107 舘野泉のレコード このフィンランド在住のピアニストは2002年1月9日に、フィンランド・タンペレでの演奏が終わった直後、脳溢血のため転倒し、右半身に麻痺が遺って、リハビリを経ても右手が不自由のままとなりました。ところが、2003年8月に左手のピアニストとして復帰。翌年には我が国でも左手のピアノ作品によるリサイタルを開き、87歳に至る現在でも現役、演奏会、録音、新作委嘱などを通して、左手ピアノ曲の普及に努めています。 舘野泉 ただし、CDをあまり聴かない私が持っているのは古いレコードばかりです。手許にあって、取り上げるレコードは左手のピアニストになる以前のもの。もちろん、現在もこのピアニストを応援していることに変わりはありませんが、忘れたくない、愛着の深い盤を紹介したいと思います。 舘野泉 シベリウス・ピアノ名曲大系 Arakawa Public Hall、13th-15th & 27th July, 1978 東芝 TA-06100~103 (4LP) 6つの即興曲、6つのフィンランド民謡ほかを収録。たしか高校生の時に発売されてすぐに買ったんじゃなかったかな。「樹」の組曲、「花」の組曲なんて曲名だけでも魅了されてしまい、毎日よく聴きました。当時私はシベリウスの交響曲は聴いていましたが、ヴァイオリン協奏曲や弦楽四重奏曲は未だ聴いたことがなくて、シベリウスといえば交響曲とピアノ曲の作曲家だと思っていたんですよ。 舘野泉/フィンランドピアノ名曲選 東京文化会館小ホール、大宮市民会館、埼玉会館大ホール、1970.8.10~1974.6.18 東芝 TA-60001~4 (4LP) 収録曲はシベリウス、パルムグレン、メラルティン、マデトヤ、クーラ、ハンニカイネン、キルピネン、ベルイマン、エングルンド、コッコネン、ラウティオ、ラタヴァーラ、メリライネン、ヘイニネン、ルンドグレンの作品。これはかなり後になってから入手したものです。思いついたときに、任意の面に針を下ろすような聴き方がふさわしいかな、と思っています。 愛の歌/舘野泉・ロマンティック/コンサート 荒川区民会館ホール、1977.7.7-9 東芝 TA-72040 (LP) スークの「愛の歌」のほか、コダーイ、ラフマニノフ、グリーグ、ハンニカイネン、シベリウス、シンディングの小品を収録。親しみやすい音楽でありながら、滅多に耳にすることができそうもない作品が並んでいます。ああ、そうだった、この頃はそういった音楽のレコードばかり選んで買ってたんだ・・・。 ムソルグスキー:展覧会の絵 シマノフスキー:仮面劇 Chiba Cultural Hall、19th & 20th, November 1975 東芝 TA-72020 (LP) 申し訳ありません、これだけはあまり「愛聴盤」とは言えません。ムソルグスキーは、あまり関心のある音楽でもないので。それでも、手持ちの「展覧会の絵」のdiscはこれだけ。作品に対する愛着でも、演奏本位でも、ほかの盤は必要ありません。ラヴェル編曲版のレコードも同様の理由で1枚しか持っていません。ちなみにそちらはマルケヴィチ指揮、ゲヴァントハウス管弦楽団の東独ETERNA盤。つらつら考えるに、私のこの音楽に対する理解が、圧倒的な迫力とか、輝かしさ、派手な演出というものをまったく不要とするものなので、舘野泉、マルケヴィチ、という選択になったのだろうと思います。あ、そうだ、若き小澤征爾、シカゴ交響楽団のレコードもあったっけ。 グリーグ:ピアノ協奏曲 ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 オッコ・カム指揮 日本フィルハーモニー交響楽団 埼玉会館ホール、1972.4.3-4 東芝 EAA-80107 (LP) オーケストラは旧日本フィルハーモニー交響楽団。オッコ・カムはカラヤン国際指揮者コンクール優勝時(1969年)にはまったくの経験不足だったそうですが(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団がレコーディングを拒否したとか)、その3年後にしてスタイルは確立されています。 グラナドス:ゴイェスカス「恋する男達」第1部、第2部 洗足学園前田ホール、1988.4.25,26 Canyon classics C28L0005 (LP) すべてのレコードについて言えることですが、効果造りを排した自然体の純情さが持ち味。協奏曲だと、ややコンパクトにまとまってしまう印象もありますが、タッチは明確です。 表題は「舘野泉のレコード」としましたが、CDも協奏曲で4点だけ挙げておきます。 モーツアルト:歌劇「魔笛」序曲 ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 シベリウス:即興曲 作品5の5 渡邉暁雄指揮 日本フィルハーモニー交響楽団 東京文化会館、1980.5.24 KING International KDC22 (CD) ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番 伊福部昭:七夕~「ピアノ組曲」より 渡邉暁雄指揮 日本フィルハーモニー交響楽団 東京文化会館、1980.5.24 KING International KDC21 (CD) 番号順ではありませんが、これがプログラム順(シベリウスの即興曲はアンコール曲)。マルP2009とあるので、2009年の発売だったでしょうか。このdiscが出たときは嬉しかったですね。なぜなら、1980年5月24日当日、私もこの会場で聴いていたからです。プログラムは、「魔笛」、ブラームス、ラフマニノフの順でした。 ただしオーケストラは冴えません。とくにブラームスでは冒頭からもたつき気味で鈍重。この作品でオーケストラが弱いのはほとんど致命的。そもそもこれは協奏曲なんですが、指揮者もオーケストラも、ピアノを聴いていないのでは・・・? プログラム後半のラフマニノフで多少調子が出て来たかなと思います。そのためかどうか、舘野泉のピアノもラフマニノフの方がいいですね。 ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 同:大学祝典序曲 井上喜惟指揮 チェコ・ナショナル交響楽団 芸術家の家、ドヴォルザーク・ホール、1996.2.21-28 KING KICC203 (CD) ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 グリーグ:ピアノ協奏曲 井上喜惟指揮 チェコ・ナショナル交響楽団 芸術家の家、ドヴォルザーク・ホール、1996.2.21-28 KING KICC201 (CD) こちらも番号順ではありませんが、上の2枚と合わせてブラームスを先にしました。発売は上記live盤よりもこちらがずっと先だったはず。 オーケストラは国際的な超一流とまでは思いませんが、上記日本フィルハーモニー交響楽団とくらべれば余程いいですね。オーケストラがちゃんとピアノと対話しています。これでいま一歩、響きに厚みが加われば、と思います。ブラームスでのピアノは力強いというものではなく、もう少し芯が強くてもいいんじゃないかなと思いますが、これだけデリカシーに富んだ演奏もめずらしいでしょう。その意味ではラフマニノフの2番は常識的。この指揮者とオーケストラでラフマニノフの3番も録音して欲しかったですね。 なお、今回LPは、カートリッジをB&OのMMC1、スピーカーをStirling Broadcast LS3/5a V2で、CDはスピーカーをSpendorのブックシェルフで聴きました。 (Hoffmann) 引用文献・参考文献 「命の響」 舘野泉 集英社 ※ 舘野の「舘」は、上記書籍では左が「舎」 「左手のコンチェルト 新たな音楽のはじまり」 舘野泉 佼成出版社 |