038 コルンゴルトの歌劇「死の都」、ヴァイオリン協奏曲 その他の作品





Erich Wolfgang Korngold

 モーツアルトは5歳でメヌエットを作曲し、8歳で交響曲を書き、11歳でオラトリオを仕上げて「神童」と呼ばれた。ただ、その作品は年齢にふさわしい素朴な筆致を示している。
 では爛熟した後期ロマン派和声を駆使しながら、7歳で歌曲やワルツ、9歳でカンタータ、11歳でバレー音楽を書き上げた少年がいたとしたら、何と呼んだらいいのだろうか?


 以上は「コルンゴルトとその時代 ”現代”に翻弄された天才作曲家」早崎隆志(みすず書房)の「はじめに」の冒頭です。もちろん、この少年こそエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト Erich Wolfgang Korngold です。

 詳細は省きますが、オペラに関しては、「ポリュクラテスの指環」「ヴィオランタ」を作曲したのは16~18歳の時。ジョルジュ・ローデンバック Georges Rodenbach の「死都ブリュージュ」を原作とする「死の都」を書き上げたのは22歳の時。「死都ブリュージュ」を読んだ人ならおわかりいただけるでしょう。ハタチやそこらでこの小説をオペラにしようというのですから、コルンゴルトがいかに早熟であったか・・・。

 しかし、天才児として一時はウィーン・オペラ界の彗星と期待されたものの、ナチスの政権獲得により、ユダヤ系であるコルンゴルトの作品は演奏されなくなります。いよいよ亡命を余儀なくされるかというころ、折しも映画音楽の編曲の依頼があってハリウッドへ。そうしてはじまった亡命生活で、数々の映画音楽を作曲したのはよく知られているところですね。こうしたことから、コルンゴルトは「ハリウッドに魂を売り渡して、二流作曲家として生涯を終えた」とするのが一般的な認識でしょう。しかし、これは正しくありません。

 そもそも、コルンゴルトのことを「ああ、あの映画音楽みたいな曲を書いた人ね」とか、その音楽を「映画音楽みたい」などと言うのは、話が逆なのです。映画音楽の方が、「コルンゴルトみたい」なのです。もう少し具体的に、かつ誤解を怖れずに言うならば、コルンゴルトは決して「映画音楽」を書こうとはしなかった、あくまで自分のスタイルと自らの語法を貫き通しているのです。豊富な附加音の加わったハーモニーも、ウィーン時代に身につけたもの。繰り返しますが、コルンゴルトの音楽が映画音楽みたいなのではなく、映画音楽がコルンゴルトの作風を模倣したのです。

 シェーンベルクやストラヴィンスキーはハリウッドの仕事なんか馬鹿にして断ったじゃないかって? 先に引用した「コルンゴルトとその時代」早崎隆志(みすず書房)に事実が詳細が書かれていますから読んでみて下さい。それに、映画音楽ならヨーロッパでは、たとえばフランスではオネゲル、イベール、ミヨー、オーリックも書いていますよ。イギリスならヴォーン・ウィリアムズ、ソ連ではショスタコーヴィチ、ハチャトゥリアン、プロコフィエフ・・・。なんでコルンゴルトの場合だけ、映画音楽を作曲したことで見下されなけりゃならんのか、わかりません。


Erich Wolfgang Korngold


 歌劇「死の都」 ”Die tote Stadt” op.12

 「本を読む 71『死都ブリュージュ』」を受けて、まずはコルンゴルトの歌劇「死の都」の話をしておきましょう。

 ロデンバックの「死都ブリュージュ」を原作とするオペラ「死の都」”Die tote Stadt” は、コルンゴルト22歳の時に書き上げられ、小説発表の28年後、1920年に、ハンブルクとケルンで同時に初演されています。新作オペラが二つの都市で同時に初演されるというのも相当異例なことで、当時の彼の名声とその新作への期待がいかに高かったかを示すものといっていいでしょう。期待に違わず、オペラ「死の都」は好評を博し、今日でもコルンゴルトの代表作と認められています。台本は、パウル・ショット Paul Schott なる人物によるとされていますが、これは筆名で、じつはコルンゴルト自身と、コルンゴルトの父で音楽評論家でもあったユリウス・コルンゴルト Julius Korngold の合作。台本にするにあたって、かなりの改変が施されています。

