046 10inch盤を聴く その1




  10inch盤とは直径25cmのLPレコードのこと。一般的なLPは30cmですから12inch盤。もともと、SP盤の時代から12inch盤と10inch盤があって、1940年代後半に登場したLPレコードも当初はこのふたつの規格による盤が多く出回っていました。しかしそれから10年ほどを経て、レコードはほとんどが12インチLPと7インチレコードが流通するようになりました。従って、10inch盤というのはたいがい古い盤、mono録音が中心で、厚みのある、重い盤が多い。また、10inch盤は33rpmで収録時間は片面12分30秒ほど。両面で12inch片面分になります。つまり、クラシックだと1枚2面で一曲となる場合が多くて、なかなか収まりがいいんですね。個人的にはそこが好きです。最近のCDのように、異なる演奏者の録音を組み合わせたり、楽曲の組合せにも無頓着なまま、なんでもかんでも詰め込めばいいってもんじゃありません。

 ちなみに”10inch”というのは、クラシックを聴く人は「とおインチ」、ジャズを聴く人は「テンインチ」と発語する傾向があります。私も「とおインチ」派(笑)

 手持ちの10inch盤のなかからいくつか取り上げますが、稀少盤を系統立てて集めたりはしていないため、取り上げたものがこの盤でしか入手できないということではなく、普通に12inch盤(30cmLP)で出ているものも含まれています。今回は協奏曲を基本に選んでみます。

1 シューマン チェロ協奏曲
  アンドレ・ナヴァラ(チェロ)
  アンドレ・クリュイタンス指揮 コンセール・コロンヌ管弦楽団
  Theatre des Champ-Elysees, 1951.6.22.
  仏Columbia FC1006

 仏での第3版。

 1911年生まれのアンドレ・ナヴァラの、おそらくLP初録音か、すくなくともLP最初期の録音と思われます。高雅にして、意外なほど表現意欲旺盛な演奏。1970年代あたりのナヴァラしか聴いたことがない人は驚くかも。音質もmonoとしてはかなり良好。シューマンにしては健康的かな。伴奏はいかにもクリュイタンスらしいaggressiveなものです。
 EQカーヴはColumbia。



2 シューマン チェロ協奏曲
  パブロ・カザルス(チェロ)
  プラード音楽祭管弦楽団
  Festival Prades, 1953
  蘭PHILIPS A01617R(蘭プレス)、英PHILIPS ABR4035(英プレス)


 ”Casals-festival Prades 1953”、“minigroove”との表記あり。

 上記ナヴァラとくらべると、無骨野いちご・・・じゃなくて、の一語に尽きます。とはいえ、カザルスの演奏を聴き慣れている人なら予想が付くでしょう。いつもどおりのカザルスです。フレージングなど恣意的にも聴こえるのですが、むしろシューマンには似つかわしい(笑)
 英プレス盤の方がわずかに音場感が豊かな気がします。EQカーヴはNABが近いか。


3 シューマン ピアノ協奏曲
  ディヌ・リパッティ(ピアノ)
  ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 フィルハーモニア管弦楽団
  April 1948
  独Columbia 670082

 次は同じシューマンのピアノ協奏曲を。このリパッティ、カラヤンの共演盤について言いたいのは、1970年代あたりに出た再発盤との音の違いです。リパッティのピアノに対する、コロコロときれいで清楚なimageは概ね再発盤やCDによるもので、この10inch盤で聴くと、意外なほど骨太。というか、再発盤の音が痩せているんですね。カラヤンもこの時代は独奏者に対して出しゃばりすぎることなく、しかしサポートに回るよりは我が道を行っているのがこの指揮者らしいところ。寄り添うよりはコントラストが際立つ印象です。
 EQカーヴはNABが合いました。


4 シューマン ピアノ協奏曲
  クララ・ハスキル(ピアノ)
  ヴィレム・ヴァン・オッテルロー指揮 ハーグ・フィルハーモニー管弦楽団
  May 1951
  仏PHILIPS S06.120R


 ”minigroove”表記あり。

 同じくシューマンのピアノ協奏曲、今度はクララ・ハスキルのピアノで。やはりこれはいいですね。ハスキルの演奏にダメなものはありません。ピアノの音が美しいレコードはほかにもありますが、これ以上、滋味溢れる演奏が可能とも思えず、また別な要素で秀でた演奏だとしても、ハスキルを超えることはあるまいと思われます。
 EQカーヴはNABがもっとも落ち着きました。


5 モーツアルト ピアノ協奏曲 K.488
  クララ・ハスキル(ピアノ)
  パウル・ザッハー指揮 ウィーン交響楽団
  October 1954
  仏PHILIPS G05.355R

6 モーツアルト ピアノ協奏曲 K.466
  クララ・ハスキル(ピアノ)
  ベルンハルト・パウムガルトナー指揮 ウィーン交響楽団
  October 1954
  蘭PHILIPS A00752R


 ”minigroove”表記あり。

 クララ・ハスキルでモーツアルトを。番号で言えば23番(K.488)と20番(K.466)。とくにK.488はこれがもっとも好きなレコードです。K.466のもっとも好きなレコードは、これを含めて数枚あります。いずれの作品も、ハスキルでさえ別録音がありますからね。
 EQカーヴはいずれもRIAAで合うようです。


7 エルネスト・ブロッホ ヘブライ狂詩曲「シェロモ」
  ザーラ・ネルソヴァ(チェロ)
  エルネスト・ブロッホ指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
  Kingsway Hall, 3 March 1955
  米LONDON LPS138


 英プレス盤。

 チェロに戻ります。私の好きなネルソヴァのレコードです。この録音は、TestamentやDECCA、その他から出ているCDではErnest Ansermet指揮となっており、おそらく作曲者立ち会いの下、アンセルメが指揮したものと思われます。作曲者の自演盤ではわりあいよくある例ですね。
 EQカーヴはDECCA ffrr。



 レコード(LP)を再生した装置について書いておきます。
 今回はすべて古いmono盤なので、カートリッジは、ortofon CG 25 Dを基本に、一部SHELTERのmonoカートリッジを使いました。スピーカーはSiemensのCoaxial、いわゆる「鉄仮面」をチャンネルあたり2基の後面開放型Sachsen 202で聴いています。なお、私はmono盤でもスピーカーは2本で聴きます。部分的に、TANNOYのMonitor Gold10"入りCornettaでも聴いています。
 また、EQカーヴはRIAAで疑問を感じたものは適宜ほかのカーヴを試し、結果はなるべく記載しておきました。



(Hoffmann)