124 あえて聴くmono盤 その8 協奏曲から




 stereo盤が存在するのに、「あえて聴くmono盤 その8」、今回は協奏曲から―

 まずはモーラ・リンパニーのピアノで―

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番
同:前奏曲 ニ長調 作品23の4
同:前奏曲 ト長調 作品32の5
同:前奏曲 ト短調 作品32の12
モーラ・リンパニー(ピアノ)
サー・マルコム・サージェント指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
1960.10.6,7
英His Mster's voice CLP1478 (LP) mono
英His Mster's voice CSD1388 (LP) stereo
英EMI CFP167 (LP) stereo


 mono盤は2枚持っています。この2枚はレーベル違いで、1枚は茶大ニッパー、もう1枚は黒字に赤文字切手。
 CFP167は再発廉価盤。

 CSD1388のstereo盤はさすがにいいですね。実在感もmono盤に劣りません。レーベル違いですが、音はほとんど同じ。茶大ニッパーの方が厚みがあるようにも感じられますが、気のせいかもしれません。廉価盤CFP167も、厚みはわずかに後退しますが、バランスはたいへん良好です。これでも十分。
 mono盤はmonoである点以外、stereo盤とほとんど印象変わらず。やや音が太くなるのはmono盤らしいところ。

 デイム・モーラ・リンパニーDame Moura Lympanyは1915年イギリス、コーンウォール生まれのピアニストです。本名はメアリ・ジョンストンMary Johnstoneでしたが、12歳で演奏会デビューする際に、プロモーターから「ジョンストンでは・・・」と言われて、母親の旧姓リンペニーLimpennyを提案、それでも納得されず、「古くはLympanyリンパニーだったそうです」と言ったところ、「それだ!」と決まったんだとか。ラフマニノフ本人が彼女の演奏を聴き大絶賛したというのは有名なエピソードですね。

 なお、リンパニーによるラフマニノフのピアノ協奏曲のmono期の録音で、以下のレコードが手許にあります。

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番ハ短調 作品18
メンデルスゾーン:華麗なカプリッチョ ロ短調 作品22
モーラ・リンパニー(ピアノ)
ニコライ・マルコ指揮 フィルハーモニア管弦楽団
1953.3.
英His Master's Voice CLP1007 (LP) mono
英EMI MFP2035 (LP) mono


 演奏は上記サージェントとの共演盤よりもこちらが上。録音もmonoとしてはたいへん良質です。


グリーグ:ピアノ協奏曲
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第1番
モーラ・リンパニー(ピアノ)
ヘルベルト・メンゲス指揮(グリーグ) ニコライ・マルコ指揮(ラフマニノフ)
フィルハーモニア管弦楽団
1954.11.4、1954.4.30
英His Master's Voice CLP1037 (LP) mono


ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番
モーラ・リンパニー(ピアノ)
アンソニー・コリンズ指揮 The New Symphony Orchestra
1952
米LONDON LL617 (LP) mono


 英プレス盤。


Dame Moura Lympany


 次はチェロ。ピエール・フルニエのシューマンのチェロ協奏曲ほか―

シューマン:チェロ協奏曲
チャイコフスキー:ロココの主題による変奏曲
ピエール・フルニエ(チェロ)
サー・マルコム・サージェント指揮 フィルハーモニア管弦楽団
1956.5
仏Columbia FCX744 (LP) mono
米Angel S35397 (LP) stereo
蘭(?)EMI 5C053-01972 (LP) stereo


 仏Columbia盤と米Angel盤は棒付き厚手ボードの同デザインのジャケット。stereo盤である後者は棒が赤。
 蘭(?)EMI盤は"Select Series"と表記されています。

 5C053-01972のstereo盤は、新しいだけに透明度にすぐれており、これだけでも十分に愉しめるでしょう。

 米Angelのstereo盤もバランスがよく、響きも豊かで厚みもあって、アメリカ盤のnegativeなimageとは異なるもの。EQカーヴはRIAAのようです。

 仏Columbiaのmono盤はEQカーヴがColumbiaでしょうか。ややナローレンジになってこもりがちと聴こえますが、チェロの帯域はむしろ充実。mono盤(の再生)らしく、音が前に出てきます。