 まず、登場人物の名前―ユーグ Hugues はパウル Paul に、ジャーヌ Jane はマリエッタ Marietta に、ユーグ家の家政婦バルブ Barbe はブリギッタ Brigitta に変更。パウルの友人フランク Frank は原作には登場しない人物。原作では名前が出てこないユーグの亡き妻にも、マリー Marie という名前が与えられました。マリーとマリエッタで対となるようにしたかったのでしょう。オペラではマリーもパウル回想(幻覚)の中で歌う場面があり、これはマリエッタと同一の歌手によって歌われるよう指示されています。オペラならではの改変ですね。

 もちろんこのオペラでも舞台はブリュージュに設定されています。これは開幕早々、訪ねてきたフランクへの家政婦ブリギッタの語りで説明されています。しかしオペラが開幕した時点で、すでにパウルは、亡き妻と生き写しのマリエッタと出会っており、彼女を自宅に呼んでいます。

 そしてもっとも大きな変更点は、結末部分。パウルは、原作と同様に、マリーの遺髪を弄ぶマリエッタを絞殺しますが、それは幻想にすぎず、マリエッタはじっさいには死んでおらず、直後にパウルを訪ねてきます。彼女が帰った後、パウルはもうマリエッタには会わないとして、フランクの誘いに従って旅に出る―この死の町から出て行くことにします。つまり、夢オチ。

 ロデンバックの原作では、主人公ユーグは偽りの幻想を抹殺して、あくまで真の幻想に沈潜してゆくのですが、コルンゴルトのオペラにおいて、パウルは幻想と現実の相互浸食から抜け出して、苦い現実へと帰還してゆく・一歩を踏み出そうとするのです(演出によっては否)。

 さて、レコードはこちら―

Erich Leinsdorf, Munich radio Orchestra, Bavarian Radio Chorus, Toelzer Boys Choir
R.Kollo, C.Nablett, B.Luxon, R.Wagnemann, H.Prey
Muenchen, June 1975
RCA RL70793(3)(LP)


 私が持っているのは、箱は”Printed in Italy”とあるのでイタリア盤かもしれませんが、レーベルにはプレス国の記載がなく、解説書は英語、対訳も独語-英語です。

 かつて、正規録音としてはこれが唯一のレコードでした。いま聴いてもいいですよ。オーケストラの響きも派手でなく、かえって好感が持てるもの。歌も高水準、もともとオペレッタ歌手だったコロには、パウル役が向いているように思われます。Neblettも好調。PreyのFritz役も贅沢ですね。

 CDでもひと組―

Leif Segerstam, Royal Swedish Opera Chorus and Orchestra,Tomtberga School Childre's Choir
T.Sunnegardh, K.Dalayman, A.Bergstroem, I.Tobiasson, P-A.Wahlgren
Stockholm,August 31st, September 5th and 13th 1996
NAXOS 8.660060-1(CD)


 近年の再評価の波のおかげか、現在では映像(DVD、Blu-ray)も複数出ています。私が持っているのは以下の5点―

Heinrich Hollerser, Chorus and Orchestra of the Deutsche Oper Berlin
Stage Director:Goetz Friedrich
J.King, K.Armstrong, W.Murray, M.Neubauer
Berlin, 1983
ArRT HAUS 101 656(DVD)

 


Jan Latham-Koenig, Orchestre Philharmonique de Strasbourg
Stage Director:Inga Lavant
A.Denoke, T.Kerl, Y.Batukov, B.Svenden
Opera National du Rhin, 2001
ARTHAUS 100 343(DVD)


Eliahu Inbal, Orchestra e Coro del Teatro la Fenice
Director, Set & Costume Designer:Pier Luigi Pizzi
S.Vinke, S.Kringelborn, S.Genz, C.Mayer
Venezia, January 29th/31st 2009
DYNAMIC 33625(DVD)

 


Mikko Frank, Chorus, Children's Chorus and Orchestra of the Finnish National Opera
Director:Kasper Holten
K.F.Vogt, C.Nylund, M.Eiche, S.Nordqvist
Finnsh National Opera, 26 November 2010
OPUS ARTE OA1121D(DVD)

 


Kirill Petrenko, Bayerische Staatsorchester, Chorus and Children's Chorus of Bayerische Staatsoper
Stage Director:Simon Stone
J.Kaufmann, M.Petersen, A.Filonczyk, J.Johnston
Muenchen, December 2019
Bayerische Staatsoper Recordings LC96744(BD)


