071 ニューイヤー・コンサートでは演奏されないワルツ、ポルカなど




 独cpoはオペレッタの秘曲の録音をさかんに行っており、私もずいぶん入手しましたが、オペレッタについてはいずれまとめてみたいので、今回はそのcpoから出た、ニューイヤー・コンサートなどでは演奏されないであろう作曲家のワルツやポルカ、行進曲などのdiscを選んで紹介します。

 リヒャルト・アイレンベルク Richard Eilenberg (1848-1925)


Richard Eilenberg

 アイレンベルクは1848年生まれのドイツの作曲家。18歳で最初の作品「演奏会序曲」を作曲、その後志願兵としての普仏戦争に従軍、1873年から16年間、シュテッテインの楽長を務めています。1889年からはフリーの作曲家としてブレーメンに暮らし、舞曲や行進曲、吹奏楽など300曲以上の作品を発表して人気を博しました。

 作品は舞曲と行進曲が多く、軍楽やオペレッタの作曲も。正直言って、いまひとつ洗練味に乏しい娯楽音楽かなとは思いますが、捨て去るには惜しい魅力的な作品です。有名なのは牧歌「黒い森の水車」で、我が国では「森の水車」と呼ばれて親しまれている音楽ですね。

ワルツ、ポルカと行進曲集
華麗なギャロップ「騎士の攻撃」 Op.133
サロン風小品「最初の動悸」 Op.50
華麗なギャロップ「ノルウェーのトナカイ郵便」 Op.314
牧歌「黒い森の水車」 Op.52
ベルサリエリの行進 Op.99
ワルツ「イタリアの青空の下で」 Op.257
ポルカ「ウィーンからベルリンへ」 Op.62
コサックの騎行 Op.149
マンドリン・セレナーデ Op.117
「人生と夢」序曲 Op.106
フランス風ポルカ「グロェックヒェンの魔法」 Op.92
ハインリヒ王子行進曲 Op.93
性格的小品「製鉄業者」 Op.167
ワルツをもっとどうぞ Op.110
ギャロップ「ペテルスブルクの橇の旅」 Op.57
クリスティアン・シモニス指揮 ケルン放送管弦楽団
Koeln, February 6-11, 2006 & February 1-2, 2010
cpo 777 342-2(CD)



 ヨーゼフ・グングル Josef Gung'l (1809-1889)


Josef Gung'l

 ヨーゼフ・グングルはハンガリー生まれの、「ベルリンのシュトラウス」と呼ばれた作曲家、指揮者です。

 ドイツ人を父として生まれ、はじめグラーツでまずオーボエ奏者となり、その後、25歳の時にオーストリア砲兵第4連隊の楽長に就任しています。1843年にはベルリンでオーケストラを組織して、1848年から1849年にかけてはこの楽団を率いてアメリカ合衆国にまで演奏旅行に繰り出してました。このグングルのオーケストラは非常に優れているとして、かなり評判になったようです。なんでもグングルの支払う給金が宮廷楽団の団員並みでありながら、その一方で、宮廷楽団が1ターラーの入場料を取っていたころ、グングルのオーケストラは2グロッシェン半あるいは5グロッシェンで聴くことができました。おかげでベルリンではたちまち人気を得て、メンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」完全版を初演したのはほかならぬこのグングルの楽団であったと言われています。

 1864年にはミュンヘンに移り、1873年にはロンドンで大成功、1876年からはフランクフルトを本拠地として、最終的にはドイツのオペラ歌手として活躍していた実の娘と共にヴァイマルに落ち着いています。

 最初の音楽作品は1836年作曲の「ハンガリー行進曲」で、その後生涯に436曲もの舞曲や行進曲を作曲しています。なかでもよく知られているのはワルツ「アモレット・ダンス」や「ハイドロパテン」、「カジノ・ダンス」、「海の上の夢」など。なるほど、ウィーンの音楽とは異なって、どことなくドイツ的ながら、都会的に洗練された作風は多彩で愉しめる音楽です。私も比較的取り出すことの多いdiscです。

