104 あえて聴くmono盤 その2




 今回はmono盤再生時のスピーカーの話です。私はオーディオマニアではないので、このようなことを語る資格があるのか、と言われれば「ない」と思います。もっとも世の中、オーディオ評論家も含めて、そんな資格を持っているひとはまずいない(笑)評論家はメーカーの提灯持ちにすぎないし、アマチュアだってそれぞれが「自分なりの方法」を語り、あるいは実践しているだけのこと。なかにはテキトーなことを言って、カモにされたマニアに、ものを売りつけようとしているだけだったりすることも(笑)

 まあ、以下は最新機器に興味がなく、KlangfilmだのWestern Electricだのといった、高価なvintageものにも手を出せない半端者が自分なりのやり方を語ってみようというのですから、どうか広い心で、おおらかな気持になって聞いて下さいましYO。


 さて、mono盤再生時のスピーカー。これはやはりある程度大型のスピーカーの方が向いていると思います。大型というのは「高級」「高価」という意味ではありませんよ。ことばどおり、「大きい」ということ。stereo再生で音場感やピンポイントの定位を感じさせる小型スピーカーというのは、mono再生だと、点音源なので音が広がらない。mono時代の昔はスピーカーが1本で、コーナー型が主流でした。つまり部屋の壁をホーンに見立てて音を広げるようにしていたわけです。小型スピーカーの点音源はこれとは逆。しかも、スピーカーの周囲に何も置かないのが基本。背後も左右も壁に近付けないフリー・スタンディングであればなおさらmono再生には不利と思われます。なので、最近のmono録音のCDには逆相のエコー(stereo信号)を附加して、わずかながら広がりを持たせている例もあると聞きます。

 それはともかく、ある程度の大きさの大型スピーカーというのはどの程度かというと、我が家の例でいえばTANNOYのCornetta、これはMonitor Gold 10"、すなわち25cmのユニット入りですが、このサイズのユニットにしては箱が大きめ。しかも、コーナー型。それに、SIEMENSの Sachsen 202。これは通称「鉄仮面」と呼ばれる25cmウーファーと9cmトゥイーターの同軸ユニット(コアキシャル・ユニット)がチャンネルあたり2機搭載された後面開放型スピーカー。やはりmono録音はこの2機種のいずれかで聴きたい。これ以上のサイズになると私の部屋ではちょっと無理があるのでここまで。もちろん、恵まれた条件で、もっと大きなスピーカーで聴いている人もいるでしょう。

 20cmウーファーを持つHarbethのHL MonitorではぎりぎりOKかな。ブックシェルフと呼ぶには大きいし、40年以上鳴らし続けただけあって、わりあいゆったり鳴るタイプですからね。ただ、このスピーカーはコーナーに置くようなセッティングはしていないので、やはりstereo再生向き。ウーファーが20cm以下の、13~17cmユニットのブックシェルフ型だと、やはり物足りない。

 先に述べたとおり、大型というのは「高級」「高価」という意味ではありませんから、なんなら、コストを抑えた自作でも対応は可能でしょう。ただし、私自身がスピーカーの自作はやらないので、ここではふれません。

 なお、mono盤再生時にスピーカーを1本にするか2本のままで聴くかという問題があります。mono盤が好きで1本で聴くという人も多いようですが、私はそうした人たちを、決して皮肉ではなく敬意を持って「ピューリタン」と呼んでいますが、私は2本で聴きます。なんかね、1本だとエネルギーが強すぎて、疲れてしまうんですよ。いや、もしかしたら私の再生テクニックが未熟なのかもしれませんが、2本の方が心地よい。しかも、SIEMENSのスピーカー2本で聴くと、4つの25cmユニットが鳴って、なかなかの迫力です。余談ながらこの同軸ユニットは15Ωなんですが、2本/chなので7.5Ωとなるため、アンプにとっても御しやすいはず。

 SIEMENSのスピーカーなんていうと、多くの人はドイツのシンフォニーなどに適性がありそうに思うのではないでしょうか。たしかにそのとおり。でもね、案外とニュートラルなんですよ。いまどきの小型ブックシェルフは、多少デフォルメすることで聴き映えを良くしているところがあって、早い話が高域強調型が多い。出力音圧レベル(能率・感度)が低いから、トゥイーターの音を抑えているわけですが、音量はともかく音質的に抑えきれていない印象です。それでウーファーのピストンモーションを大きくとって小さな箱で鳴らそうとするためか、総じて「ドンシャリ」の傾向にあります。それとくらべれば、余程SIEMENSの方が「まとも」なバランスで鳴ります。ヨハン・シュトラウスやドビュッシーだって大丈夫ですよ。もちろん、とくに低域側のバランスはセッティング次第ということもありますが、そんなに追い込まなくても、問題なく聴かせてくれるおおらかさがあるような気がする・・・のは、私がオーディオマニアではないからかもしれませんが(笑)やっぱり、能率がいいスピーカーというのは扱いやすいんじゃないかな、と思っているんですけどね。よそ様のお宅で、往年のALTECのスピーカーを聴いたときにも、同じような印象を持ちました。

