108 「同曲同演・異盤」聴きくらべ その1




 同曲異演盤じゃありませんよ、同じ曲、同じ演奏の異なる盤、つまり同じ内容のレコードを、たとえばoriginal盤と再発盤、なんなら再々々発廉価盤などと聴きくらべてみるということです。ただしstereo盤とmono盤は「あえて聴くmono盤」でやっているので、ここでは基本的に複数のstereo盤での比較です。もちろんCDも除外して、あくまでレコードでの比較ですよ。


チャイコフスキー:幻想序曲「ロメオとジュリエット」
チャイコフスキー:幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」
カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団
キングズウェイ・ホール、ロンドン、1962.4.9,10 1962.410,11
英Columbia SAX2483 (LP) ブルーシルバー
英Columbia SAX2483 (LP) セミサークル
英Columbia SAX2483 (LP) 音符


 レコード番号もジャケットも同じなんですが、レーベルが異なる3枚です。

 ブルーシルバーはカートリッジを選ぶ傾向がありますが、今回はまずまず。音が有機的に聴こえ、響きの彫りが深くなります。カートリッジによっては渾然一体、というより音が塊になってしまうことがある盤です。

 セミサークルはほかのレコードでかなり印象がいいので期待して聴きましたが、ブルーシルバーとそれほど変わらず。ヴァイオリンの高域がわずかに荒れるのは、盤の痛みのせいかもしれません。

 音符レーベルはややこぢんまりとするものの、透明度が高い。もっとも、密度が薄まったともとれます。これは好みの範疇でしょう。盤の状態がよいので、SN比がよく静けさが得られるため、stageとの距離感に奥行きまで、音場感が豊かになった印象です。これはこれで決して悪くありません。

 カートリッジはortofonのMC20 Suprimeを使用。なお、ブルーシルバーはSPU Classic GEでも聴いたところ、そちらの方がより好結果でした。やや盤の痛んだセミサークルもSPUで聴けば多少結果がよくなったかもしれません。


ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
ルドルフ・ケンペ指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
グリューネヴァルト教会、ベルリン、1959.9.3
英His Master's Voice ASD426 (LP)
英World Record Club ST942 (LP)
独Electorola STE80535 (LP)
独Electrola C047-50 507 (LP)
独Electrola SMVP8004 (LP)
東芝 AA/5004 (LP)


 英His Master's Voice ASD426はoriginal盤のはず。
 独ElectrolaのC047-50 507は"emidisc"表示あり。おそらく廉価盤。
 独ElectrolaのSMVP8004は"Die Volks Platte"表示あり。Kristall Gesellschaft M.B.H.Koelnの販売。おそらく廉価盤。
 東芝盤は「セラフィム名曲シリーズ」廉価盤。

 誰だってASD426がもっとも良い音だと感じるでしょう。鮮度の高い音ですが、わずかに高域寄りのバランスと聴こえます。英World Record Club ST942も大体同じような傾向です。

 その点、独ElectrolaのST942がわずかに輝きを抑えた好バランス。落ち着いた響きになります。独Electrola、"emidisc"表示のC047-50 507が大体同じ。SMVP8004は独プレス廉価盤にときどきある、高域を抑えた低域優勢型。といっても、RIAAで聴いて違和感を生じるほどではなく、落ち着いた響きと聴こえて、補正の必要は感じません。

 東芝盤は、輸入スタンパーではなさそうですが、これがなかなか馬鹿にできません。国内廉価盤としてもやや古めのシリーズであるためか、1970年代の国内盤のような薄っぺらな響きではなく、意外と立体感のある響きが聴けます。

 なお、海外盤はすべて第2楽章の途中で面が変わりますが、東芝盤のみ第2楽章までA面、B面には第3楽章と第4楽章、さらに「フィデリオ」序曲が併録されています。詰め込みといえば詰め込みなんですが、第4楽章の終わりまで聴いて、さほど悪影響は感じませんでした。

 ところでこの演奏、冒頭のアタックに“ずらし”があるんですよね。mono盤でも分からないことはないと思いますが、stereo盤だと右chから左chに響きが移っていくような効果があるので、これはstereo盤で聴いた方がおもしろいかもしれません。でも、mono盤も欲しいな(笑)


ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」
ルドルフ・ケンペ指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
グリューネヴァルト教会、ベルリン、1957.9.2
独Electrola STE80026 (LP)
英EMI SXLP30110 (LP)
英EMI C047-50508 (LP)
独Electrola 1C027-00957(SMVP 8015) (LP)

(参考)
英His Master's Voice ALP1623 (LP) mono盤


 英EMI SXLP30110には、"Concert Classics Series" の表示あり。参考までにstereo初出はASD380で、かなりの高額盤。
 英EMI C047-50508には、"emi disc" の表示あり。
 独Electrola 1C027-00957は、"Die Volks Platte Kristall gesellschaft M.B.H. Koeln"が発売元(?)として表示されており、この3枚はおそらく廉価盤と思われます。

 このstereo盤4枚はかなり音が異なります。

 SXLP30110がもっとも音質良好です。

 STE80026は独プレス盤だから悪いとは思いませんが、盤が少々痛んでいて不利。

 問題は1C027-00957で、かなりのハイ落ち、つまり高域下がりで低重心というより重い。EQカーヴがRIAAでないとは考えにくいのですが、DECCAffrrでもいいくらい、というか、それでようやくバランスがとれるんですよ。かなりイコライジングして「音を造っている」感じですね。

 今回、mono盤とは比較しない予定でしたが、英HMVのmono盤が出てきたので聴いてみたところ、結局これがベストかな(笑)音の密度が濃くなります。ちなみに英盤ASD380(stereo盤)は持っていません。あってもおそらく私には買えないくらい高価でしょう。余裕のある人は狙ってみては?

 なお、ケンペの「新世界」では、瑞Ex-Librisから出た、1971年のチューリヒ・トーンハレ管弦楽団との再録音が演奏・録音ともに最高の出来です。

 カートリッジはベートーヴェン、ドヴォルザークともに、stereo盤にはortofonのMC Cadenza Redを、mono盤にはCD 25 Dを使用しました。


 「その1」としましたが、またやるかどうか、いまのところ未定です。


(Hoffmann)