092 プーランク 歌劇「カルメル修道女の対話」




 「カルメル会修道女の対話」"Dialogues des carmelites"は、フランシス・プーランク作曲のオペラです。フランス革命前後のコンピエーニュにおけるカルメル会修道女の処刑を題材とするもので、全三幕。

 世界初演は1957年1月26日、ミラノ・スカラ座でニーノ・サンツォーニョの指揮によりイタリア語歌唱で。これは作曲を依頼した楽譜出版会社リコルディ社との契約によるため。オリジナルのフランス語版初演は同年6月21日にパリ・オペラ座で、ピエール・デルヴォーの指揮で行われています。

 原作は20世紀ドイツのカトリック文学を代表する女流作家ゲルトルート・フォン・ル・フォールが1931年に発表した小説「断頭台下の最後の女」。これをジョルジュ・ベルナノスが台本化しています。原作小説はカルメル会修道女の殉教という史実に基づいており、生き残ったマザー・マリーが書き残した「証言(報告)」が1906年に出版されたことにより、ル・フォールがこれを参照して小説としたもの。

 ベルナノスは映画のシナリオを依頼されたのですが、映画化は遅れに遅れて、まずは戯曲として舞台上演され、さらにオペラ化されたというもの。映画はフィリップ・アゴスティニ監督とブルックベルガーにより"Le Dialogue des carmelites"として完成したのは1960年のこと。出演はジャンヌ・モロー、アリダ・ヴァリ、ピエール・ブラッスールとなかなか豪華な配役ですが、私は未だ観ていません。

 私がこのオペラを知ったきっかけは、ドナルド・キーンによる1977年のエッセイで、その年の2月にメトロポリタン歌劇場でのはじめての上演に足を運んだときのもの。これは英語による訳詞上演で「レコードで知っているあのフランス語原典の美しい響きを聴けないのがこのうえなくもの足りなかった」とあるので、作品を聴くのがはじめてではなかった模様ですが、続けてこう書かれています―

 その一点にのみ条件をつけてみたものの、この公演が、わたしがこれまでの人生で味わったもっとも大いなる経験のひとつだったことは認めざるを得ない。・・・その冒頭から、夢中にさせられない瞬間は一瞬たりともなく、批評精神を働かせるどころか、まったくわれを忘れて音楽に没入しているときさえしばしばあった。・・・聴き手の関心を巻き込み、聴き手を悲劇のなかへと間断なく引き込み、聴き手の精神を高め、そして最後にはもっとも偉大なる芸術のみがあたえることのできる経験によって聴き手の心を解放してくれるのは、いつまでも耳に残る美しさをたたえた、その音楽なのだ。

 これを読んでも興味を抱くなと言うのは無理な話。評論家のレコード批評などにはまったく影響されなかった私も、「カルメル修道女の対話」のレコードはすぐに入手しました。そう、プーランクの作品では、「牝鹿」よりもこちらを先に聴いていたので、はじめて「牝鹿」を聴いたときには、「これが同じ人の作曲NANO?」とびっくりしたんですよ(笑)


 それでは、手持ちのdiscです―

Pierre Dervaux, Choeur et Orchestre du Theatre National de l'Opera de Paris
Denise Duval, Regine Crispin, Rita Gorr, Xavier Depraz
Paris, 15,17,20,21,22,24 janvier et du 28 au 31 janvier 1958
Pathe Marconi 2C163-12801/3 (3LP)

 なにしろムカシはこれしか(入手でき)なかった。デュヴァル、クレスパンら歌手も最高。指揮者のピエール・デルヴォーは、これ以外にも結構いいレコードがある。フランス音楽以外でも、ベートーヴェンやワーグナーあたりはなかなかいい。


Kent Nagano, Orchestre de l'Opera de Lyon
Catherine Dubose, Jean-Luc Viala, Rita Gorr, Rachel Yakar
Auditorium Maurice Ravel, Lyon, 21-30 juin 1990
Virgin classics 7 59227 23 (2CD)

 はじめて聴いたとき、つくづく非凡な指揮者だと感動した。新時代の訪れだなあと思ったことを覚えている。


Jan Latham-Koenig, Orchestre Philharmonique de Strasbourg, Choeurs de l'Opera national du Rhin
Stage Director : Marthe Keller
Anne-Sophie Schmidt, Hedwig Fassbender, Patricia Petibon, Didier Henry
Opera national du Rhine, 17.1.1999.
ARTHAUS 100019 (DVD)


 映像がつくと印象も変わる。音だけ聴いて思っていた以上に劇的なオペラだった。

 
 


Riccard Muti, Orchetra e Coro del Teatro alla Scala
Directed for Stage : Robert Carsen
Dagmar Schellenberger , Anja Silja, Barbara Dever, Laura Aikin
Teatro degli Arcimbordi, Milan, February 2004
TDK DVWW-OPDDC (DVD)


 ムーティがこの作品を指揮したのは意外だった。緊張感漲る演奏。歌手もいい。演出も納得できるもの。

 
 


Simone Young, Philharmoniker hamburg, Chor der Staatsoper Hamburg
Satge Director : Nikolaus Lehnhoff
Alexia Voulgaridou, Kathryn Harries, Anne Schwanewilms, Gabriele Schnaut
Staatsoper Hamburg, 2008
ARTHAUS 101494 (BD)

 今回、なぜか手持ちのBDプレーヤーで再生できず、確認していない。以前は観られたんだが・・・。レンホフの演出はさほどどうということもなかったと記憶している。


Kent Nagano, Bayerisches Staatsorchester, Chor der Bayerischen Staatsoper
Staged by Dimitri Thcerniakov
Susan Gritton, Sylvie Brunet, Solie Isokoski, Susanne Resmark, Helene Guilmette
Bayerusche Staatsoper, 03/2010
BelAir BAC461 (BD)


 物議を醸した演出。ギロチンではなく、毒ガス室での処刑。これをブランシュがひとりひとり助け出すということらしい。音楽とは、思ったほどの違和感はないが、これでいいのか・・・安っぽい新興宗教のように見えてしまう。指揮とオーケストラは安定したもの。

 
 


Jeremie Rhorer, Philharmonia Orchestra, Choeur du Theatre des Champd-Elysees
Mise en Scene : Oliver Py
Patricia Petibon, Sophie Koch, Veronique Gens, Sandrine Piau, Rosalind Plowright, Topi Lehtipuu
Theatre des Champ-Elysees, 21 decembre 2013
ERATO 0825646219537 (BD)


 歌手は総じてすぐれている。演出も、ギロチンで、ひとりひとり退場して(背後の星空に消えて)ゆくのは、その場に倒れて死屍累々となるよりも、いいアイデアかもしれない。stageは終始暗いので観ていて疲れる。

   


(Hoffmann)