 演出ではベルリン・ドイツ・オペラのゲッツ・フリードリヒがいいんですが、歌手がよくない。カウフマンが歌いキリル・ペトレンコが指揮したバイエルン国立歌劇場盤は音楽面ではいいんですが、演出が嫌。ライン・ドイツ・オペラ盤も演出がひとりよがりに過ぎる。フォークトが歌っているホルテン演出はまあまあ。インバルの指揮したフェニーチェ劇場盤は歌手はたいしたことないものの、演出がまともです。

 結局、Leinsdorf盤かSegerstamのCDで音だけ聴いているのがいちばんいいですね。


 このほか、コルンゴルトのオペラ作品は、「ポリュクラテスの指環」”Der Ring des Polykrates”op.7、「ヴィオランタ」”Violanta”op.8、「ヘリアーネの奇蹟」”Das Wunder der Heliane”op.20、「カトリーン」”Die Kathrin”op.28など、ほかにミュージカル・コメディで「沈黙のセレナード」”Die Stumme Serenade”op.36のdiscが出ていますが、今回は省略。


 ヴァイオリン協奏曲 Konzert fuer Violine und Orchester op.35

 ハリウッドで映画「真夏の夜の夢」の音楽を担当したコルンゴルトに対して、ワーナーから年間契約を申し出るのですが、これを固く辞退して、ウィーンへ帰ります。これが1935年4月。ところがオーストリアでは政治情勢が急変、日に日にナチスの影響力は強まって、反ユダヤ感情は爆発寸前。この状況下ではアメリカとのパイプを断ち切るのは賢明ではないと判断して、パラマウントとの契約書にサインをして亡命、半年も経たない1935年9月には再びハリウッドの土を踏みます。

 その後の映画音楽での活躍については省略して、一気に10年ばかり後のこと、つまりヒトラーが自殺してドイツが無条件降伏、ヨーロッパでの戦争が終結した1945年。コルンゴルトも心密かに純音楽復帰の決心を固めます。父や友人は、映画のサウンドトラックに録音された美しい音楽を埋もれさせてはならないと力説し、演奏会用作品への改編を勧めます。

 ヴァイオリン協奏曲の作曲を求めたのはヴァイオリニストのブロニスワフ・フーベルマン。作曲中に太平洋戦争が終結、8月には完成。8月26日にはフランツ・ヴェルフェルが亡くなり、二度目の未亡人となって打ちひしがれたアルマ(元作曲家マーラーの妻)に、できあがったヴェイオリン協奏曲を捧げます。

 この、Korngoldの最高傑作は、甘美な旋律で親しみやすくロマンティック、しかし後期ロマン派ではなく、モダンな感覚を持っており、決して通俗に堕してはいません。映画音楽から取り入れられたのは、第一楽章では「砂漠の朝」(1937)の愛のテーマ、「革命児ファレス」(1939)からカルロッタの主題、第二楽章では「風雲児アドヴァース」(1936)のアンソニーとアンジェラの愛のテーマ、第三楽章では「放浪の王子」(1936)の王子の主題を変形したもの・・・。

 ところがフーベルマンはいつまで経っても初演しようとしない。そんなとき、たまたまこの音楽を聴いたのがヤッシャ・ハイフェッツのマネージャー。ハイフェッツは大いに興味をそそられ、終楽章の技巧を増すようにとアドバイスして、ついに1947年2月15日にセント・ルイスで初演。翌日の新聞には、セント・ルイスの演奏史上もっとも熱狂的に迎えられたと報じられました。しかしニューヨークでの初演はブラヴォーとブーイングが相半ばして、どちらかというと一般受けがよく、批評家の反応は否定的だったようです。「ニューヨーク・タイムズ」は「これはハリウッド協奏曲である。旋律はその性格から言ってありきたりで感傷的、書法は平凡さで合致している」と評し、「ニューヨーク・サン」は「穀物(コーン)であって金(ゴールド)ではない」と評したそうです。この「コーン」というのはかなり悪質なユダヤ人蔑視の発言と考えられるのですが(コーンというのはユダヤ人特有の名前)、ユダヤ系の多いニューヨークでこの記事が問題にならなかったのか、ちょっと不思議ですね。いまなら炎上ものじゃないでしょうか。