 とにかく、どれで聴いても気品あふれるフルニエの独奏が印象的なレコードです。


Pierre Fournier


 次も同じくチェロで、ポール・トルトゥリエのドヴォルザークです―

ドヴォルザーク:チェロ協奏曲
ポール・トルトゥリエ(チェロ)
サー・マルコム・サージェント指揮 フィルハーモニア管弦楽団
1956
仏La Voix de son Maitre FALP443 (LP) mono
英His Master's Voice ALP1306 (LP) mono
英EMI SXLP30018 (LP) stereo
独Electrola E90122 (LP) stereo


 仏La Voix de son MaitreのFALP443はフランスmono盤の第3版。
 英His Master's VoiceのALP1306はイギリスmono盤のoriginal。
 英EMIのSXLP30018は"HMV Concert Classics Series"。ASDは存在しないため、これがstereo初出。つまりstreo初期盤は存在しません。
 独盤はよく分かりませんが、ドイツでのstereo初出盤かもしれません。

 mono盤はいずれ劣らぬ・・・どちらもいいですね。どちらかというと仏プレスの方が華やかでしょうか。stereo盤で聴くトルトゥリエのチェロはやや線が細いのですが、mono盤だとわずかに肉付きがよく、実在感を伴います。EQカーヴはFALP443はRIAA、ALP1306はColumbiaです。聞くところによると、FALPも初出盤はRIAAではないそうです。

 英EMIのstereo盤もいいですね。廉価盤シリーズなので安っぽく見えますが、決して悪くありません。バランスもまずまず。mono盤と比較すると独奏チェロがキリリと引き締まる印象です。どちらが本当なんでしょうか、私はどちらも愉しんでしまいますが(笑)独Electrola盤もバランスはあるいは英プレス盤よりもいいくらいなんですが、音がわずかに硬質なので、チェロがいっそう厳しく聴こえます。ただし歪みっぽさはありません(歪みっぽい場合は、録音自体に原因がある場合と、古い盤の痛みに起因することもあります)。

 学生時代、国内盤で聴いていた頃は、トルトゥリエのチェロは神経質かと思うくらい「線が細い」と感じていたんですが、英プレス盤ではそのようには感じられません。


Paul Tortelier


 もうひとつチェロ。モーリス・ジャンドロンのチェロで指揮がパブロ・カザルスという師弟共演盤―

ハイドン:チェロ協奏曲第2番
ボッケリーニ:チェロ協奏曲第9番
モーリス・ジャンドロン(チェロ)
パブロ・カザルス指揮 コンセール・ラムルー管弦楽団
1960.10
仏PHILIPS L02.067L (LP) mono
仏PHILIPS 835.069AY (LP) stereo


 この師弟共演では、カザルスの無骨で個性的なアクセントはさほど目立たないんですが、といってお世辞にも洗練された響きではありません。それなりにデリカシーなニュアンスも聴き取れるのものの、アンサンブルが整っているとは言い難く、stereo盤だとやや雑然として聴こえ、mono盤の方が落ち着きます。ジャンドロンは暖かく、やさしいソロを聴かせます。


Pablo CasalsとMaurice Gendron ジャンドロンがパイプ煙草のポーチを差し出して、カザルスが煙草葉をつまみ出そうとしているところのようですね。じつにいいお写真です。額装して飾りたい(笑)


 レコード(LP)を再生した装置について書いておきます。
 古いmono盤は、カートリッジortofon CG 25 D、新しめのmono盤はMC Cadenza Monoをを使いました。steereo盤はSPU GTE。スピーカーはSiemensのCoaxial、いわゆる「鉄仮面」をチャンネルあたり2基の後面開放型Sachsen 202で聴いています。なお、私はmono盤でもスピーカーは2本で聴きます。stereo盤は部分的にTANNOYのMonitor Gold10"入りCornettaでも聴いています。
 また、EQカーヴはRIAAで疑問を感じたものは適宜ほかのカーヴを試し、結果はなるべく記載しておきました。



(Hoffmann)