123 あえて聴くmono盤 その7 交響曲、管弦楽曲から




 stereo盤が存在するのに、「あえて聴くmono盤 その7」は、交響曲、管弦楽曲をいくつか―

シベリウス:交響曲第5番、交響詩「ポホヨラの娘」
サー・ジョン・バルビローリ指揮
マンチェスター、フリー・トレード・ホール、1957.5.28
英PYE CCL30144 (LP) mono


 EMIへの全集録音ではなくて、PYEへの旧録音です。PYEにはほかに1番の録音があり、EMI(HMV)にも全集録音以前の旧録音があります。

 参考までに録音年順に並べると、まずEMIへの旧録音が3曲――

交響曲第7番 1949.3.3, 5 mono

交響曲第2番 1952.12.18-19 mono

交響詩「トゥオネラの白鳥」 1955.1.12 mono


 録音会場はすべてマンチェスターのフリー・トレード・ホール、mono録音です。

 ついでにPYE録音のシベリウスも並べておくと―

交響曲第1番 1957.12.30, 31 stereo

交響曲第5番 1957.5.28 stereo


 録音会場は同じくマンチェスターのフリー・トレード・ホール、こちらの2曲はstereo収録されていますが、今回取り上げるのは5番のmono盤。

 叙情味のある美しさではEMIの全集録音が上かもしれませんが、濃密な空気感が特徴的です。とりわけmono盤では、そのatmosphereが顕著。なお、全集盤と聴きくらべると、バルビローリはやさしすぎたのでしょうか、この後10年くらい経過しても、ハレ管弦楽団の技術は必ずしも向上してはいないことがわかります。


ワーグナー:歌劇「タンホイザー」~序曲とヴェーヌスベルクの音楽
同:楽劇「神々の黄昏」~シークフリートのラインの旅
同:楽劇「ワルキューレ」~魔の炎の音楽
シャルル・ミュンシュ指揮 ボストン交響楽団
1957.4.1
米RCA LM-2119 mono
英RCA RB-16034 mono

ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」~ブリュンヒルデの自己犠牲
同:楽劇「トリスタンとイゾルデ」前奏曲と愛の死
アイリーン・ファーレル(ソプラノ)
シャルル・ミュンシュ指揮 ボストン交響楽団
1957.12.25
米RCA LSC-2255 stereo
米RCA LM-2255 mono

 シャルル・ミュンシュのめずらしいワーグナーです。ワーグナー録音はこの2枚のみ。「タンホイザー」の方のstereo盤は持っていません。なお、アイリーン・ファーレルはコロムビア放送局の合唱団員としてスタートして、オペラのアリアからポピュラー・ソングまで歌った人。オペラ・デビューは1956年なので、これはその翌年の録音。1960年にはメトロポリタン歌劇場に出演。「ブリュンヒルデの自己犠牲」はバーンスタイン、ニューヨーク・フィルハーモニックと共演したレコードもあります。

 いずれもmono盤は鮮明な録音。「ブリュンヒルデの自己犠牲」のLSC-2255のstereo盤は歪みっぽく聴こえて、これは盤が痛んでいるためかと思ってもう1枚入手したが変わらず。stereo盤でとくにmono盤よりも細部が明瞭に感じられるわけでもなく、EQカーヴもRIAAに違いないのですが、やや高域強調気味。mono盤LM-2255の方が落ち着いて聴けます。「タンホイザー」ほかの収録されたLM-2219とRB-16034では、英プレス盤RB-16034の方が盤も厚くて重いせいか、バランスがいいですね。


チャイコフスキー:バレエ音楽「眠りの森の美女」抜粋
ピエール・モントゥー指揮 ロンドン交響楽団
1957
英RCA RB-16063 (LP) mono
英RCA SB-2013 (LP) stereo


 mono盤は〈 A"New Orthophonic" High Fidelity Recording 〉との表記あり。
 stereo盤は〈 "Stereo Orthophonic" High Fidelity Recording 〉との表記あり。

 このstereeo盤は、高域寄りのバランスなのはいいとしても、かなり左寄り。左寄りと言っても別に左翼系ということではなくて、左スピーカーの音の方が大きく、片寄っているということ。最初、装置のどこかで接触不良を起こしているのかと思ったくらい。冒頭からしばらくはその調子で、Band1の途中から徐々に改善されてくる感じで、Band2のワルツでようやくまともになります(ただし、この番号のレコードがすべてそうだとは限りませんよ、特定のロットがおかしい、ということかもしれません)。カン高くて若干やかましいバランスは、RIAAだとは思うんですが、NABでもいいくらい。

 mono盤を聴くと、こちらの方が圧倒的にいいですね。monoなので左右のバランスはもちろん問題なく、奥行き感も感じられます。


ブラームス:交響曲4番
ハンス・シュミット=イッセルシュテット指揮 ハンブルク北ドイツ放送交響楽団
1962?
仏VOX GBY12.270 (LP) mono
独PARNASS ST-PL120 (LP) stereo


 VOX原盤。仏VOX盤はフランスのmono盤のoriginal。プレスはPatheプレスか。
 独stereo盤はPARNASSシール貼り。
 EQカーヴはいずれもRIAA。

 この指揮者とオーケストラによるブラームスには、1967-73年に交響曲全4曲の放送用(?)録音がありますが、それとは別録音。これは第4番の旧録音ということになります。どうも1962年録音らしく、アメリカへの演奏旅行時の、現地でのセッション録音ではないかとの推測あり。シュミット=イッセルシュテットのVOX原盤はこの1曲だけのようです。

 mono盤とstereo盤、同等ながら、stereoも音場感が豊かになるようなものでもなく、わずかにしなやかさが加わるかという印象。腰の据わった剛直な演奏は、mono盤にこそふさわしいように思えます。


ベートーヴェン:交響曲第8番
メンデルスゾーン:交響曲第4番「イタリア」
パブロ・カザルス指揮 マールボロ音楽祭管弦楽団
1963.7
米Columbia ML 6331 (LP) mono


 2eyes。

 stereoの国内盤があったのでそちらも聴いてみたのですが、stereo盤の方がより鮮明とか、わずかにレンジが広いとか感じないでもないのですが、印象はほとんど変わらず。これもまた、特段すぐれたstereo録音でもなく、音場感にメリットもないため、mono盤があったら、どうしてもstereo盤で聴きたくなるというようなものではありません。



 レコード(LP)を再生した装置について書いておきます。
 今回はmono盤はすべて、カートリッジをortofon CG 25 Dで聴きました。stereo盤はSPU AE。スピーカーはSiemensのCoaxial、いわゆる「鉄仮面」をチャンネルあたり2基の後面開放型Sachsen 202。mono盤でもスピーカーは2本で聴いています。



(Hoffmann)