069 グリーグ 附随音楽「ペール・ギュント」のレコードから じつを言えばそれほどよく聴く音楽ではありません。それでも聴くとなればよい演奏で聴きたいものです。 録音年順に並べます。 サー・トーマス・ビーチャム指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団、ビーチャム協会合唱団 イエウゼ・ホルヴェーグ(ソプラノ) 1956-57. EMI(Pathe Marconi) CVC743(LP) 収録曲 1 結婚行進曲(ハルヴォルセン編曲) 2 イングリッドの嘆き 3 山の魔王の宮殿にて 4 朝 5 オーゼの死 6 アラビアの踊り 7 ソルヴェイグの歌 8 アニトラの踊り 9 ペール・ギュントの帰郷 10 ソルヴェイグの子守歌 「7」「10」にはソプラノ独唱、「3」「6」は合唱入り。組曲版ではなく、戯曲順とも異なるビーチャム独自の配列による抜粋版。 エイヴィン・フィエルスタート指揮 ロンドン交響楽団 17-19.2.1958 LONDON OS6049(LP) 収録曲 1 前奏曲(第1曲) 2 朝の気分(第13曲) 3 オーセの死(第12曲) 4 アニトラの踊り(第16曲) 5 山の魔王の宮殿にて(第7曲) 6 イングリッドの誘拐と嘆き(第4曲) 7 アラビアの踊り(第15曲) 8 ペール・ギュントの帰郷(第19曲) 9 ソルヴェイグの歌(第11曲) 10 山の魔王の娘の踊り(第8曲) 声楽なし。独自配列による抜粋版。英プレスのいわゆるBB(ブルーバック)盤。BB盤のEQカーヴはほぼ確実にRIAAなので再生しやすい。高価なoriginal盤にこだわらない人にはお勧め。 サー・ジョン・バルビローリ指揮 ハレ管弦楽団、アンブロジアン・シンガーズ シーラ・アームストロング(ソプラノ)、パトリシア・クラーク(ソプラノ) 1968.1. EMI(Columbia) TWO269(LP) 収録曲 1 序曲 2 ノルウェーの花嫁の行列 3 イングリッドの嘆き(第2幕への前奏曲) 4 山の魔王の殿堂にて 5 山の魔王の娘の踊り 6 オーゼの死 7 朝(第4幕への前奏曲) 8 アラビアの踊り 9 アニトラの踊り 10 ソルヴェイグの歌 11 ペール・ギュントの帰郷、海の嵐の夕方(第5幕への前奏曲) 12 ソルヴェイグの子守唄 「4」は合唱、「8」はP・クラーク独唱と合唱、「10」「12」はS・アームストロングの独唱入り。さすがバルビローリ、このあと取り上げるブロムシュテットとほぼ同じ選曲で、戯曲順の配列。1968年に、ちゃんとやっているんですよ。ちなみにP・クラークは、ジャケット表面(オモテメン)には名前が載っていない(ジャケット裏の楽曲解説部分には記載あり)。お気の毒です。 パーヴォ・ベルグルンド指揮 ボーンマス交響楽団 1973.6. EMI ASD2952(LP) 収録曲 組曲 第1番 作品46 1 朝 2 オーゼの死 3 アニトラの踊り 4 山の魔王の宮殿にて 組曲 第2番 作品55 1 花嫁の略奪・イングリッドの嘆き 2 アラビアの踊り 3 ペール・ギュントの帰郷 4 ソルヴェイグの歌 組曲第1番と第2番。声楽なし。AlfvenのSwedish Phapsody:ElegyとJaernefeltのPraeludiumを併録。 