 ちなみにフーベルマンも悪気があったわけではなく、またハイフェッツとの話が進んだことに気を悪くするでもなく、弁解にこれ努め、ハイフェッツが初演した後でも演奏すると約束しましたが、その後急死してとうとう演奏せずじまいとなりました。

 さて、ヴァイオリン協奏曲、CD以前の時代から持っていたレコードはこちら―

Korngold:Konzert fuer Violine und Orchester op.35
Korngold:Viel Laerm um Nichts op.11
Korngold:Thema und Variationen op.42
Ulf Hoelscher (violine)
Willy Mattes, Radio-Orchester Stuttgart
1973?
Electrola 1C 065-02 460(LP)


 ウルフ・ヘルシャーは私の好きなヴァイオリニストでしてね。伴奏の指揮はヴィリー・マッテス。Electrolaではもっぱらオペレッタ録音の指揮者として活躍したひと。レコード会社の都合もあったかもしれませんが、この録音(おそらく1973年)におけるコルンゴルトに対する認識の一端が垣間見られるようですね。演奏はまずまず上出来。ちなみにジャケットを飾っているのはA.Boecklinの”Die Meeresbrandung”です。


Arnold Boecklin”Die Meeresbrandung”

 その後さかんに録音されるようになって、続々とCDが出ましたが、私のお気に入りは―

Beethoven:Violin Concerto op.61
Korngold:Violin Concerto op.35
Renaud Capuçon (violin)
Yannick Nézet-Séguin, Rotterdam Philharmonic Orchestra
Hilversum, 7-9.VII.2009
Virgin 50999 69458903


 なんといってこれ。Beethovenとのカップリングというのも意表を突いていますが、どちらも私の好きな音楽ですのでね。いかにも、オトナの成熟した演奏。ただし指揮とオーケストラは最上級とまでは言えません。指揮とオーケストラも含めると、次の2枚がお気に入り―

Korngold:Violin Concerto op.35
Tchaikovsky:Violin Concerto OP.35
Laurent Korcia (violin)
Jean-Jacques Kantorow, Orchestre Philharmonique Royal de Liége
Liége, July 2011
naïve V5280

R.Strauss:Concerto for Violin and Orchestra op.8
Korngold:Concerto for Violin and Orhcestra op.35
Pavel Sporcl (violin)
Jiri Kout, Prague Symphony Orchestra
Prague, June 24, October 8-9, 2008
SUPRAPHON SU3962-2(CD)


 とにかくこの作品のdiscで発売されたものはすべて入手して聴きました・・・が、必ずしも愉しめる演奏とは限らず、女流は全滅、案外と有名どころのヴァイオリニストがつまらない。演奏に「媚び」の感じられるものが多く、なかにはいま自分が演奏している音楽がどんな音楽なのか、理解しているのか疑われるようなものも・・・。バックのオーケストラがダメ、という例もあります。結果、残ったのは上記のdisc。じつはLaurent Korcia、Pavel Sporclって、二人とも知らないヴァイオリニストなんですが、演奏はオーケストラも含めて優秀です。カップリングの作品が、片やチャイコフスキー、片やリヒャルト・シュトラウスということで、これによる先入観もあるかもしれませんが、Korciaは後期ロマン主義、Sporclがもう少しモダンに聴こえます。

 なお、”Erich Wolfgang Korngold The Adventures of a Wunderkind”と題されたDVD(ARTHAUS 100 363)にはLeonidas Kavakosほかによる全曲演奏の映像が収録されているのですが、演奏はいいのに演奏者の顔や楽器のアップ映像ばかりで観ていて疲れます、残念。


 その他の作品

 Korngold作品のCDは英CHANDOSと独cpoから出ているものが注目されます。

 英CHANDOSから出ているもので気に入っているのは―

Korngold:Quintet op.15
Korngold:Sextet op.10
Jennifer Stumm (viola), Bartholomew La Follette (cello), Kathryn Stott (piano)
Doric String Quartet
Suffork, 6-8.July 2011
CHAN 10707(CD)

Korngold:String Quartet No.1 op.16
Korngold:String Quartet No.2 op26
Korngold:String Quartet No.3 op34
Doric String Quartet
Suffork, 5-7.April 2010
CHAN 10611(CD)