ワルツ、マーチ、ポルカ集
楽しい時も苦しい時も Op.289
海の上の夢 Op.80
エルブレシェン Op.207
常動曲 Op.317
アモレット・タンツェ Op.161
ナヤードのカドリーユ Op.264
故郷の調べ Op.31
フランツ・ヨーゼフ行進曲 Op.142
ツァムベキ・チャールダッシュ Op.163
ベルリン・コンチェルトハウスのポルカ Op.269
あなたは見ますか? Op.319
蒸気機関車ギャロップ Op.5
ハイドロパテン Op.149
私を思い出して Op.251
ナーレン・ギャロップ Op.182
クリスティアン・シモニス指揮 ニュルンベルク交響楽団
Stadthalle Fuerth, April 28-30, 2010
cpo 777 582-2(CD)



 フィリップ・ファールバッハ親子 Philipp Fahrbach, Junior(1843-1894) & Senior(1815-1885)

 
Philipp Fahrbach der Juengere, Philipp Fahrbach der Aeltere

 同じ名前で1世と2世、親子ともにオーストリアの作曲家。ヨハン・シュトラウス親子みたいですね。

 フィリップ・ファールバッハ1世 Philipp Fahrbach der Aeltere (1815-1885)はウィーン生まれ。ヨーゼフ・ランナー、ヨハン・シュトラウス1世の存命時から「第三」のウィンナ・ワルツの作曲家として将来を嘱望され、オーストリア帝室の宮廷舞踏会音楽監督も務めていました。

 1825年、10歳のときヨハン・シュトラウス1世の楽団に所属し、フルート奏者を務めています。このとき、シュトラウス1世はフィリップのいくつかの作品を初演してくれたということです。その後20歳になると自身のオーケストラを持って独立、その名を知られるようになり、ランナーとシュトラウス1世に次ぐ第三者とまで言われるようになります。

 シュトラウス1世が1849年に没すると、その後任として宮廷舞踏会音楽監督をオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世より拝命しています。

 フィリップ・ファールバッハ2世Philipp Fahrbach der Juengere (1843-1894)は1世の息子、指揮者としても活動しています。

 11歳のときに指揮者としてウィーンとブダペストでステージに立ち、やがて父のオーケストラを引き継いで、ウィンナ・ワルツの作曲家・指揮者として活躍しました。その名はウィーンのみならずパリやマドリードにまで知られており、彼の作品の多くが、最初に出版されたのはフランスだったということです。

 今回紹介するdiscは親子の作品を収録してます。息子さんの曲の方が多いですね。じっさい、作品の魅力では2世の方がやや上でしょうか。このあたりも、ヨハン・シュトラウス親子と似ていますね。親子ともども、「ワルツ王」として知られるヨハン・シュトラウス2世のよきライバルでしたが、現在ではほとんど演奏されることがないのは、歌謡性という点でわずかにヨハンには及ばないためでしょうか。

ポルカ、ワルツと行進曲集
ギャロップ「コウノトリ」 Op.149(2世)
フランス風ポルカ「同情から」(2世)
ワルツ「オカリナ」 Op.330(1世)
ギャロップ「液体」 Op.133(2世)
ポルカ「ブラジルの真珠」(2世)
ワルツ「愛の夢」 Op.341(2世)
ポルカ・シュネル「サーカス」 Op.110(2世)
ポルカ・マズルカ「マドリードのおみやげ」 Op.304(2世)
行進曲「コロンブス」 Op.332(2世)
ワルツ「パリのオペラ舞踏会」 Op.147(2世)
フランス風ポルカ「カーレンベルクの村で」(2世)
行進曲「ウィーン万博」 Op.90(2世)
レントラー風ワルツ「ウィーンの森のツノメドリ」 Op.61(1世)
ポルカ・シュネル「タルミ」 Op.304(1世)
クリスティアン・シモニス指揮 ニュルンベルク交響楽団
Nuernberg, March 2-4, 2017
cpo 555 179-2(CD)



 カール・ミレッカー Carl Milloecker(1842-1899)