ヘルベルト・ブロムシュテット指揮 ドレスデン国立歌劇場管弦楽団、ライプツィヒ放送合唱団 エディット・タラウグ(メゾ・ソプラノ)、タール・ヴァルヤッカ(ソプラノ) 9-10.6., 23-24.10., 19.11.1977 1977年6月9,10日、10月23,24日、11月19日 EMI ASD3640(LP) 収録曲 1 第1幕への前奏曲 2 結婚行進曲 3 第2幕への前奏曲(誘拐とイングリッドの嘆き) 4 山の王の宮殿で 5 山の王の踊り 6 オーゼの死 7 第4幕への前奏曲(朝) 8 アラビアの踊り 9 アニトラの踊り 10 ソルヴェイグの歌 11 第5幕への前奏曲(ペール・ギュントの帰郷・嵐の情景) 12 ソルヴェイグの子守歌 「9」にメゾ・ソプラノと合唱、「10」「12」がソプラノ入り。ブロムシュテットによる12曲の抜粋。曲順は劇の進行順になっている。ブロムシュテットは再録音しているらしいが、聴いていない(とくに聴きたいとも思わない)。 LPで所有していてここに挙げなかったものもあります。なお、この作品のCDは一枚も持っていません。とくに欲しいdiscもない。今回取り上げた5枚のレコードがあれば(より正確に言うと、その内の4枚があれば)、もうほかのdiscは必要ないと感じています。「推薦」だの「名盤」だのといったマークなんぞ付ける趣味はさらさらなくて、この4枚に順位を付けるつもりもないんですが、やはり総合的なバランスの良さではバルビローリでしょうか。この指揮者らしい、暖かみのある情感も印象的です。 ベルグルンドは、やや温度感が下がって、これもいい。いや、第4幕前奏曲の「朝」なんてモロッコの朝じゃないか、という声が聞こえてきそうですが、グリーグが作品に込めたエキゾティック趣味はともかく(そんなものがあったのか、疑わしいとさえ思っているのですが)、やっぱりこの音楽はノルウェーの音楽なんですよね。少しひんやりとした感触がふさわしい。それと、この指揮者の常で、とにかく呼吸が深い。さほどどうということもない音楽でも(笑)深い内容を感じさせる演奏になっています。声楽付きでないのが残念ですが、組曲版の構成は、これはこれで納得できるものだと再確認。ただし、ソルヴェイグの子守歌は聴きたくなりますね。なお、カップリングのアルヴェーン、ヤルネフェルトの演奏がまた見事です。 人肌感覚の手造り感でディーリアスを思わせるようなビーチャムも捨て難いですね。1956~57年のstereo録音であるため、音が古いとか分解能がどうとか言う人もいますが、むしろstereo初期であるために、録音はいたって自然です。「鮮度が落ちた」なんて、経年劣化したtapeの音をリマスタリングという名のもとに「いじくり回し」た結果であるCDを聴いただけでそんなこと言ってもらいたくないな、と思います。 ブロムシュテットも、受け身で聴いていてはダメ、こちらから聴きに行かないといけません。その意味ではサービス過剰な効果造りをしていない、至極まっとうな演奏なんですよ。とはいえ、ブロムシュテットもここではいつになく表情豊か。こじつけるわけではありませんが、ブロムシュテットはアメリカ生まれですが、両親はスウェーデン人。ときどき、この指揮者のことを「ドイツ人」と言っている人がいるんですが、本人もスウェーデン人です。2歳でスウェーデンに帰国しており、ストックホルム音楽大学などで学んでいます。グリーグはノルウェーですが、やはり北欧の音楽に対する特別な意識があるんでしょうか。 フィエルスタートは作曲者と同郷のノルウェー出身の指揮者。このレコードは有名ですね。1958年の収録ながら、DECCAらしい鮮明な録音です。個人的にはややオンマイク気味と聴こえて(ソロが近すぎて)、必ずしも好みではないんですが、演奏はたしかに堂に入ったものです。ロンドン交響楽団は、ときにこうしたエキゾティックな音楽でノリのいい演奏を聴かせてくれます。似たような例では、ハチャトゥリアン指揮で1977年にEMIに録音したバレエ組曲「スパルタクス」、「ガイーヌ」 抜粋のレコードがありました。 (Hoffmann) |