 独cpoでも―

Korngold:Piano Quintet op.15
Korngold:String Quartet No.1 op.16
Korngold:String Quartet No.2 op.26
Korngold:String Quartet No.3 op34
Heinri Sigfridsson (piano)
Aron Quartett
ORF Funkhaus Argentiniestrasse im Grossen Sendesaal & RP3,
April 14-16,2008, January 15-17 July & December 3&4,2007
cpo 777 436-2(2CD)

Korngold:Sextet for Strings op.10
Korngold:Suite op.23
Heinri Sigfridsson(piano), Thomas Selditz(viola), Marius Diaz(violoncello)
Aron Quartett
Lisztsaal Raiding, 2010, April 2011
cpo 777 600-2(CD)

Korngold:Violin Sonata op.6
Korngold:Tanzlied des Pierot from ”Die tote Stadt”op.12
Korngold:Mariettas Lied zur Laute from ”Die tote Stadt”op.12
Korngold:Caprice fantastique Wichtelmaennchen
Korngold:Serenade from the ballet pantomime”Der Schneemann”
Korngold:Gesang der Heliane from ”Das Wunder der Heliane”
Korngold:Much ado about nothing op.11
Sonja van Beek (violin), Andreas Froelich (piano)
Stuttgart, October 27-29, 1999
cop 999 709-2(CD)


 このなかでは、私は若書きのピアノ五重奏曲がとくに好きです。これは歌劇「死の都」がヨーロッパ中で上演されつつあった頃の作品で、後に結婚することになる女性ルーツィ・フォン・ゾンネンタールへの思いが溢れたような佳曲と言われています。また、弦楽四重奏曲では第3番が最高傑作でしょう。これは戦後の純音楽作品の口火を切るものなんですが、じつはこれも妻ルーツィへのクリスマス・プレゼントでもありました。いや、そんなことと全然知らなくて好きになったんですけどね、調べてみたらそういうことなんだそうで・・・女性というものの存在について考えさせられますなあ(笑)


(おまけ)

 コルンゴルトが音楽を担当した映画です。

 
”A Midsummer Night's Dream”(1934/35)、”Captain Blood”(1935)

 
”Anthony Adverse”(1936)、”The Prince and the Pauper”(1937)

 
”The Adventure of Robin Hood”(1938)、”The Private Lives of Elizabeth and Essex”(1939)


 
”Devotion”(1943)、”Deception”(1946)

 今回、映画音楽は取り上げない予定でしたが、ハリウッドでの初仕事となった、「真夏の夜の夢」”A Midsummer Night's Dream”(1934/35)のdiscだけ紹介しておきます。

Korngold:”A Midsummer Night's Dream” Music to the Film by Max Reinhardt
Gerd Albrecht, Deutsche Symphonie-Orchester Berlin, Rundfunkchor Berlin
Celina Lindsley (Soprano), Michelle Breedt (Mezzo-soprano), Scot Weir (Tenor), Michael Burt (Bass)
Jesus-Christus kirche Berlin, May 12-16, 1997
cpo 999 449-2(CD)


 World Premiere Recordingです。演奏・録音ともに、これだけあれば十分と思われるものです。

 映画「真夏の夜の夢」は当時の最高のスタッフを結集した豪華作品で、振り付けにあたったブロニスラヴァ・ニジンスカは大舞踏家ニジンスキーの妹、出演者もジェームズ・キャグニーをはじめスター揃い。制作費は当時前例のない150万ドル。上映時間は132分で、制作期間は6週間の予定が6か月という、これまた異例の長期間に及びました。コルンゴルトはメンデルスゾーンの劇音楽「真夏の夜の夢」を中心に、メンデルスゾーンのほかの作品、無言歌集や交響曲第3番第4番からもテーマを借りて、ライトモティーフ的な用い方により、映画のための音楽に編曲しています。そして撮影時にはコルンゴルトがカメラに写らないところに腹ばいになって、俳優を指揮して台詞を喋らせ、後日アフレコで管弦楽の演奏を台詞に併せて収録・・・これにより、俳優の台詞は音楽と同期して、オペラのアリアのような効果を発揮したそうです。


(Hoffmann)




引用文献・参考文献

「コルンゴルトとその時代 ”現代”に翻弄された天才作曲家」 早崎隆志 みすず書房