102 stereo盤で聴くチャイコフスキー交響曲第6番「悲愴」




 前回、mono盤再生用カートリッジの(自己流による)選び方で、チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」のmono盤で具体例を示しました。そのとき、いろいろ気がついたこともあり、なかなかおもしろかったので、引き続き同曲のstereo盤を取り上げることにします。ただしCDは除いてLPのみ。


ピエール・モントゥー指揮 ボストン交響楽団
1955.1.26
米RCA VICS-1009 (LP)


 前回取り上げた英HIS MASTER'S VOICEのmono盤と同じ演奏。米プレスの再発盤なので比較しては気の毒ですが、やはりmono盤とくらべると密度感が薄くなったかなという印象です。ただし終楽章の第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリンの掛け合いは空間的な広がりを感じさせます。


エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮 レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
ムジークフェラインザール、1960.11.7-9
DG 479 8123 (3LP)


 これは1960年録音なので前回取り上げたmono盤とは別の演奏です。これは4、5、6番セットの復刻盤なのでEQカーヴはRIAA。以前、いわゆる赤stereo盤を持っていて、あまり気に入らずに欲しいという人がいたのであげてしまったんですが、ちょっと惜しいことをしたかな。mono盤を聴いてから、またstereoでも聴いてみたくなったので入手したもの。あらためて聴いてみると・・・う~ん、どうもstereoで聴くとあまり好きな演奏とは感じないんですね。スコアの指示、とくにテンポの変化に関しては、几帳面にやっているようですが、ダイナミクスの変化を強調して対応しているようでもあり、そのとき若干レガート気味。これはあまり賛同いただけないと思いますが、どことなく、カラヤンを思い起こさせるようなところがありますね。図太い金管のおかげで表情の厳しさは随一なんですが。


レナード・バーンスタイン指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック
エイヴリー・フィッシャー・ホール、ニューヨーク、1986.9
DG 419 604-1 (LP)


 バーンスタイン晩年の録音。勢いあまって遅くなった、といった超スローテンポで、過剰なまでの感情移入。これはこれで有無を言わせない説得力があります。


レナード・バーンスタイン指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック
ニューヨーク、マンハッタン・センター、1964.2.11
CBS Sony SOCL1008 (LP)


 バーンスタインの旧録音。1986年の録音ほどではありませんが、バーンスタインはこの時期にして既にいろいろ細かい表情付けをしていたと気がつきました。


オットー・クレンペラー指揮 フィルハーモニア管弦楽団
1961.10
英Columbia SAX2458 (LP)


 テンポは一定ですが、さすがに説得力があります。重量感はありますが、ドイツ的というのとも違う、即物的に純粋器楽として演奏していながら、底に流れる情念のようなものを感じさせるところがクレンペラーらしいところです。


カール・ベーム指揮 ロンドン交響楽団
ロンドン、ウォルサムストウ・タウン・ホール、1978.12
DG 2531 21 (LP)


 寄る年波でギクシャクしていると感じる人は多いかもしれませんが、それほどでもない。木管などのフレージングが独特で、たいへん個性的です。おそらくウィーン・フィルハーモニー管弦楽団だったらもっとなめらかに歌ったであろうところ、息長く歌わせるよりもアクセントの強調でフレーズに区切りがついたように聴こえます。テンポを変動させるよりもダイナミクスの変化で表情記号に対応したのでしょうか。だとすると、ベームからはかなり細かい指示が出ていたものと思われます。録音はDGにしては良い方。


ラファエル・クーベリック指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン、1960.11
独Electrola E91138 (LP)
仏Pathe Marconi 2M 155-54027/29 (3LP)


 独Electrola盤は廉価盤シリーズなどにときどきある、高域下がりのバランス。EQカーヴで調整するなら、Roll off(10kHz)をRIAAの-13.7dBからDECCAffrrの-10.5dBにしてもいいくらい。"das Meisterwerk"表示がありますが、これも廉価盤シリーズなんでしょうか。レーベルは古そうに見えるんですが・・・よくわかりません。4、5、6番3枚組セットの仏Pathe盤は、これこそ廉価盤なんですが、バランスはいたってまともなので、こちらで聴きました。

 自然体の演奏で、テンポの変動は控え目ながら、やっています。ただ、ちょっと薄味ですね。悪くはないのですが、特段の感銘もありません。クーベリックの指揮ですが、第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリンは両翼配置ではありません。

 なお、この盤、購入したときかなりソリがあったので、白ジャケットに入れてぎゅうぎゅうの棚に差し込んで2、3年放置しておいたところ、かなり改善されていました。


カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団
1959
英EMI(The World Records Club) T634 (LP)


 ジュリーニは若くして貫禄、ゆったり、滔々と流れる演奏です。テンポは楽章ごとにコントラストをつけた? テンポの変動はありますが、スコアの指示よりも、あくまでジュリーニ流。


カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団
1980.11
DG 2532 013 (LP)


 1959年のEMI録音に続けて聴くと、直接音主体の録音で、やや響きがやせて聴こえます。よくいえば室内楽的、悪くいえば貧血気味。終楽章冒頭の第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリンの掛け合いはなめらかにつながっています。もちろん、あえてギクシャク感を出さずに隠蔽することにも意味があります。テンポはほぼ一定と聴こえます。ごく控え目にゆらしているのですが、そう感じさせないように腐心しているのでしょうか。旧録音よりは遅くなっています。オーケストラは熱演、クレンペラーと同様、ドラマ性よりも純粋器楽。


ジャン・マルティノン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン、ゾフィエンザール、1958.3.31-4.3
英DECCA SDD138 (LP)
米LONDON CS6052 (LP)


 英DECCA盤は"Ace of Diamonds"シリーズ、米LONDON盤はBBの英プレス盤。いずれもEQカーヴはRIAA。

 録音のせいかどうか、第一ヴァイオリン主導型で響きは軽量級と聴こえます。おもしろいのは、テンポに関しては基本的にはスコアの指示どおりに(控え目に)やっていながら、あえてスコアの指示と逆をやっているところがある。じつはこれがフルトヴェングラーと同じことをやっているんですよ。真似したのか、たまたまなのか分かりませんが、なかなか効果的で、このふたり以外の演奏では聴いたことがありません。その意味では個性派です。


 あとは次点クラス。とはいえ、それなりに聴き応えがあるものを―

リッカルド・ムーティ指揮 フィルハーモニア管弦楽団
1976
英EMI ASD 3901 (LP)


 SQエンコード盤ですが、そんなに変な音はしません。歌わせ系。


ウラディーミル・アシュケナージ指揮 フィルハーモニア管弦楽団
1980
仏DECCA 591182 (4LP)


 4、5、6番とマンフレッド交響曲の4枚組。単純ですが、その純情さが心を打つ演奏です。


ベルナルト・ハイティンク指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
1978
PHILIPS (番号控えてくるの忘れた、蘭プレスの交響曲全集セット)


 ドラマティックではなく、これもまた純粋器楽。充実した中庸。


ヨーゼフ・クリップス指揮 チューリヒ・トーンハレ管弦楽団
1960.10
英Concert-Hall SMSA2216


 Concert Hall盤なのでどんなにひどい録音かと心配していたのですが、意外とまとも。演奏はモダンな感覚。


(Hoffmann)