一流ではありませんが、指揮者、歌手ともども、明晰でありながらいい雰囲気を醸し出しています。歌手の衣装を見る限り現代化演出なんですが、舞台は美しく、これなら生で観てみたいと思わせますね(ただし、ペレアスのダイヤ柄のベストという、まるでゴルフ場にいそうな ossan kusai センスはなんとかならなかったのでしょうか・笑)。マルメ歌劇場は1958年までイングマール・ベルイマンが監督を務めており、演出家のベンジャミン・ラザールは、この演出にベルイマンへのオマージュを込めたとのことですが、映画監督としてのベルイマンに影響を受けたという人はたくさんいますからね。それに、ベルイマンの映画は象徴だらけです。おそらく、この演出が、というより演出家が影響を受けているんじゃないでしょうか。Region All。


Alain Antinoglu, Philharmonia Zuerich
Stage Director Dmitri Tcherniakov
J.Imbrailo, C.Winters, K.Ketelsen, B.Sherratt, Y.Naef
Zuerich 05/2016
BelAir BAC457(BD)


 ステージに泉、森、洞窟、城などが現れないくらいのことはなんとも思いませんが、ゴローに拾われた謎めいた少女メリザンドが、連れてこられた精神病院の一室で治療を受けるなかで、ゴローとその家族(ペレアス、アルケル、ジェヌヴィエーヴら)の心の中にある、性的なイメージを伴った、異常かつ暴力的な心理と行動が徐々に露わになってゆく・・・って、すみません、私にはばかばかしいとしか思えないんですが(苦笑)Region All。



 (全曲盤以外の抜粋盤等)


Pierre Coppola, Orchestra
Y,Brothier, C.Panzera, W.Tubiana, Vanni-Marcoux
March/April 1927 and October 1927
Pearl GEMM CD 9300(CD)


 SP盤からの復刻による抜粋盤、というより「さわり」。ほかにDebussy、Milhaud、Duparcの歌曲も収録されています。


Jean Beaudet, Orchestre de Radio-Canada
S.Danco, J-P.Jeannotte, R.Savoie
24 mars 1955
VAI 4380(DVD)


 第二幕からの抜粋。なお、このDVDには同じRadio-CanadaによるCharles Gounodの”Mireille”も抄録されています。


Marc Minkowski, Choeue et Orchestre du Theatre musical Stanislavski & Nemirovitch-Dantchenko
Oliver Py
J-S.Bou, S.Marin-Degor, F.Le Roux, D.Stepanovithc, N.Vladimirskaia
Moscou, 2007
naive EDV2151(DVD)


 2007年6月にマルク・ミンコフスキ指揮オリヴィエ・ピーの演出でモスクワで「ペレアスとメリザンド」を上演した際の、制作ドキュメンタリー。リハーサル風景、インタヴューなど。特典映像にマニュエル・ロザンタールの「ペレアス」リハーサル風景も収録されています。Region2、PAL盤。



 レコード(LP)を再生した装置について書いておきます。
 stereo盤はカートリッジortofon SPU GEまたはMC20 MkIIで、mono盤再生時のカートリッジはortofonのMC Cadenza Monoを使用。スピーカーは古いハーウッド時代のHarbeth、または、これも古い、BBCモニター系列に近い音のB&Wで聴きました。


 なお、DVDやBlu-ray discに関して、Region codeや、NTSCまたはPALの方式を記載しているものがあります。たとえばHMVとかTower Recordsから購入したものであれば、たいてい国内で再生可能なんですが、なかには海外サイトに注文して入手したdiscがあるので、念のため記載しているものです。


(Hoffmann)