Carl Milloecker

 この人の作品はもしかしたらニューイヤー・コンサートでも取り上げられているかも知れません。

 13歳でウィーン音楽院に入学し、16歳のときにヨーゼフシュタット劇場のフルート奏者になったところ、当時の劇場指揮者であったスッペに見い出され、指揮者として活動、同時にオペレッタの作曲もはじめ、とりわけ1882年の「乞食学生」が大ヒット。ヨハン・シュトラウス2世、スッペと並び、ウィーン・オペレッタの黄金時代を代表する作曲家として、名を知られることとなりました。

 ミレッカーといえば有名なのはオペレッタ、それももっぱら「乞食学生」ばかりで、その他の作品の序曲やポルカが聴けるのはめずらしいのではないでしょうか。案外と重厚で、オペレッタの序曲や作中の音楽など、単独で聴いてみればオペレッタの枠を超えているようなところがあります。

ワルツ、行進曲、ポルカ集
序曲 変ホ長調
フランス風ポルカ「イーダ」
ポルカ・シュネル「シプリエンヌ」
喜歌劇「日曜日の子供たち」- ワルツ
ポルカ・マズルカ「メリッタ」
喜歌劇「水運びのアパジューン」- 行進曲
喜歌劇「キスのリハーサル」- ワルツ
喜歌劇「ノルドリヒト」- ギャロップ「Eilgut」
ポルカ「リングシュトラッセ」
ポルカ・シュネル「きまぐれカーニバル」
喜歌劇「乞食学生」- 序曲
ピッツィカート・ワルツ
ポルカ・シュネル「水銀」
クリスティアン・シモニス指揮 ニュルンベルク交響楽団
Stadthalle Fuerth, May 20-22, 2015
cpo 555 004-2(CD)



(おまけ)

 オスカー・シュトラウス Oscar Straus (1870-1954)

 ユダヤ系のオペレッタの作曲家です。本来の姓はもともと"Strauss"だったのですが、ヨハン・シュトラウス一家(Strauss)との混同を避けるために、語末のsを一つ省いたと言われています。同じ名前の有名人がいると苦労しますな。


Oscar Straus

 ウィーン音楽院に学んだ後、ベルリンでマックス・ブルッフに師事し、ユーバーブレットル・カバレット(文芸酒場)で楽団指揮者を務めました。ちなみに、このとき楽団の編曲者として雇ったのがシェーンベルク。その後ウィーンに戻り、オペレッタの作曲として名をあげ、フランツ・レハールのライバルと言われるようになります。1905年にレハールの「メリー・ウィドウ」が初演された際には、"Das kann ich auch!"「あれくらいならおれにもできる!」と言い放ったとか―。

 1939年にナチスによってオーストリアが併合されるとユダヤ系であるためパリに逃れ、やがてハリウッドへ。戦後はヨーロッパに戻り、バート・イシュルで亡くなっています。

 その代表作はなんといってもオペレッタの「ワルツの夢」"Ein Walzertraum"と「チョコレートの兵隊」"Der tapfere Soldat"(原作がバーナード・ショウの「武器と人」)、それにワーグナーのパロディである「愉快なニーベルンゲン」"Die lustigen Nibelungen"ですが、今回ここで取り上げるのはめずらしいピアノ協奏曲ほかを収録したdiscです。

ピアノ協奏曲 ロ短調
ライゲン=ワルツ
弦楽オーケストラのためのセレナード Op.35
トラガント=ワルツ~舞踏音楽「トラガントの王女」のモティーフによる
オリヴァー・トリエンドル(ピアノ)
エルンスト・タイス指揮 ザールブリュッケン・カイザースラウテルン・ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団
SWR Studio Karlsruhe, March 12-16, 2018
cpo 555280-2(CD)


 ピアノ協奏曲はなかなかロマンティックな音楽で、全3楽章切れ目なく演奏されるもの。セレナードはもう少し古典的でブルッフ風。その他の作品、トラガント=ワルツなどは、たしかに20歳代で世紀末を迎えた作曲家の音楽です。


(Hoffmann)