121 マルグリット・ロンのレコードから マルグリット・ロンMarguerite Longは1874年生まれの20世紀前半のフランスを代表するピアニスト。「ガブリエル・フォーレ協会」設立に関わって、フォーレ協会主催でフォーレ・コンクールを開催したり、ロン=ティボー音楽学校を創設して、現在も続いているロン=ティボー国際コンクールを開催するなど、教育者としても活躍した人です。弟子にはジャック・フェヴリエ、ジャン・ドワイヤン、ピエール・バルビゼ、サンソン・フランソワ、フィリップ・アントルモン、ブルーノ・レオナルド・ゲルバー、それに我が国の園田高弘などが数え上げられます。 とりわけフォーレ、ドビュッシー、ラヴェルに関しては、演奏だけでなく、著書・講演も含めて、その音楽が音楽史上に地位を確立することに貢献したと言っていいでしょう。2023年にアルテスパブリッシングから出た神保夏子による「マルグリット・ロン 近代フランス音楽を創ったピアニスト」は、そうした活動に加えて、マルグリット・ロン自身が自らのimageを形成してプロデュースしてゆく流れも詳述されており、その意味では相当野心家であったロンに対して、ネガティヴな感情を持っていたひとも少なくなかったことが分かります。 Marguerite Long レコードはそんなに持っていなくて、我が好きなのは次の3枚― フォーレ:ピアノと管弦楽のためのバラード ラヴェル:ピアノ協奏曲 マルグリット・ロン(ピアノ) アンドレ・クリュイタンス指揮(フォーレ)、ジェルジュ・ツィピーヌ(ラヴェル) パリ音楽院管弦楽団 パリ、シャンゼリゼ劇場、1952 仏Columbia 33FCX169 (LP) これは2枚持っていて、番号は同じなんですが、ひとつは紺銀、音符、内溝でペラジャケ。これがフランスoriginal。もう1枚は棒付き厚手ボード。 1953年のGrand Prix de L'Academie du Disque Francais受賞。 EQカーヴはColumbia。 匂い立つような華やぎ。なお、ラヴェル指揮によるピアノ協奏曲のレコードもありますが、これはじっさいにはポルトガルのペドロ・デ・フレイタス・ブランコの指揮。私はこのツィピーヌ指揮の方が好きです。ちなみにラヴェルはピアノもあまり上手くはなくて、ラヴェル演奏によるピアノ・ロールの記録はロベール・カサドシュによる演奏と言われています。自作自演というのは、「商品」のセールス戦略上の「看板」なんですよ。 ラヴェルの協奏曲はロンに献呈されて、初演は作曲者の代演としてロンがピアノを、ラヴェルは指揮者に回って演奏しているのですが、そこに至るまでの大臣や外交官までも巻きこんだ紆余曲折は、上記の本に詳しく述べられています。またロンによれば、ベルリン公演ではフルトヴェングラーがオーケストラの下稽古を一切行っていなかったんだとか。 なお、ラヴェル指揮とされるレコードは、ラヴェル自身が録音に立ち会っていて、細かい指示を出して何度もやり直させていたということですから、ラヴェルの下で録音されたというのは満更嘘ではないわけですね。また、そのラヴェル、ロンの演奏とされたレコードはベストセラーとなって、1932年の「キャンディード」紙主催のレコード大賞を獲得していますが、その大賞の審査員にはラヴェル自身が「ぬけぬけと」名を連ねていたんだとか。ま、コンクールだってたいがい八百長なので、別に驚くようなことではありません。いや、八百長は言い過ぎだが、開催国の参加者が1位か、1位でなけりゃ1位なしとか、審査員の弟子が入賞するとか、いろいろありますからね。 ちなみに、日本ではチャイコフスキー・コンクールで優勝しただれかさんについて、「○○さん、ヴァイオリンで世界一に!」なんて新聞記事になっていましたけど、コンクールってのはアマチュアとか学生が競うものであって、謂わば素人のど自慢大会みたいなもの。コンクールで優勝するということは、今後の努力次第で、もしかするとプロになれるかもね・・・ってことなんですよ。それをマスコミにもてはやされて潰れてしまったのが、古くはヴァン・クライバーンであり、スタニスラフ・ブーニンです。