 よくマニアが「このスピーカー(を上手く鳴らすのに)は一生かかる」なんて得意になっていますが、私ならその一生を、音楽を聴いて愉しんで過ごしたいですね。手間暇(と金銭)をかけて、「まだまだだめだ」なんて、じつは心にもないことを吹聴することに時間を費やすなんて、マッピラです。


 さて、今回もこれまでに取り上げていないレコードを―

ラヴェル:管弦楽曲集-1
バレエ音楽「ボレロ」、 スペイン狂詩曲、舞踏詩「ラ・ヴァルス」
アンドレ・クリュイタンス指揮 パリ音楽院管弦楽団
パリ、サル・ワグラム、1961.11.27,29,30
仏Columbia FCX913 (LP) (mono)
Testament SAX2476-9 (SMS1017) (4LP) (stereo)



 クリュイタンスがパリ音楽院管弦楽団を振って録音した4枚のラヴェル管弦楽曲集の1枚目。もちろん、Testamenthaの4枚組"Ravel Complete Orchestral Works"は復刻盤で、ほかにstereoの再発盤や子供の頃に買った国内盤なども手許にあります。2枚目以降のmono盤も揃えていますが、今回は第1集だけ取り上げます。

 Testamentの復刻盤セットは今回ひさしぶりに聴きました。やや明るめ、というのはバランスがわずかに高域寄りということなんですが、これを補正すればなかなかいいですね。

 仏Columbia盤はフランスでのmono盤のoriginal。EQカーヴはRIAA。棒付き厚手ボード、ジャケットはジュベール工房のデザイン。イギリスでは1963年英Columbia 33CX 1833/SAX 2477があって、stereo盤のSAXに至っては超高額盤。それとくらべればmono盤は安いもの(笑)でもね、これがいい音なんですよ。mono盤の常でやや高低のレンジは狭くなるんですが、その分実在感において勝っている。密度が高まった感じです。奥行き感も下手なstereo盤よりも豊かです。木管など、細部の表情はかえってクローズアップされるかのようです。


ドビュッシー:バレエ音楽「遊戯」、管弦楽のための映像
アンドレ・クリュイタンス指揮 パリ音楽院管弦楽団
パリ、サル・ワグラム、1963.9.11-14
英Columbia 33CX1908 (LP) (mono)
仏Columbia CCA993 (LP) (stereo)
英World Record Club ST910 (stereo)


 英Columbiaのmono盤はイギリスoriginal。
 仏Columbia のstereo盤はoriginalではなく、フランスでの第2版。棒付き厚手ボード。
 英World Record Club盤は中古店でも見かけることが多く、3枚持っています(笑)
 以上、すべてEQカーヴはRIAA。ジャケットデザインもすべて同じです。
 このほか、国内盤も持っていますが、英Columbiaのstereo盤SAX2548は所有していません。かなりの高額盤でしょう。

 英Columbiaのmono盤は鮮明にしてエネルギー感が見事。ホールトーンがとてつもなく美しく、木管の名人芸が愉しめます。

 仏Columbiaのstereo盤も美しい。ドビュッシーの色彩感となるとやはりstereo盤が有利かもしれません、細部まで鮮明です。ちなみに仏stereo盤の旧番号はSAXF993。この第2版は2年くらい後に出たものです。

 英World Record Clubのstereo盤は新しいだけに明るめ、わずかに高域寄りのバランスで、上記CCA993には密度において一歩譲るものの、反面透明度にすぐれているとも言えます。そんなに馬鹿にしたものでもありません。これしかなければこれで十分愉しめるレベルです。


Andre Cluytens

 クリュイタンスのstereo録音があるもののmono盤は、ほかにベートーヴェンの交響曲なども所有していますが、今回はSIEMENSでフランス音楽を、と思ってラヴェルとドビュッシーを選びました。このようなフランス音楽でも、SIEMENSのスピーカで聴いて、場違いな印象はありません。四角四面のドイツ的な表現ではなく、音楽に柔軟に対応してくれます。ラヴェルの方は英プレスのmono盤があったら聴いてみたいですね。


(Hoffmann)