094 マーラー カンタータ「嘆きの歌」 「嘆きの歌」はマーラーが18歳から20歳にかけて作曲したカンタータ。狡猾な兄が手柄をたてた弟を殺害し、地中に埋めてまんまと王女を手に入れたものの、弟の骨から作られた笛が真実を暴露し、兄は自滅するという物語です。マーラー自身がグリム童話やベヒシュタインの物語を題材にした歌詞を作り、音楽を付けた処女作。しかしウィーン楽友協会による作曲コンクール「ベートーヴェン賞」に応募するも落選。 その後複数回にわたり改訂を加え、最終的には三部からなる作品の第一部を削除。オーケストラの編成にも手を加えています。1960年代には、改訂稿の二部形式での演奏が主流でしたが、やがて削除された第一部を戻した形も演奏されるようになり、20世紀の終わり頃には改訂前の初稿版が出版され、演奏される機会も増えています。第一部が削除されたのは音楽的な理由よりも、演奏されやすくするための措置と思われ、いまなら三部形式で演奏されるべきものでしょう。その場合、第一部には改訂が施されていないことが問題となるため、初稿で演奏するのか、第二部、第三部のみ改訂版で演奏するのかという問題が生じてしまいます。 第一部 森の伝説 Waldmaerchen 第二部 吟遊詩人 Der Spielmann 第三部 婚礼の音楽 Hochzeitsstueck 個人的には、シェーンベルクの「グレの歌」のルーツというか、モデルになったのがこの作品ではないかと思っています。 所有しているdiscは以下の5点のみ― ベルナルド・ハイティンク指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 オランダ放送合唱団 ヘザー・ハーパー(ソプラノ) ノーマ・プロクター(アルト) ヴェルナー・ホルヴェーク(テノール) 1973. 蘭PHILIPS 6500587(LP) これは従来どおりの第二部と第三部の録音。 作為のなさ。安心して聴けるが、それだけに物足りなくもある。第一部の録音が行われれるようになって、価値が半減したか。めったに取り出さなくなってしまった。 ピエール・ブーレーズ指揮 ロンドン交響楽団 ロンドン交響楽団合唱団 エリザベート・ゼーダーシュトレーム(ソプラノ) グレース・ホフマン(メッゾ・ソプラノ) エルンスト・ヘフリガー(テノール) ゲルト・ニーンシュテット(バリトン)(以上第1部) イヴリン・リアー(ソプラノ) スチュアート・バローズ(テノール) ゲルト・ニーンシュテット(バリトン)(以上第2部、第3部) ロンドン、ウォルサムストウ・タウン・ホール、1969.5.26-27.(第2部、第3部) ロンドン、ワトフォード・タウン・ホール、1970.4.22.(第1部) 独CBS S77 233(2LP) たしか最初は1枚物LPで出た記憶がある。そのときは従来どおりの第二部と第三部のレコーディングで、後に第一部を追加録音して2枚組で出し直したのではなかったか(私も以前は両方持っていた)。なので、録音会場も歌手も異なっている。2枚組になって交響曲第10番のアダージョが第4面に併録されており、それも第1部と同時期に録音されたはず。この2枚組のジャケットには"Erste Gesamtaufnahme"と表記されている。 歌手が代わっているため、どうも後付け感があるのはしかたがないところ。ブーレーズは後に再録音しているらしいが、DG時代のブーレーズには興味がないので聴いていない。 ラファエル・クーベリック指揮 バイエルン放送交響楽団 同合唱団 ユリア・ハマリ(アルト) ローゼ・ワーゲマン(メゾ・ソプラノ) デイヴィッド・レンドル(テノール) 1979.6.8. live PRAGA PRD/DSD350118(SACD) ケースに"First edition in two parts"とあるが、これは第二部と第三部の演奏ということ。「嘆きの歌」のほかに以下の併録あり。ただし「グレの歌」はDGの全曲録音から27:51分(ぶん)抜粋したもの。 ブラームス:アルト・ラプソディ グレース・ホフマン(コントラルト) 1962.6.18. live シェーンベルク:グレの歌(抜粋) インゲ・ボルク(ソプラノ) ヘルベルト・シャハトシュナイダー(テノール) キート・エンゲン(バス) 1965.3.10-12. live クーベリックによるマーラー演奏としては、DGへの交響曲録音よりもいい。1979年という円熟味を増した時期であったのが良かったのか。マーラーを血が通った手造り感で聴かせる演奏は、交響曲ではいくつもあるが、この作品ではめずらしいのでうれしい。第一部が演奏されていないのが残念。 ミヒャエル・ギーレン指揮 ウィーン放送交響楽団 ウィーン・ジングアカデミー合唱団 ブリギッテ・ポシュナー=クレーベル(ソプラノ) マルヤナ・リポヴシェク(メゾ・ソプラノ) デイヴィッド・レンドール(テノール) マンフレート・ヘム(バリトン) ウィーン、コンツェルトハウス、1990.6.8. ORFEO C210021(CD) このギーレン盤は、初稿版第一部と改訂版第二部、第三部を組み合わせるという折衷案によるもの。特段、違和感はないと思うが、素人の言うことですからね、各自、自分で聴いて判断して下さいよ。 ギーレンのマーラー演奏はその交響曲全集と同様、都会的な洗練されたもの。情緒に溺れることはないが、表情の振幅は結構大きい。知性派の好演。 ケント・ナガノ指揮 ハレ管弦楽団 ハレ合唱団 エヴァ・ウルバノヴァー(ソプラノ) ヤドヴィーガ・ラッペ(アルト) ハンス・ペーター・ブロホヴィッツ(テノール) ホーカン・ハーゲゴード(バリトン) テレンス・ウェイ(ボーイ・ソプラノ) オットー・ヤウス(ボーイ・アルト) 1997.10 ERATO 3984-21664-2(CD) 初稿(1880年版)によるはじめての録音だったはず。 私はその後に出た盤でとくに聴いてみたいと思うものもなく、これが最新盤。なので、個人的にはいまもって貴重な録音。演奏も現代的な低カロリー演奏ながら、響きが飽和しないで美しさを保つ、すばらしいもの。 (Hoffmann) |