ブーニンが日本に住んで、日本には芸術への高い見識・理解力があるなんて言っているのは、夫人が日本人だということもあるのかもしれませんが、日本でしか仕事がないからなんですよ。ま、コンクールで優勝してそっれきり消えていった人なんて、これまでにもたくさんいますからね。 ショパン:ピアノ協奏曲第2番 マルグリット・ロン(ピアノ) アンドレ・クリュイタンス指揮 パリ音楽院管弦楽団 パリ、1953.1.19-20 仏Columbia 33FCX193 (LP) 紺銀、音符、内溝。ペラジャケ。フランスのおそらく第2版。 EQカーヴはColumbia。 奔放な情熱の迸り。クリュイタンスの伴奏はぐいぐいと前に進んでゆきます。この作品はとくに好きなものでもなく、私はこれ1枚あれば十分です。 フォーレ:ピアノ四重奏曲第1番 op.15 同:ピアノ四重奏曲第2番 op.45 マルグリット・ロン(ピアノ) パスキエ・トリオ Jean Pasquier(violon)、Pierre Pasquier(alt)、Etienne Pasquier(violoncelle) (op.15) Jacques Thibaud(violon)、Maurice Vieux(alt)、Pierre Fournier(violoncelle) (op.45) 1956.2.13(op.15)、1940.5.10(op.45) 仏Pathe Marcini 2C061-12815 (LP) 仏Columbia FCX681 (LP) (第1番) 仏Columbia COLC76 (LP) (第2番) 2C061-12815は再発盤。第1番と第2番を1枚で聴くことができますが、録音年と共演者の違いから分かるとおり、それぞれ別に発売されたものを組み合わせたレコード。1番のフランスoriginal盤は10inchの仏Columbia FC1057。2番の初版はSP盤で、LPでは灰クロス紙棒付厚手ボードの仏Columbia COLC76が最初。これは私も所有していて、第1番は10inch盤ではなく12inch(30cm)の仏Columbia FCX681を所有しています。これにはフォーレのピアノ曲3曲の併録あり。 とりわけ第1番は(旧)パスキエ・トリオとの共演というのが貴重。 ロンはフォーレのピアニストとしてスタートしましたが、さまざまな行き違いや妨害があったこともあり、フォーレとは仲違いもして、フォーレもあからさまにロンを批判したりしているのですが、それでもロンはその作品の演奏を続けています。そればかりか、講演でも「我が国のもっとも偉大な音楽家」と呼んでおり、ところがその論評は亡き夫が書いた評論からの引き写しであるなど、フォーレとの個人的な関わりや演奏解釈についての持論は控えているようで、熱狂的なフォーレ主義者であった夫の代弁者に徹していたのかもしれません。 Marguerite Long 仏Columbia盤は、カートリッジortofon CG 25 D、再発mono盤である仏Pathe Marconi盤はMC Cadenza Monoをを使いました。スピーカーはSiemensのCoaxial、いわゆる「鉄仮面」をチャンネルあたり2基の後面開放型Sachsen 202で聴いています。なお、私はmono盤でもスピーカーは2本で聴きます。 また、EQカーヴはRIAAで疑問を感じたものは適宜ほかのカーヴを試し、結果はなるべく記載しておきました。 (Hoffmann) 引用文献・参考文献 「マルグリット・ロン 近代フランス音楽を創ったピアニスト」 神保夏子 アルテスパブリッシング ※ 昨日、「121 『人間の声の栄光????』」としてフローレンス・フォスター・ジェンキンスFlorence Foster Jenkinsについてupしましたが、これなら参考にした松閣オルタ氏によるwebサイト、「オカルト・クロニクル」(https://okakuro.org/)を参照していただいた方がいいと判断して、ページを差し替えました。 |